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「レーザー核融合」で人類の課題を解決する。ノーベル賞受賞者の恩師と挑む人生を懸けたプロジェクト
「レーザー核融合」で人類の課題を解決する。ノーベル賞受賞者の恩師と挑む人生を懸けたプロジェクト

起業を決めた背景や、事業が軌道に乗るまでの葛藤、事業を通じて実現したい想いを聞く「起業家の志」。

第43回は、2014年ノーベル物理学賞受賞者の中村修二氏と共同でBlue Laser Fusion, Inc.を創業したCTO太田裕朗氏に登場いただき、担当キャピタリスト長岡達弥からの視点と共に、これからの事業の挑戦について話を伺いました。

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【プロフィール】
Blue Laser Fusion, Inc. CTO 太田 裕朗(おおた・ひろあき)
京都大学大学院工学研究科航空宇宙工学専攻/助教を経て、カリフォルニア大学サンタバーバラ校にて中村修二教授のもと研究に従事。2010年より、マッキンゼー・アンド・カンパニーに参画。2016年より、ドローン関連スタートアップである株式会社自律制御システム研究所(現社名:株式会社ACSL)に参画、代表取締役社長として東証マザーズ上場(CEO、会長を経て20223月退任)。2022年より、早稲田大学ベンチャーズ(WUV)共同代表。202211月に中村修二氏と共に、Blue Laser Fusion, Inc を創業。

What's Blue Laser Fusion, Inc.
独自のレーザー、核融合炉の発明をもとに、レーザー核融合の商用化を目指すスタートアップとして、中村修二氏をCEO、早稲田大学ベンチャーズ(WUV)共同代表の太田裕朗をCTOとして、202211月に米国で創業。20237月に、SPARXJAFCOをリードインベスターとする総額25,000,000米ドルの初回資金調達を実施。

Portfolio


独自技術とクリーンな燃料で、レーザー核融合の世界初商用化を目指す

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ー「究極のエネルギー」として注目され、事業として取り組む企業が世界的に増えてきている核融合ですが、まずはその概要を教えてください。

太田 核融合とは、原子核同士の合体により膨大なエネルギーが発生する反応のこと。太陽は核融合反応でエネルギーを生成して地球を照らしています。その反応を人工的に生み出して発電に利用するために、核融合は世界で50年以上研究されてきました。核融合に使用する燃料資源は地球上に豊富にあり、発電時に二酸化炭素を発生しない、事故リスクがなく安全性が高い等のメリットが多数あるため、商用化に至れば「脱炭素」や「エネルギー資源の枯渇問題解決」の切り札になるのではないかと考えられています。

ーその中でもBlue Laser Fusionが商用化を目指している「レーザー核融合」とは、どのような技術なのですか。

太田 現在開発が進んでいる核融合の方式は、大きく分けて「プラズマ磁場閉じ込め方式」と「レーザー核融合方式」の2つ。ただ、どちらも商用化までには様々な課題があります。

例えば「プラズマ磁場閉じ込め方式」は巨大かつ頑丈な炉(エネルギーを発生させる装置)が必要で、莫大な予算がかかります。一方、燃料にレーザーを照射して反応を起こす「レーザー核融合方式」は、2022年にNIFNational Ignition Facility)というアメリカの国立研究所が入力レーザーエネルギー以上のエネルギーを取り出すことに世界で初めて成功し注目されていますが、安定的に発電するには強力なレーザーを連続で照射する技術が必要です。また、現在核融合で主流となっている燃料は重水素(D)と三重水素(T)ですが、これだと核融合時に中性子が生成され、放射線リスクを避けられません。

その中で私たちは「レーザー核融合方式」に着目し、強力なレーザーを連続照射する技術を独自に発明。現在、特許を出願中です。さらに、D-T燃料ではなく軽水素とホウ素を使うことで、有害な物質を生成しない核融合発電を目指します。現在まだ最終的な答えがでていない未解決問題である核融合研究において、当社の取り組みは大きな可能性を秘めています。

ー独自のレーザー技術とクリーンな燃料で、核融合発電をいち早く実用化できるかもしれないと。世界の企業が苦戦している中、Blue Laser Fusionはなぜ商用化に向けてリードできているのでしょう。

太田 当社は、青色発光ダイオード(LED)の開発で2014年にノーベル物理学賞を受賞した中村修二博士と共に立ち上げたスタートアップです。中村先生は大学時代から核融合に強い関心を持っていて、これまで研究してきた半導体レーザーの知見をもとに、高出力で連続照射できるレーザー技術のアイデアに辿り着きました。

先生は青色LEDを開発した際、過去に誰も使ってこなかった材料をあえて使って開発を成功させたのですが、このやり方は今回も同様。先生はご自身のことを「科学者」ではなく「エンジニア」と呼んでいて、皆がやっているからという理由で見込みのない方法を採用したり、論文を書くことだけを目的に実験したり、そういう「意味」や「答え」のない研究は一切しません。社会的意義があり実現可能性のあることだけを知的好奇心の赴くままに追求し、今のやり方ではダメだと思ったらすぐに方向転換する。何か思いついたら深夜でも構わず電話が来ます(笑)。そんな先生と共に確信を持って開発した技術だからこそ、今後の商用化には自信を持っています。

創業メンバー3人がホテルロビーで特許を書く風景.jpg創業メンバー(左からCTO太田裕朗氏、CEO中村修二氏、取締役/法務顧問リチャード・オガワ氏)

ー太田さんご自身は、研究職や経営コンサルタント、ドローン企業のCEO、ベンチャーキャピタリスト...と様々な経験をお持ちですが、中村さんとはどのような経緯で共同創業することになったのですか。 

太田 先生とは2006年にアメリカで出会いました。当時先生はカリフォルニア大学サンタバーバラ校の教授で、私は半導体メーカーであるロームの研究職。半導体材料の共同研究先として先生を訪ねたのですが、先生の研究姿勢に衝撃を受け、のちに先生のもとで研究を行うように。私はその後、「技術で社会に価値を生む」という先生の教えを体現すべく経営の道に進みましたが、「いつかまた先生と一緒に研究したい」とずっと思っていました。

その夢への第一歩となったのが20225月、日本にいた先生と鮨を食べたときのこと。私は早稲田大学ベンチャーズの共同代表として、当時ディープテック系スタートアップへの投資を手がけていて、先生に新会社創業の話を持ちかけたんです。お互いに関心を持っていた核融合を起業テーマに決めてからは、アメリカに住む先生と毎日のようにメールで研究を進め、11月にアメリカで創業、翌年には特許出願。アメリカでのスタートアップ創業や特許出願の実績を多数持つ、以前から付き合いのあったリチャード・オガワ弁護士にも共同創業者としてジョインしてもらい、着実に事業を進めています。

他にも会社をいくつか手がけている中村先生ですが、CEOとして会社を経営するのは当社が初めて。人生の集大成のプロジェクトとして、レーザー核融合の商用化に本気で取り組んでいくという想いの表れです。私も同じ想いでこの事業に挑んでいます。

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Blue Laser Fusionの立ち上げメンバー

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カリフォルニアにあるBlue Laser Fusion のオフィス


シード期から最短での事業化に向けて、15年来の愛弟子をパートナーに

_DSC1445.jpg左からCTO太田氏、CEO中村氏、ジャフコ担当キャピタリストの長岡達弥

20237月にジャフコとスパークスのリード投資で、総額2,500万ドル(約37億円)の資金調達を実施されました。ジャフコとの出会いについてお聞かせください。

長岡 実は、太田さんは私の京都大学時代の助教。勉強はもちろんプライベートの相談にもよく乗っていただきました。京都大学からカリフォルニア大学サンタバーバラ校へ移籍された後も、太田さんに会いにアメリカに行ったり、私の結婚式に来ていただいたり...。公私共にお世話になっている15年来の恩師です。ベンチャーキャピタリストという職業を教えてくれたのも太田さんです。

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ーまだ事業が形になっていないシード期の会社への大規模な投資は、ジャフコとしても思い切った決断だったと思います。キャピタリストとしては、Blue Laser Fusionのどんな点に可能性を感じましたか。

長岡 私は人類の課題を解決できる事業に初期から参画し、最短で事業化を実現する支援がしたいという想いで投資を行っています。大学で航空宇宙工学(物理と数学)を専攻していたので宇宙領域や、その他教育、ヘルステック等の会社に投資してきました。ですので、脱炭素やエネルギーの課題を解決し得るBlue Laser Fusionは、まさに私の想いと合致する会社でした。

事業の実現可能性は高いと考えていますが、実績がまだない。となると、重要な判断軸になるのは「人」です。中村先生は言うまでもなく偉大な方で、ノーベル賞受賞者が創業した会社に出資するのはジャフコでも初めてのことですし、太田さんもドローン業界で初めて上場を成し遂げる等の実績を持った経営者。ただ、私は、このお二方が「タッグを組んだ」ことに最も魅力を感じました。知的好奇心のままに新しい価値を追求する先生と、経営ノウハウや人脈が豊富で技術にも精通した太田さん、お互いの強みが相乗効果を生んでいて相性が抜群なんです。お二方のプレゼンを聞いていても相性やバランスの良さを実感しました。

そんなお二方が人生の集大成と位置づけ、本気で挑戦している、人類の課題を真正面から解決する事業。その船にぜひ一緒に乗せていただきたいと思いました。太田さんと私の信頼関係はジャフコ社内でも周知のことなので、シード期の大規模投資を実現することができました。

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ー太田さんが最終的にジャフコをリード投資家に選んだ決め手は何でしたか。

太田 長期にわたって資金のかかる事業なので、単発ではなく継続的に出資いただける資金力のあるVCにしかお願いできないと思っていました。また、私たちが人生を懸けて挑んでいる事業のパートナーになっていただくからには、信頼できる人に本気で伴走してほしいという想いもあった。だから、長岡さんに真っ先に相談しました。

長岡さんは、私も知るマッキンゼーOBがシンガポールで立ち上げた宇宙ビジネスのスタートアップに対して、リードで大規模な投資を実現させる等、キャピタリストとしても確かな実績があります。師弟の間柄ですが、仕事となれば対等にコミュニケーションを取ってくれますし、私たちの事業にも本気で向き合ってくれる。彼にお願いできるなら理想だと思いました。

長岡 ありがとうございます。今回の投資のお話が出てから今まで、中村先生と太田さんと頻繁に連絡を取っていますが、お二方ともお忙しいのにメールの返信がとにかく早い。私もそのスピードに最大限対応し、Blue Laser Fusionが掲げる "Commercialize Power Generation System using Novel Fusion Reactor to Save the World!"(新しい核融合炉を使った発電システムの実用化で世界を救う!)というビジョンの最短での実現に向けて、当事者として事業に参画し貢献していきたいと思っています。


知的好奇心のままに、人類最高のエネルギー源創出に挑む

ー資金調達を経て、今後どんなことに取り組んでいきますか。

太田 エネルギー関連技術に加え、広い範囲の総合技術をもつ東芝エネルギーシステムや、新しいアイデアにもとづくプロトタイピングに強い由紀ホールディングスと協業し、まずは2024年中に日本に原理実証のための実験装置を建設します。その後、2030年を目処に、原子力発電所1基分にあたる1ギガワットの発電能力を備えた実証炉を日本かアメリカで稼働させ、商用化に向けて大きく前進したいと考えています。

ー各分野の専門企業をも巻き込み、着実に事業を進めていることがうかがえます。レーザー核融合の商用化の先には、どのような未来を見据えているのでしょうか。 

太田 核融合発電の商用化に成功すれば、地球環境を維持しながらエネルギー資源を無尽蔵に生み出せるようになります。エネルギー資源が豊富にあれば、私たちは衣食住に困ることがなくなり、膨大な電力を消費するIT等の産業も安泰。資源は人類が戦争をする大きな原因でもありますから、戦争をなくす一助になるとも思っています。まさに人類最高のエネルギー源と言えるでしょう。

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ー最後に、太田さんが起業家として大切にしていることをお聞かせください。

太田 私も中村先生も、起業はツールだと思っています。人類を救う「核融合」というテーマに純粋に興味があり、最後までやり遂げたくて仕方ない。そのための資金や支援を集める手段として、起業を選んだに過ぎません。でも、起業家にはそのマインドが必要だと思います。

人類最高のエネルギー源をいち早く実現させるために、会社のメンバーや長岡さんたちと共に知的好奇心全開で取り組んでいきます。

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ディナー中に事業について議論する中村氏(左)と会社メンバー

担当者:長岡達弥 からのコメント

45-nagaoka.jpg核融合は、脱炭素だけでなく急増するデータセンターへの活用にも期待される究極のエネルギー源です。大きく分けて①プラズマ磁場閉じ込め方式と②レーザー核融合方式があり、②については2022年に入力レーザーエネルギーを上回るエネルギー出力が達成されました。ただ、様々な課題により定常運転実現には程遠い状況です。Blue Laser Fusionは独自のレーザー発生方式と放射性物質を発生させない燃料の組み合わせで、レーザー核融合炉の開発を目指しています。ノーベル物理学賞受賞者の中村CEOと、当時難易度が高いと言われたドローン企業の上場を実現させた太田CTOが、人生の集大成として共に挑むプロジェクトです。私たちはその想いに共感し、チームの一員として最短での事業化に向け貢献していく所存です。