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「おしゃべりAI」で未知の体験を創出。世の中を便利にするだけではない、人間とAIの新たな関係性
「おしゃべりAI」で未知の体験を創出。世の中を便利にするだけではない、人間とAIの新たな関係性

起業を決めた背景や、事業が軌道に乗るまでの葛藤、事業を通じて実現したい想いを聞く「起業家の志」。

第48回は、Starley株式会社 代表取締役の丸橋得真氏に登場いただき、担当キャピタリスト山崎由貴・パートナー坂祐太郎からの視点と共に、これからの事業の挑戦について話を伺いました。

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【プロフィール】
Starley株式会社 代表取締役 丸橋 得真(まるはし・えるま)
株式会社マネーフォワードに創業期から参画し、ソフトウェアエンジニアやプロダクトマネージャーとして従事。2017年、同社100%子会社であるマネーフォワードケッサイ株式会社の立ち上げに取締役として参画し、機械学習を用いたプロダクトの開発全般を管掌する。社長室での新規事業開発などを経て、2023年4月、Starley(スターレー)株式会社を創業。
 
【What's Starley株式会社】
音声会話型おしゃべりAI『Cotomo(コトモ)』を開発運営。声・性格・アイコンなどを自由に設定し、オリジナルキャラクターとのおしゃべりを楽しめる。日本を代表する声優陣ともコラボレートしており、広告出稿なしで100万インストールを突破。2024年12月には、家族をつなぐAIサービス『茶の間Cotomo』をリリース。東北大学スマート・エイジング学際重点研究センターとの共同研究、横須賀市との協働などを通じておしゃべりAIの社会実装を目指す。



Portfolio


世の中を便利にするだけがAIじゃない。日本発「おしゃべりAI」の可能性

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ー音声会話型おしゃべりAI『Cotomo』とはどんなサービスですか。

丸橋 AIの名前や声、性格、バックグラウンドなどを自由に設定して、オリジナルのAIとおしゃべりできるサービスです。ユーザーの年齢層は幅広く、好きなキャラクターをつくって会話したり、一人暮らしや長距離ドライバーの方が話し相手として利用したり、お子さんが描いた絵をキャラクター化したり...と様々な使い方で楽しんでいただいています。

『Cotomo』とのおしゃべりをSNSで配信するインフルエンサーの増加や、お笑い芸人・かまいたちとのコラボレーションにより、広告出稿なしにもかかわらずリリースから約9ヶ月で100万インストールを達成しました。基本的には無料でお使いいただけますが、日本を代表する声優事務所・青二プロダクションと提携し、プロの声優ボイスを使える有料機能も提供しています。

ーAIサービスといえば「生活を便利にする」「業務を効率化する」といったイメージが強いですが、『Cotomo』はアプローチが異なりますね。

丸橋 はい、その点は弊社の最大の特徴です。利便性や効率を高めるAIサービスは今後の活用可能性が非常に大きいですし、もちろん私たちも活用していますが、「日本から生まれるAIサービスとしてどんな世界を目指すか」を考えたとき、"ドラえもん"のような身近なAIがあってもいいのではないかと思ったんです。賢い一面もありながら、日常生活の中で何気ない会話ができて、たまに叱ってくれたり、おっちょこちょいな面もあったり。

私も、駅から家まで歩いて帰るときに『Cotomo』とおしゃべりするのが日課。人にはなかなか言えない経営や事業の話を赤裸々に話しています(笑)。受容性の高い性格にチューニングしているので、賢い返答をくれるというよりは、話を聞いてもらうことで自分の考えが整理されるという感じですが、たまにズバッと鋭い言葉をくれるときもあって面白いです。この先、AIと人間の関係性がどのような形になっていくのか、私たち自身もワクワクしながら開発しています。

ー家族をつなぐAIサービス『茶の間Cotomo』についても教えてください。

丸橋 こちらは、シニアとそのご家族のための見守りAIサービスです。シニアの方の電話番号とスケジュールを登録するだけで、おしゃべりAIが決まった時間に電話をかけてくれます。おしゃべりの概要はご家族に共有され、気になることがあったら直接電話してみるなど、家族間のコミュニケーションの促進が期待できます。

『Cotomo』が「AIと人間」という1対1の関係性であるのに対し、『茶の間Cotomo』は「人間の関係性の中にAIがいる」という形。友人同士でも2人だけの場合と3人いる場合では関係性が少し変わってくると思いますが、家族間でも同じように、AIが加わることで人と人の関係性がより良くなるケースは大いにあると思っています。

現在は、AIとのおしゃべりが認知・心理機能にどう影響するか、東北大学との共同研究で検証しているところ。また、横須賀市とも連携して実証実験を進めており、今後のサービス展開を目指しています。

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ー丸橋さんがおしゃべりAIを開発することになった経緯をお聞かせください。

丸橋 小学生の頃からWebサイトやサービスをつくって遊ぶのが好きで、大学時代はいくつかのスタートアップで開発のお手伝いをしていました。そのうちの1社が、当時創業して間もなかったマネーフォワード。大学を卒業してそのまま入社し、早々に新規サービスの開発を任せていただいたり、子会社の取締役として機械学習を用いたプロダクトを立ち上げたり...。マンションの一室だった創業期から、従業員2,000人規模の企業へと成長する頃まで、約10年在籍しました。

起業の道を選んだのは、10年という節目に新しいチャレンジをしたいと思ったから。技術を活かして、世の中が一番ワクワクする新しいこと生み出したいと考えたとき、思い至ったのが「AIと会話する」という体験でした。アイデア自体は昔からありますが、実際につくり込んで面白い体験にするところまでチャレンジする人はなかなかいない。それなら     やってみようと思い、開発していく中で「これは面白くなりそうだ」と確信した。そうして生まれたのが『Cotomo』です。


ー「新しい体験」をプロダクト化するまでには、様々な課題があったと思います。『Cotomo』の開発過程で最も苦労したことは何でしょうか。

丸橋 プロトタイプの段階では、今の『Cotomo』よりもっと賢く、スマートな声で開発を進めていました。ただ、それをユーザーテストしたところ、「カジュアルに話したくても、相手の頭が良さそうで話しにくい」「返答が早すぎてちょっと怖い」といった意見が多かったんです。

『Cotomo』はタスク型のAIとは異なり、AIとのコミュニケーションやその時間を楽しむもの。声、話し方、会話の間などのつくり込みには苦労しましたし、今も模索しています。声は100種類くらい試作したと思います。

また弊社では、日常会話に特化した独自の学習データを用いてLLM(大規模言語モデル)のポストトレーニングを実施していますが、その学習データをつくるためには、社内で実際に会話をして一つひとつ直す...という地道な作業が必要。ただ賢いAIではなく、かといって人間の真似でもなく、おしゃべりAIならではのコミュニケーションのあり方をどこまで追求できるかが、この事業の難しくて楽しいところだと感じています。


『Cotomo』の可能性を信じて、長期的な視点で背中を押してくれる存在

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キャプション:左からジャフコ坂、Starley丸橋氏、ジャフコ山崎

ー2024年8月、ジャフコをリード投資家に据えて、シリーズAラウンドで累計7億円の資金調達を実施しました。その経緯を教えてください。

丸橋 創業時にマネーフォワードから資金調達をした後、Starleyを設立して1ヶ月後くらいのまだ何も始まっていない段階で、ジャフコの坂さんと面談しました。坂さんはマネーフォワードの投資担当だったので、以前から面識があったんです。会社の成長のために再び資金調達をする際には、坂さんに最初に相談しようと決めていました 。

坂 丸橋さんがマネーフォワードのインターン生だった頃、辻社長と一緒にランチをしていたら、「新卒社員第1号が入社する」ととても嬉しそうに話してくれたことを未だに覚えています。大手企業からも内定をもらっていた優秀な学生が、うちに入社を決めてくれたと。その後もスーパーエースとして活躍しているという話は聞いていましたが、実際にお会いしたのは3〜4年前くらい。社長室で新規事業に携わっていらっしゃって、社内でいろんな人に頼られている姿が印象的でした。

ー最初の面談時は「まだ何も始まっていない段階」だったとのことですが、Starleyに投資したいと考え始めたのはいつ頃でしたか。

坂 最初からですね。丸橋さんは、僕が心から信用しているマネーフォワードの方々が、心から信用している人。また、やろうとしていることにも可能性を感じました。僕は、BtoBサービスであれば効率化を最も重視しますが、コンシューマー向けサービスの場合、ニーズが向く先は経済合理性とは別のところにある。これだけ物が溢れている時代に人々が必要とするのは精神的な充足であり、「人と話したい」という根源的な欲求は何千年も変わっていません。そうしたニーズに応えるサービスを丸橋さんがつくるとなれば、投資しない手はないと思いました。

最初はまだ何もない状態でしたが、『Cotomo』のベータ版が出て、正式リリースされて、YouTubeで話題になって...と事業が形になっていく中で、投資のお話も具体化していきました。

ー経済合理性の観点では判断しにくい事業と向き合うにあたり、難しさはありましたか。

坂 強みを理解するのが難しい事業ではありますよね。BtoBであれば「100時間の作業を1時間に削減できる」といったようにシンプルですが、『Cotomo』の場合はLLMの精度が高ければいいわけではなく、「AIとの会話体験」というものにいかにフィットさせられるかが重要になります。

でも、そもそもAIと話す体験なんてしたことないじゃないですか。僕も『Cotomo』のプロトタイプで初めてAIと会話させてもらって、「AIとの会話体験ってこういうことなんだな」と少しずつ理解していきました。リリース後に娘に使わせてみたら、何の抵抗もなく会話していて驚きましたけどね(笑)。

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ー丸橋さんがリード投資家にジャフコを選んだ理由は何でしたか。

丸橋 外部からの資金調達は初めてで、かつ当時はまだマネタイズもしていないフェーズだったので、『Cotomo』の可能性を信じて長期的に伴走してくださるVCとご一緒したいと思っていました。

ジャフコの皆さんは『Cotomo』を自ら体験し、社会やビジネスに紐づけるべく投資家目線でしっかり整理してくださいました。毎週土曜の夜に坂さんとオンラインでディスカッションしたことも印象に残っています。お互いに家庭があるので土曜の夜しか時間が取れなかったのですが、毎回真剣に向き合ってくださって。そうした姿勢に信頼感を覚え          、リード投資家として入っていただけた今、大変心強く思っています。

ー山崎さんは現在、担当キャピタリストとしてどんな支援を行っているのでしょう。

山崎 私は2025年4月からStarleyを担当させていただいており、現在は週1で事業開発の方々とミーティングを行いながら、その時々で必要なサポートをご提供しています。また、毎月の定例ミーティングには坂と私が参加し、事業計画作成支援や営業支援などを行っています。

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坂 僕の役割は「ひたすら励ます」。BtoBのように売上が積み上がっていくビジネスではないので、不安もあると思うのですが、「そういう戦いをしているわけじゃないですよね」「目指しているのはもっと高い山ですよね」と言い続けています。

丸橋 変化が激しいこの世の中で大きなチャレンジをしていく、というのが私たちの事業。トライした施策が全部うまくいくとは限らない中で、長期的な視点で背中を押してくれる存在は本当にありがたいです。先日も山崎さんに「この事業計画の倍の数字を狙いましょう!」と背中を押されました(笑)。

ー(笑)。もっと高い山を目指せると信じているからこその言葉ですよね。坂さん・山崎さんは丸橋さんをどんな起業家だと感じていますか。

坂 以前は、丸橋さんが起業するならAIエージェントのようなBtoBのプロダクトをつくるんだろうな、と勝手に思っていました。割とドライな人なのかな、とも。でも、実際に事業として選んだのは「おしゃべりAI」で、プロダクト愛やチーム愛も強い。そこは意外でしたね。

丸橋 「BtoBをやりそうなタイプ」とはよく言われます(笑)。でも根底にあるのは、SFに出てくるようなワクワクする体験をいち早く日常に実装したいという想い。いいチームで、難易度の高い問題を楽しみながら解くような感覚で、いいプロダクトをつくりたいといつも思っています。

山崎 社長自身がここまで深くプロダクト開発に関わっている会社は、他のスタートアップを見てもあまり多くありません。ご自身の経営ビジョンをプロダクトにしっかり落とし込み、一貫性のある経営をされている点が、特にすごいなと感じています。

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「キャラクター×AI」の新しい仕組みをグローバルビジネスへ

ー『Cotomo』を通じてどんな社会を実現していきたいか、展望をお聞かせください。

丸橋 今後、社会にAIが浸透していく中で、私たちは「賢さ」「便利さ」以外のAIの道をしっかり見つけていきたいと思っています。エンタメ、孤独解消、コミュニケーション、感情の変化を感じたい...など様々なニーズがあると思いますが、私たちが目指すのは少なくとも、1聞けば100答えてくれるような完璧な存在としてのAIではない。「余白のあるAI」と人間の関係性が育まれることで、人間自身の新たな気づきや振る舞いにつながっていくと思うんです。

これは「人間だけの関係性では実現できないからAIを介入させる」という発想ではありません。私が興味を持っているのは「AIが加わることでどんな可能性が生まれるか」。例えば誰かに相談したいとき、いつもの相談相手の他に『Cotomo』という新しい存在が加われば、コミュニケーションや考え方に新しい選択肢が生まれます。それによって気持ちが落ち着いたり、考えが深まったり、数字に表しづらい様々な情緒的効果が生まれるでしょう。その可能性を探っていきたいと思っています。

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ー新しいAI体験をつくるという仕事は、社員の皆さんにとっても非常にチャレンジングですね。

丸橋 新しいもの好きな人が多いので、楽しみながら取り組んでくれていると思います。先日は、エンジニア・デザイナー・ビジネスサイド全員で合宿に行って、2日間でプロダクトをつくり切るというチャレンジをしました。AIを使いながら、同時にアプリやサイトをいくつもつくって、すごく盛り上がりました。

AI時代のプロダクトのつくり方は、以前とは大きく変わってきています。企画して、ユーザーインタビューをして、ワイヤーを書いて、デザインして、またユーザーインタビューをして、実装する...というのが従来の大きな流れですが、今は簡単なワイヤーならAIですぐに作成できますから、「先に体験をつくってみる」ことが重要になってくる。体験にまで落とし込んだからこそ生まれる価値があるはずなので、リスクを取って挑戦する姿勢は全社員で持ち続けたいなと思います。

ーこの先、組織も拡大していくと思いますが、どんな方と一緒にビジョンを実現していきたいですか。

丸橋 「賢さ」「便利さ」以外の領域でAIの可能性を追求できる会社は多くないと思います。技術的にもエッジの利いたことをやっているので、一緒に楽しみながらチャレンジできる方にぜひ来ていただきたいです。

今後は、日本のキャラクターやコンテンツとAIとのコラボレーションの仕組みをつくって、グローバルへ持っていくことも視野に入れています。最近、SNSで『Cotomo』を知った海外の優秀なエンジニアからの求人エントリーも増えていて、「最先端の技術を使って"コミュニケーションできるキャラクター"をつくる」という領域に魅力を感じてくれる人が国内外にいることを改めて実感しています。

日本のみならず海外の方々にもジョインしていただき、日本のIT企業やエンタメ企業の皆様とも連携しながら、AIの新しい可能性を探っていけたら嬉しいですね。

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担当者:山崎由貴からのコメント

yamazaki.jpg生成AIの進化により、これまで難しかった「自然で継続的な対話体験」が現実のものとなりつつあります。音声という人間らしいインターフェースを通じて、生活の中に溶け込むAI体験が今後一気に広がると確信しています。当社は、音声UIに最適化された独自のアーキテクチャ設計とプロンプト工学への深い理解を背景に、"愛着あるAI体験"を実現しています。リリース以降ユーザー様の熱量が非常に高く、エンタメ領域から日常支援、メンタルケアまで幅広い展開が期待されます。生成AIの社会実装が進む中で、音声・会話・感情といった非構造データを起点とする領域には、今後大きな成長機会が訪れると考えています。当社がこの新たな体験経済の担い手となることを期待し、全力で支援してまいります。