起業を決めた背景や、事業が軌道に乗るまでの葛藤、事業を通じて実現したい想いを聞く「起業家の志」。
第29回は、株式会社CBA(シービーエー) 代表取締役の宇佐見良人氏に登場いただき、担当キャピタリスト坂田将吾、藤井淳史からの視点と共に、これからの事業の挑戦について話を伺いました。
【プロフィール】
株式会社CBA 代表取締役 宇佐見良人(うさみ・よしと)
株式会社アトラクス(日商岩井100%)にてDB(データベース)を使った商品企画・営業を16年間実施し、DBの可能性について認知した後、双日株式会社にて新規環境関連事業として産業廃棄物管理システムの立ち上げに参加。その後、株式会社JEMSにて日本のリーディングカンパニーを中心に約400社へ管理システムの導入を行う。2020年に株式会社CBA設立し、国内資源循環を推進するプラットフォームの構築により業界のDX実現を目指す。
【What's 株式会社CBA】
資源循環は地球レベルの課題です。しかしながら、未だこの課題に立ち向かうチャレンジャーは少なく、巨大な市場にも関わらずテクノロジーにおける未踏領域がまだまだ多く残っております。その課題を解決するために、CBAは2020年1月に創業。廃棄物処理業界のDX化を実現するためのクラウドサービスの提供を手始めに、その収集データを徹底活用した資源循環サービス等を展開することによって、循環型社会実現のためのデジタルインフラの構築を目指します。
廃棄物処理のDXから、資源循環の加速を目指す
―CBAの事業内容を教えてください。
宇佐見 CBAは廃棄物処理業界のDXによって、廃棄物を資源として循環させる「資源循環」の加速に寄与しています。SDGsが叫ばれる昨今でも、廃棄物の資源循環は現状進んでいなく、日本では依然として「廃棄物をただ処理する」というのが主流になっています。
「廃棄物をただ処理する」のではなく「資源循環により原材料を生み出し」、廃棄物のリサイクル率を100%にするためには、まずは、これまで"捨てる"ために管理していた廃棄物を、"資源にする"ために管理することが欠かせません。
そこで、資源循環を加速させるための第一歩として、どの地域のどの企業からどんな廃棄物が出ているのかを可視化するクラウドサービス「CBA-wellfest」を2021年11月にローンチしました。
CBA-wellfest
廃棄物処理に必要な、遵法性を担保した処理方法の選定、許可証管理、処理進捗管理などの煩雑な業務をデジタル化し、担当者の負担を軽減しています。現在、資源循環に関心の高い大手メーカーを中心に、50社以上のお客様に利用いただいています。
―廃棄物処理から資源循環へ、どう事業づくりを進めていますか。
宇佐見 まずは、「CBA-wellfest」を中小企業にも広げ、全国のあらゆる事業規模、業種のお客様が資源循環を実現できるよう、廃棄物処理状況の見える化に繋げていきたいです。
次のステップとして考えているのは、「CBA-wellfest」で蓄積されたデータを分析し、エリア内の廃棄物発生状況を把握することです。また分析の過程で、環境貢献度をスコア化し、「環境与信情報」を提供するサービスを創ることも事業構想にあります。近い未来に、企業が取引先を選定する際、「その企業はどれくらい環境負荷をかけているか」を調査し、基準にする社会がやってくるでしょう。各企業の環境負荷データベースサービスは必ず求められると考えています。
そして「CBA-wellfest」で蓄積したデータと分析を活かして、その先の最終ステップとして提供したいのが、廃棄物を効率的に回収・処理するためのマッチングサービスです。蓄積したデータを分析し、エリア内の廃棄物発生状況を把握することで、最適な回収タイミングやルートを作り、適正な価格で回収業者に依頼ができます。今は、せっかく資源になるものでも「少量だから廃棄しよう」と無駄になっているものがたくさんあります。
中小企業から出る少量の廃棄物も、エリア内連携によりリサイクル率を向上させ、資源循環が進むような世界を作っていきたいと考えています。
―廃棄物処理のDXを展開しようと思ったきっかけ、CBA創業の経緯を教えてください。
宇佐見 廃棄物処理業界について知ったのは、2008年でした。当時在籍していた双日で、新規事業の対象領域としてリサーチすることになったんです。リサーチしてみると、廃棄物処理業界はシステム化が進んでおらず、「コストを多めに使ってでもとにかく捨てる」という状況にあるということを知り、改善の余地が大いにあると感じました。世界では2010年頃から、資源の枯渇問題が叫ばれ始め、ヨーロッパを中心にサーキュラーエコノミー(循環型社会)の考えが広がっていました。資源を循環させていかなければ地球は立ち行かなくなる、という危機感の芽が、少しずつ出ていた状況でした。
そこで、この領域に深く関わろうと、産業廃棄物業界大手への転職を決め、事業拡大を目指しました。サーキュラーエコノミーの実現には、資源化のための工場設備投資が必要ですが、そもそも、どんな廃棄物がどこから出ているのかを管理・可視化しなければ、どのエリアに工場を作ればいいのか分かりません。当初から、資源循環を目指すCBAのビジネスモデルを考えており、社内でも色々と動いていましたが、結果として、「地域の中小企業を含めて、全国にサーキュラーエコノミーを広げる」という私の想いは、起業したほうが実現できると考えました。
―地域の資源循環を進めたい、という想いの根源は、どこから来ているのでしょう。
宇佐見 2008年のリーマンショックのとき、地元の岐阜で仕事をなくした人が多くいました。サプライチェーンがグローバルになっている今、世界のどこかが風邪を引けばみんなが風邪を引く。そのタイミングで、日本国内で回せる資源は回して、世界情勢の影響をできるだけ少なくしたほうが、これからの安心した生活につながるのではないかと考えたことがきっかけになっているのかもしれません。加えて、業界全体の人出不足という課題もあります。なかなか若手が入ってこない状況の中、還暦に近い年齢であっても「自分が起業するしかない」という想いがありましたね。
事業内容への鋭い質問に答える中で、課題点がクリアになっていった
宇佐見氏(中央左)、CBA取締役 城野氏(中央右)、ジャフコ担当キャピタリストの坂田 将吾(左)・藤井淳史(右)
―2022年8月にシリーズAラウンドで2.3億円の資金調達を実施しました。今回の資金調達を検討した背景からお聞かせください。
宇佐見 CBAが目指す次のステップである、環境負荷データベースサービスの開発等、資源循環の実現に向けて、やるべきことはたくさんあります。資金調達により、「CBA-wellfest」のお客様の拡大や次のステップに向けた開発を加速させたいと考えていました。
ただ、廃棄物処理業界や当社の事業内容は分かりにくいので、「よく理解していただけた上で、出資いただけるVCに出会えるのだろうか」という想いもありました。担当の坂田さんは、理解も深く、いつも鋭い質問を投げかけてくださった。それに答える中で事業内容や方針が整理され、やるべきこともクリアになっていきました。この人がパートナーになってくれたら良いな、と思う存在でした。
―CBAの事業に可能性を感じた理由は?
坂田 私が前職で大企業向けの経営コンサルタントをやっていた関係で、大企業向けのDX領域に関心がありました。どの領域に改善の余地があるだろうと調べていく中で、廃棄物処理業界は課題が多いと感じていました。そんなときに、たまたまCBAの資本業務提携のプレスリリースを読み、すぐにホームページの問い合わせ窓口に連絡しました。
お会いして話をすると、宇佐見さんは事業理解の解像度が非常に高く、この業界の課題をずっと見てきた方なんだとすぐに感じました。
CBAのSaaSサービスは、利便性の観点でも、同業界のサービスと一線を画しています。また、宇佐見さんが構想しているサーキュラーエコノミーの実現は、グローバルトレンドで見れば非常に盛り上がってくる領域なのは間違いありません。将来性に賭けたい、と思いました。
藤井 私は、投資が具体的になった段階で宇佐見さんにお会いしましたが、業界経験の長さ、知見の深さが印象的でした。スタートアップ領域で50代後半の"アラ還起業家"は珍しい存在かもしれません。ただ、廃棄物処理業界においては、業界人脈の深い宇佐見さんのような起業家だからこそ、カウンターパートの方々の懐に入っていけるのだろうと感じました。
旧態依然とした業界へのSaaS展開は、事業の必勝パターンですし、単にデジタル化するだけではなく、SDGs、ESG投資の流れで資源循環ニーズは広がっていくでしょう。法規制の変化から追い風が吹く業界であり、システム導入を足掛かりに着実に事業展開を進めていけば、サーキュラーエコノミーという長期トレンドを捕まえていけるだろうと感じました。
―宇佐見様がジャフコを選んだ理由もお聞かせいただけますか。
宇佐見 こちらが驚くくらい細かな質問をたくさんいただけて、業界のことを理解しようとしてくださる姿勢が、他のVCとは全く違いました。これまで、産業廃棄物処理に取り組んできたのは大企業が中心でした。公害法の遵守への意識から、業界としても大企業をカウンターパートとして動くのが普通だったんです。
でも、CBAがやりたいのは資源循環です。資源循環となれば、企業規模にかかわらず、地域の小さな会社でも、CBAのシステムを使っていただく対象になる。そうした部分に関しても突っ込んだ質問をいただき、回答資料を必死で作ったことで、細かな齟齬やズレが解消され、事業整理の上でとても良い機会になりました。「こんなに分かってもらえるパートナーに出会えた。ぜひジャフコさんにお願いしたい!」と思いました。
坂田 嬉しいですね。私は、CBAの皆さんといかに同じ深さで業界や業務を理解できるかが大事だと思っていました。多方面から質問攻めをしてしまったのですが、資料もたくさん迅速に出していただいて、理解もどんどん深まっていきました。
―投資後の支援内容や、今後期待する支援について教えてください。
宇佐見 ジャフコさんが出資されているお客様は、先進的な考えを持ったところが多いのではないかと思っています。廃棄物処理は既に業界としてありますが、資源循環の業界はまだまだ、これからできていくところです。新しい分野に挑戦することに親和性の高いお客様が多くいらっしゃると思うので、ジャフコさんのネットワーク力をお借りしながら、良いサービスを一緒に作っていければいいなと思っています。
坂田 サーキュラーエコノミーを盛り上げていくという観点では、お客様のスタンスもすごく重要になります。CBAにとってコアとなるお客様を紹介できたら、事業の前進に資するものになるかなと思います。
藤井 そうですね。中小企業に対してもCBA社の目指す世界観を一緒に浸透させていきたいなと思っています。
想いを持ち発信を続けていれば、応援してくれる人と必ず出会える
―宇佐見様が今後成し遂げたいこと、起業家としての志を教えてください。
宇佐見 資源循環の考えに賛同いただけるお客様、協力いただける業者さんを増やしていき、日本でのサーキュラーエコノミー市場に勢いを創っていきたいです。この業界に入った10年前から、環境対応に向けたデジタル化の受け入れ土壌はまったく変わりました。環境問題に携わることを否定する方はいませんし、「資源循環をやっていかなくちゃいけない」というコンセンサスも広がっています。これからは一緒に成功事例を作っていき、かかわる人がみんなハッピーになる社会を創りたいですね。
―最後に、起業家を目指す方に向けてメッセージをお願いします。
宇佐見 想いを持って動いていると、サポートしてくれる人に出会えるものです。
「犬も歩けば棒に当たる」とでも言うのでしょうか。「資源を回して、活用する社会を作りたい」と発信を続け、実現可能性を具体的にしていくと、「それならやれるかもしれないね」と賛同してくれる方が出てきます。環境問題は"取り組むべき明確な課題"である一方、売上がいくら出る、と言い切れるものではありません。どう事業として成り立つのか、それがどんな意義があるのかを説明することが大事だと思い、意識的な発信を心がけてきました。
CBAを起業したときも、「今のまま、資源を使い続ければ、地球が3個必要になる」「資源の高騰で争奪戦が起こり、至るところで戦争になる」と言った話をしてきました。周りの経営者やエンジェル投資家が、「それはやるべきだ」「応援する」と背中を押してくれて動き出すことができました。ジャフコさんや、今の社員たちもみんなそうです。事業の先で実現したい未来の絵を、諦めずに持ち続けてほしいと思います。
担当者:坂田将吾 からのコメント
これまでの廃棄物処理業務は、法令順守のための業務という側面が強かったと認識しております。しかし近年は、SDGs/ESG対応、サーキュラーエコノミーの実現といったグローバルで関心を高めているテーマと強く結びつき、より高度な対応を求められるものとなりつつあります。高度化する廃棄物処理業務に対する要求に応えていくためには、ITソリューションの利活用を含めた業務の高度化が必須でしょう。
CBAは、従来の廃棄物処理業務を効率化するだけでなく、業務高度化のために必要なデータを収集・分析するサービスを提供しています。同社には、企業の廃棄物処理領域のDX、サーキュラーエコノミーの実現を牽引していくことを期待しております。