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資金ショートやコロナ禍をキャピタリストと乗り越え上場 予防医療のエコシステム確立を目指して
資金ショートやコロナ禍をキャピタリストと乗り越え上場 予防医療のエコシステム確立を目指して

起業家とジャフコの出会いから上場までの軌跡を紐解く「IPO STORY」。見事に上場を掴み取った起業家の今だから語れるエピソードや想い、これからへの展望を語ります。今回は、2023年12月に東証グロース市場に上場したマーソ株式会社 代表取締役社長 西野恒五郎氏と、ジャフコ担当チーフキャピタリストの沼田朋子による対談をお届けします。

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【プロフィール】
マーソ株式会社 代表取締役社長 西野 恒五郎(にしの・つねごろう)
大学在学中に起業し、経営コンサルティング会社で取締役副社長を務める。2004年、三和システム株式会社に入社し、東京オフィスの立ち上げ、ゴルフ場の経営DXに従事。三和システムを国内シェア最大級のゴルフ場DX企業へと成長させ、2011年には代表取締役社長に就任する。2015年、三和システムからヘルスケアDX部門を分社化し、マーソ株式会社を共同創業して取締役会長に就任。2017年より代表取締役社長。

【What's マーソ株式会社】
国内最大級の予防医療プラットフォーム『MRSO.jp』を運営。全国約9,000以上の人間ドックのプランを希望に合わせて検索できる。また、医療・行政・法人に対してバーティカルSaaSも提供。なかでも住民健診やワクチン接種の受付をはじめとする行政DXサービスは、600自治体以上への導入実績を誇る。
日本人の平均寿命と健康寿命には9〜12年の差があるという課題を解決すべく、予防医療×テクノロジーの独自事業で「健康寿命8年の延伸」に挑戦している。2023年12月、東証グロース市場に上場。


Portfolio


6年にわたる定期面談で築かれた信頼関係

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沼田 西野さんと最初にお会いしたのは2009年。当時私が担当していた茨城エリアで、ゴルフ場DXを手がける三和システムという会社が急成長していると聞き、社長だった西野さんのお父様を訪問したのが始まりでしたね。お父様から「東京オフィスにいる息子が色々やっているから、会ってみたらどうか」と言われて。

西野 もともと私は学生起業家で、大学時代に立ち上げた経営コンサル会社で副社長を務めていましたが、2004年に父の会社に入社してからは東京で事業を手がけていました。当時、ゴルフ場業界は大きな再編の渦の中にあり、私は家業を再建するために社長以上の権限を持って事業を推進していたのですが、沼田さんにお会いしたのはちょうどその頃でしたね。

沼田 西野さんのエネルギッシュな姿に圧倒されたことを憶えています。三和システムの急成長にも合点がいきましたし、「この方にいつか投資したい」と思いました。ただ、西野さんは三和システムを上場させるつもりはなくて......。

西野 大学時代から様々な経営者と関わらせていただく中で、必ずしもIPOを目指す必要はないと感じていたんです。非上場ながらも業績が伸びていて、お客様に喜んでいただけていて、社員のことも大切にできている。経営者としてはそれで十分だと自信に満ちていた時期でした。

それでも沼田さんは3〜4ヶ月ごとの頻度で会いにきてくださって、有益な情報をたくさんくれましたね。経営者は自分で情報を取りに行かなければならないので、定期的に情報を提供いただけてありがたかったです。沼田さんご自身も成長意欲が高くてアグレッシブなので、いい影響をいただけて有意義な時間でした。

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沼田 三和システムは上場しないにしても、新しい事業を分社化して上場を目指す等の可能性はあると思っていたので、2015年にヘルスケアDX事業を分社化してマーソを設立するとお聞きしたときは「ついに」と思いました。「必ずしもIPOを目指す必要はない」というお考えが変化した経緯を改めてお聞かせいただけますか。

西野 三和システムがゴルフ場DXで国内シェア最大級になってから、自分が経営者としてこれ以上ドラスティックに会社を伸ばすことは難しいと感じていました。そこで次は若手経営者を育てる立場に立とうと考え、知人の起業家候補生を社長に据えてマーソを設立することに。その際に初めて自分の中でIPOという選択肢が浮上したんです。

上場して社会的信用を高める。そのためには、日本最大のVCであるジャフコさんにぜひ出資いただきたい、と思いました。実際にジャフコさんから初回投資いただいた後は、社会的信用が一気に増した感覚がありましたが、それを期待してのことでした。さらに、6年にわたって有益なお付き合いをしてきた沼田さんにご担当いただけるなら理想的だなと。

そのお話を沼田さんにしたら、「絶対に投資させていただきます」と即答。そこからジャフコさん社内で検討いただいて決定に至るまで、1ヶ月くらいのスピード感でしたね。

沼田 西野さんの経営者としての信頼感はもちろん、人間ドックの予約サイトという事業の将来性にも魅力を感じました。自由診療は保険診療と比べるとマネタイズがしやすく、収益を最大化させるための提案にも興味を持ってもらいやすい。マーソの場合、医療機関のサイトにバナーを貼ってもらうだけで予約を集められる仕組みなので、拡大もしやすい。さらに、健診を通じて蓄積されるヘルスケアデータを将来的に活用することも可能。これまで培ってきたゴルフ場DXのノウハウを活かせて、その価値を最大化できる事業だと思い、投資させていただきました。

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思わぬ組織の危機と、上場延期という苦渋の決断

沼田 2023年12月に上場を果たすまでパートナーとして伴走させていただきましたが、大変なこともたくさんありましたよね。西野さんの中で印象に残っているハードシングスはありますか。

西野 やはり2016年の資金ショートですね。当時私は社外取締役で、経理や財務は経営陣に任せていたのですが、報告を受けていた内容と実際の財務状況が大きく異なることが発覚して、譲渡を受けることが決まっていたBPO事業の購入資金が足りず......。ジャフコさんに筆頭株主になっていただいて以来、経営の主権は私ではなく経営陣だということを明確にすべく、あえてお金にはノータッチでやってきましたが、それが裏目に出てしまいました。結果的にジャフコさんがすぐに追加投資を決めてくれて、乗り切りました。

そもそも当時はバックオフィスが十分に機能していない状態だったので、沼田さんをはじめジャフコの皆さんにご協力いただき、半年ほどかけて経理の精査等のバックオフィス再建を遂行。私はトップラインとコストコントロール面を担い、2017年からは社長として経営を直接見るようになりました。事業の売上が落ちていたわけではなかったので、そこを慎重に見極めて追加投資いただけたことには本当に感謝しています。

沼田 当時の出来事を振り返って、経営者として得られた教訓はありますか。

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西野 当時の私は、三和システムを急成長させてきた自分に完全に慢心していました。自分自身で経営することと、社長として別の人を立てて経営を託すことの違いが、いまいち理解できていなかったのだと思います。自分でやっていれば絶対にあり得ないことが起こるかもしれない、という視点を常に持って、慎重に経営するようになりました。

沼田 そこから経営を建て直し、2017年、2018年とV字回復を果たした西野さんですが、2018年に予定していた上場を一度延期するという決断を下しましたね。

西野 社長を交代して1年半ほど経過していましたが、投資家に約束した業績予想を常に達成していかないといけない中で、上場するのは時期尚早だと結論を出しました。ただ、社内では反対意見も多く出て、IPOに携わっていた管理部門から退職者が続出。再び組織の再建を余儀なくされ、社外からも様々な指摘を受けました。

経営面で結果を出していたにもかかわらず、上場延期を決断したことで経営者として否定されるような場面が多々あり、その違和感を沼田さんに打ち明けたことがありましたよね。すると沼田さんは利害関係を抜きにして私の違和感に共感してくれて。

そのときに、沼田さんとジャフコさんには最終的に「いい出資だった」と思ってもらいたい、と強く感じました。いつかIPOプロジェクトを再開できるまで頑張ろうと思えたのは、沼田さんのおかげです。

沼田 事業自体は伸びていたので、「西野さんなら何とかなる」という信頼感がありました。結果的に、三和システムの取締役だった阿部さん(現マーソ取締役副社長)という心強い経営メンバーをはじめ、マーソにとって何が最善かを考えられるメンバーで再スタートを切れて良かったと思っています。


コロナ禍の市場低迷を切り抜けた「ワクチン接種予約」

沼田 上場までにもうひとつ、コロナ禍というハードシングスもありましたね。でもピンチをしっかりチャンスに変えていらっしゃって、さすがだなと思いました。

西野 コロナ禍の自粛で人間ドック市場が冷え込み、売上は低迷しました。ただ、V字回復以降も業績は順調に伸びていて、ジャフコさんに出資いただいて以来「うちにも増資させてほしい」という申し出を複数社から受けていたこともあり、キャッシュフロー的には全く問題ない状態。私が経営者として最もやりたくないのは「従業員を不安にさせること」なので、まずは、これまで頑張ってくれた皆には一旦休んでもらうくらいの感覚で自粛期間を過ごしました。

もともと行政向けに健診予約システムを展開していたことが奏功し、2020年後半にはワクチン接種予約システムのオファーをいただくように。社会的意義のある事業に取り組むことができ、皆のモチベーションはさらに高まりました。コロナ前の行政導入実績は100自治体でしたが、そこから600自治体に拡大し、大手企業や大学との取引も増加。人間ドック市場が回復してきた今では、ワクチン接種の特需がなくなっても業績を伸ばし続けられる状態にまで持ってくることができています。

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沼田 ワクチン接種予約システム事業を迅速に立ち上げたことで、赤字の補填どころか大幅黒字を計上。さらには、その先の安定成長まで実現できたわけですね。

西野 コロナ禍は、自社だけでなく社会全体が我慢を強いられたタイミング。私たちは業績も組織もいい状態でそのタイミングを迎えたので、全く悲観はしていませんでした。

むしろ私たちスタートアップにとっては、低成長安定時代よりも変革の時代のほうがチャンスは多い。三和システム時代に直面したゴルフ場業界の大再編も、あの変化があったからこそ自社を飛躍的に成長させることができました。だから今回のコロナ禍も、追い風になりそうだという感覚は早い段階からありましたね。


予防医療の潜在的ポテンシャルを最大化する

西野 紆余曲折ありながらも無事に上場できてホッとしていますが、沼田さんは正直どう思っていましたか? 上場できると思っていましたか。

沼田 西野さんが上場をやめる決断をしない限りは、できると思っていましたよ。西野さんの性格上、業績に1ミリでも不安があれば上場しない可能性はあると思っていましたが、今回それはなさそうだったので、きっと上場するだろうなと。

西野 2018年に上場を延期したときと比べて、もう完全に経営をハンドリングできている状態だったので、確かにその不安はなかったですね。「IPOできない経営者」と思われたくない、という意地も正直ありました(笑)。でも、沼田さんが担当でなければ諦めていたかもしれません。

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沼田 西野さんなら、たとえ上場しなかったとしても別の方法で会社を成長させていた気がします。上場を経て、これからどんなことに取り組んでいきますか。

西野 私たちは予防医療の普及を通じて「健康寿命8年の延伸」を目指していますが、現在の医療マーケットは9割以上が「治療」。「予防」は投資的な行為なのでマーケットがホットになっていません。でも、これからの日本は人口減少の中でインフレを継続していかなければなりませんから、予防医療の潜在的なポテンシャルは非常に大きい。そこを最大化していくことが私たちの使命だと思っています。

『MRSO.jp』を通じた人間ドックの予約推進、大手企業の健診管理、医療機関のDX等には引き続き取り組み、ゆくゆくはそれらの事業で得た「未病」に関するビッグデータの活用も視野に入れています。受診して終わりではなく、その後も継続的に予防医療に接することのできるエコシステムの確立。それが将来的に目指したいビジョンです。

沼田 挑戦を続ける西野さんから、起業家の皆さんへメッセージをいただけますか。

西野 日本が長期低迷を続けているのは、リスクを恐れて安定志向になる人が増えすぎたからだと思います。でもこれからは、「リスクを取らないことが逆にリスクになる」時代を起業家自身がつくっていかなければならない。そのためにも、ジャフコさんから出資の話が出たら迷わず受け入れてほしいです。

私も資金調達をするまでは過剰にVCを警戒していましたが、今となっては怖がる必要は全くなく、むしろプラスが多かったと素直に思います。ジャフコさんの出資を受けない起業家がスタートアップをやる意味はない、と言い切れるほど、ジャフコさんと一緒に挑戦できたことに価値を感じているので、皆さんもリスクを恐れず挑戦してほしいと思います。

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