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必要なときに、必要なことを。マイクロ波化学のIPOに向けたバックオフィス支援事例
必要なときに、必要なことを。マイクロ波化学のIPOに向けたバックオフィス支援事例

ジャフコは創業以来、世の中に必要とされる新事業の創造にコミットすることで、ステークホルダーの皆様とともに新しい時代を切り開いてきました。

今回は、2022年6月に東京証券取引所グロース市場へ新規上場された、マイクロ波を用いた研究開発やエンジニアリングを構築・提供するマイクロ波化学株式会社へのご支援について、ビジネスディベロップメント部の柴田正秀、投資担当者のパートナー高原瑞紀が、実際の支援内容や投資先企業との向き合い方についてお話します。


【プロフィール】
マイクロ波化学株式会社 取締役管理本部長 下條智也(しもじょう・ともや)
監査法人トーマツにて、上場企業の法定監査、および上場準備支援業務に従事。その後、クリングルファーマ㈱取締役経営管理部長を経て、2013年11月マイクロ波化学㈱に参画。管理部門の責任者として、同社の上場準備を主導。公認会計士。


【What's マイクロ波化学株式会社】
産業化は困難と言われていたマイクロ波プロセスの事業化に取り組み続け、マイクロ波技術プラットフォームを確立。現在は、国内外の企業や機関と提携し、研究開発からエンジニアリングまでトータルソリューションを構築・提供。昨今のカーボンニュートラルの潮流により、産業プロセス電化のキーテクノロジーとして、さまざまな分野への展開を進めている。2022年6月には東京証券取引所グロース市場でのIPOを果たした。



いつでもIPOできるように、事業の成長に合わせて準備を


──マイクロ波化学社は2022年6月に東京証券取引所グロース市場へ新規上場されました。上場後、約半年が過ぎようとしていますが、率直に今のお気持ちをお聞かせください。

下條 そうですね。社内的には、営業担当者を始めとするメンバーの数字意識が高まったことで目標達成に向けての取り組みに変化が見られていますし、社外的にはプレスリリースの反響が大きくなったり、採用の内定承諾が決まりやすくなったりしています。

新聞に取り上げられることも増えており、世の中にインパクトを与えているんだという思いを日々、感じています。

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マイクロ波化学株式会社 下條智也氏


──上場によって社内外での変化が生まれたのですね。では、ここからはマイクロ波化学社が上場を果たすまでの道のりをお聞きしたいと思います。まず、下條様がマイクロ波化学社に入社されたときのことを教えてください。

下條 私がマイクロ波化学に入社した2013年頃は約7億円の資金調達をして、マイクロ波プロセスの事業化に向けた検証や大阪市住之江にある1号プラントの建設に取り組んでいる最中でした。そのため、内部管理体制の整備といっても管理する対象がこれから出来上がるような状態だったというのが正直なところで......。

1から体制を整えようという気持ちで仕事に取り掛かりました。


──もともと、上場準備に対する知識や経験などはお持ちだったのでしょうか?

下條 マイクロ波化学に移る前に、監査法人で上場支援、バイオ系ベンチャーで上場準備を行っていました。特に前職のバイオ系ベンチャーは、マイクロ波化学と同じく大学発ベンチャーで、共通点も多くありました。前職も含めるともう15年ほど、上場準備に携わっています。

だからこそ、マイクロ波化学から声がかかったときも比較的すんなりと「求められたら行く」というスタンスで入社を決めました。


──2013年に入社されて上場が2022年です。この10年を振り返ってみてどのような印象をお持ちでしょうか?

下條 一般的に上場準備は、目標を決めて一気呵成に進めるものという印象がありますが、実際には、事業の成長に合わせていつでもIPOできるように準備をしながら、タイミングを見計らっている状態です。この10年間は、そうした状況がずっと続いていたように思います。

高原 上場準備中の2018年頃は、ビジネスモデルも試行錯誤していたタイミングでしたよね。

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ジャフコ 投資担当のパートナー高原瑞紀

下條 そうですね。ビジネスモデルが変われば見るべき指標や管理フォーマットも変わりますから、ピボットのたびに会計上の収益をどのように管理するのか、原価計算の方法はどうするのかと、経営管理のポイントを探るのに苦労しました。

それに、私たちのようなディープテック領域は、事業化まで赤字を掘り続けるような産業です。コストを抑えるため管理部門に余裕を持たせるわけにはいかなかったので、最初は私の他に経理担当が1人、人事労務が1人、そして広報・総務が1人の4〜5人のチームで通常業務と上場準備を同時並行で進めていましたね。



必要なときに、必要な支援ができるように。事業の成長に合わせた柔軟な対応を意識

──まさにそのようなビジネスモデルの転換期に、ジャフコのバックオフィス支援が始まります。最初は、どのような内容から始めたのでしょうか?

柴田 ジャフコが支援を始めた2019年頃はちょうど、ビジネスモデルが移り変わり、IPOに向けて体制の仕切り直し、もう1段ギアを上げようとしたタイミングでしたよね。ジャフコはJ-SOX(内部統制報告制度)や共同開発事業に向けての規程など資料の整理・作成を主に支援させていただきました。

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ジャフコ ビジネスディベロップメント担当の柴田正秀


下條 はい。その頃は上場に向けて体制を整えていたタイミングで、当時の投資担当者の方を経由してバックオフィス支援をお願いしました。支援していただいた資料の整理・作成は、上場審査で重要なポイントになるにもかかわらず、なかなかリソースを割きにくく、後手に回ってしまう領域なんです。柴田さんにはその部分を巻き取っていただき、本当に助かりました。

柴田 支援のスタンスとして考えていたのが「下條さんの手が届かない部分を埋めるように」という意識です。下條さん自身もIPO準備の経験が豊富でしたし、チームの皆さんも優秀な方々が揃っていました。仕事の進め方もチームの皆さんと相談しながら、その都度上場に必要な知識をジャフコが共有し、下條さんには最終確認を依頼することが多かったです。

下條 柴田さんにはIPOチームと連携して進めていただいたので、「気が付いたら仕事が終わっている」という印象でした。

以前にIPO準備を外部の業者にアウトソースしていたこともあったのですが、依頼する背景や目的を説明する時間が必要で、ある種のもどかしさがありました。ですが、柴田さんは私たちの事業の流れや現在の状況も理解済みで、バックグラウンドをいちいち説明しなくてもよい点で、非常に助かりました。


──事業の流れを深く理解していることは、整理・作成する資料を「意味のあるもの」にするためにも重要な要素ですよね。

下條 はい。資料を整理・作成するためには事業の流れをフローチャートで図式化して把握したり、業務記述を行ってプロセス内で生じるリスク・コントロールの把握をしたりして、管理上のキーとなる要素の特定が重要です。さらに、私たちのようなディープテック領域は過去に同じようなビジネスモデルがなかったこともあり......。

柴田さんにはそのような事業特性を理解していただきながら、事業の本質を言語化していただきました。

高原 投資担当者とバックオフィス支援チームの間の情報共有は、欠かさずに行っています。もし、情報が少なくて支援ができず下條さんに情報共有の時間を作ってもらっては、何のための支援だとなってしまいますから。必要な情報はしっかりとジャフコ内で共有し、認識を合わせています。

柴田 単に資料を整理・作成するだけがバックオフィス支援ではありません。作成する規程の目的は何か、どんな状況で運用されるのか。形だけの資料を作るのでは意味がないので、当然、事業理解は重要です。


──その他、柴田さんがバックオフィス支援をするにあたり、心がけていたことや意識していたことは何ですか?

柴田 下條さんを始めとするマイクロ波化学のみなさんはお忙しかったので、極力時間を取らせないよう、ピンポイントで支援することを心がけていました。

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それに、下條さんも話されたように、IPOは一気呵成で進められるものではありません。事業の状況に応じて必要なことも変化しますから、必要なときに必要な支援ができるよう準備しておくことも心がけていました。

もともと、ジャフコのバックオフィス支援は子会社として有料で支援を提供していた過去があります。2010年にインハウス化しましたが、ある意味、お金をいただかないからこそ、困ったときに柔軟に対応できたり、気軽に相談に応じることができたりのような本質的な支援ができたのではないかと考えています。

高原 どうしても外部の業者にアウトソースすると支援内容がパッケージ化されていたり、都度見積もりが発生したりすることもあります。私たちジャフコは、1000社以上のIPOを経験していますし、社内にもスペシャリストが多くいます。支援先の状況に応じてIPOに必要な範囲の支援を行う。そのあたりの「合格ライン」の知識・経験を持っていることが、強みなのだと思います。


──まさに、いつでもIPOできるように必要な支援をする、と。

下條 状況によって100点ではなく、70〜80点の支援が必要なこともあります。そのあたりのさじ加減や合格ラインを知っている方は少ないので、本当に助けてほしいところを助けていただいた印象です。



困ったときの、相談相手がいることが心強かった


──これまでのジャフコのバックオフィス支援を振り返ってみて、いかがでしょうか。

下條 ジャフコさんには、シリーズBのときに初めて投資していただいて、ビジネスの方向性が定まっていないタイミングからご支援いただきました。その後のIPOも柴田さんや高原さんに伴走していただき、まさに「身内」のような存在だと思っています。

特にIPO直前のタイミングは、何か困ったことがあると柴田さん、高原さんに相談すれば何とかなるだろうと思っていましたし、上場した今でも会議で何か管理上の疑問が生じると「ジャフコさんに聞いてみたら?」という話になることもあります。そのような心強い存在がいたことは、とてもありがたかったです。

高原 そういっていただけて私たちもうれしいですね。

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最後に、IPOを目指している管理部長の方に向けて一言メッセージをお聞かせください。

下條 私のような管理部長のポジションは、先回りして物事を考える必要がありますが、ベンチャー企業には想定外のことがつきものです。

だからこそ、「社内外にブレーンを持つこと」を勧めたいと思います。自分の考えを客観的に評価してくれたり、気軽に相談できたりする人がいるだけで、随分心持ちが変わってくるように思います。ある程度先のことを考えたら、あとは腹を決めて今に集中する。そのためにも、社内外に相談できるブレーンを持つとよいと思いますね。



※起業家とジャフコの出会いから上場までの軌跡を紐解く「IPO STORY」にて、マイクロ波化学株式会社 代表取締役社長CEO 吉野厳氏と、ジャフコ担当パートナーの高原瑞紀による対談も公開しています。ご興味のある方はぜひ、ご覧ください。

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