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IPOを目指す、売上成長率53.3%のAIスタートアップの選択。「戦略的資本業務提携」で非連続成長を実現する
IPOを目指す、売上成長率53.3%のAIスタートアップの選択。「戦略的資本業務提携」で非連続成長を実現する

ChatGPT等の最先端技術で近年急拡大しているAI市場。中でも、高い技術力を活かしたAIソリューション事業で目覚ましい成長を遂げているのが、2018年創業の株式会社AVILENです。日本を代表する様々な企業との「戦略的資本業務提携」により、現状に甘んじない非連続的な成長を見据えています。

今回は、代表取締役の髙橋光太郎氏、執行役員COOの松倉怜氏、取締役CFOの錦拓男氏に登場いただき、投資担当者の柳舘勇介からの視点と共に、事業や成長戦略について話を伺いました。

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【プロフィール】
株式会社AVILEN 代表取締役 高橋光太郎(たかはし・こうたろう)
東京大学大学院修了。機械学習による即時的な津波高予測の研究に従事。創業メンバーとしてAVILENに参画し、2021年から代表取締役。最新のテクノロジーを、多くの人へ届けるべく経営を行い、大企業との戦略的パートナーシップを7社と提携するなど高成長を実現。金融データ活用推進協会の標準化委員。

株式会社AVILEN 執行役員COO 松倉 怜(まつくら・りょう)
東京大学、ペンシルベニア大学ビジネススクール(Wharton)Business Analytics・Finance専攻 修了。
経済産業省、ベインアンドカンパニーを経て、コンサルタント・弁護士として大手企業の新規事業創出やスタートアップの戦略策定、自治体のDX等を支援。自民党デジタル社会推進本部web3PTワーキンググループメンバー、京都市DXアドバイザー。

株式会社AVILEN 取締役CFO 錦 拓男(にしき・たくお)
早稲田大学大学院修了。約10年の投資銀行のキャリアを有し、M&Aや財務戦略全般に精通。直近では上場企業の経営企画部の責任者として、資本業務提携やIR等の業務を経験。AVILENでは、財務、経理、総務、人事の責任者としてだけでなく、IPO準備に加え、大手企業とのアライアンス等の業務も管掌し、日本郵政グループや大塚商会等上場企業7社との資本業務提携及び戦略的パートナーシップを執行。

What's 株式会社AVILEN
AVILENは、2018年の創業以来、「最新のテクノロジーを、多くの人へ」というビジョンのもと、当社が独自開発した技術コアモジュールであるAVILEN AIを活用したAIソフトウェアの開発、実装、またAIドリブンなビルドアップパッケージをDX-Ready以前のクライアントも含め、530社以上の企業に対し提供。2023年4月には、コアモジュールである「Instructea」とChat GPTを組み合わせたSaaSプロダクトである「ChatMee Pro」の拡販をスタートさせ、本格的に生成AIビジネスへの展開も開始


Portfolio


ChatGPT等の最先端技術を活用したAIソリューションで、取引社数前年比150%

ChatGPT等の技術で世界的に注目されているAI市場ですが、その中でAVILEN手がけているAIソリューション事業について教えてください。

髙橋 まずは「AIソフトウェア」の提供AIの使われ方は多種多様ですが、違うように見えて実は技術的な共通項が存在します。最近トレンドの画像生成AIでいえば、商品パッケージデザインを自動生成する場合と、人物写真からアバターを生成する場合は、近しい技術を活用します。当社ではその共通項を「技術コアモジュール」化し、クライアントの課題に応じてカスタマイズして提供しています。

また、自社開発した「技術コアモジュール」を活用しパッケージ型ソフトウェアとしてSaaS提供しています。中でも力を入れているのが、ChatGPTを活用したSaaSであるChatMee Pro ChatGPTが文章を生成する際に参考にするのは主にWeb上の情報ですが、『ChatMee Pro』はChatGPTと弊社の「技術コアモジュール」である「Instructea」を組み合わせ、またAVILENが開発する安全なセキュリティ環境下で、クライアント企業の個別情報をもとに、社内の情報整理やビジネス文章作成、プロセス管理等の業務効率を高めるサービスです。

これらのAIソフトウェアは組織の生産性を格段に高めますが、AI人材が不足している組織では、単に導入するだけでは実用化には至りません。そこで強みとなってくるのが、もう1つのサービス「ビルドアップパッケージ」(※)。クライアント企業の組織開発やAI人材育成を行っています。組織でAIを活用する土台づくりから、ソフトウェアを通じた実際のソリューション導入まで、一気通貫でクライアントのビジネスモデルを変革する。それが当社のAIソリューション事業です。

※ビルドアップパッケージ:組織のアセスメントやロードマップの策定、経営者や従業員、経営企画やエンジニア等部門横断的なAI人材の育成による組織開発を支援するeラーニング等をベースにパッケージ化されたサービス

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代表取締役の髙橋光太郎氏

これまでにどんなプロジェクトを手がけてきましたか。

髙橋 例えば、下記のような事例があります。

<不動産業界>
背景:適切な土地価格を評価できる不動産鑑定士の人数・処理能力スケールに課題があった。

「画像」や、不動産鑑定の根拠となる「地価公示」「取引事例」を分析し不動産鑑定士の業務を代行できるソフトウェアを開発。人手不足の解決だけではなく、不動産鑑定の処理能力を拡張し、潜在市場も発掘している。

<コンサルティング業界>
背景:M&Aマッチング業務において、買い手企業のロングリストの作成には時間がかかりコンサルタントによっても精度にバラつきがあった。

売り手企業の情報を入力することで、買い企業のロングリストを生成するシステムを開発。大幅な業務効率化・マッチング精度の向上に寄与。

<医療業界>
背景:疾患検出ための分布の検査が手動で行われており、検査できる数に限りがあった。

細胞のデータを採取し、その分布をデータのクラスタリングや異常検知により検査することで疾患判定するソフトウェアを開発し、効率的に精度の高い検査ができる仕組みを作り上げた。

このように、業種問わず様々な企業のビジネス変革に携わらせていただいています。

 2018年の創業から5年間で取引させていただいた企業は530社以上。これだけのお客様と取引しているAIベンダーは稀有です。202212月期の実績でいうと、取引社数は前年比150%、取引継続率は82%。その背景には、AI領域で認知度の高い自社メディア等を通じて多くのお客様にリーチできる体制があることや、高い技術力で組織開発からソフトウェア提供までカバーしているため、一度取引いただくとお客様内の他部署へも取引が広がること等の理由があります。

_DSC7758.jpg取締役CFOの錦拓男氏


急拡大中のAI市場ですが、課題はありますか。

髙橋 2023年の日本のDXビジネス市場は2.1兆円(※1)。そのうちAIビジネス市場は約1.4兆円(※2)にのぼり、2030年にはその規模はDXビジネス市場が5.2兆円、AIビジネス市場が2.6兆円まで拡大すると推定されており、非常に将来性のある市場です。しかし、人口減少が進んでいる日本では、企業内の人材不足やリテラシー不足がAI導入の妨げになっているケースが多く、労働生産性もOECD加盟38ヶ国中27位(※3)と低迷。市場拡大の一方で、需給ギャップは広がっています

人間がやらなくてもいい仕事をAIに任せられるようになると、私たちはもっとクリエイティブな仕事にフォーカスできる。AIを活用することで人間のクリエイティビティがより一層引き出される可能性もあるでしょう。そうなれば世の中がより一層便利で豊かになり、顧客体験も高まっていきます。当社は、最先端のAI技術を活用したソフトウェアの提供をはじめとする「AIソリューション事業」で、人間がクリエイティビティを最大限に発揮できる社会の創造を目指しています。

※1:富士キメラ総研(2023)「デジタルトランスフォーメーション(DX)の国内市場(投資金額)調査」
※2:富士キメラ総研(2022年)人工知能ビジネス総調査」 ※3:公益財団法人 日本生産性本部(2022年)「労働生産性の国際比較2022」

日々進化するAI領域で、高い技術力を維持できている理由はどこにありますか。

髙橋 例えばChatGPTで使われている大規模言語モデルは、毎日新しい論文が出てくるほど技術が日々アップデートされています。それらを常時キャッチアップするプロセス社内で構築しており、モジュールの改良やプロジェクトへの活用にリアルタイムで役立てることができています。

もう1つのポイントは、当社独自の機械学習研究者コミュニティ『DS-Hub』。東京大学をはじめ様々な大学の研究者等を母集団とし、合格率6%以下のスクリーニングテストに合格した人だけで形成しているコミュニティで、メンバーにも当社のプロジェクトに携わってもらっています。優秀な人が優秀な人を引き寄せる独自の仕組みにより、202212月時点で197     のデータサイエンティストとエンジニアが在籍、そこから22人が正社員に。優秀なAI人材を安定的に確保できていることも、高い技術力維持に繋がっています。


大企業からの近年最大規模出資をはじめ、計7社と締結した「戦略的資本業務提携」

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左から、AVILEN COO松倉氏、取締役大川氏、代表取締役髙橋氏、ジャフコ柳舘、CFO錦氏、執行役員太田氏

ここからは、成長を加速させるための戦略として現在AVILENが進めている戦略的資本業務提携についてお伺いしていきます。まずは近年の経営状況を教えてください。

髙橋 多くのAIベンダーの売上成長率は30%程度ですが、当社は202212月期実績で、売上成長率は53.3%。決算期変更によるイレギュラーを除いて、創業以来、実質黒字を継続し、粗利率や営業利益率も業界最高水準。先ほどお話ししたカスタマイズ型ソフトウェアの開発効率が高いことや、『DS-Hub』を通じて採用コストをかけずに優秀な人材を確保できていること等の理由から、高い利益率を実現しています。

戦略的資本業務提携の概要と、この手段を選択した経緯をお聞かせください。

松倉 20223月に最初の資本業務提携をし、20237月現在で合計7社。物流・金融・IT・観光と様々な業界の事業会社に加え、機関投資家にも入っていただきました。各社の強みを最大限に活用させていただきながら、業界全体が抱えるペインに対するソリューションの共同開発やその拡販(横展開)を強化していきたいと考えています。

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松倉  私たち、得意分野である「技術力をコアに、多くのお客様のビジネス課題をより深く捉えて解決する」ことにフォーカスすべきだと考えています。そのためには、私たちと一緒に開発と拡販を進める強力なパートナーが必要です。単なる業務提携ではなく資本を持っていただくことで中長期的な関係を築き、両社の企業価値を高めながら、来るべきAI時代を一緒にリードしていきたい。そうした考えから戦略的資本業務提携という手段を選択しました。

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執行役員COOの松倉怜氏

 パートナリングさせていただく企業は、業界やファンクションを考慮し、お互いの成長に繋がる有益な提携になるかどうかという軸で慎重に判断させていただきました。また、上場後の株主構成や株価形成を見据え、安定株主の比率を高めることも重要な狙いでしたが、そういった意味で、現時点では最適な株主構成を実現できたと考えてます

大変ありがたいことに多くの引き合いがあり、中には役員様個人で投資したいというお話もいただいたほどでしたが、時間的制約や今回の趣旨の都合でお断りせざるを得ないケースも多かったです。当社はこれからIPOを目指して動いていきますが、この戦略的資本業務提携という手段は上場後も積極的に活用していきたいと考えています。

各社とはどんなシナジーが生まれ始めていますか。

松倉 日本郵政キャピタル様とは、日本郵政グループ全体のDX推進支援を目的に資本業務提携させていただきました。日本郵政グループは事業範囲がとても広く、金融・保険・物流にとどまらない多岐にわたる事業お持ちで、長い歴史の中で膨大な知見とデータを蓄積されています。そこに私たちが入らせていただき、真のAI課題を捉えてソリューションに落とし込むことができている。非常に良い座組みであり、実績の積み上がりを関係者それぞれが感じていますし、それが今回の出資比率の大きな引き上げに繋がったと考えています。

 業界の垣根を越えてセールスに強みを持つ大塚商会様とは、『ChatMee Pro』の拡販を軸に、大塚商会様の全取引先に対してAIソリューション推進に関わるすべての領域で連携を強化していきます。実は本格検討前の当初は資本業務提携を小規模から始めることで協議を始めたのですが、当社の成長ポテンシャルを評価頂き、今後の成長戦略に欠かせない重要なパートナーとして、結果として19%の出資をいただいたんです。当社の成長への期待、『ChatMee Pro』に対する本気度の表れだと感じ、身の引き締まる思いがしました。大塚商会様とは、中長期的な戦略に基づきコラボレーション戦略会議を定期的に開催し、両社の技術陣が一体となり、生成AIを踏まえた仕事の未来、「AIの民主化」を共に推進していく方針です。AIという分野においては、こういった業界大手企業様とのシナジーが多角的に描け、また目に見えやすい実績に結びつくため、スタートアップの加速度的な成長に繋がるということを実感しています。

ジャフコはその経営ノウハウや3万社を超える独自のネットワーク等を活かしてシナジーを生み、AVILEN成長のさらなる加速を支援すべく2020年から資本参加しています。戦略的資本業務提携に際して、ジャフコとはどのように連携されましたでしょうか

 既に資本参加していたジャフコは当社の成長戦略を尊重してパートナー企業への株式譲渡に合意してくれました。2022年に戦略的資本業務提携を開始してから、各社との事業シナジーの成果が具体的な数字として表れていることもあり、資本業務提携を進めることで一層高まるであろう当社の将来性を評価していただけているのではないかと思います。

柳舘 AVILENが成長を加速させるための戦略として今回の道筋を描いてくれていたので、ジャフコとしては同じ船に乗りたいという想いが強かったです。自社が買い手としてM&Aをしていくこと一般的ですが、スタートアップが実行するには資金面や人材リソース等の観点でそう簡単なことではありません。今回のAVILENの場合は逆。投資をしていただいたうえで双方の企業価値向上を推進する。しかもAVILENは営業キャッシュフローが常に黒字であり資金需要が無かったため、その全てを第三者割当増資ではなく旧株移動という形で、ユニークな取り組みであったと思います2022年に提携していただいた日本郵政キャピタル様には翌年に出資比率追加で20%引き上げていただき、これは初回投資実行後1年間でシナジーの実績をつくれたという証左。その経験は皆さんの大きな自信になったのではないでしょうか。

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ジャフコ投資担当者の柳舘勇介


次なる目標は、"さらなる成長エンジン"としてのIPOM&A戦略

今後、そしてIPOを達成した後はどんなことに取り組んでいきますか。

 当社がIPOを目指す目的は、今後M&A戦略的かつ継続的に実施していくため。すでにM&Aのソーシングには日々積極的に取り組んでおりますが、非連続成長を見据えこの動きは加速させていきたいと考えております。今回のラウンドではジャパンインベストメントアドバイザーグループ様にもご出資いただき、ゆくゆくの共同出資や共同買収なども視野に、戦略的パートナーシップを結ばせていただきました。


松倉 AIやデジタルの力でバリューアップできるのにできていない企業、貴重なデータを活用できていない企業はたくさんあります。そういった企業のボトルネックとなっているのが、AI人材の不足や知見の不足。そうした企業私たちがM&Aさせていただくことでダイレクトにバリューアップの取り組みができます。それが、最初に髙橋が申し上げた「クリエイティビティを最大限に発揮できる社会」の実現に繋がっていくものと考えています

創業からこれまでの連続成長、戦略的資本業務提携による非連続成長に次ぐ、さらなる成長エンジンとして、M&A積極的に活用したいと思います。

柳舘 資本業務提携を進める際には多くの企業様とお話させていただきましたが、その際によく言われたのが、AVILENのような企業が成長すると社会が良くなりますね」という率直な言葉。AVILENは大きな社会構造の中でその成長を促すコアなパーツとして機能していることが肌で感じられ、そういった企業の活動に関与できることを、投資家として嬉しく思います。


担当者:柳舘勇介 からのコメント

58-yanagidate.jpgAVILENの強みは、最新の技術を幅広く取り入れる技術力、それをパッケージとして商品化するプロダクトマネジメント力、そしてそのスピード 。またAI人材不足という慢性的な 社会課題を強みに変えて成長している企業です。各業界の第一線で活躍する先輩企業の皆様との戦略的資本業務提携を通じて、スタートアップ単体では成し遂げられない非連続な成長を実現しています。バリューチェーンを正しく理解し、その中でより高い付加価値を生むポジショニングを取る。さらには各業界のトップランナーとパートナーシップを結び社会全体の利益を最大化する。そんな座組みを実現できているのは、光太郎社長の人柄、経験豊富な役員陣のチームワークが多くのサポーターを引き寄せているから。今後の同社のさらなる飛躍にご注目ください。