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初期費用0円の太陽光発電を各家庭に。業界のパイオニア『シェアでんき』が目指す脱炭素社会
初期費用0円の太陽光発電を各家庭に。業界のパイオニア『シェアでんき』が目指す脱炭素社会

起業を決めた背景や、事業が軌道に乗るまでの葛藤、事業を通じて実現したい想いを聞く「起業家の志」。
第27回は、株式会社シェアリングエネルギー 代表取締役の上村一行氏に登場いただき、担当キャピタリスト沼田朋子からの視点と共に、これからの事業の挑戦について話を伺いました。

【プロフィール】
株式会社シェアリングエネルギー 代表取締役 上村 一行(うえむら・かずゆき)
大学卒業後、デロイトトーマツコンサルティング株式会社(現アビームコンサルティング)にて大手総合商社の経営改革プロジェクト等に従事した後、2008年に株式会社アイアンドシー・クルーズを設立、代表取締役に就任。トーマツ日本テクノロジーFast503年連続Top5を受賞。20181月に株式会社シェアリングエネルギーを設立。20202月、アイアンドシー・クルーズを株式会社じげんにM&Aにより譲渡、当社取締役ファウンダーに就任。20213月、当社代表取締役に就任。

What's 株式会社シェアリングエネルギー】
戸建住宅を中心に、初期費用無料で太陽光発電システムを設置し、おトクに利用できる第三者所有(PPA)サービス「シェアでんき」を展開。太陽光発電をはじめとする分散電源の導入を拡げ、再生可能エネルギーの地産地消を推進。シェアでんきを基軸に、Tesla社製蓄電池「Powerwall」とのパッケージ提供や、地方自治体との包括連携協定、経済産業省のVPP実証事業等を進めている。
シェアでんきの契約依頼数は全国で5,500件を突破、累計資金調達額は約76.3億円(2022621日時点)。

Portfolio


「初期費用0円の住宅用太陽光発電」を日本でいち早く導入

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2018年に株式会社シェアリングエネルギーを設立された経緯をお聞かせください。

上村 シェアリングエネルギーは、私が2008年に設立した会社の新規事業として立ち上げたスタートアップです。大学時代、シリコンバレーで起業した先輩との出会いがきっかけで起業に興味を持ち、将来自分で事業をするためにコンサルティングファームやスタートアップで経験を積みました。外部環境や私自身の状況を踏まえて、いざ起業したのが2008年。ただ、その時はまだ事業内容を明確に決めておらず、子どもがいたので「次世代に紡いでいくべき価値観やサービスを、インターネットを通じて広めていく」という軸だけ決めて創業しました。

そんな中、アメリカ元副大統領アル・ゴア氏の著書『不都合な真実』をはじめ様々な文献を読みあさるうちに「再生可能エネルギー」という領域に興味を抱き、この社会課題に取り組むことこそが、次世代に胸を張って紡いでいける起業テーマだと確信しました。

そこで、当時はまだ訪問販売が大半だった住宅用太陽光発電システムに着目し、ユーザーの情報格差を解消して市場発展に寄与するための比較メディア事業をスタート。10年続ける中で太陽光発電のシステムコストがものすごい勢いで下がり、様々なプレイヤーが業界に参入してくる様子を目の当たりにして、私たちも情報提供だけではなく当事者としてシステムをマーケットに導入していくべきではないかと考えるようになりました。そうした経緯から2018年にシェアリングエネルギーを設立し、『シェアでんき』事業を開始しました。

ー『シェアでんき』の特徴や競合優位性はどういった点にありますか。

上村 『シェアでんき』が採用しているPPA(電力販売契約)モデルは、建物の屋根を借りて太陽光発電システムを無料設置し、そこで発電された電力を電力会社よりも安価で買い取っていただくというもの。当社では15年経過後にシステムをお客様へ無償譲渡する形を取っており、現在全国で5,500棟以上の契約依頼をいただいています。当時の日本は、発電容量の大きい工場や大規模施設に向けたPPA事例はあったものの、個人住宅向けは前例がなく、初期費用0円で家庭で太陽光発電ができるサービスは画期的だったのです。

現在では少しずつ増えてきていますが、専業で手がける企業は多くありません。当社は先駆けてきた分、全国の施工業者とのネットワークや施工マネジメントのスキームはすでに構築できていますし、設計、電力会社や経産省への申請、施工手配といった一連の煩雑なプロセスも自動化できています。それらのコストを抑えられているため、お客様には業界最安値級の電気料金でご利用いただけており、その点は当社の強みだと考えています。

ー事業を4年継続する中で、やりがいを感じたこと、苦労したこと、両方お聞かせいただけますか。

上村 「分散電源の創出により、エネルギーシステムを変革する」というミッションに賛同くださる仲間が増えてきたことは非常に嬉しく思っています。現在、政府や東京都が新築戸建への太陽光発電設備の設置義務化に向けて動いており、「家庭の脱炭素化」に対する世の中の意識はより高まってくるでしょう。社員、投資家の皆様、そしてお客様、多くのステークホルダーの方々と共に社会課題の解決に向けて前進できていることに、やりがいと同時に大きな責任も感じています。

苦労したことについては、実はあまり思い浮かばなくて...。というのも、私はもともと切り替えが早い性格。もちろん何かトラブルが生じて自省することはありますが、すぐに切り替えて次の一手を考えるので、常に一歩一歩進んでいる感覚は持っています。


エネルギー領域に精通したキャピタリストとの出会い

_DSC2161.jpg上村氏とジャフコ担当キャピタリストの沼田朋子(左)


20224月にJIC-VGIやジャフコからシリーズBの資金調達を実施しました。今回の合計52.3億という大規模な資金調達を検討した背景からお聞かせください。

上村 理由は3つあります。1つ目は、多額の初期投資が必要なビジネスモデルであること。自社負担でアセットを持ってサービスを拡大していくモデルなので、今後様々な資金調達手段が必要であり、そのためにも自社のエクイティ強化がシリーズBでは必須でした。2つ目は、お客様からの信頼性の向上。当社はハウスメーカーや工務店と提携して個人のお客様のお宅にシステムを設置するケースが多いのですが、導入にあたっては当社にいかに信頼感・安心感を持っていただくかが重要。提携先やお客様に安心していただけるVCに入っていただくことも必要なフェーズでした。

3つ目は、当社が現在進めている取り組みを加速させるためのネットワークづくり。最近は住宅1棟単位ではなく地域全体で脱炭素を目指す自治体が増えており、地域内の施設や住宅に『シェアでんき』を一括導入させていただくという事業構想も進んでいます。地域内の企業様に設置工事を委託して雇用を担保し、さらにはそこで生まれた環境価値を自治体に還元して再エネ比率を高めていく。電気・人・お金が地産地消されるような仕組みをつくりたいのです。そこで、全国の金融機関等とのネットワークをお持ちのVCにお力添えをいただきたいという想いがありました。

ージャフコとの出会いと印象について、上村様と担当キャピタリストそれぞれの視点から教えてください。

上村 当社の株主からジャフコさんを紹介してもらい、202111月に沼田さんと初めてお会いしました。第一印象は「キレッキレの方だなぁ」(笑)。再生可能エネルギー領域に非常に精通していらっしゃって驚きました。現在私たちは分散電源を全国に広げようとしていますが、将来的にはそれを束ねる形での新事業を見据えています。そこまで見抜いてご意見やアドバイスをくださったのは沼田さんだけでしたね。

沼田 私はもともと、長年解決されていない社会課題の解決を目指す企業に関心があり、「再エネ」「脱炭素」が叫ばれ始める前からエネルギー領域の企業を担当していました。脱炭素宣言、そして地域脱炭素ロードマップが策定され、住宅の屋根上での太陽光発電が増えていくんだろうなと思っていたタイミングで上村さんを紹介いただき、ものすごくチャンスだと思ったのが最初の印象です。

これはジャフコのキャピタリストの癖だと思うのですが、お会いした瞬間に「いい社長」だと思えるかどうかはけっこう重要な指標。その点、上村さんは「すごくいい社長だな」と率直に感じました。変に吹かさないというか、課題も含めてすべてオープンに話していただける信頼感がありました。

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ーその後、資金調達が決まるまでにはどんなやりとりがありましたか。

上村 沼田さんはエネルギー領域に関して二歩先、三歩先を見ていらっしゃるので、様々なケースをシミュレーションしながら事業について議論させていただきました。ロールモデルとなる海外企業についても深く分析してくださり、お恥ずかしながら逆に学ばせていただくことも。無事にご一緒できることになって本当に良かったと思っています。

ーでは最終的にジャフコを選んだ決め手も、キャピタリストの存在が大きいですか。

上村 はい。もし断られても取締役会にはぜひ出ていただきたいよね、と社内で話していたくらいです。ジャフコさんは数あるVCの中でも「本流」「根幹」といったイメージがあり、先ほどお話ししたシリーズBでのビジョンをすべて実現できる力を持ったVC。さらに沼田さんのような素晴らしいキャピタリストを抱えているVCであれば、組織としても非常に成熟していて、投資先企業の成功に向けてしっかり伴走してくださるだろうという信頼感がありました。

沼田 ありがとうございます。住宅用太陽光は今後必ず伸びていく領域。シェアリングエネルギーは2018年から先行していて、すでに事業拡大できる仕組みが構築されているので、専業の中では圧倒的に勝ち切れると思っています。エネルギー領域への投資は、早すぎるとファンドの期限までに成果が出ず、遅すぎると収益性が見込めないという難しさがありますが、今回の投資はベストなタイミングでした。


資金調達を経て、さらなる事業・組織拡大へ

ージャフコがこれから実施する予定の支援について教えてください。

沼田 現在進めているのは、全国の地域金融機関のご紹介。ジャフコは地銀の経営企画やビジネスマッチング部門とのネットワークが豊富で、地銀向けマッチングイベントも行い、そうした接点を活かしてシェアリングエネルギーとお繋ぎする動きをすでに始めています。地銀サイドも皆さん好反応で、今後は取引先のビルダーをご紹介いただいたり、住宅ローンとセットで『シェアでんき』を展開いただいたり、協業が進んでいくのではないかと思っています。

あとはやはり資金調達ですね。アセットを持つための資金が必須のビジネスモデルなので、金融機関やリース会社等を巻き込みながら、成長スピードに合わせてより大きく機動的に資金調達できる方法を確立していけたらと考えています。

ー今後は組織拡大にも注力していかれると思います。採用ではどんな点を重視していますか。

上村 採用は、今まさに自分の中で最も比重を置いて取り組んでいることです。一番重視しているのはやはり事業領域への関心の高さですが、この事業を拡大していくための面白いアイデアや、違うバックグラウンドからの多角的な意見を出せるような、年齢問わず優秀な方を採用していきたいと考えています。

これまでは新築戸建をメインに展開してきましたが、今後は既築の比率も高めていきたいと考えており、そうしたお客様を抱えるインフラ系・通信系・電鉄系等の大企業とのアライアンスも視野に入れています。ですので職種でいうと事業企画は特に強化したいところ。あとは同業他社との提携等を進める経営企画、シェア獲得に向けたマスマーケティングといったスキルセットも早々に必要としています。(シェアリングエネルギーの採用ページはこちら

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日本発グローバルの脱炭素ビジネスへ

ー上村社長が今後成し遂げたいこと、起業家としての志を教えてください。

上村 「家庭の脱炭素化」というカテゴリーで圧倒的ナンバーワンを目指しています。現在進めている自治体向けのモデルは海外への展開も可能になるのではないかと考えていますので、IPOを果たした後は世界進出も見据え、日本発グローバルのビジネスとして脱炭素社会実現の一翼を担いたいと思っています。

今年の正月、日本経済新聞の1面に「脱炭素」という文字が載った時は、2008年から再エネに携わってきた立場からすると非常に感慨深いものがありました。日本ではまだ「お金を払ってでも環境に良いことをする」という考え方が根づいているとは言いがたいですが、国も自治体もお客様も、意識が変わってきているのは確かです。今は「電気代がお得」からスタートして結果的に脱炭素化に貢献できていた、というアプローチで事業を展開していますが、意識・行動共に「脱炭素=当たり前」という社会になるまで志を持ち続けたいと思います。

ー最後に、起業家の皆様に向けてメッセージをお願いします。

上村 起業において「何のためにやるのか」を明確にすることは非常に重要。それが社会課題解決のためであればより仲間を募りやすいですが、自分が何のためにどんな旗を立てるのか、強く意識することが大切だと思います。また、オンリーワンの事業や会社を創ることはなかなか難しくて、最後どこで差がつくかというと「本当にやり切ったかどうか」だと思うんです。自分がやると決めたことをやり切れるか。やり切れる組織をつくれるか。それが起業家としての勝敗を分けるポイントになると思っています。

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担当者:沼田朋子 からのコメント

47-numata.jpg私がエネルギー業界に関わるようになった2010年頃は、FIT制度もまだなく、実需に基づいたマーケットが形成されていませんでした。そこから政府によって需要がつくられ、太陽光パネルのコストがどんどん下がり、一方で電気代が高騰してきたために、ようやく実需が生まれて市場が伸びてきたというのが近年の状況です。おそらく来年頃には住宅用太陽光発電事業へ参入する企業が増加してくると思いますが、シェアリングエネルギーはすでに基盤を持っていますので、1年走り切れば圧勝できると見込んでいます。上村さんをはじめ経営陣はご経験もお人柄も申し分なく、強い信念を持ってやり切れる組織をつくっていらっしゃいます。今後の事業成長の加速度を高められるような支援をしていきたいと思っています。