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組織崩壊と葛藤を乗り越えて学んだ教訓とは。- 「時を生む」TOKIUM黒﨑社長の挑戦 -
組織崩壊と葛藤を乗り越えて学んだ教訓とは。- 「時を生む」TOKIUM黒﨑社長の挑戦 -

スタートアップの挑戦の歴史、その挑戦の舞台裏と経営者の物語に迫る『スタートアップの壁』。今回は、「無駄な時間を減らして豊かな時間を創る会社」をビジョンに掲げ、法人支出管理プラットフォーム「TOKIUM」を提供する株式会社TOKIUMの黒﨑社長に話を伺いました。

【プロフィール】

株式会社TOKIUM 代表取締役 黒﨑賢一

1991年生まれ。筑波大学在学中に家計簿アプリ「Dr.Wallet」の開発を始め、在学中の2012年に株式会社TOKIUMを共同創業。2021年末から2022年にかけて約35億円の資金調達を行い、法人の支出管理業務における課題解決に取り組む。今後も、人々の無駄な時間を減らし豊かな「時を生む」サービスの展開を目指す。

【What's 株式会社TOKIUM】

「未来へつながる時を生む」を志として掲げ、主なサービスとして、請求書受領クラウド「TOKIUMインボイス」、経費精算クラウド「TOKIUM経費精算」、文書管理クラウド「TOKIUM電子帳簿保存」を提供しています。経費や請求書などの企業の支出を一元管理し、支出領域の課題を解決します。

創業:2012年6月 / 12年目、従業員数:約230名、累計調達額:51億円 / シリーズE調達時

※記載の内容は2024年4月時点のもの

< 動画でご覧になりたい方はこちら 

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「BearTail」から「TOKIUM」へ

ー黒﨑さんが起業されるまでの話をお聞かせいただけますか?

小学生の頃は自分の学力に自信があったものの、進学校として知られていた中学校に入学すると、自分よりも勉強ができる生徒に囲まれてしまい挫折を味わいました。

そこで、自分が強みを発揮できる分野を模索するために、さまざまなことに手を出しました。特にゲーム機の改造をした時は友人から喜ばれ、「人のために何かを頑張る」ということに自分が一番モチベーションを感じたことを自覚しました。

その後、私が19歳の時に東日本大震災が起きました。この災害をきっかけに、「人の命を救いたい」「生を全うするための時間を創り出したい。そのための役に立ちたい」と思うようになりました。TOKIUMの社名の由来にもなった「時を生む・時間を創る」という想いはここから来ています。そして、20歳の時に会社を創業しました。

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ー就職ではなく起業を選んだ理由やきっかけについて教えてください。

もともと16歳頃から個人事業主として働いており、個人のまま仕事を続けても困るようなことはありませんでした。しかし、自分たちで作ったWebサービスを多くの人に使ってもらうことを考えると、「運営者」の名前は個人ではなく法人のほうが安心していただけるのではないか、ということが理由で会社を作りました。独自ドメインを取得するような感覚だったんです。

ーその時はTOKIUMの前身となる「BearTail」という社名でしたが、どのような想いを込めていたのでしょうか。

直訳すると「熊の尻尾」という意味ですが、小熊座の尻尾のところに北極星があることから、「世の中に道標を示したい」という想いを込めました。

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ーBearTailとしてスタートして、TOKIUMとなった会社の歩みについて教えていただけますか?

社名を変更したのは、会社を設立して10年が経つ2022年の時でした。「BearTail」という社名には強い想いを込めていたものの、社名だけでは相手にその想いや事業内容を伝えられないことが課題でした。

そこで、創業時から掲げていた「時を生む・時間を創る」という想いが直接反映されるような社名に変更することを決めました。社名候補を社内から200案ほど集め、その中から最終的に決めたのが「TOKIUM」です。

ー社名変更に際して、社員の方々からの反応はいかがでしたか?

結果として一番不安を感じていたのは社員ではなく私でした。「BearTail」という社名が私にとってのアイデンティティにもなっており、その名前を変更するのが怖かったんです。そのため、社員たちからも反対意見が出るのではないかと臆病になっていましたが、実際にはネガティブな反応が出ることはなく、むしろ「未来へつながる時を生む」という一貫した志を掲げられるようになりました。

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組織崩壊の教訓

ー自社のWebサイトでも組織崩壊について触れていらっしゃいますが、その時の状況について教えていただけますか?

2016年頃、創業メンバーを残して全員が退職する出来事がありました。それまではBtoCの事業として家計簿アプリの提供を行っており、「成功するためには働かなければならないんだ」という思いで、会社に泊まり込むことも少なくありませんでした。全力でサービスの改善に取り組んだ結果として、ユーザー数は100万人を超えました。

ところが、その数字に対して収益がついてこず、現預金が底をついてしまう可能性を感じ始めたため、私自身が営業や資金調達に動かなければならなくなりました。その結果、社内コミュニケーションが希薄になった上に、マネタイズのために早急にBtoCからBtoBの事業に移行することをトップダウンで決めたことで、社員たちから大きな反対を受けました。

「なんでそんなに急なのか? BtoCでうまくいかなかったのに、BtoBでうまくいくのか? 新規事業を始めればリソースが分散するのでは? BtoCのサービスに携わりたくて入社したのに......」そんな声が続出し、気付けば最大で30人ほどいた社員の全員が退職して、残ったのは創業メンバーの3人のみとなりました。

ー葛藤のようなものを感じたのではないでしょうか。

「このまま自分が代表を続けていいのか。会社に人を迎え入れていいのか」と、経営者としての葛藤を強く感じましたが、この時に私を支えてくれたのが、創業メンバーの西平と原澤でした。二人から「俺は辞めるつもりはない。創業時に比べたら、いまは100万人のユーザーもいるし、ここで再開すればプラスからのスタートではないか」と声を掛けられたことで、私自身も前向きな気持ちになりました。

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ーそこを底辺とした時に、そこからどのように会社の成長を上昇カーブに持っていくことができたのでしょうか。

BtoBに転換して良かったことは、とても原始的なビジネスである点です。八百屋で野菜を売ったら現金が手に入るような関係性と似ていて、お客様が感じてくださった価値に応じて報酬をいただくことができます。目に見えているお客様のためになれたという実感が、自信を取り戻すきっかけになりました。

ーBtoBのタイムリーで双方向なビジネスというのは、黒﨑さんの「人のために何かを頑張る」という想いの原点にもつながりますよね。

BtoBの場合はそもそもお客様のことを深く理解する必要があり、会社の方向性を踏まえて合理的にご判断いただけます。

また、BtoCと違って急に100万社ご導入いただけるような派手さはありませんが、お取引先が着実に積み上がっていくのは、結果的に自分の性格とも合っていたように思います。

ー組織崩壊の危機から乗り越えた黒﨑社長は、当時の会社の弱さや脆さをどのようにお考えでしょうか?

会社の志をうまく言語化できていなかったことが課題でした。行動指針やコアバリューと言われるようなものを可視化できておらず、さらに1on1でメンバーと話す機会も少なかったため、なかなか組織が一枚岩になりませんでした。これに関しては反省をしています。

ー組織崩壊から教訓として学んだことはありますか?

事業作りの前に組織作りが大事だということでしょうか。先に組織という土台があり、その上に事業が乗っているイメージです。仲間同士が信頼し合えているかどうか、一緒に逆境を乗り越えられるかどうかが重要で、それが業務課題を解決する時に生きてくるのだと確信しています。

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TOKIUMの事業成功を促す3つのバリュー

ー2019年頃にバリューを決めたそうですが、その頃の課題についてお聞きしてもいいでしょうか。

人数が増えてくると、判断を求められる時に「なにを大事にするか」「どういう判断基準か」という軸が分かれてきます。各個人が持っている価値観はもちろん全員違うので、その上で会社人格として、会社の性格を言語化したほうがいいのではないかと考えました。そして、それを実践することによって結果として事業が成長し、私たちが掲げている志にも近づくのではないかと思います。

ー課題を感じた具体的なシーンについて教えていただけますか?

たとえば、担当者間で顧客情報のバトンリレーがうまくできず、お客様に同じ質問を何度も繰り返してしまうことで、顧客体験を悪化させてしまうことがありました。

ーそのような課題が広がる前に手を打ったということだと思われますが、どのように会社のバリューを決められましたか?

選定基準は「すでに実践できているかどうか」「これを守ったら事業が成功しやすいか」という2点です。当時50人ほどいた社員全員から5案ずつほどバリューの候補を出してもらい、そこから絞り出したのが「Customer Success」「Move Fast」「Teamwork」の3つです。

先ほどのバトンリレーの例でいうと、社内で顧客情報をスムーズに共有できなければならず、そのためにはTeamworkが重要になります。

また、法改正やソフトウェアのアップデートに対応しなければならないだけではなく、お客様側には月次の締めがあるため、業務時間を短縮したいというニーズにMove Fastに応えなければなりません。

さらに、ご契約いただいて半年や1年で解約されるようでは、多大な開発投資やマーケティング投資が正当化されないので、Customer Successの結果として5年、10年とお付き合いいただけるサービスを提供する必要があります。

このように、3つのバリューを実践することが事業成功の要因になるのではないかと考えています。

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ーバリュー醸成に向けた取り組みについて教えていただけますか?

日常的に、行動に迷ったタイミングでバリューに立ち返って判断している状態が理想だと考えています。そのための取り組みの一つとして、毎日朝会を開き、その日の担当者が他の特定のメンバーに感謝の気持ちを伝える「マイバリュー賞」を出すことにしています。現場での活躍を一番見ているのは現場の社員であり、それを他のメンバーにも共有するようにしているんです。

また、バリュー醸成のために3ヶ月ごとにワークショップを開き、全社員で集まってケーススタディをもとにディスカッションをする取り組みも継続しています。

ー新しく入社された方もバリューに触れる機会が多そうですね。TOKIUMは新卒採用にも注力していると伺いましたが、その理由について伺ってもよろしいでしょうか。

年齢で仕事のクオリティは変わらないという確信を持っているからです。私自身、20歳で創業しておりますが、そこから多くの法人に受け入れられるプロダクトを作れる組織になりました。この経験から、「若いからといって出来ないということはない」といった思想を持つようになりました。

実際、新卒で入ってきてくださった方々が会社の柱となって事業を牽引してくれる存在になっているので、その思想が確信に変わりました。仲間思いで、学ぶ力さえあれば新卒であろうと中途であろうと関係ないと考えています。

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ー新卒育成のためにこだわっていることはありますか?

「新卒だから」などという理由で意見を言わないのは好ましくありません。自分の意見が正しいと思ったら発言してほしい。そして、その意見を取り上げられるリーダーであってほしい、と部長や中途の方々にも共有しています。良い意見であればアイデアを抜擢して、どんどんやってもらいたいと考えていますし、他の会社と比べて4年から5年早くリーダーシップが培われるような機会を提供したいと思っています。

ー最後に、組織作りで大切にしていることについて教えていただけますか?

若い人や未経験者に「挑戦するチャンス」を与えることを大事にしています。「やったことがないから」「未経験だから」などという考えは今すぐに捨てて、自分で調べて考えて、どんどん挑戦して欲しいです。それを臆せずにやれるための環境作りやサポートをするのが、個人のポテンシャルを開花させるためには非常に重要だと考えています。

ーありがとうございます。後編では、TOKIUMが乗り越えてきたさまざまな壁について迫っていきたいと思います。