JAFCOの投資とは

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業界トレンド2024 -ジャフコのキャピタリストが考察する、投資領域の現在と未来-
業界トレンド2024 -ジャフコのキャピタリストが考察する、投資領域の現在と未来-

起業や事業拡大に挑む上で、市場の動向をキャッチアップすることは極めて重要です。特に起業家や投資家からの注目度が高い領域では、日進月歩でさまざまな技術やサービスが生まれ、トレンドが目まぐるしく変化しています。

今回は、各業界の最前線で投資活動を行うジャフコの各キャピタリストが【バイオエコノミー】【モビリティ】【ディープテック×AI】【宇宙】【ヘルスケア】【エネルギー】の業界トレンドを解説。自身の投資先企業の事例も交えながら、投資領域の現在と未来について考察します。



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バイオエコノミー領域

今後の主戦場は、医薬品開発などのレッドバイオ分野へ

三浦 研吾(みうら・けんご)
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■バックグラウンド・興味関心

東京工業大学・大学院でバイオテクノロジーを研究後、「日本からディープテック産業を創出する」という志のもとジャフコで投資活動に従事しています。バイオを主軸に幅広いディープテック分野全般に関心があり、現在の投資先は医療・ライフサイエンス・ロボット・半導体・AI関連のスタートアップと多岐に渡ります。

<バイオエコノミー領域の担当投資先>

株式会社シンプロジェン(DNA合成技術に係る研究開発)
株式会社バイオパレット(塩基編集技術によるマイクロバイオーム・セラピューティクスの開発)など

<直近のIPO実績>

Chordia Therapeutics株式会社(新規抗がん剤の研究開発)

■市場の現状

バイオエコノミーは2009年にOECDが提唱した概念です。脱炭素社会の実現に向けて、従来の「石油化学を中心とした物質生産」から「バイオを用いたクリーンな物質生産」への移行を目指す領域で、2010年代後半から積極的に投資が行われてきました。

近年は米国を中心にファウンドリビジネスが拡大し、ユニコーン企業も多数輩出されましたが、コロナ後の市況悪化の影響などもあり最近はやや失望期。ただ、世界的に国策レベルで注力している領域ですので、各企業の主導権争いは依然続いている状況です。

バイオエコノミーは「レッドバイオ(医療)」「ホワイトバイオ(化学)」「グリーンバイオ(環境)」に大きく分類されますが、ホワイト・グリーンは採算性の低さから苦戦気味。各ファウンドリの対象は、高単価でニーズが明確なレッド分野に移行しつつあります。

■注目している技術・分野

バイオエコノミーにはDBTL(Design/Build/Test/Learn)サイクルという基盤プロセスがあります。その中でもBuildに該当する「DNA合成」「ゲノム編集」の2技術は、今後のバイオエコノミーの発展に欠かせないコアな技術。日本企業がバイオエコノミー領域でポジションを確立するためには、これらの技術を国レベルでしっかり抱え込んでいくことが重要です。

私の投資先のシンプロジェンは、複数の遺伝子を組み込んだ長いDNAを合成する「長鎖DNA合成技術」を持つ企業。特にレッドバイオ分野に注力しており、遺伝子治療に特化したバイオファウンドリの展開に取り組んでいます。すでに国内外の企業と提携し、GMP製造まで一気通貫で行える体制をグローバルに構築しています。

また、ノーベル化学賞を受賞したゲノム編集技術「CRISPR-Cas9」をさらに発展させた一塩基編集技術を持つ、バイオパレットにも投資させていただいています。この技術は日本が基本特許を保有しており、国策としても重要なポジションとして期待されます。


■市場の展望

今後はレッドバイオ分野が主戦場になるでしょう。半導体専業ファウンドリのTSMCのようなポジションをめぐり、各国・各企業間で競争が激化すると思われます。さらに、そうしたプラットフォーマーの出現と並行して、レッドバイオなら「遺伝子治療薬」など、固有の製品を開発するプレイヤーも出てくるはず。そこまで視野に入れながら、引き続き投資機会を模索していきます。

一方でバイオファウンドリは、経済安全保障という観点も重要な領域。新型コロナワクチンをめぐっても、当初は日本国内に生産できる体制がなく、海外製に依存せざるを得なかったことは記憶に新しいと思います。そうした課題を解消すべく、今後は国をあげてバイオエコノミー領域を支援していく動きが強まるのではないかと期待しています。



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モビリティ領域

国内の輸送力の強化と、世界で戦える自動車関連産業の創出

田中 友基(たなか・ゆうき)
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■バックグラウンド・興味関心

新卒でトヨタ自動車に入社し、新型HEVカーやハイパーカーのPM業務に携わりました。その後は外資系戦略コンサルティングファームで、モビリティ・製造・ITなどの企業を担当。モビリティ領域では鉄道・プレジャーボート・バイクなど、幅広い事業の戦略コンサルに従事しました。現在ジャフコでは、主にモビリティや製造業に関わる領域で投資をしています。

<モビリティ領域の担当投資先>
newmo株式会社(ライドシェア事業)など

■市場の現状

モビリティ領域はコロナ禍で大きな変曲点を迎えました。「人の輸送」という観点では、人の移動が激減し、あらゆる交通系サービスがシビアな状況に。一方で、個人で利用する自家用車の需要は増し、中古車市場も拡大しました。「物の輸送」という観点では、人の移動がなくなる中で物流をどうするか、ECをいかに活用していくかといった課題が多く取り沙汰されました。

そうした予測困難な事態を経たアフターコロナの今、輸送の供給者側のあり方は再定義されようとしています。例えば「人の輸送」では、タクシードライバー不足などによる供給減に伴い、電動キックボード・自転車などのシェアリングサービスやライドシェアサービスが急増していますが、現在の人・物の輸送状況を鑑みた上でどのようなバランス感がよいのか、近々答えが出るタイミングなのではないかと感じています。


■注目している技術・分野

2023年に政府がライドシェアに関する議論を開始し、それを機に設立されたのがnewmo。ジャフコは設立翌月に初回投資させていただきました。2024年4月、タクシー事業者の管理下という条件で自家用車活用事業(日本版ライドシェア)が解禁され、newmoは大阪のタクシー事業者への資本参加を実施。7月にはライドシェアサービスの提供を開始しました。

newmoの特徴は、「日本の二次交通のあり方」を政府や各業界とともに検討していくという立ち位置であること。ライドシェアだけでなくタクシー事業も含めて展開し、移動需要に対して不足している二次交通の輸送力を総合的に担保する存在として、今後成長していくと見込んでいます。


■市場の展望

人口が密集する首都圏については、公共交通・二次交通・自動運転なども含めて、より細部にわたって交通網が最適化されていくと考えています。一方、過疎化や高齢化が深刻な地域については、モビリティのみの議論ではなく、人口集約など都市計画とも連動した議論へ発展していくのではないかと思います。

モビリティ領域としてはもちろん、日本の産業として重要なカギを握るのは、やはり「自動車」。日本の自動車メーカーが世界にサプライチェーンを広げている今のうちに、周辺産業も含めて海外でしっかり戦える状態にすることが必須です。

私の投資先であるFact Base(図面管理システム)やゼロボード(GHG排出量算定・可視化)のような製造業向けソリューション企業、ソフトウェア企業など、自動車産業の発展に寄与し得るスタートアップと共に、グローバルマーケットで
日本企業が活躍できるよう私も尽力していきます。



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ディープテック×AI領域

日本企業のAI活用は、デジタルに閉じない分野との融合がカギに

新谷 良太(しんたに・りょうた)

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■バックグラウンド・興味関心

東京大学でAIの研究をしたのち、ものづくりがしたいという思いから学部卒で就職。野村総合研究所でPM、ソフトバンク・ロボティクスで新規ロボットのIT企画に携わりました。その後、新しいビジネスの創出に携わるべく、BCG Digital Venturesに転職。

主にAIやWeb3の領域で、顧客とジョイントベンチャーを立ち上げてプロダクトを世に出すという経験を積みました。ジャフコには2023年からジョインしています。

<ディープテック×AI領域の担当投資先>
Sakana AI株式会社(自律型AIの開発)


■市場の現状

AI領域で注目すべき動向は「マルチエージェントAI」と「マルチモーダルAI」です。マルチエージェントAIは、複数の自律型AIシステムを協力させて高度なタスクを遂行させる技術。ChatGPTが登場した当初、聞いたことを何でも答えてくれる部下のような存在と話題になりましたが、最近ではできることが上司クラスへと進化し始めていて、こうした技術進化は今後も加速していくでしょう。

一方でマルチモーダルAIは、画像・音声・テキストなどの異なる情報を一度に処理する技術。マルチエージェントAIが「人間に近づいていく」技術なら、マルチモーダルAIは「適用範囲が広がっていく」技術と言えます。前者はテクニカルな要素が強く、日本企業が世界的にプレゼンスを発揮することはなかなか難しいため、世界と戦える可能性を秘めているのは後者だと思います。

ただし、デジタルサービス×AIのような分野は資金力がものを言うので、デジタルに閉じない分野----例えばバイオ・創薬・半導体などとAIを絡めることができれば、日本のスタートアップも勝ち筋を見出せるのではないかと考えています。


■注目している技術・分野

2023年末に投資させていただき、設立1年でユニコーンとなったSakana AIは、日本のマルチエージェントAI企業としては例外の注目企業です。創業者は元GoogleのトップAI研究者2名で、そのうちの1名は、現在ChatGPTなどのAI製品に使われている「Transformer」というアーキテクチャを取り上げた重要な論文の著者のひとり。そんな彼らが日本で新法人を設立したことで、「EUのMistral AI、USのAnthropic、アジアのSakana AI」と名を連ねることになろう未来に期待感が高まっています。

Sakana AIが発表した「進化的モデルマージ」は、簡単に言うと、「複数のモデルを組み合わせて新たなAIモデルをつくる」というモデルマージのやり方を自動化した技術。AI界に大きなパラダイムシフトを起こしました。複数のモデルを融合させても調和と統率のとれたモデルになるように、生物の自然淘汰の仕組みをヒントにした点も非常にユニーク。生物学的アプローチによりAIはますます人間っぽく進化し、応用の可能性が格段に広がるのではないかと思います。


■市場の展望

AIとの掛け算により、ディープテックは間違いなく進化すると思います。ものづくりの工程は効率化され、新しいビジネスモデルも多数登場するでしょう。ただ、ディープテック領域とAI領域の人材交流が少ないことは大きな課題。例えば、大学で一次産業を専攻する人が当たり前のようにAIも学ぶ...といった、アカデミアレベルでの分野融合が必要になってくると考えています。

日本のスタートアップがグローバルに戦うなら、先ほどお話しした「デジタルに閉じない分野」との融合がカギ。特に、日本の強みであり市場も大きい製造業との融合や、ふんだんにある海洋資源を活かしたシーテック分野も期待できるのではないかと思います。ディープテック×AIの人材交流がうまく進むか、もしくはSakana AIのような企業がAIモデルを簡単につくれる仕組みを開発するか、そのどちらかがトリガーになって一気に広がっていく未来は十分あり得るので、今後も動向に注目していきます。



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宇宙領域

これからの宇宙産業を担う日本発スタートアップの台頭

長岡 達弥(ながおか・たつや)
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■バックグラウンド・興味関心

工学としての宇宙領域に興味があり、京都大学で航空宇宙工学を専攻。学部では宇宙機の軌道計算や姿勢制御に関する研究、院ではプラズマを半導体加工やイオンスラスターに転用 する推進工学研究室に所属していました 。ジャフコではディープテックや教育などの領域を担当しています。2015年には現在のアストロスケールホールディングスに投資、ジャフコとして初めて投資した宇宙スタートアップです。今年6月にIPOを果たし、さらなる発展が期待されています。

<宇宙領域の投資先>
株式会社アストロスケールホールディングス(宇宙空間での軌道上サービス)
株式会社Synspective(小型SAR衛星開発製造および衛星データソリューション)

<直近のIPO実績>
株式会社アストロスケールホールディングス(宇宙空間での軌道上サービス)


■市場の現状

2023年に閣議決定された宇宙基本計画では、日本が注力していく4分野について説明されています。現在、国内で50億円以上の資金調達を実施しているような宇宙系企業は、概ねこの4分野のどれかに該当します。

1つ目は「宇宙安全保障の確保」。近年の世界情勢の中、日本も衛星による情報収集などを通じて安全保障を強化していくことが急務。これは宇宙領域の中でも最重要事項にあたるテーマです。2つ目は「国土強靭化・地球規模課題への対応とイノベーションの実現」。災害の予防や発生時の迅速な対策に向けて、通信衛星や衛星データを活用していく分野です。私の投資先のSynspectiveは、1と2に取り組んでいるプレイヤーです。

3つ目は「宇宙科学・探査における新たな知と産業の創造」。太陽系の先の深宇宙と呼ばれる領域の探索、資源掘削や火星探査のための月面探査などが該当します。そして4つ目は「宇宙活動を支える総合的基盤の強化」。アストロスケールホールディングスが行っているスペースデブリ(宇宙ごみ)の除去をはじめ、ロケットの開発運用などもここに入ります。


■注目している技術・分野

今お伝えした4分野からもわかるように、宇宙ビジネスの対象は宇宙空間だけでなく地球上も含まれます。中でもSynspectiveの衛星データソリューションは、地球上でのさまざまな課題の解決に貢献しています。

Synspectiveの技術は、レーダー衛星から地球に向かってマイクロ波を照射し、その跳ね返りで地球上の状況を把握するというもの。分解能1mクラスの精度で広範囲をカバーできます。高さ方向の情報まで緻密に把握できるため、地盤変動をミリ単位で検出して土砂災害や陥没事故を予防する(InSARの活用)、森林の高さからCO2吸収量を割り出してカーボンクレジット化する、波の高さを測って洋上風力発電の最適な設置場所を探す...といったことに活用されています。

能登半島地震の発生時には、各企業から衛星データが無償提供されましたが、Synspectiveの衛星データも被災地の状況把握に役立てられました。


■市場の展望

以前は「宇宙ビジネス=ロケット・人工衛星」というイメージがありましたが、この10年で日本の宇宙ビジネスの裾野は大きく広がりました。ロケットに関しては海外諸国が先行しているものの、それ以外の衛星を使ったビジネスでは日本の優位性は高いと考えています。アストロスケールホールディングスはスペースデブリの除去を世界でいち早く事業化した企業ですし、小型レーダー衛星を扱う企業は現在世界で5社しかなく、そのうちの2社がSynspectiveを含めた日本企業です。

現在、日本で上場している宇宙スタートアップは3社。かつてIT業界が爆発的な盛り上がりを見せたように、この3社をベンチマークとして起業なり新規参入なりする企業が今後増えていくのではないでしょうか。宇宙を活用した社会インフラ構築がひと通り終われば、次はコンシューマ向けサービスなどへシフトしていくはずなので、さまざまなフィールドで戦えるスタートアップが育っていくことに期待したいです。



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ヘルスケア領域

医療現場や診療のあり方を変える、新たなビジネスの創出を支援

沼田 朋子(ぬまた・ともこ)
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■バックグラウンド・興味関心

一橋大学 経済学部を卒業後、ジャフコに入社しました。2022年からチーフキャピタリストを務めています。「ディープな社会課題を解決する」をテーマに、医療・ヘルスケア、エネルギー、AIなど幅広い領域のスタートアップへ投資させていただいています。

<ヘルスケア領域の担当投資先>
株式会社Gaudi Clinical(再生医療プラットフォーム)
エルピクセル株式会社(ライフサイエンス領域の人工知能・画像解析ソリューション開発)
株式会社CYBO(細胞診を含む病理画像のデジタル化及び画像解析事業)
株式会社CaTe(心臓リハビリ治療用アプリ等の開発)など

<エネルギー領域の担当投資先>
Planet Savers株式会社(ゼオライトを用いた大気中のCO2回収装置の開発)など

<直近のIPO実績>
株式会社アストロスケールホールディングス(宇宙空間での軌道上サービス)
マーソ株式会社(人間ドックのインターネット予約サイト)


■市場の現状

ヘルスケア領域の中でも私が投資しているのは、「AIで医療現場の業務を効率化する」「アプリで患者の治療やリハビリを支援する」といった領域になります。

医療現場向けの事業ですと、医療AIによる画像診断の保険適用(2022年4月〜)、医師の働き方改革の新制度施行(2024年4月〜)などの法改正とともに、事業を伸ばすスタートアップが増えてきている状況です。例えば私の投資先のエルピクセルは、CT・MRI・X線などの医療画像をAIで解析し、医師の診断を支援するサービスを提供しています。

患者向けの事業ですと、投資先のCateでは、心臓リハビリ治療を自宅で受けられるアプリを開発しています。心臓病の手術を受けた患者さんは、退院後も5ヶ月間は保険でリハビリを受けられるのですが、通院の手間がかかるために実際は9割以上の方が受けていません。その現状を解消し、再入院率を抑えることを目指しています。こうした事業は日本の皆保険制度下では収益化しやすいので、今後参入が増えてくるのではないかと思います。


■注目している技術・分野

創薬や医療機器開発など、サイエンスの価値で企業そのものの価値が決まるような領域は、サイエンスを的確に評価できるキャピタリストが投資すべきだと思っています。技術的なバックグラウンドを持っていない私が得意としているのは、その先の「ビジネスとしての組み立て」が必要な領域。

だからこそ、エルピクセルやCateのようなスタートアップに可能性を感じて投資をさせていただいていますし、サイエンス系のバックグラウンドを持つキャピタリストがなかなか着目しない「自由診療」の領域にも関心を持っています。


■市場の展望

皆保険制度下での新しいサービスの増加が見込まれる一方で、保険の財源は限られるため、今お話しした自由診療に着目するスタートアップも出てくるのではないかと思っています。

投資先のGaudi Clinicalは、再生医療を自由診療で安全に受けられる社会をつくるためのプラットフォーム事業に取り組んでいます。また、不妊治療は保険適用ですが対象が限られるので、自費で治療を受ける人の成功率向上に取り組むような企業が出てくるかもしれません。海外では、疼痛や関節痛を運動療法でケアするアプリが保険外で販売されている例も。「痛みを軽減したい」というニーズは根強くあると思うので、そうした部分にアプローチするサービスにも期待が持てそうです。



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エネルギー領域

GX推進の命運を握るDAC(直接空気回収技術)ビジネス

沼田 朋子(ぬまた・ともこ)
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■市場の現状

こちらもヘルスケア領域と同様、発電事業そのものより、需要側のリソースをマネージしていくようなビジネスに着目して投資をしています。近年はディマンド・リスポンス(DR)というキーワードが浸透し、事業として取り組む企業が増加。以前投資させていただいていたエナリスは、DRという概念が出てくる前からその領域に挑み、法人需要家の電力コスト削減に向けた幅広いサービスを提供しています。

また、エナリス出身者が起業して設立したREXEVは、電気自動車を再生エネルギーの蓄電に活用することで、エネルギーマネジメントに取り組む企業。いわゆるヴィークル・ツー・グリッド(V2G)の領域です。電気自動車の普及にともない需要も拡大すると見込んでいるので、2019年の早い段階から投資をさせていただいています。


■注目している技術・分野

2022年から政府はGX(グリーン・トランスフォーメーション)を提唱し、脱炭素社会に向けて国をあげてクリーンエネルギーへの転換に取り組んでいます。2050年までに温室効果ガス排出量を実質ゼロにするという目標のもと、各企業がさまざまな排出量削減努力をしていますが、「削減」だけではなかなか達成できないというのが実情です。

そこで注目されるのが、排出された温室効果ガスを「除去」するという考え方。特に、大気中のCO2を分離して回収するDAC(Direct Air Capture/直接空気回収技術)という技術が近年はホットで、すでに多くのプレイヤーが登場しています。


■市場の展望

現在はどの企業もまだ「削減」に注力していて、「除去」までは頭が回っていない状況だと思います。ただ、今後状況が進んだときに、効果的なDACのプロダクトが市場にある状態を今からつくっておきたかったため、Planet SaversというDACスタートアップに最近投資しました。

Planet Saversは、脱臭剤に使われるゼオライトという素材をDAC向けに改良し、大気中のCO2を吸着させる装置を開発するスタートアップ。第一世代のDACは、CO2の分離時に高温の熱エネルギーが必要という課題を抱えていましたが、Planet Saversの装置はその必要がないため、非常に注目されています。今後はこれ以外にもさまざまなDACのソリューションが出てくるはずなので、政府の助成なども含めて市場拡大に期待したいと思います。