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経営コンサルタントを経て30歳で起業 「住宅」という巨大市場の常識を覆す
経営コンサルタントを経て30歳で起業 「住宅」という巨大市場の常識を覆す

起業を決めた背景や、事業が軌道に乗るまでの葛藤、事業を通じて実現したい想いを聞く「起業家の志」。
第17回は、注文住宅の無料相談窓口『auka(アウカ)』を運営するギバーテイクオール株式会社 代表取締役 河野清博氏にお話を伺いました。


【プロフィール】
ギバーテイクオール株式会社 代表取締役CEO 河野 清博(こうの・きよひろ)
2009年4月、日系コンサルティングファーム入社。リーマンショックで倒産企業が増える中、住宅不動産業界向けの現場主義・成果直結型のコンサルティングを経験。「戦略的中期経営計画策定」「商品開発」「営業力強化」「組織開発」など様々なテーマでコンサルティングを実施。2017年2月、ギバーテイクオール株式会社を創業し、代表取締役CEOに就任。2018年2月、熊本県に絞って、auka(アウカ)事業を立ち上げ。現在に至る。


What's ギバーテイクオール株式会社
人生の決断コストをゼロにする。人生で最も高い買い物と言われるマイホーム。自己所有を目的としたマイホーム用の住宅は毎年55万棟ほど建設されていますが、その購買プロセスは複雑さの極致と言えます。なぜならば、最適な住宅ローン選び、不動産物件探し、そして住宅メーカー選びという不可逆的かつ、情報格差も大きく、相互に影響しあう複雑系の意思決定をたった1か月で行う必要があるからです。住宅購入検討者と住宅メーカーのマッチング・プラットフォームであるauka(アウカ)は、住宅購入におけるプロセスをテクノロジーと人の力で再定義することで「人生に一度の買い物を、ボタン一つで実現できる世界」を創ります。


Portfolio




30歳までに起業する」を有言実行

ー河野様は企業経営学科を卒業されていますが、「起業したい」という想いは学生時代からあったのですか?

はい。30歳までに起業したいと思っていました。母の兄が花の苗の販売会社を経営していて、私も中学生の頃にそこでアルバイトをする等、昔から身近に経営者がいる環境だったんです。伯父が他界したとき、届いた献花のあまりの多さに衝撃を受け、「こんなに大勢の人に想われる仕事ってすごいな」と実感しました。その体験が今の起業家人生に繋がっています。


ー大学卒業後は日系コンサルティングファームを2社経験されていますね。

起業したいとは思っていたものの、何で起業するかまでは決まっていなかったので、まずは中小企業の経営者にたくさん会える仕事を選びました。入社した会社がたまたま住宅不動産業界に強く、新米コンサルタントの頃は住宅展示場で接客をしたり、分譲地販売支援の一環で草刈りをしたり、本当にイチから経験を積ませてもらいましたね。


2社目では、28歳で事業部長を任される等の華々しい活躍をされています。当時はどんなことを重視して組織をマネジメントしていましたか。

一人ひとりの強みを活かす=7割、弱点を克服する=3割という割合を大切にしていました。コンサルタントとして企業の中期経営計画を策定する中で実感していたのが、特にリソースの限られている中小企業の場合、「機会×強み」に8割のリソースを割かなければ会社は伸びないということ。組織にも同じことが言えると思いますが、たいていの会社は「自社が覚えてほしいこと」に社員を当てはめるやり方をとるので、組織が成長しません。

私は「株式会社」の後ろに部下の名前をつけ、一人ひとりを経営者と捉えて個人の強みを活かすことに注力しました。コンサルファームは年上の部下もたくさんいるのでマネジメントが大変なのですが、そのやり方で個人の力を伸ばし、他チームよりも圧倒的に活躍スピードが速いチームに育てることができました。

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ーその後、2017年に30歳で起業。まさに有言実行ですが、事業領域を住宅不動産に決めた理由は?

住宅不動産業界で働いてみて、「この業界に人生を捧げてもいい」と思えたからです。30歳を前に、地元の同級生がマイホームを買い始めました。私はこの業界が長いので、買った後に話を聞くと、どうしても「もったいないな」と感じるポイントが出てきてしまって。「別のハウスメーカーなら同じグレードの家をより安く買える」とか「この間取りは将来的に問題が起きそう」とか、もちろん本人には言えませんが、購入先を正しく比較検討する土台があればより良い意思決定ができるのに...と感じていました。

マイホームという高価な買い物にもかかわらず、意思決定に与えられるのはほんの短期間。買う理由も状況も全員違う中で、その人の気持ちを動かし、最高の意思決定ができるよう支援する。そのプロセスには大きなやりがいがあるだろうと確信しました。

経営コンサルタントはペーパー上で色々な判断をしますが、相手のために最後に踏ん張れるかどうかは、結局はその人の「顔」が浮かぶかどうかで決まります。同級生の話を聞き、私が救えるかもしれない人の顔が明確になった。その瞬間、「これならリスクを取ってでも起業という選択ができる」、そう思えたんです。


ー現在は注文住宅の無料相談サービスを展開されていますが、起業当初に立ち上げたのは別のサービスだったそうですね。

当時はシェアリングエコノミー市場が急拡大していたので、「家を建てたい人」と「家を建てた人」が情報交換できるマッチングサービスを始めました。最初に選んだ地域は熊本県。地震から少し経ち復興需要があったことと、熊本県は阿蘇と天草を除くと1エリアに集約されるためマーケティングがしやすいと考えたことが理由です。

ただ、ユーザー同士が実際に家を見学できる距離に住んでいないと成り立たないためサービスがなかなか立ち上がらず、半年でピボットすることに。ビジネスプランの検討に1年しかかけなかったので、今思うと甘かったですね。


ー創業はお一人ですか?

はい。システム開発は外注していました。でもそれでは駄目だと思い、ビジネスマッチングアプリで出会った人に優秀なエンジニアの情報を聞いてまわったら、複数人が同じエンジニアの名前を挙げたんです。それが現在当社で取締役CTOを務めている泉森達也。さっそく紹介してもらい、システムの問題点を泉森に相談していたのですが、その後入社してもらえることに。入社1日目に彼にお願いした仕事が、1つ目のサービスのコード破棄でした...(笑)。



ユーザーの声をヒントに生まれた『auka

ー注文住宅の無料相談窓口『auka』はどのように生まれたサービスなのでしょうか。

実はその前にもう1つサービスを立ち上げていて、それは注文住宅を買いたい人のための「メディア」という立ち位置のものでした。購入者インタビュー等を掲載し、メディア上で工務店やハウスメーカーに予約が取れるというサービスです。ただ、メディアからいきなり特定の会社に予約を入れるのはユーザーにとってハードルが高い。私自身もメディア出身ではないので思いきった事業展開ができず、なかなか軌道に乗せられませんでした。

悩む私にアドバイスをくださったのは、日頃からよく相談していたエンジェル投資家の方々。「河野さんはメディア事業で本当に踏ん張れるの?」と聞かれてハッとしましたね。私の強みは、ユーザーと相対して行動変容を促し、正しい方向へ導けること。メディアではその強みを活かしきれません。ただ、熊本県内のユーザーや工務店のリストは取れてきていたので、その資産も活かせるピボットが理想的でした。そこで、ユーザーの方々に電話してニーズを直接ヒアリングしてみたんです。


ー地道ですが確実な戦法ですね。そこで収集したユーザーの声が『auka』誕生のヒントになったと。

はい。ユーザーと工務店との間にコーディネーターが介在していれば、マッチングが起こり来店に繋がりやすいということがわかりました。まずは現行サイトの「予約」ボタンを「相談」に変えてみたところ、それだけで月10件の問い合わせがあり、電話相談から4割がアポイントに繋がりました。そこから1年ほどかけて現在の相談サービスの形に切り替えていき、今では月20件が成約まで結びついています。


ー具体的にはどんな流れでサービスをつくっていったのでしょう。

相談を受けるには専門知識が必要なので、当初は私ともう一人の社員のみで受けていましたが、コーディネーターを増やすために相談前にアンケートを取る仕組みを導入しました。30問というボリュームにもかかわらず丁寧に回答してくださる方が多く、電話相談の品質がみるみる安定していきました。また、家を購入するまでには3ヶ月ほどかかりますが、成約までしっかりフォローすることが重要になるので、LINEでフォローする仕組みも導入。現在はアンケート回答もLINEでできるようにしています。

オペレーションが長期間にわたるサービスのため、「どのデータが取れればどのKPIが改善されるか」というコンサル時代の知見をフルに活かしたオペレーション構築も工夫ポイント。ユーザーのマイページ情報、コーディネーターの入力情報、工務店の営業スタッフの入力情報をすべて連携し、ユーザーごとにデータが集約されて溜まっていく形にしており、コーディネーターの対応数や成約率は向上しています。また、「この属性のお客様がこの工務店に行くと満足度が高い」「この営業スタッフはこの分野が得意」といったデータはどの会社も持っていないので、これらのデータをメディアに転用して独自の情報を掲載できれば、反響もさらに拡大できると考えています。

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ー現在、サービス展開エリアはどれくらいまで拡大していますか。

事業がまわり始めているのは9エリア。メディア構築や広告がスタートしているところを含めると16エリアまで拡大しています。戸建て購入のニーズがある地方商圏、かつ熊本のように商圏が分断されていないエリアが中心。ご紹介する工務店様の選定にあたっては、施工品質や価格、アフターフォローといった独自の指標を設け、1エリアあたり530社ほどと提携しています。


ー工務店から見た御社の強みはどういった点にあるのでしょうか。

他の紹介型サービスと比べて「事前情報が豊富なので商談を組み立てやすい」「サービスフォローが丁寧」「スマホでサクッとやりとりできるので忙しいときに便利」といった感想をいただいています。成約した際に成功報酬をいただく仕組みなのですが、通常のカウンターセールスでかかるコストの半額ほどで済むケースも多く、「自社で直接営業するより安い」と言っていただけることも多いです。


住宅業界は今、デジタル化が始まる「黎明期」

2019年のプレシリーズAに続き、20218月にはジャフコのリード投資による資金調達を完了されました。今回の資金調達の目的は?

エリア拡大に注力するためです。向こう1年で21エリアへの拡大を目指しています。既存エリアの実績を踏まえると、事業単体のエコノミクスは成立することがわかりました。そこでまずはエリアを拡大し、データをさらに蓄積してから、地域のいい工務店がどんどん使ってくれるサイクルを作って成約率向上に結びつけていきたいと考えています。


ージャフコから投資を受けた経緯についてお聞かせください。

きっかけは、プレシリーズAに投資いただいたマネックスベンチャーズの和田社長からの紹介です。キャピタリストの小沼さんと初めて面談させていただいたとき、雰囲気が自分と合いそうだと感じ、嬉しくて和田さんに感謝のメッセージを送ったことを憶えています。

当社の事業領域は、いわゆるAIやブロックチェーンのように"キラキラ"している領域ではありません。大手企業も多く一見完成しているように見えるマーケットですが、実はユーザーも工務店も満足しきれていない部分が多々あり、そこに寄り添うような地道な事業です。そういう領域が心から好きで、可能性を感じてくれるキャピタリストにお願いしたいと考えていましたが、小沼さんがそういう方だというのは初回面談ですぐにわかりました。それ以降の検討もスピーディに進めてくださり、他に1015社ほど検討した中でジャフコさんにお願いすることにしました。

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河野氏とジャフコ担当キャピタリストの小沼晴義(左)


ー今後はどのような支援を受けていく予定ですか。

優先順位が高いのは、幹部クラスの採用支援。プレイヤー採用の仕組みはできていますが、シリーズA以降は管理職採用が必須になります。ジャフコさんのHR支援チームにご協力いただいているのですが、まだ数回しかミーティングを実施していないにもかかわらず、密度の高さや段取りの良さに感激しています。


ー組織づくりや採用ではどんなことを重視していきたいですか。

当社はコロナ禍前からリモート勤務を導入しており、現在はフルリモートです。オンライン組織は自立した集団でなければ成立しませんが、自立しているからと言って他人に関心を示さないのは組織の一員として問題。全社員と1 on 1を定期的に実施し、「自分の仕事は高い基準でやり切ろう」かつ「困った人がいたら助けよう」とメッセージしています。難しいオーダーではありますが、組織マネジメントは漢方的に効いてくるものだと思っているので、フィロソフィーをブラさずに伝え続けることにこだわっています。

当社は今、大きなチャンスの中にいます。「ネットで服は売れない」という常識をZOZOが覆して浸透させたように、複雑性の高い産業にマーケットプレイスが参入してデジタル化する流れは近年勢いを増しています。私は自社をマネージド・マーケットプレイスと捉えていますが、住宅業界という巨大市場は今まさにデジタル化が始まるタイミング。この黎明期に大きな挑戦をしたいという方に、ぜひジョインしていただきたいですね。


人生の決断コストをゼロにする

ー会社の長期的な展望について教えてください。

202512月のIPOを目標に、それまでに年間1000億円の流通額、家に換算すると年間5000棟の達成を目指します。マーケットプレイスとしては流通総額をいかに増やしていくかが重要なので、将来的には高単価長期検討商材の領域において流通総額2兆円を目指していきます。

当社のミッションは「人生の決断コストをゼロにする」。また、それを実現することで「人生に一度の買い物を、ボタン一つで実現する世界」を創ることです。家を購入する際、「情報収集」「調整交渉」「信頼形成」「意思決定」という4つのコストがかかりますが、従来の住宅情報メディアがカバーするのは情報に関わるコストのみ。私たちは、人が介在するマネージド・マーケットプレイスという特性を活かして決断コストを極力ゼロに近づけ、家をより安心して買える世の中を作っていきます。また、人生では住宅以外にも、子どもの保険や親の介護をはじめとする大きな決断シーンがたくさんあります。相談前アンケートでは家族構成や年収等の情報をいただくため、その情報を活用して将来起こりうる問題を解決していくことができれば、お客様の生涯を通して決断コスト削減のお手伝いができると考えています。

もし弊社に共感していただける点があった方は、中途採用をしておりますので、こちらからホームページもご覧いただけると嬉しいです(笑)。

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ー河野様の「起業家としての志」を改めてお聞かせいただけますか。

人の気持ちが変わっていくプロセスが好きなので、やはり人生の決断を支援することが私の使命だと思っています。『auka』を通じていただいたご縁を派生させて、その方の人生の収支がプラスになる決断、QOLが上がる決断、そして災害・環境問題にもいい影響を与える決断へと導いていきたいです。


ー最後に、未来の起業家の皆様にメッセージをお願いします。

私が大事だと思うのは「まずやってみる」こと。考えることには意味がありますが、悩んでいるときに思考を巡らせても前進しないので、もし悩んでいるのなら一度起業してみることをお勧めします。成功している起業家の方々はみんな、悩まずに動ける人。「今」がいつでも一番若いということを忘れず、ぜひ行動してみてください。