1970年に創業し、大手小売店やECサイト向けのODM(他社ブランドの製品を設計・製造すること)でシェアを拡大してきた伊澤タオル株式会社。実用タオルに特化したSPA型のビジネスモデルや、国内タオルメーカーでは他に類を見ないR&D部門の設置、グローバル展開を見据えた事業戦略等、業界の常識を覆す発想で10年連続二桁の売上成長率を実現。今後IPOも視野に入れています。
今回は、代表取締役の伊澤正司氏に登場いただき、同社が挑む「タオルのグローバルスタンダード」への成長戦略について伺いました。
【プロフィール】
伊澤タオル株式会社 代表取締役 伊澤 正司 (いざわ・しょうじ)
アパレル企業を経て、1989年に伊澤タオル入社。創業者の伊澤正美が若くして他界し、2代目として同社を引き継ぐ形で1997年、33歳のときに代表取締役に就任。従来のタオル業界には無かった発想を次々と導入することで変革を起こし続け、経営陣と共に一丸となって伊澤タオルを、業界トップ企業に導く。
【What's 伊澤タオル株式会社】
実用品としてのタオルの使い心地にこだわり続けて、「悩んだらこのタオルを買えば間違いない」という業界標準となる「タオルのグローバルスタンダード」を創ることをミッションに掲げる。小売店へのタオル製品の企画・販売だけでなく、Amazonにて『タオル研究所』というECブランドもスタート。Amazonタオル市場においてもトップシェアを確立しながら急成長を実現。タオル業界の国内市場シェア約10%を誇るトップランナー。タオル業界のゲームチェンジャー。
消費者視点の品質向上。市場の仕組みに変革をもたらし、毎年二桁成長を続ける
ー国内タオル業界でも群を抜く成長を遂げている伊澤タオルですが、現在の経営状況について教えてください。
伊澤 2023年2月期の売上実績は94億円。売上高は10年連続で二桁パーセントの成長を実現しています。直近12ヶ月間の売上高は100億円を超え、営業利益や取扱量も含めて業界最大級の規模に。今後も二桁レベルの継続的な成長を見込んでいます。
事業と共に組織も拡大しており、5年前と比較して従業員数は約1.5倍に増えました。新卒採用を積極的に実施しているため、20代が35%、30代が26%と、これからの会社を担う若い世代が多く活躍しています。
ー成熟したタオル業界で目覚ましい成長を実現できている要因はどこにあるとお考えですか。
伊澤 当社は創業者である父の時代から、贈答品ではなく実用品としてのタオル作りにこだわってきました。確実に存在するマーケットで、「吸水性」「耐久性」「速乾性」「肌触り」といった品質を追求し、生活者に徹底的に寄り添う。その経営方針を私も受け継ぎ、自社にラボを構えて大学と共同研究を重ねる等、品質向上に努めてきました。それが成長の土台となったことは間違いありません。
大手コンビニや量販店のODMを長年手がけていると、小売毎に決められたレギュレーションの中で最大限に優れた商品を作る力や、売れる商品を見極める力が鍛えられます。当社はその力を強みに、ただ生産するだけでなく精度の高い企画を小売店にご提案するところから担えるようになりました。さらに、その点を評価してくださったAmazonさんからのお声がけで『タオル研究所』というECブランドもスタート。これまでに蓄積してきたノウハウをフル活用したタオルシリーズは大変ご好評をいただいており、Amazon販売開始から国内EC内でのトップシェア確立と、タオルのEC市場拡大を牽引しています。
ー生活者に寄り添った品質の高さが、小売店との取引拡大や『タオル研究所』の大ヒットに繋がったということですね。品質向上のためにどんなことに取り組んできたのですか。
伊澤 原料を見直すところから始めました。衣料品で使われる高級な綿がタオルにも適しているとは限らない。そこで、国立大学の先生方と連携し、原料ごとの性能を研究してデータ化したんです。繊維は植物ですから、発育の差も当然あります。それらも全て考慮して、例えば「吸水性を特に高めたい場合は、これとこれをブレンドしてこういうふうに紡績する」といったような細かな製造法を割り出し、工場へ委託する体制を確立しました。
吸水性や耐久性、柔らかさ等、タオルの品質に関わる要素は、どれかを向上させると別のどれかが劣化するという相反関係にあります。そのため複数の性能を同時に向上させるのは至難の業。しかし、原料から徹底的にタオル作りを理解している当社には、そのノウハウがあります。
ーそういった品質向上が成長へつながっていくのかと思います。変化しづらい成熟したタオル市場のイノベーションの課題をどう解決したのでしょうか?
伊澤 日本には非常に多くのタオル会社が存在していて、それぞれ小規模ながら自社の受け持ちが決まっていました。自社の得意な製品を得意な市場に供給していれば経営は安泰だからと、ずっと昔に作られたタオルの仕様を完成体と信じて疑わずにいた私たち業界の人間の責任です。
近年では、実際に製造を行う工場と発注元の小売店が直接取引する動きも出てきていました。小売店の「作りたいもの」と工場の「作れるもの」を作るだけになり、消費者が益々置き去りになってしまう。私はそこに強い憤りを感じて、「本気でタオル業界を改革しよう」と決心したんです。
伊澤タオルがプラットフォーマーとなり、品質の良いタオルを適正な価格で消費者に使ってもらえるような市場を作り出す。そこに利益もついてきて支援者も増えていく、そんな循環を作っていき市場の常識を覆す必要がありました。
また、タオルは誰もが毎日使うものなのに、スタンダードと呼べる商品がありません。例えば洗濯用洗剤なら「これを買えば安心」というスタンダードな商品がいくつかあり、それを基準に消費者は自分の好きな商品やちょっとハイグレードな商品を選ぶことができますよね。
でもタオルの場合、タオル会社によって特徴が分散され過ぎていて、価格にも品質にも標準がない。選ぶ際の判断基準がないせいで、一生かかっても自分の好みのタオルに辿り着けない...なんていうことも珍しくないでしょう。そんな現状を変え、「タオルのスタンダード」を確立する。そのために当社は日々挑戦を続けています。
国内、そして世界市場のシェア2割を獲得し、「タオルのスタンダード」を目指す
ータオルのスタンダードを確立するために、まず到達すべき目標を教えてください。
伊澤 まず目指すのは上場です。すでに証券会社や監査法人が決定し、準備を進めています。そして、2025年までには卸価格ベースで先ずは国内市場シェアの2割を獲得したい。日本のタオル市場の規模は卸価格で750〜1,000億円程度と言われており、当社の今後の売上見込みと照らし合わせると十分に達成可能な数字です。
ただし、100%まで市場シェアを拡大していくつもりはありません。消費者の選択肢の幅がある状態こそが、業界内の努力や競争に繋がり、市場全体が盛り上がる重要なカギになると考えているからです。上場を目指すのも、世界市場のシェア2割を目指すのも、信頼度と知名度を今以上に高め、消費者が購買時に悩まないようにタオルのスタンダードを確立するための手段であって、業界を独り占めしたいといった考えは全くありません。
ー市場を鑑みたシェア2割までという判断も消費者視点を感じられますね。グローバル展開についてはどのようなビジョンをお持ちですか。
伊澤 世界のタオルの消費量は、市場が不明瞭な中国を除いて、1位がアメリカ、次点が日本とドイツ、その後にイギリスやフランスが続きます。面白いことに、これはGDPランキングとほぼ連動しているんです。日本のGDPは世界の約10%を占めているので、日本のタオル市場が1,000億円だとすれば世界市場はだいたい1兆円ということになる。ですから、次はその2割の2,000億円を目指していきたいと考えています。
欧米のタオルは日本と比べて重量があり、乾燥機で乾かす文化なので耐久性にも優れています。その上、生産効率やロット管理が非常に重視されているため、低価格で作ることができる。一方で日本のタオルは、ふんわりとした柔らかさや乾きやすさを追求したものが多く、きめ細かな職人技術に強みを持っています。近年は欧米でも柔らかいタオルが好まれたり、日本でも重量や耐久性が求められたりしていますから、欧米と日本それぞれの得意分野を融合させれば、世界中の人が買いやすい「グローバルスタンダード」なタオルができるのではないか、と思っているんです。
ー日本のタオルを輸出するということではなく、新たな価値を持ったタオルで「グローバルスタンダード」を確立する。
伊澤 はい。そのためにも、今後上場して皆様に支援いただいた後は、欧米の有力な同業者や私たちの考えに賛同してくれる方々との積極的な資本提携や同業に対するM&Aも行いながら、事業規模を急拡大させていきたいと考えています。現在、現地視察やエージェントとの折衝を進めているところです。
タオル会社は、欧米でも大きくて年商200億円程度。大半が数十億円の規模です。一方でタオルの製造工場は、世界発信できるレベルの工場になると最大800億円にものぼります。それくらい規模の差があるので、私たちがいくらグローバルスタンダードなタオルの企画や設計をしても、工場に作ってもらえなければビジョンは実現しません。
でも、資本提携やM&Aで巨大なグループを形成して市場に影響力を持つことができれば、工場も聞く耳を持ってくれるようになる。より良いタオルを作るためのレシピや設備の導入を受け入れてくれるはずなんです。世界的IT企業やメーカーの素晴らしい点は、各工場に緊張感を持たせてイノベーションを起こさせる力があること。私たちも世界の工場とそうした関係性を築くことが重要だと思っていて、当社単体でもすでに海外工場との良好な取引関係を強化しています。
ー世界中の人のスタンダード商品を作るとなれば、SDGsの観点も外せませんが、サスティナブルなタオル作りを目指すにあたって取り組んでいることはありますか。
伊澤 繊維産業の課題は排水量の多さ。タオルを作る際、糸にのり剤をつけて織るという工程を踏みます。織り終えたら今度は大量の温水と洗剤でのり剤を落とす。水やエネルギー、コストや時間も大幅にかかる作業なので、以前から課題に感じていました。
そこで、のり剤をつける必要のない新たな糸を開発。その機械は経済産業省のプロジェクトに参画して、日本の技術として世界に普及させるための量産化の取り組みを進めているところです。こうした新しい原料や製造法も含めてグローバル展開していけば、世界のタオル業界に大きなイノベーションが起こると確信しています。
年商2,000億円。タオルと真摯に向き合ってきたからこそ決して不可能なビジョンではない
ー成熟業界で、2代目経営者。ともすれば業界の常識をそのまま引き継いでしまってもおかしくない立場だと思いますが、伊澤さんのそのマインドはどこで培われたのでしょうか。
伊澤 私が33歳でこの会社を継いだとき、業界はもうでき上がっていて、自分がすべきことや自分にしかできないことが見出せずに苦しい思いをしました。自信が持てず、辞めようと思ったことも正直ありました。ただ、経営危機等をきっかけに業界や自社を客観視する機会が何度かあって、疑問を持つことが増えたんです。そこから「父がせっかく遺してくれた仕事なんだから、やれるところまでやってみよう」と思い直すことができました。
日本のビジネス人口の約7割が中小企業に勤めていると聞きますが、近年は中小企業の事業承継の問題が深刻化しています。当社のような企業が上場を目指し実現することで、中小企業の経営者の方々が「うちにもできるかもしれない」と一念発起したり、後を継ぐつもりのなかったお子さんがそれを機に事業承継に興味を持ったりするかもしれない。そうして1社でも2社でも頑張る企業が増えれば、多くの人が働く場所を失わずに済むだけでなく、世界で戦える日本企業がどんどん育っていくでしょう。当社の挑戦がそのきっかけになれば、一経営者として嬉しく思います。
何をすれば良いかわからなかったあの頃の苦しさや寂しさを思えば、挑戦することは全く苦ではありません。
年商2,000億円のタオル会社を目指すという当社のビジョンをお伝えすると、皆さんおっしゃるんです。「本気ですか」「随分大きく出ましたね」と。でも、私は、タオル以外の話をしているでしょうか? いろんな商品を手広く扱うわけでも、新規事業をやるわけでもなく、これまで一生懸命考えてきたタオルという枠の中で現実的な挑戦を続けているだけです。だから実現不可能なビジョンを掲げているとは思っていませんし、社員たちも同じ気持ちで仕事に取り組んでくれていると思います。
ーこれからの伊澤タオルを一緒に牽引していく社員の皆さんには、どんなことを期待していますか。
伊澤 今後、当社は多国籍化が進むと思います。海外の提携企業へ出向したり、海外のメンバーが日本に来たり、国籍を超えて皆で連携していくことが当たり前の環境になるでしょう。そのときに、「日本人は引っ込み思案だから」「売り込むのが苦手だから」といった考えは通用しない。丁寧なもの作りでは負けない日本人が、いざ売上に変えるとなると活躍できないケースは多いですが、伊澤タオルの社員には世界で戦える力を身につけてほしいと思っています。
"IZAWA"の名が入ったタオルが世界各国で使われる未来。「タオルといえば日本の会社だよね」と世界の人たちが口にする未来。自分たちはそんな未来を実現する立役者になるんだと覚悟を決めて、思いきり挑戦してほしいと思いますね。
担当者:水谷太志 からのコメント
弊社の投資から2年が経ちました。この2年間はタオル業界にとっては激動で、原料高や物流コストの上昇、急激な円安などといった業界を取り巻くマクロ環境に大きな変化が起こりました。先が読み辛い環境変化の渦中で他社が利益確保に走る中、伊澤タオルは初志貫徹で「消費者目線の経営」を貫きました。
「業界が大きく動くタイミングこそ、伊澤タオルは急成長できる」という筋金入りの逆張り思考と確かな自負を持ちながら、裏では緻密な計算を基に様々なケースを事前想定して、揺れ動く環境変化に備えながら都度対応していきました。
それは、常に明確なビジョンを伊澤社長が構想し、経営陣がシンプルな戦略・戦術に落し込み、従業員がやり抜く、という三拍子が揃っているからこそ成立したと見ています。
その様な背景もあり、弊社投資時から伊澤タオルの業績は倍になり、勝負できる量は倍以上に。工場と小売店の情報が集約されるプラットフォーマーとしてのプレゼンスは日々大きくなってきており、更なる消費者目線での経営を追求しています。
この2年間、伊澤タオルの中の人間として伴走している身としては「世界市場で2,000億円」という目標は、決して夢物語ではなく、地に足のついた形で確実に実現していくのだろうと思わざるを得ません。
国内トップシェアを確立した今でも一切スピードを落とさず、未だ道半ばの精神で他業界の成功事例を自業界に取り込みながら、チャレンジャーとしての姿勢を継続していく。正に伊澤タオルはタオル業界のベンチャー企業です。