起業家教育全米No.1・バブソン大学と共に、起業に関する論文や事例をもとに「失敗」にフォーカスした連載 起業家の「失敗学」。今回は、様々な事例から事業モデルの『コピー』について考えていきます。
イノベーションについて、「独自性のあるポジショニングが必要」と考える人は多いと思います。後発でサービスを始めるのは格好が悪いと思う人も少なくないかもしれません。「それはもう他の会社がやってるモデルと一緒だよね」起業や新規事業を考える友人や同僚に、そんなフィードバックをしたことはありませんか?
しかし、実は革新的とされる事業モデルや、急成長を遂げたサービスの始まりは「コピー」であることは珍しくありません。また、「クリエイティブ」「天才」と言われてきた起業家やアーティストは、実はコピーによってその想像力を培ってきた人が少なくないのです。コピーをネガティブなものと捉えてしまうと、事業が成長するチャンスを逃してしまう「失敗」に繋がってしまうかもしれません。
今回は実際に「コピー」で成功した事例をもとに考えていきます。
ピカソ、ディズニー、ジョブズ...皆「コピーの天才」だった
"Good artists copy, great artists steal."
これはピカソの言葉です。『良いアーティストは、単に他の人のアートをコピーする。優れたアーティストは、複数のソースから要素を選択的に取得し(盗み)、それらの影響を創造的に組み合わせて、「独自の何か」を作成する』という意味です。ピカソの作品を見ていくと、アフリカ芸術から日本の浮世絵まで、様々な要素を取り入れていることが分かりますし、要素を取り入れる前段階として、例えば葛飾北斎の絵を模写していました。また、シェイクスピアの有名な恋愛劇やディズニーの初期の作品も、実は、地方で語り継がれていたお伽話のストーリーをそのまま使ったものが圧倒的に多いことで知られています。
Apple創業者スティーブ・ジョブスも、「偉大な人々は、素晴らしいものをより深いレベルで理解し、そこに工夫を重ねてさらに素晴らしいものを構築し、それをまたさらに発展させる」と言っています。「コピーとアイデアを盗用することの境界線を掴むことがAppleのDNAだ」とも。Appleのコピーの有名な例として、タブレットがあります。実はAppleより約10年前に、東芝等は既にタブレットデバイスの製造を開始していました。AppleのiPadのチームは、タブレットのコンセプトをそのまま真似た上で、Appleらしいスリムで使いやすい形を構想していったとも言われています。
コピーの類型は3パターン
上記の図のように事業モデルのコピーは3パターン。具体的な事例を見ながら、それぞれ深ぼっていきます。
海外事例からモデルを持ち込む
海外で既に成功しているモデルを国内に持ち込んで成功している事例は多数あります。
例えば今では日本でも一般的になったクラウドファンディング。READY FORに代表される寄付型も、Makuakeに代表される購入型も、アメリカでは2010年前後にKickStarter,GoFundMe等の複数のプレイヤーが台頭していました。ロボアドバイザーのウェルスナビも、サービスを開始した2016年前後にはすでに米国において資産形成ロボアドバイザー市場でBetterment、WealthFront等の複数社が大型資金調達に成功していました。
また、ビジョナル(旧ビズリーチ)が2009年日本で初めて開始した求職者課金型の転職サイトは、米国で2003年にLaddersという会社が同様のサービスを開始していました。既に流行りはじめていたダイレクトリクルーティングを取り入れた他、サービスローンチの際にも、日本では過去なかったピンクスリップパーティ(米国では比較的メジャーな、スカウトハンティングパーティ)を開催し話題を呼ぶことに成功する等、事業展開からPRまで海外の事例をうまく取り入れたことが奏功しています。
その他にも、直近2020年12月に上場したヤプリに代表されるノーコードのアプリ開発も、米国のこの領域におけるリーディングカンパニーであるBubbleは、既に2012年にサービスをローンチしていました。
一方で、海外市場のリサーチは言語や地理的な問題で難しいと思う人もいるかもしれません。また、日本マーケットへの参入に失敗している海外事業も過去多数ありますので、日本の文化や商慣習に適応させるかは当然ながらとても重要です。
ただ、日本に存在しない新しいモデルが海外に多数存在するのは明らか。そして、事例から見てわかるように、サービス開始から5年以上経過し、すでに海外でヒットしてから日本に取り入れているモデルが多いことも伺えます。これは全く新しいアイデアよりも成功確率が高いということ。
日本語で調査をし続けるよりも、翻訳機能を使ってでも海外のサイトを見てみてはどうでしょうか。そして、これは日本では展開できないなと判断する前に、どのポイントが取り入れられるか考えてみて下さい。
競合と同じモデルからの展開
すき家を展開するファーストフードチェーンのゼンショーホールディングスも、最初は吉野家の二番煎じとして見る声も多かったですが、結果的に2020年には売上が吉野家ホールディングスの約1.5倍、コロナ後には約2倍の差をつけるに至っています。価格競争の激しい業界のなか、吉野家が価格の据え置きに拘ったのに対し、すき家は並盛りこそ据え置いたものの大盛の価格をあげる、毎月のように新規・期間限定メニュー等を投入するといった柔軟な戦略変更が奏功した結果と言えます。
先行者利益を得られる最初のプレイヤーであることはもちろんとても重要。しかし、最初であることのオリジナリティを追求し続けることが、必ずしも勝ち筋だとは限りません。重要なのは、顧客が求めているものにスピーディに対応することや、それを実現するための組織・事業戦略を考えていくことです。
実は米国で大人気のスーパーマーケットTrader Joe'sも、最初はただビールとスナックを売る地元の酒屋でした。そこから顧客のニーズを汲み取りながら冷凍食品を開発したりして、今の形に至っているのです。
全く同じモデルでも、そこから変えられるポイントはたくさんあります。自分が解決したい課題や応えたい顧客ニーズへのソリューションで、既にあるものが今ベストだと思うならば、まずそれをコピーしてスタートしてみる。そこから、量・質・スピードなのか、マーケティングなのか、注力するポイントやまだ既存サービスにない機会を探っていけば良いのではないでしょうか。
異なる業界の仕組みを転用
実は、フォードの大量生産は食肉加工場から着想を得たものです。Apple Storeのジーニアスバーは5つ星ホテルのコンシェルジュデスクからアイデアを思いついたと言われています。近年、一般的となったサブスクリプション型モデルは新聞購買など何十年も前からある仕組みと実質は全く同じで、インターネットサービスのスタンダードなモデルの一つになって以降、さらに他の業界でも使われています。楽天バスも、ホテルのレベニューマネジメント、繁忙期・閑散期の価格変動の仕組みを、バスに持ちこんだもの。楽天はさらにそれを基に地方のバス会社にマーケティング支援を行い、バス会社の参入を支援したという意味では、根幹である楽天ECコンサルタントモデルをうまく活用しています。
その他にも、シェアリングエコノミー がUberから始まってAirbnb等の民泊サービス、カーシェアリングサービス等に世界的に展開していったこと、そしてさらに他業界に広がりを見せていることも記憶に新しいのではないかと思います。これらはすべて、異業界で成功しているモデルを転用したもの。
便利と思うポイント、顧客に響くサービス、その本質にあるものは業界やサービス固有のものであるとは限りません。その本質を理解し、コピーし、ペーストする世界を変えてみたら、新しい顧客への価値が生み出せるかもしれません。
コピーはクリエイティビティの出発地点
ビジネスからキャラクターまで、頻繁にコピー戦略を活用する中国企業に対して、批判的な目で見てきた日本人は少なくないと思います。しかし、いまとなっては中国経済の規模・成長速度は日本と比べ物にならないものになっています。
よく考えれば、コピーも簡単ではないのです。例えばグルーポンを中心にあらゆるクーポンサイトの良い面をコピーして作りあげられた「美団点評」は、今や時価総額7兆円までに成長しています。これは、競合サービスの徹底的な分析と顧客ニーズの理解があってこそ実現出来たこと。なぜそれが優れたビジネスモデルであるのか、それ以上の価値を実現するのに何が必要なのかについて、緻密な分析と深い理解を必要とする学びのプロセスがあって始めて「うまくコピー」したと言えるのです。
冒頭のピカソの言葉を引用した、スティーブ・ジョブスのスピーチの一節です。
"It comes down to trying to expose yourself to the best things that humans have done....and bring those things into what you are doing. Picasso had a saying, 'good artists copy, great artists steal.' We have always been shameless about stealing great ideas." - Steve Jobs
「人間が成し遂げた最高のもの....、それを自分のやっていることに取り入れようとすることに尽きます。ピカソの言葉に『優れた芸術家はコピーし、偉大な芸術家は盗む』というのがあります。私たちはいつも、素晴らしいアイデアを恥ずかしげもなく盗んできたのです。」
優れたものを実際に真似するプロセスは、見ているだけよりも深い学びになり、さらに付加価値を考えさせるクリエイティビティの機会を与えてくれます。コピーをすることよりも、「これは他の会社がやっているから」「この業界や国の慣習には適用できない」と早期に諦めることの方が、チャンスを見過ごす「失敗」と言えるのではないでしょうか?