「結婚しない人」が年々増えている日本。50歳時の未婚割合は、2020年時点で男性約28%・女性約18%にのぼります(内閣府 男女共同参画白書 令和4年版より)。その社会課題を「婚活」の側面から解決する株式会社オミカレは、2024年2月に経営体制を一新。自治体や民間企業との連携強化をはじめ、事業拡大を加速させています。
今回は、代表取締役社長の下永田真人氏、CSOの井上翔太氏に登場いただき、投資担当者の藤森祥平からの視点と共に、事業や成長戦略について話を伺いました。
【プロフィール】
株式会社オミカレ 代表取締役社長 下永田 真人(しもながた・まさと)
2006年、株式会社リクリート(現:リクルートホールディングス)に入社。求人広告事業の事業戦略等に従事。その後、株式会社ミスミでのEC事業DX、株式会社エナジードでの経営企画や取締役COO等を経て、2024年より現職。
株式会社オミカレ CSO 井上 翔太(いのうえ・しょうた)
2017年、グローウィン・パートナーズ株式会社に入社。経理・財務コンサルティング、RPA等の導入コンサルティングに従事。2019年、株式会社オミカレに入社。事業責任者兼CFOを経て、2024年より現職。
【What's 株式会社オミカレ】
結婚相手を真剣に探しているユーザー向けの婚活パーティープラットフォーム『オミカレ』を運営。2013年にサービスを開始し、現在では日本最大級のパーティー掲載数・口コミ掲載数を誇る。2021年には、ビデオ通話型マッチングアプリ『オミカレLive』をリリース。鳥取県との事業連携により、婚活中の男女の「まじめな出会い」の機会創出に共同で取り組む等、自治体や民間企業との連携も積極的に行っている。
コロナ禍を経て到来した"出会い4.0"の時代に新社長が挑む
ー下永田さんは2024年2月から代表取締役社長としてオミカレを牽引されています。それ以前のキャリアを教えてください。
下永田 新卒で入社したリクルートでは、求人広告事業の事業戦略等に携わっていました。実はもともと政治家を志していて、リクルートに就職したのはビジネス感覚やお金の使い方を学ぶためでした。でも、人材ビジネスを通じて産業構造の変革や新たな産業の創造に携わるというやりがいを知り、政治ではなくビジネスで社会課題を解決していきたいと思うようになったんです。その後、2社で事業責任者や取締役を務めたのち、ジャフコさんからのオファーでオミカレにジョインしました。
代表取締役社長の下永田真人氏
―新しい挑戦の場にオミカレを選んだ決め手は?
下永田 これまで人材や教育業界にいたので、婚活事業の会社と聞いて最初は驚きましたが、妻がこう言ってくれたんです。「個人の幸せと社会課題の解決を両方実現できるビジネスなんて、すごくいいじゃない」と。確かに、人生のパートナーがいる幸せを支援できることはシンプルに嬉しいですし、顕在化しているのに誰もまだ解決できていない「少子化」という難題に挑むやりがいは、非常に大きいに違いないと思いました。
―日本の未婚率増加や少子化の背景にはどのような実情があるのでしょうか。
下永田 結婚意思がないという人も一定数いますが、独身である理由のうち最も多いのが「適切な人と出会えていない」というもの。出会いの機会が減っている背景には、日本の人口減少という課題があります。
結婚適齢期を20〜39歳とすると、このゾーンの人口は20年間で820万人減少しています。20年前の20〜39歳人口の約4分の1が減っているということです。都市部の場合はあまり変わっていませんが、地方では半減しているところも。つまり、結婚適齢期の人たちが同世代と出会うこと自体、難しくなってきているんです。街中を歩いていても出会えない。
ー今後も人口減少が進むことを考えると、深刻な問題ですね。最近ではコロナ禍も「出会い」に多大な影響を与えたのでは?
下永田 はい。リアルで会うことが困難だったコロナ禍では、出会いの機会もますます減少しました。コロナが5類に移行し、婚活市場は徐々に回復してきてはいるのですが、完全に戻りきったとは言えない状況です。というのも、コロナ禍を経たことによって「出会いに対するニーズ」が変化し、「出会いの質を高める」ことを重要視する"出会い4.0"の時代に突入したのです。
私の親世代はお見合いや職場結婚が主流でしたが、そこから恋愛結婚が当たり前の時代に。日本の人口は増えていたので、婚活パーティーや街コンのように大勢の人と出会って相手を決める形が流行しました。これが"出会い2.0"だとすると、"出会い3.0"はテクノロジーの進化によるマッチングアプリの台頭。コロナ禍も後押しになり、一気にブーストしました。これによって出会いの間口が圧倒的に広がり、「相手を知るプロセス」から「どの相手と会うか選択するプロセス」に時間を使う時代になりました。
そしてコロナ禍が落ち着いた今、ユーザーの関心は「どんな出会い方であれば、リアルで会ったときにより良い出会いになるか」に変化。"出会い4.0"のフェーズに移行しました。マッチングアプリで出会いの間口が広がったのはとてもいいことですが、一方でその出会いのあり方はユーザー自身に委ねられていて、なかなかデザインされていない。「コミュニケーションの形が違えばデートに発展したかもしれない」「条件で選ばなかった人の中に気の合う人がいるかもしれない」という可能性を潰さず、出会いの質を高める仕掛けが、"出会い4.0"では重要になってくると考えています。
結婚への本気度が高いユーザー層を強みに、実証実験や事業連携の強化に取り組む
ー婚活パーティープラットフォーム『オミカレ』の特徴を教えてください。
下永田 『オミカレ』はパーティー掲載数が常時2万件、会員数は約80万人にのぼる、日本最大級の婚活パーティープラットフォームです。規模の大きさはもちろんですが、それ以上に特徴的なのが、真剣に婚活している会員の方が大半を占めている点。恋人や友達等、もう少しライトな出会いの場を提供するプラットフォームも多い中、結婚相手を探すイベントに特化して掲載させていただいています。
こうしたイベントは都市部に集中しがちですが、全国のイベントを掲載できている点も特徴。ニーズのあるエリアをイベント事業者様にご提案して、地方でイベントを実施していただく等の働きかけもしています。
ー"出会い4.0"の時代に突入し、『オミカレ』のユーザー層や反応に変化はありましたか。
下永田 コロナ禍が落ち着いてから20代の会員数が急増しました。現在はコロナ前と比較して182%程度にのぼります。マッチングアプリ等を通じて「たくさん出会う」ことから、婚活パーティー等を通じて「リアルに出会う」「出会いの質を高める」ことへ、"出会い4.0"の到来と共にニーズが変化している現状が顕著にうかがえます。
ーマッチングアプリを当たり前に使ってきた世代の変化は興味深いですね。『オミカレ』としては"出会い4.0"の時代のニーズの変化にどのように対応しますか。
下永田 出会いの質を高めるには、最初の段階でいかにお互いの本性を知り、「感情の交換」が生まれやすい状態にできるかが大切。感情の交換が生まれると相手にポジティブな感情を抱きやすく、次につながる可能性が高まるからです。
その点、当社はこれまで婚活パーティープラットフォームの運営を通じて、どんなコミュニケーションの形であれば感情の交換が生まれやすいかを追求してきました。"出会い4.0"ではそのノウハウを強みに、ユーザーのニーズの変化に対応して新たな市場をつくっていくことが当社のミッション。出会いの質を高める仕掛けを出会いの場に積極的に組み込むことで、「出会いのあり方のリデザイン」を進めていきたいと考えています。
―「出会いのあり方のリデザイン」に向けて既に取り組み始めていることはありますか。
下永田 以前はプラットフォーマーとしての役割に専念していたのですが、経営体制を一新してから事業方針も転換。"出会い4.0"の時代に求められている「出会いのあり方のリデザイン」に向けて、自社でも婚活イベントを行い実証実験する取り組みを始めました。どんなイベントが参加者にとって有意義で、その先につながりやすいのか。自ら検証してイベント事業者様にフィードバックし、一緒に「より良い出会いの場」をつくっていく取り組みです。今後も定期的に実施してノウハウを蓄積していく予定です。またイベント事業者様とコラボした共同実験も増やしていきます。
ーオミカレのユーザー層は、未婚率増加や少子化の解消に取り組む自治体にとっても魅力的だと思います。連携等も進んでいるのでしょうか。
井上 はい。事業連携については私からお話しさせていただきますと、2024年3月30日に鳥取県と「真面目な出会いの機会の創出」に向けて連携協定を締結しました。鳥取県は日本一人口が少なく、子育て王国課という部署を立ち上げて少子化問題に積極的に取り組んでいる県。当社と共同で婚活セミナーや婚活イベントを開催し、成婚に向けて効果の高い支援を行っていきます。直近では、5月25日に鳥取砂丘にて100名規模のマッチングイベントを実施予定です。
「婚活イベントをしたいけれど集客できない」という課題を持つ地方自治体は、鳥取県に限らず多いです。集客媒体が地元の情報誌といったケースが多いため、若い人になかなかリーチしにくいんです。また、こうした婚活イベントは女性が集まりにくいという課題もあります。
当社は会員の58%が女性で、かつ結婚への本気度が高いので、毎月の送客数は非常に高い数字をキープしています。『オミカレ』へのイベント掲載やコラボイベント等を通じて、地方自治体の「出会いの機会の創出」を支援する取り組みは、県にとどまらず市町村レベルで今後注力していきたいですね。
CSOの井上翔太氏
ー自治体に限らず民間企業とも様々な連携ができそうですね。
井上 そうなんです。直近では、電話占いサービスを行う企業様とパーティー主催者と弊社の3社間で連携し、新しいマッチングの形をイベントに組み込むといったことも予定しています。婚活パーティーはもちろん「出会い」が一番の目的ですが、時間を割いて来てくれているユーザーに少しでも行ってよかったなという価値を感じてもらいたいと考えています。
円満な結婚生活には、お互いの価値観が合うかどうかも重要。そこを見極められるように、たとえば金融や不動産といった「生活」に関わる企業様とのコラボも有意義なのではないかと考えています。様々な領域にアライアンス先を広げ、より良い出会いの場をつくり、それを他のイベント事業者様に横展開していく。これはプラットフォーマーだからこそできる取り組みだと思いますので、積極的に挑戦していきたいです。
ー投資担当者の立場から見て、オミカレの魅力はどんなところにありますか。
藤森 ユーザーのニーズや時代の変化に合わせて、婚活パーティー事業者や他業種のアライアンス先を巻き込み、新たな出会いの場を設計・提案できる点は、プラットフォーマーならではの強みであり、面白さだと思います。オミカレは少数精鋭の組織なので、一人ひとりが裁量やプライドを持って取り組んでいる姿勢も印象的。社会的意義の大きい事業を成し遂げるだけの基盤を有する、可能性を秘めた企業だと感じています。
ジャフコ投資担当者の藤森祥平
新生オミカレで、さらなる「出会いのあり方のリデザイン」を目指す
ー「出会いのあり方のリデザイン」に向けて、長期的にはどんなことに取り組んでいきますか。
下永田 今後は、出会いの「前」「後」をデザインしていくことも必要だと考えています。たとえば「前」であれば、そのユーザーにとって有意義なイベントを事前にレコメンドする。「後」であれば、イベントではあまり接点がなかったけれど、マッチングの可能性がありそうな人との再会の場をナビゲーションする。そうした、プラットフォーマーとして持っているユーザーデータを最大限に活かした取り組みにも注力していきたいです。
さらに、出会いの先の「交際」「成婚」までトラッキングし、成果がしっかり上がる仕組みづくりも視野に入れています。
ーテクノロジーの観点でいうと、AIは今後「出会いのあり方」にどう影響しそうですか。
下永田 ChatGPT等のテキスト生成AIは、世の中の技術的にはすぐに活用できるフェーズだと思います。相手とテキストコミュニケーションをする際に、「この文面を送ったら相手がどう思うか」をAIがチェックする等ですね。リアルで会った際に相手の共感を得られるような話し方をトレーニングするといったことも、今後技術が発展すれば十分可能だと思います。
井上 最近は仮想空間でアバターを活用した「メタバース婚活」も注目されてきていて、興味を持つ自治体も増えています。外見がわからないからこそ内面を深く知り合えるメリットがある一方で、リアルとのギャップが生まれる可能性もあるので、現段階では賛否両論あるのが実際のところ。オンラインとオフラインの掛け合わせについては、今後もそれぞれ単独で考えるのではなく、合わせて検討していく予定です。
ー今後の取り組みに向けて、採用にも力を入れていくと思います。どんなスキルを持った方を求めていますか。
下永田 出会いの「前」「後」をデザインする上では、データアナリティクスやインフラに強いエンジニアの力が欠かせません。また、出会いの場そのものをイベント事業者様と一緒につくっていく事業開発のポジションも強化したい。ユーザー価値と収益性を同時にしっかり高めていけるような方を求めています。
ースキル以外で求めるものがあれば、期待のメッセージとともにお願いします。
下永田 婚活事業に取り組むためには、「成長する市場に乗っかる」のではなく、「自分たちで市場を大きくする・変えていく」というアクションをとっていくことが重要。その分、苦しい瞬間もありますが、自らの手で市場を切り開いていく体験は何物にも代えがたいと思います。そこにやりがいを感じていただける方と一緒に、今このタイミングだからこそできる挑戦をしていけたら嬉しいですね。
井上 コロナ禍が落ち着き、世の中のニーズが変わり、当社の経営体制も一新した今こそ、出会いや婚活の新しいあり方をつくっていくに相応しいフェーズ。「0から1を生み出したい」「業界を変えたい」という強い思いをお持ちの方にとっては非常に面白いフェーズだと思いますので、そうした方にぜひジョインしていただきたいです。
藤森 出会いの場をつくることに集中していると、市場全体の動向が見えにくくなってしまいがちです。一歩引いて、市場を冷静かつ客観的に捉えた上で、出会いの場として何が求められているのかを徹底的に考え、それを現場に落とし込める方が、今のオミカレには必要だと思います。自らのアイディアを形にし、その結果も実感しやすい事業ですので、ぜひ自分の考えを忌憚なく主張し、実行に移して、市場を切り開いていってくれることを期待します。
左からジャフコ・水谷太志、オミカレ・井上氏、オミカレ・下永田氏、ジャフコ・藤森祥平、ジャフコ・アラン理花
担当者:藤森祥平 からのコメント
「出会いが0をZEROにする」。国内最大級の婚活イベントポータルサイトを運営するオミカレのVisionです。厚生労働省のデータによれば、2023年の日本の婚姻数は49万組と戦後初めて50万組を下回っている状況です。婚姻数の減少とともに、少子高齢化が急速に進む日本において、オミカレの提供するサービスの社会的意義は大きいと考えております。真剣な出会いを探している方に対して適切な場の提供をし続けることがオミカレの果たすべき役割です。マッチングアプリの台頭により出会い方も大きく変化しており、婚活イベントの提供価値も再定義が必要であると考えております。下永田社長をはじめオミカレの全メンバーとJAFCOで一丸となって、引き続き婚活市場を盛り上げていく所存です。