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目指すは、AI革命のインフラ アノテーションツールでAI開発を10倍速くする
目指すは、AI革命のインフラ アノテーションツールでAI開発を10倍速くする

起業を決めた背景や、事業が軌道に乗るまでの葛藤、事業を通じて実現したい想いを聞く「起業家の志」。
第31回は、週刊東洋経済「すごいベンチャー100 2022年最新版」に選ばれたFastLabel株式会社代表取締役の上田英介氏に登場いただき、担当キャピタリスト松本孝之からの視点と共に、これからの事業の挑戦について話を伺いました。


【プロフィール】
FastLabel株式会社 代表取締役 上田英介(うえた・えいすけ)
九州大学理学部物理学科情報理学出身。株式会社ワークスアプリケーションズでソフトウェアエンジニアとして会計製品の開発に2年間従事。2年目にエンジニアとして初となるロサンゼルス支社へ赴任。アメリカの商習慣に合わせたAI-OCR請求書管理サービスを設計・開発。その後、イギリスのAIベンチャーでMLOps基盤の開発や、大手銀行のDXプロジェクトを推進。AIの社会実装をする中で感じた原体験をもとにFastLabelを創業。


【What's FastLabel株式会社】
「AI革命のインフラになる」をミッションに掲げ、アノテーションツール、教師データ作成代行、データ収集・販売、MLOps構築を包括したAIデータプラットフォーム「FastLabel」を開発・提供。AIの社会実装のアキレス腱となっているデータ課題を解決し、日本企業、産業を世界レベルへ押し上げることを目指す。2022年8月にシリーズAの資金調達を実施し、1年間で組織規模を約3倍の50名へ拡大予定。


Portfolio



AI開発のボトルネックをテクノロジーで自動化へ

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―FastLabelの事業内容を教えてください。

上田 FastLabelはAI開発の基礎となるデータの作成、アノテーションを容易にするSaaS型のプラットフォーム「FastLabel」を提供しています。AI開発は膨大なデータを扱うので、時間がかかってしまうことが多いですが、「FastLabel」を活用すれば作業を10倍ほど早めることができます。

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―「アノテーション」について詳しく教えていただけますか。自動化により、具体的にどんな作業が効率化されるのでしょう。

上田 AI開発では、AIに学習させるための教師(正解)データの作成が必要です。この作業をアノテーションと呼びます。例えば、街中の写真からクルマや人をAIに検知させるサービスを作ろうと考えたとき、「これがクルマ」「これが人間」とデータ一つひとつをタグ付けしてAIに学習させる作業です。場合によっては数万件の教師データが必要なことも。アノテーションは、AI開発プロセスの最初の基点となるもので、開発業務全体の8割を占めているともいわれます。


図2.jpg

「FastLabel」を活用すれば、最初の100件ほどのデータを手作業で分類したあとは、残り数万件のデータをAIが自動的に学習し、振り分けていきます。

大企業は生データを大量に保持していますが、教師データ作成のプロセスにコストがかかるのでAI利活用がなかなか進まないというケースが多いんです。そのようなAI開発のボトルネックとなっているアノテーションの課題を「FastLabel」で解決したいと考えています。

プラットフォームの正式リリースから1年で、大手企業や大学等に導入いただけており、データ作成コストの7割削減、AI精度の3割向上を実現しています。

労働集約的になりがちなアノテーションを、テクノロジーで自動化することで作業を効率化。さらに「FastLabel」は品質管理、学習評価機能をあわせ持っている他、教師データの作成代行やデータコンサルティング、モデル開発等のサービスも統括しています。


―「AI革命のインフラになる」というミッションを掲げていらっしゃいます。この領域に着目したのはなぜでしたか。

上田 私自身がもともとAIエンジニアでした。前職のワークスアプリケーションズでソフトウェア開発を担当し、手動でデータ作成をしていたので、原体験として非効率な部分に課題感を持っていました。

転機は、前職の2年目にアメリカ支社に転勤したこと。AI技術を搭載した請求書管理サービスの設計開発を担当し、イギリスをはじめ欧州の企業と接する中で、日本よりAI活用がずっと進んでいることを実感しました。費用対効果をどう出していくかを考えている会社が多く、そこでボトルネックになっていたのがデータ作成の煩雑さとAI精度の担保でした。

海外では、その課題に着目し、アノテーション領域でビジネス展開しているユニコーン企業がいくつもあります。「日本にもこの流れが確実に来るだろう」と感じました。いちエンジニアとしても、「手作業でデータを分類するなんて泥臭い作業をやりたくない」という想いがありまして(笑)。じゃあ、自分で自動化システムを作ろうと考えました。


―もともと起業したいという想いはあったのでしょうか。

上田 起業家になりたいというよりも、「課題が見つかったから起業に至った」という流れです。解決できるサービスを展開している企業が、国内にはなかったんです。具体的に動き出したきっかけは、共同創業者の鈴木との何気ない会話からでした。

すでに他の会社で起業していた鈴木と、新しい事業を何か始めたい、と話す機会があり、「一緒にビジネスを探そう」と立ち上がりました。創業した2020年当時は、アノテーションに絞らず事業を模索しました。

そんな中、アノテーションに課題を感じた原体験もあったので、テストマーケティングなどで企業のニーズを探っていくと、課題が顕在化していたので注力することに。AIというテクノロジーは今後、数十年かけて社会実装されていく領域であり、そこに時間とパワーを費やす価値はあると考えました。


―起業に向けた苦労、起業後の大変さにはどんな点がありましたか。

上田 共同代表だった二人ともエンジニア出身で、ビジネス側の知識や経験が全くありませんでした。プロダクト開発はできるけれど、顧客獲得ってどうするんだろう?というところからのスタートで、ビジネス市場の知見の少なさは苦労しましたね。そこで、投資家の観点を知ろうと、創業後にインキュベイトキャンプにも参加することに。投資家から様々なフィードバックをいただき、「事業化ってこうやるんだ」と進め方を理解していきました。お客様のニーズが分からなければ先に進めないと至極当然なアドバイスもいただいたので、アノテーションのテストマーケティングを実施したんです。企業の"お問い合わせフォーム"に100件ほどメッセージを送ったこともありました。「こんなサービスがあるんですが、どうでしょう」と声を集め、アノテーションツールを使いたいという市場ニーズの高さを実感していきました。


2022年1月からは、ビジネス側の強化に向けて私が代表になりました。鈴木はAI研究者なので、開発により注力できた方が、プロダクト開発と顧客拡大の両方を実現できるだろうという経営判断でした。現在はセールスのメンバーも入っており、販売面の立ち上がりが実現できつつあります。


AI開発のパラダイムシフトに、FastLabelが欠かせないと感じた

_DSC6751.jpg上田氏とジャフコ担当キャピタリストの松本孝之(左)

―2022年8月にシリーズAラウンドで4.6億円の資金調達を実施しました。今回の資金調達を検討した背景やジャフコとの出会い、お互いの第一印象を教えてください。

上田 2021年10月のプラットフォーム正式リリースから1年で売り上げが7倍まで伸びており、さらに事業拡大できる手応えから、2022年の年始には、資金調達を考え始めました。

松本さんには2022年3月末に、Quicker(旧社名:9seconds )社の渡邊社長の紹介でお会いました。渡邊さんは同世代の起業家として何度か話をしたことがあったんです。ジャフコから資金調達をしたというQuickerのプレスリリースを見て、シリーズAラウンドでも投資の可能性があるんだ!と知り、「紹介してほしい!」とすぐに連絡しました。

松本 最初にお会いしたときから、アノテーションとは何か、という基本概念を含め、根掘り葉掘りヒアリングさせてもらいました。上田さんが非常に丁寧に分かりやすく説明してくれて、誠実な方なんだなと思いましたね。

スタートアップの起業家が、これから世の中に出ていくためには、難しい技術を、分からない人に分かりやすく伝える能力がとても大事です。営業でもそうですし、IPOするにしてもそう。それができる方なんだという印象でしたね。


上田 
松本さんはBtoB領域の投資実績が豊富で、事業理解のスピードも早くて安心感がありました。


松本 
お会いしたのが3月末だったので他のVCより遅れているなと思っていたんです。スピーディに決裁を進めていこうと最初から思っていました。


―FastLabelの事業に可能性を感じた理由は?

松本 設立2年足らずで、業界トップの名だたる大企業との取引があり、売上も急成長していました。この規模のスタートアップで、普通じゃありえません。プロダクト開発の確固たる技術力があるのと、課題の大きい領域なのだと思いました。

印象的だったのは、「AI開発におけるパラダイムシフトが起きている」という上田さんの話。これまで企業の付加価値は、独自のアルゴリズム開発にありました。しかし、AIアルゴリズムのオープンソースの登場でAI開発のハードルが下がった今、イノベーションのジレンマが起きています。AIを採用しないとサービスの付加価値が高まらなくなっていて、多くの企業がAI開発に動き始めました。しかし、自社でやるにはコストがかかりすぎ、AI精度もなかなか高まらない。

そんな中、FastLabelのお客様に話を聞きに行くと、「コストが5分の1になった」「AI精度が格段に上がった」という声が多く、FastLabelがやっていることは、これからの時代ニーズにまさにマッチしているのだと感じました。また、プロダクトを見せてもらったとき、エンジニアじゃない人でも使えるUIUXを備えているのも印象的でしたね。


上田 パラダイムシフトという文脈とつながりますが、今後、教師データを作成するのはAIエンジニアではなく現場の人になります。例えば、製造業の現場で不良品判別のAIを作ろうとしたとき、AIエンジニアでは良品と不良品の区別がつきません。その業務に特化した人がAIを開発するようになるのなら、誰でも使えるUIUXであることは非常に大事だと考えました。


松本 ITが登場して20年、AIが登場して10年ほどですが、これまでITが浸透していたのは広告・メディア領域、小売領域がメインでした。今はまさに、製造業や建設業、インフラ等がAIを活用して社会実装していく動きが始まったところです。そのボトルネックをFastLabel が解消しようとしているのなら、これは非常に面白い、広がりのある事業だと感じましたね。


―上田様がジャフコを選んだ理由もお聞かせいただけますか。

上田 スピーディに対応しながらお客様へのヒアリングやディスカッションを重ねていただき、松本さんなら同じ目線で経営に入っていただけるだろうと感じていました。ジャフコいう大手VCに株主に入ってもらうことで、お客様からの信頼にもつながるだろうとも思いました。

起業家初心者として、これからIPOを目指して一気に成長していく中で、どんなステップを踏むべきか、ノウハウのなさに迷うことがあると思います。そんなとき、数多くのIPO支援実績がある松本さんからのアドバイスは、大きな助けになるはず。障害となる点を事前に取り除きながら、一緒に進んでいきたいです。


―投資後の支援内容や、今後期待する支援について教えてください。

上田 バックオフィス体制からファイナンス周りの知識まで、松本さんには投資前からたくさん相談させていただきました。今後はさらに、企業プロモーションやブランディング、採用面でのサポートにも期待したいです。ジャフコ内に支援体制があるのも心強いなと思っています。


松本 
そうですね。スタートアップの採用活動は、「この人を採って良いのか」「入社後のオンボーディングはどうしよう」等、悩むポイントが多いと思います。私の経験からお伝えしたり、他の投資先の経営者を紹介したりして、サポートしていきたいですね。


ユーザーファーストの視点で、お客様のAI活用ビジネスを成功させたい

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―上田様が今後成し遂げたいこと、起業家としての志を教えてください。

上田 アノテーションだけに留まらず、AI開発全体のプロセスを支援するプロダクトへと拡充させていきたいです。例えば、データがないお客様へのデータ提供や、どんなアルゴリズムを使えば最適なAI開発ができるのかを提案する仕組みも作れたら良いなと。

FastLabelが見ているのは、アノテーションのコストを下げた、「AIを活用したビジネスを成立させること」です。国内のアノテーションの会社はBPOを請け負うところがほとんどですが、私たちが提供しているのはプラットフォームであり、活用すればすぐにAIビジネスが立ち上がるような状態を目指したいです。いろんな産業でAIプロジェクトが動いている中で、ゼロイチフェーズでお客様に伴走していきたいと考えています。

そして、2023年末には、今の2~3倍である社員50名規模にしていきたいと考えています。事業拡大に向けて営業体制の構築は不可欠なので、ゼロイチフェーズで組織を立ち上げたい営業責任者層にはぜひ来てほしい。起業以来、大事にしてきた「ユーザーファースト」を一緒に追いかけていきたいですね。

▶︎ FastLabelの採用情報はこちら
セールス担当のインタビュー「未成熟の先端市場で"新しい価値"を伝えるセールスのやりがい」も掲載されています。



―最後に、起業家を目指す方や若手起業家の方に向けてメッセージをお願いします。

シードラウンドでプロダクトを作っていくフェーズでは、不確実な要素が多すぎて、何がビジネスとして成立するのか分からないと思います。私たちは、まずはプロダクトを作って、いろんな人から意見をもらい、PDCAを回す量が大事だと動いていました。やっていく中で共感してくれる人、手伝ってくれる人も増えていき、それが大きなビジョン達成を目指す組織体制につながっていく。最初からネガティブなことばかり考えず、先に行動してみる、というアクションも、一つのやり方ではないかなと思います。



担当者:松本孝之
 からのコメント

48-matsumoto.jpgあらゆる産業でAIの活用が進んでおり、AIアルゴリズムのオープンソース化が急速に進む中で、誰もが高精度なAIを開発する時代が到来しようとしています。一方、AI開発に必要な教師データの作成において、膨大なデータを扱い作業量が多く、労働集約的で非効率になりやすいという課題があります。
FastLabelは、非エンジニアでも利用可能な優れたUI/UX、教師データ作成の自動化機能、AIモデルの学習/評価機能等を有したプラットフォームであり、正式リリースから1年目にして、各業界のトップ企業への導入が進捗し、急速に成長しています。今後、AIプラットフォームの更なる機能拡大を行い、AI革命のインフラになるべく、その大きな挑戦に向けてジャフコも一緒に邁進して行きたいと思います。