スタートアップが社会に大きなインパクトを与えるには、資金や人的リソースの豊富な大企業とのオープンイノベーションがひとつの鍵になります。ジャフコのビジネスディベロップメント(以下「BD」)部では、投資先スタートアップの事業成長を目指し、主に「マーケティング・セールス」「HR」「バックオフィス」の3領域の支援をしており、マーケティング・セールスチームでは、大企業とのビジネスマッチングに注力しています。新規顧客や業務提携先との商談機会の創出、新サービス開発やPMF検証のためのヒアリングの場の提供等を通じ、スタートアップの売上拡大に寄与してきました。
ジャフコBD部は、「協業」に焦点を当てたマッチングカンファレンスを今年3月に初開催。投資先スタートアップ5社と、オープンイノベーションへの熱量が高い大企業70社(そのうち上場企業37社)・107名にご参加いただきました。イベントでの出会いをきっかけに、開催から1か月半で早くも協業が決まったという報告もいただいています。今回はそのイベントのポイントと開催経緯について、ジャフコBD部の山本がお話しします。
【プロフィール】
ジャフコ グループ株式会社 ビジネスディベロップメント部 山本 惇志(やまもと・あつし)
新卒で株式会社ジャフコ(現 ジャフコ グループ株式会社)に入社。九州支社に在籍し同地域スタートアップへの投資業務を経験。現在はビジネスディベロップメント部にて、投資先支援及び、大企業とスタートアップの協業支援に従事。
スタートアップと大企業の「協業」の実現確率を高めたい
Q.BD部のこれまでの取り組みは?
山本 BD部では以前から投資先企業のセールス支援、特にシード・アーリー期の企業の商談機会創出に注力していました。例えばUUUM様であればYouTuberの売り込み、マネーフォワード様であれば会計事務所の開拓。マーケティングDX事業を展開するWACUL様の場合は、プロダクトをリリースするにあたり大企業からの評価やフィードバックを集めるべく、弊社から100社ご紹介して面談機会を提供させていただきました。プロダクトマーケットフィットへの貢献はもちろん、その中から大型受注にも繋がっています。
Q. 今回のマッチングカンファレンスを開催したきっかけは?
山本 投資先企業が打席に立つための機会提供には力を入れてきた私たちですが、打席に立てばその後の商談や協業に100%繋がるかというと、もちろんそうではありません。自社を売り込みたいスタートアップと、スタートアップの情報を求める大企業、一見ベクトルが合っているように思えますが、いざ面談をしても「協業で解決したい課題は何で、なぜ本気で解決したいのか」まではなかなか話し合われません。
「スタートアップと大企業の間には翻訳者が必要」とよく言われる通り、双方はそれぞれ異なる言語を使っているため、そのズレを解消しなければ、たとえ協業が進んだとしてもうまく行かないケースがとても多いのです。
そこの課題感をずっと抱いていたので、協業の実現確率を高めるために、単に企業同士を引き合わせるだけでなく、互いに協業を見据えた話し合いができる環境を提供したいと考え、今回のカンファレンスを企画しました。
「協業」にこだわったマッチングカンファレンス
■「協業」へのこだわり①:スタートアップの協業ニーズがわかる事前資料の作成
山本 マッチングの場というのはスタートアップ側の売り込みがメインになりがちで、「なぜ協業が必要なのか」「協業することでどんな課題を解決したいのか」等、協業を見据えた時に必要な情報は話し合われないことが多いです。
ですので、今回のカンファレンスでは、大企業の集客を始める前の段階から、私たちBD担当者とスタートアップ各社で「こんな企業とこんな協業をしたい」という詳細な資料を作成しました。大企業の担当者はその資料を読むだけでスタートアップのニーズを把握できるので、「とりあえず参加」ではなく「協業を前提にした参加」を促すことができます。ここは、スタートアップと大企業とのお引き合わせをより意義のあるものにしたいと考えた末に実施した準備の肝の部分です。
■「協業」へのこだわり②:オープンイノベーションへの熱量が高い大企業を集客
山本 これまでBD部では、大企業の経営企画ご担当者向けにセミナーを開催する等、多くの大企業とのネットワークを築いてきました。その中でも、私たちが課題やニーズをきちんと認識している企業で、かつスタートアップとのオープンイノベーションを熱量高く推進していただけそうなご担当者にお声掛けさせていただき、当日は70社の方にご参加いただきました。
■「協業」へのこだわり③:開拓したい業界の明確化など、「協業」を見据えたピッチ内容のアドバイス
山本 当日ピッチを行っていただくスタートアップには、参加企業の概要を事前に共有し、「単なるビジネスモデルの紹介、ツールの紹介ではなく、『協業』という観点でプレゼンしてください」とお願いしました。
近年、弊社ではシード投資が増えていますが、シード期のスタートアップに多いのが「プロダクトはあるけれど営業先が固まっていない」というケース。アプローチしたい業界と繋がりのある企業とともに営業先を開拓していきたいというニーズはあっても、それを明確に打ち出せる場はあまりありません。ですので、深掘りたい業界がある場合はピッチで具体的に伝えることもアドバイスさせていただきました。
■「協業」へのこだわり④:ピッチ後に15分間の個別面談を実施
山本 ピッチ後、大企業が興味のあるスタートアップと個別面談できる時間を設けました。スタートアップ1社あたり5枠、1面談につき15分まで。「もう少し話を聞いてみたい」という思いを気軽に解消でき、次の商談機会にも繋げやすい時間設定にしました。
以上のポイントに注力して開催した結果、個別面談枠は全社ほぼ満員。大企業ご担当者からは、「面談でちょっと話してみたら、うちでも協業ニーズがありそうという気づきを得られた」といった声もいただきました。開催後、実際に商談が進んでいる企業や、早くも受注が決まった企業があるという嬉しい報告も受けています。
BD支援担当も、投資先企業の真のパートナー
Q.今後、BD部が実現していきたいことは?
山本 このカンファレンスに関しては、四半期に1度程度のペースで定期的に開催したいと考えており、今回登壇いただいたスタートアップや参加企業様のご意見をもとに、双方にとってより満足度の高い場を追求していきます。
BD部が持っている大企業の名刺情報をデータベース化し、本格的に活用し始めたのは2年ほど前のこと。この2年はとにかく大企業を投資先にご紹介するところに注力して、紹介数は以前の3倍になりました。今後は、単なる紹介にとどまらず、最終的な売上に貢献できるように取り組んでいきたいと考えています。売上への貢献はアンコントローラブルな領域であり、セールストークからプロダクト改良までやるべきことが無数にありますが、ひとつひとつに向き合って具体策を考えていくつもりです。