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現役医師が挑む「心臓リハビリ」の課題。アプリによる運動療法で、日本の医療を前進させる
現役医師が挑む「心臓リハビリ」の課題。アプリによる運動療法で、日本の医療を前進させる

起業を決めた背景や、事業が軌道に乗るまでの葛藤、事業を通じて実現したい想いを聞く「起業家の志」。

第46回は、株式会社CaTe 代表取締役CEOの寺嶋 一裕氏に登場いただき、担当キャピタリスト山崎由貴からの視点と共に、これからの事業の挑戦について話を伺いました。

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【プロフィール】
株式会社CaTe 代表取締役CEO 寺嶋 一裕(てらしま・かずひろ)

2011年 名古屋大学医学部医学科卒業
東京都立多摩総合医療センター 初期研修
名古屋第一赤十字病院、榊原記念病院 循環器内科研修
2020年 株式会社CaTe創業、代表取締役CEO
2021年 JR東京総合病院循環器内科 医長
2023年 藤田医科大学循環器内科 助教
資格:循環器専門医、CVIT(心血管インターベンション治療学会)認定医、心臓リハビリ指導士、 認定内科医、プライマリケア認定医、日本医師会認定産業医


【What's  株式会社CaTe】
自宅での外来心臓リハビリを支援する心臓リハビリ治療用アプリを開発。運動療法はじめ、日々のバイタルデータ(脈拍、血圧、体温等、人体から取得できる生体情報)の共有、生活食事管理、AIを活用した通知・メッセージなどの機能によって患者さんの行動変容を促し、包括的な心臓リハビリテーションを実現する。



Portfolio


「遠隔心臓リハビリシステム」で全ての心疾患患者がより良い医療を受けられる社会を目指す

ーCaTe(カテ)が手掛ける事業について教えてください。

寺嶋 CaTeでは心不全や心筋梗塞などの心疾患患者が、自宅で適切な心臓リハビリができるように支援する治療用アプリの開発を行っています。スマートフォンとスマートウォッチなどのIoT端末を活用したサービスで、アプリを通じて一人ひとりの患者さんに合わせた運動メニューを提案し、安全かつ効果的な心臓リハビリを行うことが可能です。

また、アプリでは運動療法だけでなく、日々のバイタルデータの共有、生活食事管理、AIによる通知・チャット機能など患者さんの行動変容を促す機能を多数搭載しており、包括的な心臓リハビリを提供しています。

この「遠隔心臓リハビリシステム」の早期社会実装によって、心臓リハビリが抱える課題を解決し、社会に対して大きなインパクトを与えることができると考えています。

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ー「心臓リハビリが抱える課題」とは何でしょうか。

寺嶋 心疾患患者における「心臓リハビリ参加率の低さ」です。

心臓リハビリとは心疾患患者に行う運動療法を中心にした治療のことですが、これまでの研究から薬と同等の治療効果があると証明されています。例えば、心不全患者が退院後に適切な運動療法を受ければ、再入院率は約30%低下、心筋梗塞の心疾患死亡率は約30%低下すると報告されています。しかしながら、日本の心臓リハビリ参加率はごくわずか。4~8%という現状があるのです。

ー驚くほど低いですね。有効な改善手段が存在するにもかかわらず、普及しない理由はどこにあるのでしょうか。

寺嶋 理由はいくつかあります。
患者さん側の課題としては「通院の負担の大きさ」があります。心臓リハビリが受けられる時間は一般診療と同様に限定されているので、指定された時間に合わせて週3日通い続けることは、本人にとっても送り迎えする家族にとっても負担が大きい。継続が難しく、中止してしまうケースも少なくありません。さらにここ数年は新型コロナウイルス感染拡大の影響で、外来心臓リハビリを縮小・中止した施設が多くありました。

また、施設側の課題としては「リハビリ施設の少なさ」と「実施者の人手不足」です。現在、心臓リハビリ施設は、全国に約700施設のみ。年間の心不全入院患者数約29万人という数字から考えると、全く足りていません。合わせて、必要な資格者が不足している状態です。

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ーつまり、心疾患患者が十分な医療を受けられていないと。

寺嶋 おっしゃる通りです。結果として心不全再発率が上がり緊急受診や再入院の増加、社会全体として医療費の負担が大きくなっています。

CaTeが解決していくのは、まさにこの部分。これまでにない「遠隔心臓リハビリシステム」を開発することで、心疾患患者の運動耐用能回復や生活習慣改善などを支援し、再発リスクを抑える。全ての心疾患患者がより良い医療を受けられる社会を創っていきたいと考えています。

ー「これまでにない遠隔心臓リハビリシステム」という点について、もう少し詳しくおしえてください。

寺嶋 過去に「家庭内で利用しやすい」かつ「最適な運動療法」、この2つが揃ったシステムはありませんでした。IoTエルゴメーターを使って遠隔心臓リハビリを行うサービスはありますが、デバイスの価格や重さ、大きさなどが課題となっています。他にスマホで動画を見ながら運動を行うサービスにおいては、負荷量がコントロールできず効果が不十分。さらに非保険診療であることから患者負担額の大きさ、医療機関との連携などが課題となっています。

これらの問題点を全て解決したのが、私たちが開発する「遠隔心臓リハビリシステム」です。CaTeでは、患者さんがエルゴメーターなどの器具を使わず、立ったままの運動でも、運動負荷量を一定かつ最適にできるシステムを構築した点が、他にはない強みとなっているのです。

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ー寺嶋さんが「遠隔心臓リハビリシステム」を作ろうと思ったきっかけを教えてください。

寺嶋 私の最初のキャリアは循環器内科医です。名古屋大学医学部を卒業した後は、循環器内科医として東京・名古屋の病院に勤務をしてきました。現在も大学病院で働いており医師としては14年目になります。その中で強く感じていたのが、心疾患は生命に影響する重大な病であるにも関わらず、退院後に患者さんの行動変容を促す医療が十分に行えていないことでした。

心臓が止まった状態で運ばれてきた患者さんを自分が治療して元気になり退院したとしても、すぐに病状が悪化して再入院になってしまう。そんなケースを多く経験してきました。もちろん、退院後は外来で管理をしていきます。薬を出すだけでなく運動や食事など日常生活の指導を行うのですが、外来で伝えるだけではどうしても効果は薄い。最初は外来心臓リハビリに通っていた患者さんも、だんだんと来てくれなくなっていく現状がありました。
目の前で起きているこの課題を何とかできないか。毎日触れるスマホを活用すれば心疾患患者の行動管理、そして行動変容を促すアプローチができるのではないか...。そう思ったのが、CaTeを立ち上げたきっかけです。


ー医師として現場で直に感じた治療の課題がきっかけのだったのですね。

寺嶋 そうなんです。この課題を解決するには、アカデミアとしての研究だけでは不可能と思い、いわゆる産官学連携が重要と考え、会社を立ち上げました。医師として働きながら、会社を立ち上げるという事は多くの困難を伴いましたが、様々な人に支えられながらここまで事業を進める事が出来ました。医者としての経験、解決したい社会課題、信頼できる友人や仲間...今まで積み上げてきたものが全てつながって、CaTeという会社が生まれたのだと感じています。



「一つ上のステージに行ける」と思える"会社の仲間"と出会えた

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代表取締役CEO 寺嶋氏(左)と担当キャピタリストの山崎 由貴(右)

ー2023年6月、ジャフコと東京ウェルネスインパクトファンドのリード投資で、シリーズAファーストクローズで4億円の資金調達を実施されました。ジャフコとの出会いについてお聞かせください。

寺嶋 ジャフコの山崎さん・沼田さんからご連絡をいただいたのが最初の出会いです。シードラウンドで1億円の資金調達をした半年後の2022年6月頃にご連絡をいただいたのですが、その時はタイミングを改めてというお話をしていました。
山崎さんの印象はとにかく真っ直ぐ。当時は、新卒入社されたばかりということもあって、真面目でひたむきに一生懸命取り組む姿勢が記憶に残っています。

山崎 私がCaTeに魅力を感じたのは、DTx(デジタルセラピューティクス)における事業の可能性です。心疾患患者の多さや抱える課題の深さ、そして解決することで「治療の空白」が埋められ医療費を削減できる。社会に与えるインパクトの大きさを感じました。
それから、解決方法としての治療内容も魅力に感じたところです。薬ではなく、運動療法として「医者の非監視下で治療できる」という点に関して、広がりのある領域で勝負をされていると考えていました。
その後、シリーズAに向けて話を進めたいというお話をいただいたのが2022年秋頃。面談の機会をいただき、沼田と私で話をさせていただきました。

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ー寺嶋さんが、ジャフコを選んだ決め手は何でしたか。

寺嶋 国内トップティアのVCであるジャフコさんに入ってもらうメリットはもちろん大きいですが、それ以上にキャピタリストのお二人が、CaTeの事業にしっかりと向き合ってくれていたことが最終的な決め手です。

沼田さんも山崎さんも"やり抜く力"が本当に素晴らしいんです。それこそ起業家のような覚悟を持っていらっしゃる。「ここは絶対にやりましょう」「これは難しい」...など的確なアドバイスをくださって、最後の最後まで一緒に進めてくださいました。お話をさせていただく中で、「この方たちが仲間になってくれたら、会社として一つ上のステージに行ける」と心から思えたのは大きかったですね。

山崎 ありがとうございます。そんなふうに言っていただけて嬉しいです。2023年6月に資金調達を実施してからは、月1回の定例ミーティングでお話をさせてもらっています。寺嶋さんはじめ、CTOの鳥居さん、CFOの宮崎さんとお会いする機会もありますが、毎回"本当にいいチームだな"と感じます。

医師経験を持つ寺嶋さん、フルスタックエンジニアである鳥居さん、戦略コンサル・PEファンドと他社CFO経験のある宮崎さん、それぞれがそれぞれをリスペクトしていて、最大限のパフォーマンスを発揮している。協力し合いながらCaTeという会社を着実に作り上げている。そんな印象を持っています。


日本の医療を前進させる。運動の効果が証明された全ての疾患へ。

ーこれからどのようなことに取り組んでいきますか?

寺嶋 調達した資金で「遠隔心臓リハビリシステム」の開発強化、それから臨床研究を行ない、保険適用を目指していきます。臨床研究に関しては、2023年5月より藤田医科大学病院にて心臓リハビリテーション医療機器プログラムの医師主導試験を開始しています。
システム開発で強化していきたいのは、ゲーミフィケーションの要素です。家庭で安全に、手軽に、有効な運動療法ができるようになったとしても、実際に運動を行う心疾患患者の方が"やろう"と思わなければ続けることは難しい。だからこそ、面白いな、やりたいな、続けよう...と思えるゲーム性が欠かせないと思っています。例えば、心疾患患者が運動をしている映像から、AIが「足を上げすぎです」「もう少しペースを落としましょう」などのフィードバックをくれることもその一つになるでしょう。適切な運動療法の継続率を上げる仕組みを作る。これがここ1~2年ぐらいの課題だと捉えています。

ー「適切な治療の提案」の次のステップ、ということでしょうか。

寺嶋 そうです。現段階でのDTxは、日々の生活食事指導・運動動画をデジタル化したものにすぎませんから、まだまだ効果が弱い。真の意味でのDTxは「適切な運動療法」をデジタル化するものだと考えています。
まずは私たちが心臓リハビリの領域において、アプリにを通じた心疾患患者の運動療法・行動変容を実現する。治療効果の強さを証明することができれば、医療機器・保険診療としての活用を実現できますし、医療者側の使用ハードルも下がっていく。心臓リハビリの領域においてしっかりシェアが取れれば、その先のDTxにもつながっていくと考えています。
 
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ー「その先のDTx」とは?

寺嶋 運動療法の効果が証明されている疾患は、心疾患だけではありません。高血圧、糖尿病、認知症、うつ病、悪性腫瘍など多くの疾患に効果を発揮することが可能です。

私たちは現時点で臨床研究を行う藤田医科大学や名古屋大学との強固な関係が築けていますから、これらパートナー医療機関との連携を深め、その対象を広げていけると考えています。心臓リハビリを起点に、日本の医療を前進させる。CaTeは国内のDTx市場をリードする存在として、より健康的で活気ある社会を創造していきます。


担当者:山崎 由貴からのコメント

267b401ee2708b4e9cfd1de0484185c2dcd2350f.jpg超高齢化社会において心疾患患者は増加傾向にありますが、仕事や家庭の事情による通院負担などの理由から、外来心臓リハビリへの参加率が低いことが課題です。この課題に対し、CaTeは、汎用的なデバイスのみで、医者の非監視下で、安全に運動療法を実施可能な心リハ治療用アプリの開発を行っています。また、将来的には運動療法の効果が証明されている他疾患のパイプラインを見据えており、国内のDTx市場を牽引する会社になると信じています。DTxの開発には事業ステージによって多様なスキルが求められますが、寺嶋さんの求心力と推進力で強いチームへと着実に拡大してきています。CaTeとともに、10年後の日本の医療を大きく前進させるべく、全力で併走して参ります。