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あらゆる家庭から義務をなくしたい。手作り料理配達サービス「 つくりおき.jp 」が生み出すゆとりの可能性
あらゆる家庭から義務をなくしたい。手作り料理配達サービス「 つくりおき.jp 」が生み出すゆとりの可能性

起業を決めた背景や、事業が軌道に乗るまでの葛藤、事業を通じて実現したい想いを聞く「起業家の志」。
18回は、株式会社Antway代表取締役社長の前島恵氏にお話を伺いました。


【プロフィール】
株式会Antway代表取締役社長 前島恵(まえじま・けい)
早稲田大学人間科学部卒業後、東京大学大学院修了(学際情報学修士)20154月 リクルートホールディングス(現:リクルート)に新卒入社。新規サービスのFE/BEエンジニアを経て、保険系新規サービスの開発統括、美容系予約サービスの開発統括に従事。20184月よりビジネスサイドに異動し、新規事業立ち上げに従事。201812月 リクルートを退社し、株式会社Antwayを創業。

【What's株式会社Antway】
「あらゆる家庭から義務をなくす」をミッションに、共働き世帯向けの手作り料理配達サービス「 つくりおき.jp 」を提供している。
「 つくりおき.jp 」はLINEアカウントを友達登録して簡単な注文フォームを入力するだけで、毎週1回決まった時間にできたての料理が1週間分まとめて届く。専属の管理栄養士がメニューを監修し、料理は都内にある自社キッチンで調理。メニュー決めや注文も含めて、料理に関わる手間のほとんどを削減することを目指している。
20202月にサービスを開始後、202011月時点で累計30万食を突破し、現在東京23区全域、その他首都圏の一部都市に展開、今後も提供エリアの拡大を計画中。20216月にはジャフコ、ニッセイキャピタルをリードインベスターに、融資を合わせて15億円の資金調達を実施。

Portfolio


大きな社会課題を解決したくて「家庭の義務」に着目した

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Antway創業に至るキャリア、起業のきっかけを教えてください。

起業したいという想いは、中学生の頃から漠然と持っていました。教育者の両親に育てられ、やりたいことをやらせてもらえる恵まれた家庭環境だという自覚がありました。与えられた分を「社会のために役立てたい」「還元したい」という想いがあったんです。

学生時代に2回起業しましたが事業をうまくスケールすることができず、修行のために新卒で入ったのがリクルートでした。エンジニアリングとプロジェクトマネジメント、事業開発の3つを経験できたら独立をしようと思っていたら、幸運にもすべて短期間で経験させてもらえたため、39か月でリクルートを卒業し、Antwayを立ち上げました。

―リクルートでどんな業務を手掛け、その後にどう役立っていますか。

入社前は、起業に向けて企画スキルが必要だろうとディレクター職を希望していました。でも、配属されたのはエンジニア部門。当時の人事担当者の判断でしたが、結果的に本当に良かったです。

その後、エンジニア組織のリーダーを任され、新規事業の立ち上げ等、やりたかったビジネスプランニングも経験できました。スキルの掛け合わせでキャリアを積んだことで、エンジニア視点でビジネス構造やシステムを理解できるようになりました。

起業を決めたのは、当時あるベンチャーキャピタルさんが開催していた「ピッチイベント」に参加していたのも大きかったです。社会人でも気軽に自分のビジネスプランをプレゼンし評価をいただけて、いろんなベンチャーキャピタルの方や起業家の方とお話する機会がありました。背中を押していただき、「また起業家としてチャレンジしたい」と思えました。

Antwayが手掛ける、共働き世帯向けの手作り料理配達サービス「 つくりおき.jp 」はどのように生まれましたか。

創業時は、「 つくりおき.jp 」とは全く異なるSNS向けのアプリ開発をやっていました。エンジニアスキルだけでいかに元手を少なくできるか...と半年ほど小さくまとまっていたのですが、せっかく起業したのなら、自分が人生をかけてやりたいことをやろうと考え直しました

そこで、自分の人生経験を振り返り、価値を感じられること、市場性と拡張性があるものという2つのアプローチで、「 つくりおき.jp 」の構想にたどり着きました。

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つくりおき.jp お届けお料理 のイメージ

―「 つくりおき.jp 」につながるご自身の人生経験とは?

自分が価値を感じられることは、「できるだけ長期かつ広義で、社会にとって良いこと」というシンプルなものでした。では、日本において多くの人が持っている深い課題は何かと考えたときに、家庭での義務の問題が存在しているところに行き着きました。

原体験としてあるのは、子どもの頃に父が15年ほどうつ病を患ったことです。決して家父長的な家ではなかったのですが、状況的に母に家事負担が重くのしかかっていましたし、4人兄弟だったので子育ても大変だったと思います。その背中を見ていた経験から、女性の負担増は深刻な課題であり、直面している人の多さでも、これ以上のものはないと思いました。

―市場性と拡張性があるという点は、どうリサーチしたのでしょう。

定量的な調査としてタイムマシンモデルを活用しようと決めていました。
そこで、海外でシリーズAの調達をしている会社を3000社ほどリストアップし、カテゴリー分類をして、日本で類似ビジネスがあるかどうかを調べました。その上で、日本で流行っていない理由、出現していない理由を分析し、事業アイデアを23個に絞っていきました。

その結果、フードデリバリーやクラウドキッチンといったフードテック領域には、世界的なユニコーン企業が複数あるにもかかわらず、日本にはほとんどないことが分かりました。さらに、食事の家事労働軽減を実現するサービスも家事代行くらいしかなかった。ここに可能性があるのではないかと考えました。

―その調査ノウハウはどう身に着けたのでしょうか。

基本は本ですが、大学院での社会科学の研究の仕方に似ていたので、その経験が役に立ちました。
スタートアップのPMF(プロダクトマーケットフィット)に至るプロセスは、量的調査と質的調査を組み合わせます。人々のインタビューで得られたインサイトから「こう思っている人が多そうだ」と仮説を立て、その後、量的調査でそう思っている人の社会全体における比率を調べ科学的、統計的に保証させる。そのやり方は、社会科学の研究とかなり近いんです。

「 つくりおき.jp 」でも、まずは一次情報を取りに行って、何が課題なのかをインタビューベースで調べながら、サービスの素案を作り、デジタルのテストマーケテイングで量的な調査を実施しました。ダメだったらまたインタビューを繰り返し、サービス内容を磨き込んでいきました。

―事業構想からサービスリリースまではどれくらいの期間がかかっていますか。

正式にサービスリリースをしたのは20202月。ピボットしたのが20195月なので、9ヶ月ぐらいかかっています。ビジネスモデル自体は1か月くらいでできましたが、そこからの実証実験に時間がかかりました。実際に作ったものをグループインタビュー調査の参加者に食べてもらったり、どういう商品だったら買ってくれるのか写真を使ってデジタルマーケティング検証をしたり。IT系のサービスとは違い、プロダクトが"食"で形あるものなので、量や味、設備をどうするか、届けるための物流インフラをどうするかという検証が大変でしたね。

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つくりおき.jp キッチンの様子


採用の挫折経験から、OPENTRYHEALTHYのバリューが生まれた

―事業を進める上で、ぶつかった壁はありましたか。

採用の難しさは今も感じています。サービスリリース前には、幹部候補で入る予定だったメンバーが突然辞退したことがありました。家庭の事情があったのですが、何も相談してもらえなかったことが情けなくて...。その反省から、メンバーが何でもオープンに話せる心理的安全性を作らなければいけないと考えるようになりました。

Antwayには、OPENTRYHEALTHYという3つのバリューがあり、それぞれ次のように考えています。

OPEN: 臆さない・おもねらない環境をつくり、最高の集合知をつくる
TRY: PDCAを、世界でもっとも高速回転させるチームである
HEALTHY: お客さま、自分たち、社会すべての健やかさを追求する

社内で情報をオープンにして、みんなが精神的にも肉体的にも健全でいようというバリューには、先ほどの挫折経験が大きく影響しています。長く良いプロダクトを作り続けるには、まずは自分たちが元気でいなければいけないし、そうじゃない場合はきちんと相談できる環境を作らなければいけないと考えています。

―組織づくり、採用はどのように進めてきましたか。

2020年春から採用を本格化させ、現在(202110月時点)正社員と契約社員あわせて45名、アルバイトメンバーが160名になっています。
それまではフルタイムで動いているのは僕一人でした。事業が軌道に乗るまではリスクヘッジの意味もあり、エンジニアの業務委託メンバーとやっていたんです。

採用においては、人はミッションに共感して入ってくるものだと思っていたので、ミッションをきちんと固めてから採用をしたいという想いがありました。ミッションがしっかりしていれば組織や事業はあとからついてくると考えていました。
「あらゆる家庭から義務をなくす」とミッションが定まってから、採用面接ではその価値観に共感できるかをよく見ています。チームとして、1+12にするのではなく掛け算にしたい。そのためにも、ミッションに共感して、内的モチベーション、外的モチベーションの両方で納得した上で、事業に取り組んでいただける方と一緒に働きたいですね。

―サービスリリース後、事業の手応えはどう感じていますか。

検証期間が長かっただけあり、配達の初回からお客様から好評価をいただきました。毎週のアンケートでは「こういうのが欲しかった」「これを待っていた」という声が多く届きましたし、「2週目以降も続けたい」という家庭が9割ほどありました。

「 つくりおき.jp 」のサービス競合にはミールキットやデパ地下のお惣菜が一つとしてありますが、私たちがターゲットとしている共働き子育て世代にとっては「1週間分の調理されたものが自宅に届く」という点に価値があるのだと改めて感じています。

経験に基づいた現実的なアドバイスに助けられている

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前島氏(中央)、ジャフコ担当キャピタリストの宮川由香里(左)、松本孝之(右)

20216月にジャフコなどから融資を合わせて15億円の資金調達を実施されています。ジャフコからの資金調達を決めた理由とは?

我々のサービスは、一定の初期設備投資がなければサービスやエリア拡大ができないという性質があります。生産性を高め良質なものをお届けするためのセオリーが固まってきて、これからの拡大フェーズに向けて一緒にやれるVCさんが必要でした。

そこで、2020年春に、ご連絡をいただいていたジャフコの松本さんとお会いしたんです。数字を細かく見た上でのリスク観点が強く、とてもバランスが取れた方だなという印象がありました。多くの会社を見てこられた経験から、「こう動けば、こんなリスクが出る」といった具体的なアドバイスを都度、詳しく話していただけたのが決め手として大きかったです。

実は、これまでシード期、シリーズAと資金調達を重ねる中で見えてきた「VC に求めること一覧」を社内で持っているんです。リスク観点や、事業的な数値部分、ガバナンス、市況等の観点でコメントをいただけるか...とリスト化されていて、それを鑑みても、松本さんの的確さは非常に信頼できるなと感じました。

デューデリジェンス段階でも、中長期的な戦略の事業優先度にかかわる部分について「これからを考えると集客にかかる金額が大きいので、こうした方がいいのでは」等、問題提起もしていただきました。僕としては、事業計画や既存の継続率等は割といい数字だと思っていたのですが、まだまだ見えていない視点があったのだと学びがありました。

―出資を受けてからの関係性やサポート体制をどう見ていらっしゃいますか。

期待通りの手厚さです。改めて、サポート体制のリソースの潤沢さがジャフコさんの強みだなと感じています。これからは予算実績の管理がとても重要になってくるので、月次定例会ではKPIの達成状況やビハインドの理由、KPIに現れないリスク事項等の相談をさせていただいています。

採用サポートも本当にお世話になっていて、スカウトを送るための対象者リストアップやスカウト送信、エージェントの紹介もたくさんいただいています。有料集客の採用向けオンラインイベントの運営もお願いする等、私たちだけでは到底手が回らないことをやっていただけるのは本当に助かっています。

HR支援は、前島さんを含め経営陣の考えやカルチャー理解がかなり深くなければ難しい領域では? どのように目線合わせをしていますか。

デューデリジェンスの段階でかなり深く話をしていますし、採用担当メンバーとは継続的に、密にやり取りをしていただいています。
採用する人材に関しても、「今のステージではマルチに動ける人材が必要ですが、今後は年収が上がってもプロフェショナル人材を採った方がいい」等、ほかの投資先を参考にしたアドバイスもいただきます。松本さんは、「社長がより経営や事業に集中できるように、巻き取れるところは巻き取っていく」といつもおっしゃっていて、とても頼もしい存在ですね。


原体験もミッションも固まっていなくていい。決めて動いてみることが大事

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Antwayではどんな方が活躍されていて、これからどういう人材に仲間に入ってほしいとお考えですか。

ミッションに共感していることが前提にあり、プライドと自信のバランスが良い方が多いですね。これまで培ってきたスキルや経験に対して自信はあるけれど、過剰なプライドが無くフットワークが軽い方。アンラーニングが早い方がフィットしていると感じます。

具体的な人材では、大企業で510年やってきた中途の方がとても活躍しています。当社のサービスの特性上、設備や導線設計等は一度作るとやり直しがきかないので、大規模化して稼働したところを想像しながら作っていかなければいけません。大企業で拡大フェーズを見てきた人は、巨大サービスの開発・運営面ではどんな課題が起こるのか、予測して作ることができます。

大企業出身からスタートアップは難しいのでは...と思う方もいるかもしれませんが、当社においては、得てきた知見をすぐに生かせる環境があると思っています。

Antwayのミッションである「あらゆる家庭から義務をなくす」の実現のために、今後取り組みたいこととは?

まずは、「 つくりおき.jp 」の提供エリア拡大とサービス改善に取り組んでいきます。将来は「 つくりおき.jp 」以外にも、家庭の中にある課題を解決し、より豊かな生活を送れるようなサービスを提供していきたいです。「 つくりおき.jp 」には「ゆとりと発見」というテーマがあるので、どんなサービスがあれば、家庭にゆとりが生まれ、余白が出来ることで発見につながるのか。オプションプランのビジネス検証も始めています。

「 つくりおき.jp 」のお客様基盤や物流、倉庫設備をきっちりと作っていくことが、これからのサービス展開につながると思っています。

―起業家として大切にしてきた信念や考え方、志を教えてください。

志はミッションであり、自分が成し遂げたい社会像です。そこに嘘はつかないようにはしてきました。今やっていることがちゃんとミッションにつながっているか、その時々の都合で捻じ曲げていないか。「一意専心」の言葉を思い浮かべながら、常に意識していますね。

―最後に、これから起業家を目指す方へのメッセージやアドバイスをいただけますか。

周りの起業家を見て、「自分には原体験がないから無理」「ミッションを描けないから難しい」と思う方もいると思います。でも、現在の日本社会において、強烈な原体験を持っている人の方が少ないでしょう。
最初に挑戦するのは、ちょっと気になるトピックでもいいと思います。「これが気になる」と動いてみると、「やっぱり違った」と気づいたり「ここが課題かもしれない」と見えてきたりします。動けば動くほど先鋭化されていくので、まずは決めることと動くことが大事です。

最初からゴールが見えている起業家はいないし、ミッションが固まっている人もほとんどいないと思います。原体験はなくて当たり前。明日やることを決める、くらいの気軽さで一歩踏み出していただくといいと思います。