起業を決めた背景や、事業が軌道に乗るまでの葛藤、事業を通じて実現したい想いを聞く「起業家の志」。
第47回は、secondz digital株式会社 代表取締役の板井龍也氏に登場いただき、担当キャピタリスト棚橋昂大・ビジネスディベロップメント部橋本真典からの視点と共に、これからの事業の挑戦について話を伺いました。
【プロフィール】
secondz digital株式会社 代表取締役 板井 龍也(いたい・たつや)
東北大学工学部情報知能システム総合学科卒業。新卒はGREEにてエンジニアとしてキャリアを開始。エン・ジャパンにて若手ハイキャリア向け転職サイト『AMBI』のプロダクトマネージャー・事業企画担当者として0からサービスを立ち上げ。PKSHA Technologyにて大手企業向けの社内問い合わせ自動化SaaSの事業責任者を担当したのち、2019年にsecondz digitalを創業。
【What's secondz digital株式会社】
企業の「AIネイティブカンパニー」への事業変革パートナーとして、生成AIやLLM、エージェント技術を活用した『secondz AI agents』の開発・導入コンサルティング・定着支援を実施。生成AI・LLM技術が一般的になる以前から、主に従業員1,000名以上のエンタープライズ企業を対象に事業を展開し、営業1人あたり年間100時間の業務代替を進めるなどインパクトのある成果をあげている。
生成AIエージェントを通じて、エンタープライズ企業の事業変革を支援
ー企業を「AIネイティブカンパニー」へ変革するという事業について、概要を教えていただけますか。
板井 企業の様々な業務を自動化する「AIエージェント」を開発し、導入コンサルティングや定着支援を行っています。AIエージェントとは、複数のAIモデルを組み合わせることで複雑なタスクの実行を可能にするシステム。人間が担っていた業務をAIが"自律的に"考えて実行できるため、大幅な業務代替が見込めます。
現在注力しているのは、エンタープライズ企業のBtoBセールス分野への導入。例えば、従業員が数千名規模の某企業では、営業資料の作成をAIエージェントで自動化し、営業1人あたり年間100時間の業務代替に成功しました。営業は約500名ですので、会社全体では年間5万時間の削減に。その分を顧客と向き合う時間にあてるなど、事業や働き方の改革を実現できています。
ーBtoBセールス分野から導入を進めているのはなぜでしょう。
板井 AIの性質上、業務を100%完璧に達成するのは困難です。経理や法務などのバックオフィス業務は100%を達成しなければならない領域なので、相性があまり良くない。一方で営業業務というのは、アプローチ方法が人によって差が出やすい領域。そこをAIエージェントで補助したり代替したりするのは非常に効果的だと考えています。
さらに、営業は企業の売上に直接寄与する部門ですので、そこの生産性をいかに向上させるかという課題意識はどの企業もお持ちです。今後、顧客とのインターフェースが「人と人」から「人とAIエージェント」へ変化していくであろう未来も見据えて、まずはBtoBセールスに着目して事業を進めています。
ーAIネイティブな組織や業務フローを実現するには、私たち人間の意識改革も必要になってくると思います。実際に企業への導入や定着支援を行う中で、課題に感じることはありますか。
板井 「AIに自分の業務を取られてしまう」という現場の不安感を感じることはありますね。導入に前向きな方がいる一方で、後ろ向きな方もいる。今までも新しいソフトウェアを導入する際などには同じ現象が起きていましたが、それをより強く感じます。
重要なのは、「AIは敵ではなく味方」「自分たちの業務を委譲できてハッピーになる」という認識を持ってもらうこと。そのため弊社では、社員の方がカバーしきれていない業務や、他の誰かに頼もうとしている業務から優先して代替するようにしています。「AIに任せて助かった」という事例や実感の積み重ねが、AIエージェントとの共存を進めるカギになると思います。
ー板井さんが起業しようと考えた経緯をお聞かせください。
板井 事業をつくりたいという思いは大学時代からありました。きっかけは大学でやっていたディベート。例えば「イギリスのEU離脱の是非」のように大きなイシューでディベートすることが多く、それはそれで非常に楽しかったのですが、実際に僕がイギリス政府にEU離脱の提案をすることってないじゃないですか(笑)。
そんな中、たまたま参加したビジネスコンテストで、自分の欲求が満たされる感覚を初めて味わいました。自分の頭の中で描いているものを形にして、世の中に広げていく面白さに気づいたというか。Oasisの『Don't Look Back in Anger』という曲がありますが、あの曲はイギリスで「国民歌」と呼ばれていて、フェスでは何万人ものオーディエンスが合唱するんです。あの曲のように、自分の思想やプロダクトが自ら動き回って社会を変えていく...そんな世界観をつくりたいと強く思いました。
ー大学卒業後はIT系企業を3社経験されていますが、AIビジネスで起業すると決めたきっかけは?
板井 会社をつくること自体は転職と同じように捉えているので、大きな転機があったわけではないですね。AIのビジネス応用黎明期に前職のPKSHA Technologyで事業開発を担い、その前はHR業界にいたので、2019年の創業当初はAIを活用したHR Tech事業を展開していました。
そこからAIエージェント事業へシフトした理由はいくつかありますが、大きな理由はAI技術の急速な進化。僕はPKSHA時代、自然言語処理という領域でビジネスをやっていたのですが、当時は現在のLLM(大規模言語モデル)のような「知能」に近いモデルが実現するのは10〜15年先と考えられていました。でも実際には5年もかからなかった。これで様々なビジネスの前提が大きく変わると確信し、現在の事業に全集中することにしたんです。
近年、技術進化のスピードは本当に加速しています。例えば、人間と同レベルの知能を持つAGI(汎用人工知能)はあと3年程度でできるという仮説が立っていますし、それを超える超知性も10年後にはできると言われているほど。その進化に伴い、弊社のサービスも順次アップデートを重ねています。
VC選びで重視したのは、社会全体をマクロ視点で捉える「見立て力」
左からジャフコ橋本、secondz digital板井氏、ジャフコ棚橋
ー2024年6月、ジャフコからシードラウンドで約1.5億円の資金調達を実施しました。その経緯を教えてください。
板井 最初にジャフコの坂さんとお会いしたのは2023年秋のスタートアップイベントでしたが、資金調達について本格的にご相談したのはその後。技術進化に伴い、企業としてできることが無限に増えている中で、社会的インパクトを最大かつ最高速度で与えていくためには資金調達が不可欠でした。より大きなことにチャレンジできる「チケット」を獲得するための資金調達、という表現を社内ではよくしています。
ー数あるVCの中でジャフコを選んだ理由は?
板井 数十社単位でVCに声をかけるスタートアップもあるようですが、弊社は最初からジャフコ含めて4〜5社に絞っていました。VCを決めるにあたって重視していたのは、ファンドサイズや支援メニューよりも「見立て力」。これから社会全体のあり方がどう変化して、その中でビジネスや人々の行動がどう変化していくか、マクロ視点で見立てることのできる方にお願いしたいと思っていたんです。ジャフコの坂さん・棚橋さんと面談した際、そうした見立てが弊社の認識ととても近かったため、わりと早い段階でお願いすることを決めていました。
ー棚橋さんは担当キャピタリストとして、secondz digitalにどんな印象を持ちましたか。
棚橋 生成AI市場は一般的に「インフラ」「モデル」「アプリケーション」の3層で表現されることが多いですが、日本発スタートアップの勝ち筋として、4層目の「インプリケーション」があるのではないかと。ある程度人手も介して大企業にAIを実装していくプレイヤーが伸びるのではないか、という大きな仮説は、secondz digitalとジャフコで合致していました。
では、その中でも特に成長するのはどんなスタートアップなのか。求められるのは「ソリューション提供力」です。生成AIを活用したソフトウェアを開発できて、かつ大企業を相手にプロジェクトを推進し、運用も含めた業務への実装を行える企業というのは実はなかなかないのですが、secondz digitalはいずれも備えている。PKSHAでコンサルチームを立ち上げてきた板井さんや共同創業者の中村さんをはじめ、開発、コンサル、実装に強みを持つメンバーが揃っている点は、投資を決める上で最大の魅力ポイントでした。
ー投資実行までの間、ジャフコとはどんなコミュニケーションがありましたか。
板井 坂さん・棚橋さんと半年以上かけてディスカッションしてきましたが、ディスカッションの回数...多くなかったですか?
棚橋 そうですね(笑)。少し特殊だったと思います。通常は事業計画をいただいて数字の話をすることが多いのですが、今回は生成AIという市場や事業ステージを踏まえて、今後の社会動向やその確度についてできるだけすり合わせしたかったんです。
板井 VCとスタートアップの中長期的な関係性を考えると、方向性のフィッティングはお互いにとても大事。僕も同じ理解だったので、ディスカッションが多くて嫌だった印象は全くないですね。
ーそのあたりの考え方も合致していたのですね。投資後はビジネスディベロップメント部から支援を受けているとのことですが、支援内容を教えてください。
板井 現在は営業支援とHR支援を受けています。特に助かっているのが営業支援。ジャフコは国内エンタープライズ企業とのチャネルを潤沢にお持ちなので、通常なら接点を持てないような企業がウェビナーに参加してくださったり、弊社に関心を寄せてくださったりしています。チャネルの豊富さはジャフコから投資を受けたいと思った理由のひとつでもありますが、当初期待していた以上のメリットを感じていますね。
ービジネスディベロップメント部で支援業務を担当する橋本さんから見て、secondz digitalの魅力はどんなところにありますか。
橋本 現場の営業社員からすると、自分の業務を委譲できるAIエージェントは「絶対使いたい」もの。私も大企業の営業職の方とよく接しますがsecondz digitalの話をすると大抵、興味を持ってくれます。AIというと遠い話に捉えられることも多いのですが、目先でAIを活用したい企業にも具体的なイメージを提示できるのがsecondz digitalの強み。今後の事業の可能性を感じます。
ー経営者としての板井さんの印象はいかがですか。
橋本 実は私、板井さんのGREE時代の同期なんです。当時はビジネスよりプロダクトに詳しいイメージでしたが、転職して新規事業開発やAI領域を経験していく過程を見ていて、探究心がとても強い人だと感じていました。起業したことも知っていましたが、まさかまた一緒に仕事ができるとは思っていませんでしたね。
棚橋 板井さんはとてもロジカルな方ですが、当たり前の論理が積み重なった納得感のある土台の上に、ワクワクするビジョナリーな志を持っている方。投資家から見ても魅力的ですし、こういう起業家には、より良い社会をつくろうとする優秀な人たちが集まってくるんだろうなと思います。実際に、現在の中核メンバーは板井さんのように魅力的な方ばかりで、組織としての強さを感じます。
今、世界で一番面白い領域で、社会を前進させていく醍醐味
ー「AIネイティブカンパニー」を増やすことでどんな社会を実現していきたいか、展望をお聞かせください。
板井 日本の人口減少はすでに確定された未来です。人口が増えている上にAI活用が進んでいるアメリカのような国との差は、このままだとどんどん開いていく一方。AIエージェントによる業務代替や働き方改革で、人間がより本質的な活動に注力できる仕組みをつくることは、日本の未来のために不可欠です。
弊社では「毎秒、人類を前進させよう」というミッションを掲げています。僕たちの事業を通じて、企業に所属している個人個人の価値を様々な角度から少しずつ高めることで、その集合体である社会全体の価値を高めていく。そのためには社会的インパクトを与えられる企業規模へ成長することが欠かせませんが、ホワイトスペースの多い現在の市場では、奇をてらった戦略より「真っ当なことを黎明期からやり続けている」ことが何よりも結果につながります。ですので今後も、真っ当な取り組みを地道かつ最高速度で続けていきます。
ー事業と共に組織も拡大していくと思いますが、secondz digitalにはどんな方がフィットすると思いますか。
板井 新しい社会をつくっていく事業なので、好奇心の強さは重視しています。社内で採用の話をしていたときに面白いなと思ったのは、「面接で1聞いたら10返ってくる人はsecondz digitalっぽいよね」という声。確かに、自分の興味のあることをとことん突き詰めて、それを情熱的に語ってくれるような人が多いです。
みんな根が「いい人」なので、社内の雰囲気はいいと思いますよ。仕事を純粋に楽しんでいますし、今時珍しいかもしれませんが、お客様との食事会や社内の飲み会にも積極的に参加しています。そうしたカルチャーに合うかどうかも重要ですね。
棚橋 普段はリモートワークでAIネイティブな組織なのに、人とのリアルな接点をとても大切にしていますよね。板井さんも含めて、皆さんいつも楽しそうですよね。
ー新しい市場で新しい社会づくりに挑戦できるという今のフェーズも、皆さんの士気につながっているのでしょうね。最後に、採用という観点からsecondz digitalの魅力を教えてください。
板井 まさに、市場が立ち上がって社会が変革していく大きなモメンタムの中で仕事ができることは、大きなモチベーションになると思います。今、世界で一番面白い「AIエージェント」という領域で、日本の名だたる大企業と一緒にプロジェクトに取り組める。そうした機会は希少だと思うので、この記事を読んで興味を持ってくださる方がいれば嬉しいです。
棚橋 secondz digital は、AIエージェントのインプリケーション領域で間違いなく先頭に立っているプレイヤー。生成AIに可能性を感じていて、ソリューション提供をやりたいという方であれば、ものすごくワクワクする瞬間に立ち会えると思います。
橋本 伸びている業界で、社員数15名程度というまだ大きくない企業規模で、優秀かつ人柄の良い人が集まっている組織。「今ジョインすれば面白い」というポイントが3つ揃っているのは大きな魅力だと思います。興味のある方は、このタイミングを逃さずにぜひチャレンジしてほしいですね。
▶️ secondz digitalの採用に関してはこちらをご参照ください
担当者:棚橋昂大 からのコメント
生成AIが起こしたブレークスルーは、自然言語でのソフトウェア開発・操作を可能にしました。それにより、従来はソフトウェア投資のROIが合わなかった、業界や企業特有の業務における効率化・最適化が一挙に進んでいくと考えられます。secondz digitalがAIエージェントを提供するのは、日本を代表する超大手企業の方々です。ただ最新技術を提供するのみでなく、理想的な業務設計から棚卸をし、各社ごとにカスタマイズされたAIエージェントを提供しています。
それを可能とするのは、板井社長を始めとした当社チームの高い技術力・課題解決力・提案力です。当社自身が生成AIを最大限活用し、AIネイティブスタートアップとしての新しい挑戦をしており、今後ご一緒させていただくのがとても楽しみです。弊社一同全力でご支援していきます。