日本国内への投資だけでなく、成長著しいアジアや最先端のテクノロジーをリードする北米など、世界3拠点で投資を行うジャフコグループ。
特にアジア地域は、世界第2位の経済規模を誇る中国・台湾を含む中華圏や人口増加と経済成長が加速するインドに加え、インドネシアやベトナムの成長が顕著。直近でもジャフコアジアが投資したSHEIN社、Appier社、AnyMind社のように、グローバルで成長を遂げるスタートアップが増えており、世界において今後ますます重要性が高まる市場です。
今回は、そんなグローバル投資の一翼を担う「ジャフコアジア」にて、投資先企業の営業開拓サポートをはじめ、人材採用・事業計画達成にコミットし、様々な取り組みを投資チームと一体となって実行する「ビジネスディベロップメント部 アジア担当」について、その具体的な機能やスタンスを古谷 直弘氏、堀尾 洋介氏がお話します。
【プロフィール】
ジャフコ グループ株式会社 ビジネスディベロップメント部 アジア担当/プリンシパル 古谷 直弘(ふるや・なおひろ)
1991年入社~1996年福岡支店(当時)投資部。1996年~2002年PNB-NJI Holdings(マレーシア政府系金融機関とのJV)にて投資部。黎明期にあった分散型コンピューティング(現在のSaaS、PaaS、IaaS)はじめITサービスに当時から投資。2002年以降一貫してアジア投資先のBD業務に従事。中印台投資先のグロース、ファンディング、採用、各戦略にキャピタリスト、ファウンダーとの密接な連携でExit実績多数。立教大学経済学部卒。
ジャフコ グループ株式会社 ビジネスディベロップメント部 アジア担当/シニアアソシエイト 堀尾 洋介(ほりお・ようすけ)
ウォーリック大学経済学部卒業後、2015年に米系コンサルティングファームの東京オフィスに入社。主に金融、ヘルスケア、リテールの業界において戦略、オペレーション、リスク、M&A等の案件に従事。2020年から観光系(トラベルテック)のスタートアップで、子会社のカントリーヘッド(現地マネジメント)と事業開発(商品企画、販路開拓、M&A/JV設立)の業務を経験。2022年にジャフコグループに入社、アジアのBD業務、投資先支援に従事。
成長著しいアジア市場は、日本にとっての生命線
─グローバルの中でアジア地域に着目する理由を教えてください。
古谷 世界規模で見ても、現在のアジアは世界経済全体の約40%に迫り、2030年には60%まで成長するという試算も見られます※注。
Geographicalには日本はアジアの一部です。ジャフコアジアは、「アジアにおけるVC投資」にフォーカスし、少子高齢化が進む日本からの視点においても、「切っても切れない位置づけにある最重要マーケット」と位置づけています。
─続いて、グローバル投資を行っているジャフコアジアについて教えてください。
古谷 ジャフコアジアは、「日系VCのアジア展開」というステージを超え、日本に強いコネクションを持つ「アジアのベンチャーキャピタル」として、地域性に根差した独自の投資判断やファウンダー達へのハンズオンを軸に、投資先の価値向上に向けた取り組みに邁進しています。
(出典:ジャフコグループ「統合報告書2022年3月期」)
アジア地域への進出は1990年代初頭に遡り、アジア通貨危機を経て、2000年から新しい体制で再スタートしました。その後、様々な改善を重ね、2012年からはリーダーが渋澤CEO(在シンガポール)となり、現在の姿へ進化してきました。現在までに累計13億米ドルのアジア専用ファンドを10本設立し、300社へ投資、うち200社以上がEXIT、上場も約50社を数えるまでの歴史を築いてきました。
─アジア地域のうちで、特に注力している国はどこでしょうか?
古谷 現状の投資金額のうち、全体の約6割が中華圏(中国・台湾)となります。
(出典:ジャフコグループ「統合報告書2022年3月期」)
近年の中国は周知の通り、IT・デジタル・エレクトロニクスをはじめ、世界的なレベルで観ても洗練されたエコシステムを形成し、VC/PE市場も日本を大きく上回る規模に拡大しています。台湾では半導体や受託生産・加工分野で世界的なリーディングカンパニーが輩出される傍ら、今も多くのモノづくり系(日系大手と親和性も高い領域)が誕生しています。また最近では、地政学的リスクの顕在化もあり、これまでにないタイプのネットワークセキュリティ分野のスタートアップが数多く出現してきています。
外資系VCが「巨大かつ競争の激しい中国市場」に根を張ることは容易ではありませんが、中華圏に挑み続けていることがジャフコアジアの一つのユニークな特徴です。実際にジャフコアジアが運用するファンドにおいて、中国・台湾への投資からのリターンがパフォーマンスに大きく貢献しています。
─中華圏以外には、どのような国に投資していますか?
古谷 14億もの人口を抱えて世界GDP3位が視野されるインド、そして独自の発展を遂げている東南アジアをターゲットとしています。同地域では、1人当たりGDPの成長・中間所得層の拡大が追い風となり、ユニークなスタートアップが続々と誕生しています。この地域の成長は見逃せません。一方で、アジア各国は繋がりながらも、「アジアという一つの国」ではない、という現実があります。よって、ジャフコアジアは中国と台湾に加え、インド・シンガポール・ベトナム・インドネシアを選択し、それら6つの国・地域をメインターゲットとしています。
投資先のプロダクトに惚れ込み、当事者意識を持ってコミットし続ける
─続いて、投資先企業の価値向上を支える、ビジネスディベロップメントの取り組みについて教えてください。
堀尾 私たちが所属するビジネスディベロップメント部(以降:BD)は、現地のキャピタリストと一緒に日本市場への参入を目指す「ジャパンエントリー」と、中国やその他アジア市場への参入に向けて、ファンド出資者をはじめとする日本国内大手事業法人と協働していく「アジア(チャイナ)エントリー」の2つのベクトルでの取り組みを行っています。
古谷 具体的な事例としては、2023年3月29日に東証グロース市場へ上場した「AnyMind Group」での取り組みがあります。
AnyMind社は、十河宏輔氏(CEO)によって2016年にシンガポールで創業され、アジア各国のインフルエンサーマーケティングや、当該地域固有のプレミアムローカルメディアでの広告運用を、日本国内大手広告代理店でも実現できていなかった粒度でクライアントに提供してきました。
現在はD2Cにおける商品開発から生産委託先の選定、EC構築、在庫・物流管理、マーケティングまで、コマース全般をワンストップで支援するプラットフォームを提供するに至っています。これまでに7社の買収を通じ、設立6期目にしてインド、中東に及ぶ11カ国、13拠点、1,200名を超えるスタッフを擁して、文字通り設立時からのグローバル展開を体現していらっしゃいます。
私たちは国内大手クライアントの東南アジア地域におけるマーケティング戦略立案、提案を行うため、30社を超える導入候補先を開拓しました。また、ジャフコアジア主導による上場前ファンディングストラテジー立案、シリーズDまで合計112百万米ドルに及ぶ資金調達サポート、買収案件に関する折衝・DD・バックグラウンドチェックに関するサポート、また日本国内BDチーム(バックオフィス体制構築支援)とも連携したインバージョンを含む上場準備など、ジャフコグループのアセットを組み合わせ、全方位で取り組んできました。
古谷 AIを活用したマーケティングオートメーション・DXを推進する「Appier」においても、日本法人の営業チームと連携し、120から130社ほどへ営業開拓を行っています。
もともとAppierは日本での事業実態がありませんでしたが、ハーバートやスタンフォードといった米国の一流大学でAIを学ぶ学生たちの教材を執筆するほどの大家・科学者たちが集まった会社でしたから、アジア発のAIを活用した先端テクノロジー企業としての将来性は確信していました。
実際には、初回投資を行った2015年当時はスマートフォン向けアプリのインストール促進、成功報酬型のCPI(Cost Per Intallation)向上を意図した提案営業を、日本国内のゲーム開発事業者に狙いを定めて開拓を進め、結果的に売上全体の約半分をジャフコ起点の企業が占めるまでに拡大しました。
─タイミングやフェーズを見極めたうえで、その都度必要なサポートを行っているんですね。
古谷 おっしゃる通り、私たちアジアBDチームは現地の投資チーム、投資先の起業家、経営陣の皆さんと密に連携することで、朝令暮改もいとわない変化の激しいスタートアップの経営課題に真剣に取り組んでいくことを心がけています。
時差・昼夜を問わない課題克服に、という意味で、私たちの社用スマホには、LINE、Kakao Talk、WeChat、WhatsApp、Messanger......と各国に合わせたメッセンジャーアプリがインストールされています。スタートアップの経営では、いつどんなときに課題が発生するか予測がつかない中で、そうした緊急事態に「ファーストコール」で最初に相談を受けるキャピタリスト達と、BDの立場であっても同じ緊張感で臨めるようになることを目指しています。
アジアの投資先企業が自国以外に現地法人を設立する際、進出国の商慣習や文化、国民性などをネイティブ以上に理解することは正直、容易ではありません。そのため、日本国内の体制が確立するまでの間、私たちジャフコアジアBDチームが「日本人」の視点で投資先の日本における事業づくりにコミットします。この活動には、それ相応の実力が求められます。
海と国境をまたいで投資先各社のファウンダー達、グローバル大企業群、そしてマルチナショナル・チームであるジャフコアジアのメンバー達と、相互信頼を築きながらグローバルに事業づくりを実践する「アジアのBD」は、とてもエキサイティングです。同時に決して簡単なミッションではありません。柔軟な姿勢、高いクリエイティビティに加え、「高い意識」で臨む必要があります。
─投資先と連携した取り組みを行う中で、BDチームが目指す投資先企業との関わり方についてお聞かせください。
古谷 従来から投資先企業の市場開拓には注力してきましたが、こういった「直接的な売上づくり」に加えて、ビジネス戦略策定(フィージビリティ・スタディ)から人材採用、事業パートナーや投資家とのマッチング・折衝など、その関わり方の広さと深さを拡大しています。ミッションとしては、立ち上げ時の日本法人支社長のごとく「カントリーヘッド代行」と言えるかもしれません。
それゆえに......ではないですが、時としてジャパンエントリーを「踏みとどまらせる」ようなアドバイスをすることもあります。アジアの投資先から見れば日本市場は世界第3位の規模があり、「バラ色の世界」でもあるのは事実です。ただ、やはり海外市場に参入するとなれば多くの資金や会社のリソースが割かれますし、何よりPMF検証を含めた時間が必要となります。チャレンジに失敗は付きものです。常に怖れていては成長はできないでしょう。同時に「後戻りが困難な」重大な経営判断には、稚拙な間違いは許されない、とその緊張には高いものがあります。
本当に今、日本市場へ参入する必要があるのか。日本市場進出を下支えするような利益を既存部門でつくりだせるのか、日本市場での勝ち筋に手応えはあるのか、手元資金・ファンディングは耐えられるのか、アライアンス作戦でスモールスタートでは不十分なのか。進出のタイミングを見誤れば、成長機会を逃すこともあれば、多大な損害となることもあります。リスクを過大評価した中途半端な作戦は、何もしない以上に無意味な結果を生み出すこともあります。きちんと、そしてスピーディに検証と議論を重ね、投資先の価値向上となる「最適な参入タイミングと手法」を提案するよう関わりたい、と考えています。
堀尾 そのためアジアBDチームは、投資先企業の理解は大前提として、その一歩先にある「惚れ込む」部分まで考え抜くことを意識しています。
例えば、私が担当する台湾の投資先に「Aiello」というホスピタリティ業界向けのAI音声アシスタントサービスがあります。最初にデモに触れた際、他のサービスと比べてクオリティが突出していることを感じまして。その瞬間「これはすごいな」と思いましたし、どんどん広めていきたいと感じました。
特にAiello社は、今話題の「ChatGPT」リリース直後にサービスに組み込むなど、世界の一歩、二歩先を進んでいる印象です。アジアには同様の優れたスタートアップがたくさんいますから、私たちも日々勉強しながら、投資先企業を理解し、惚れ込むように価値向上に取り組みたいと思います。
日本市場はジャフコに任せたいと思われるように。起業家と同じ熱量、想いを
─最後に、ジャフコアジア・BDチームとしての今後の目標や課題をお聞かせください。
古谷 投資先の業種・業界を問わず高い当事者意識を持ち、常に投資先企業の内側にいることが前提であり、目標です。「日本のことだったら任せられる」「ジャパンエントリーを考えるならジャフコ」というポジションを実証していきたいと強く思います。
また、アジアエントリーに関しても、今後はファンドに出資してくださる事業会社との協働を通じてインパクトのある事業を一緒につくることも大きな目標です。
堀尾 日本国内のネットワークはさらに増強していく必要があると思っています。いずれは日本企業のアジア進出においても貢献していきたいです。
古谷 ジャフコグループが保有する大企業ネットワークと蓄積してきた豊富なケーススタディ・ノウハウを生かして、グローバルで活躍するファウンダー・起業家の皆さんのよき伴走者・パートナーを目指してこれからも投資先企業の価値向上に資する存在でありたいと思っています。
注:Asian Development Bank「Asian Development Outlook (ADO) 2017: Transcending the Middle-Income Challenge」2017年