企業とジャフコの出会いから上場までの軌跡を紐解く「IPO STORY」。今回は、2022年12月に東証グロース市場に上場したnote株式会社のIPOを支えたCFO鹿島幸裕氏と、ジャフコ担当の赤川嘉和による対談をお届けします。見事に上場を掴み取った今だから語れるエピソードや想い、これからへの展望を語ります。
【プロフィール】
note株式会社 取締役CFO 鹿島 幸裕(かしま・ゆきひろ)
1983年愛知県生まれ。東京大学法学部卒業、スタンフォード大学MBA。外務省、外資系戦略コンサルティング会社を経て、株式会社カカクコムの食べログ本部において新規事業の責任者や全社の経営企画部長を経験。その後全国で100以上の店舗を展開する美容室チェーンのCFO兼CAOを経て、2018年にnoteへ入社。noteでは、CFOとして戦略・財務を中心にコーポレート系全般を統括し、数度の未上場ラウンドでの資金調達、事業と組織の拡大を牽引し、2022年に東京証券取引所グロース市場への上場を実現。
【What's note株式会社】
「だれもが創作をはじめ、続けられるようにする」をミッションに、表現と創作の仕組みづくりに取り組む。だれもがインターネット上で自由にコンテンツを投稿・販売できるC2Cメディアプラットフォーム「note」と、noteを基盤に企業の情報発信を簡単かつ効果的に行うためのメディアSaaS「note pro」を中心に事業を展開。2022年12月東京証券取引所グロース市場でのIPOを果たした。
成長を支える組織体制づくりのためにnoteに参画
赤川 鹿島さんは2018年9月にnoteに入社されています。なぜnoteを選ばれたのか。それまでのご経歴を含め教えていただけますか。
鹿島 私のキャリアのスタートは外務省で、元々ファイナンスのバックグラウンドではありません。転機はアメリカのスタンフォード大学に2年間MBA留学をしたときでした。スタートアップがとても盛んで、エスタブリッシュメントな業界出身者でもスタートアップ業界に飛び込んでいく人たちが多いんです。「世界にはこんな流れがあるのか」と興味を惹かれたことを覚えています。
赤川 そこから、スタートアップへキャリアの軸を移していったんですね。
鹿島 外資コンサルファームを経て、「テクノロジーで人々の生活を豊かにする」事業を手掛けようと、カカクコムの新規事業や経営企画を経験。その後、プライベートエクイティファンドが出資していた美容室チェーンのCFOを経て、noteに参画しました。
noteに入ったのは、テクノロジーの力でサービス規模が5倍、10倍とどんどん成長していくインターネットスタートアップの世界に挑戦したいと考えたから。そして、自分が携わるなら、家族や友人等、身近な多くの人に利用されているサービスに関わりたいという気持ちがありました。noteを通じて、一人ひとりが"創造"を広げていけば、豊かな社会になっていく。noteというプラットフォームに携わるのは社会的意義があり、とても魅力的だと思いました。
赤川 鹿島さんが入られた当時、noteはメンバー30人ほどの組織でした。コーポレート部門の専任責任者はいない中、チーム創り、制度整備等やるべきことは山のようにあったかと思います。代表の加藤さんとの役割分担をどう進め、何を担っていったのでしょう。
鹿島 加藤は、編集者としてベストセラーを世に送り出してきた、クリエイティブのプロです。クリエイターやコンテンツへの造詣が深く、サービス感度が非常に高い。私は、プロダクトに関して加藤のジャッジを全面的に信頼しています。また、noteは加藤に加えてCXOの深津もいて、プロダクト開発やUI/UX等の面においても、盤石の布陣がありました。
赤川 実際に2018年前後でサービスは順調に伸び始めていましたね。
鹿島 そうです。一部のアーリーアダプターが先行して使っていたところに、いわゆる一般的な企業や個人も入ってきて、コンテンツ数も一気に増え始める等、グロースモデルが噛み合い始めていました 。
そうなると、サービスの急速な伸長を支える組織体制が課題になります。急速なサービス成長を受け止める強い組織がなければ、サービスの成長は持続できません。私は、将来上場企業として持続的に成長できるような組織を整え、会社とサービスをより一層グロースさせるため、noteの仲間に入りました。
赤川 鹿島さんの実力は事業計画・業績計画シートを見れば明らかでした。変数が多く、それらが複雑に絡み合う数値やロジックを紐解き、的確かつシンプルに業績計画シートに整理されていた点が印象的で、その確からしさや洗練されたものを感じました。
これまでのキャリアで鍛えられてきたからこその観点なのだろうなと。すごい人が入ってきた、鹿島さんのお人柄も含めて、これは良い組織になっていくぞ、と確信しましたね。
鹿島 スタートアップはこれまでの世界にはない新規性の高いサービスを手がけることが多く、事業も非連続的に伸びたりするので、合理的な事業計画をつくるのが難しいケースが多いと思います。
その中でも、事業成長のコアなドライバーが何か、重要なパラメーターとなるKPIは何かということを特定して、投資家を始めとする社内外のステークホルダーの目線を擦り合わせることが今後の成長への第一歩と考え、noteに参画して最初に事業計画づくりに取り組みました。最初に事業計画をつくることで事業への理解も一気に深まるので、スタートアップに参画するCFOにはオススメです。
カルチャーを大切にした妥協しない採用で強いチームに
赤川 経営会議に鹿島さんがいることで、論点が整理されたり、客観的な視点が入ったりと、とても良い影響があるのではないかと感じています。様々な組織を経験されたからこそ、入社されてから感じた課題はありましたか。
鹿島 サービスが急速に成長する一方で、組織はまだまだアーリーステージのスタートアップという感じだったので、組織をサービス成長に追いつかせるのが課題と感じました 。
入社時には人事や法務、コーポレートIT等の専門人材はいなかったので、契約書の作成からパソコンの調達まで、全部自分でやるところから始まりました。
赤川 今では非常に高いスキルを持った専門人材チームができています。私も採用面で議論することはありましたが、鹿島さんの高い採用基準があったから生まれたチームだなと思います。
鹿島 良い仲間を入れたい、という気持ちはとても強くありました。法務の責任者は弁護士資格を持っていますし、財務経理マネージャーも公認会計士です。人事、労務、コーポレートIT、広報等の担当も各分野でかなりの経験を積んでいる人を仲間にできました 。
すぐにでも人がほしい時期が続きましたが、妥協はしないと決めていました。スキルの高い人が入れば、「こんな人と働きたい」と、さらに"良い人材"が集まってくる。その循環を大事にしたかったんです。
難しかったのは、ただスキルが高いだけではなく、noteのカルチャーに合う人を探すことでした。例えば、公認会計士の有資格者はたくさんいるかもしれませんが、noteと水が合ってパフォーマンスを発揮できるかはまた別の話。結果として長い間、財務経理チームの責任者を採用できず、私が兼任していました。いよいよIPOに向けた本格的な審査に入ろうというタイミングで今のチームが揃い、役割分担が明確な強い体制が構築できました。
赤川 noteのカルチャーに合う方とは、どういった点を見ていたのでしょうか。
鹿島 大前提として、スタートアップ組織なので「新しいことに挑戦したい」「カオスな状況を楽しめる」というマインドは大切です。その上でnoteは、プラットフォーム自体が場の雰囲気を大切にして、他人と競うことなくコンテンツを育てようという考えに基づいています。ランキングがないのも、noteらしさの一つでしょう。
そんなサービスを創る会社ですので、働いているメンバーも、協調的な良い環境を大事にしたい、良いサービスを生み出したいという方が多い。そのカルチャーフィットは大切にしました。
赤川 なるほど。鹿島さんも参画された当時は外から入ってきたメンバーとして、noteが元々持っている良さを大事にしながら組織を創っていく立場です。既存メンバーと、どんな関係性を築こうと心がけていましたか。
鹿島 それまでサービスを成長させてきた既存メンバーへのリスペクトは、どのフェーズでジョインするにしても新たに加わる側として欠かせないものだと思っています。そして、コーポレートの責任者として入るからには、「鹿島が入ってきてから組織がより良くなった」と実感してもらうことが重要ですよね。
オフィス移転や制度設計も、社員が気持ちよく働いてパフォーマンスを最大限に発揮できるようなインフラづくりを意識して整えていきました。
難しいのは、その過程でルールができて稟議や申請が必要になる等、ときとして"窮屈さ"に繋がってしまう点です。組織にとっては拡大する過程で必要なものですが、スタートアップの良さを損なわないような形で導入しなければなりません。
「この制度があることで、意思決定がより合理的になされるようになり、長期的な成長に繋がる」等、メンバーにとってメリットに繋がるものを、カスタマイズして設計していこうと心がけました。
投資実績からくるアドバイスの引き出しの多さこそ、ジャフコの魅力
赤川 IPOを目指す過程では、新規性が高いnoteならではの困難も多くあったと思います。
鹿島 そうですね。noteと似たサービスは日本はもちろん、世界を見渡してもあまりなく、非常にユニークなサービスです。一般に、新規性が高い事業やサービスの場合、前例がないので上場審査の過程では論点が増えると先輩経営者からも言われました。
noteは、広告で収益を上げる既存のメディア等のビジネスモデルとは異なり、誰でも自分のコンテンツを投稿、販売できる新しいサービスです。コンテンツの数も現時点で3000万(2022年11月末時点)を超え、これほどのコンテンツを有するプラットフォームは他にありません。
そもそもどんなインセンティブで人は投稿するのか、コンテンツを買う側はどんな目的で購入を決めるのか。膨大なコンテンツの質の担保をどのように行っているのか。様々な質問に対する回答の準備を進めなければなりませんでした。
赤川 サービスの新規性・複雑性が増すほど整理すべき論点はたくさん出てきます。ジャフコとしては、新規性の高い事業内容ですでに上場している先例をもとに、どんな障壁が予想されるかを共有していきました。
鹿島 そのサポートには本当に助けられました。ジャフコさんの強みは、まさにここにあると思いましたね。
スタートアップ側は、IPO準備自体初めてですからわからないことだらけです。ジャフコさんの豊富な投資実績とそこで得たノウハウをもとに「この場合は、こう対処しましょう」と的確にリードしていただけた。実際にIPO経験者や関わった方から話を聞く機会もいただきました。
赤川 そうでしたね。同じく新規性の高いサービスの起業家や経営メンバーに、どんなチームで進めたか、審査準備で何を行ったか、課題となった論点をどう解消したか等を聞いて整理していきました。
鹿島 赤川さんと実際にやりとりをするまで、ジャフコさんには「老舗の大手」という漠然としたイメージしかありませんでした。今では、様々な事例を見てきたからこその引き出しの多さ、ネットワークの豊富さがジャフコさんの"安心感"なのだと実感しています。
IPOは通過点、noteを誰もが使うインフラのような存在に
赤川 2022年12月のIPOに向けては、マーケット環境が悪く、かなりディスカッションを重ねました。そのときもミッション達成という長期的なゴールが明確でした。
鹿島 そうですね。環境が改善するのを待って数年後に上場するべきか等、何度も相談させていただきました。でも、ミッションを見据えれば、上場企業としていち早く成長することが必須になります。
10年、20年後から今を振り返れば、上場タイミング時にマーケット環境が良かったか悪かったかは誤差なんじゃないか。今上場を後ろ倒しにすればミッション達成も後ろ倒しになってしまうと、私たちの意向をお伝えし、赤川さんにも背中を押してもらいました。
赤川 「10年、20年後から考えれば誤差」というのはそのとおりだと思いましたし、無理に延ばすのは意味がないと納得できました。「新たなインフラをつくっていく」というnote経営陣の意志を尊重していくことが、投資家として大事だと思っていました。
これから、noteをどう成長させていきたいか。描いているのはどんな姿ですか。
鹿島 あくまでもIPOは通過点です。noteのミッションは「だれもが創作をはじめ、続けられるようにする」こと。だれもが使うインフラのような存在になることが、noteというプラットフォームが目指す在り方です。
ありがたいことに現在もたくさんの方々にnoteを利用いただいていますが、本当の意味でだれもが利用するインフラになっているかというと、まだまだ届いていない人たちがたくさんいると思います。
その意味では、現時点でミッション達成の1割にも到達していない。noteが人々の日々の創作活動、ひいては生活のインフラになるために、資金調達の柔軟性や社会の信用力、認知度をもっともっと上げていかなければいけないと考えています。
赤川 上場後も更に大きく飛躍することを期待しています。最後に、鹿島さんのようにキャリアを積んで、スタートアップの経営層にチャレンジするか迷われている方にメッセージをお願いします。
鹿島 スタートアップやIPOを経験して実感しているのは、自分がやったこと、意思決定したことがダイレクトに会社の成長に結びつく経験は、非常に手応えがあり、エキサイティングで、面白いということです。
今は「note」を通じて、スタートアップの起業家やそこで働く個人が多くの情報発信をしていて、スタートアップで働く姿を身近にイメージしやすくなっています。急成長しているサービスに携わって、自分の力で事業を伸ばしたい、仕事で新しいこと、難しいことにチャレンジして大きなことを成し遂げたいという志向がある方なら、スキルを活かす機会はたくさんあります。
私もキャリアのスタートは大きな組織でしたが、大企業やプロフェッショナルファームからスタートアップに飛び込んでいく人材がもっと増えていけば、良いエコシステムができるはず。そんな流れが更に拡大していくことも期待したいですね。
担当者:赤川 嘉和からのコメント
ジャフコは、2013年4月にnote(当時の社名はピースオブケイク)にシリーズAで投資を実施しました。加藤社長のバックグラウンド、事業構想、市場の将来性に惹かれたのを覚えています。SNSが社会的文化になった頃からnoteの認知も徐々に広がり、既におられた方々のご活躍、鹿島さんをはじめとする各領域のプロの参画もあり2022年12月にIPOされました。事業も日々進化を遂げています。誰もが使うインフラのような存在という目標に向かって、noteはいっそう飛躍していくサービスだと思います。