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日本酒で未来をつくる。誰よりも考え行動し尽くした自信が、新たなマーケットを拓いた
日本酒で未来をつくる。誰よりも考え行動し尽くした自信が、新たなマーケットを拓いた

起業を決めた背景や、事業が軌道に乗るまでの葛藤、事業を通じて実現したい想いを聞く「起業家の志」。第15回は、株式会社Clear 代表取締役社長の生駒龍史氏にお話を伺いました。


【プロフィール】
株式会社Clear 代表取締役社長 生駒龍史(いこま・りゅうじ)
大学卒業後、2年間の社会人経験を経て独立。2013年にClear Inc.を創業。「日本酒の未来をつくる」をビジョンに掲げ、日本酒に特化した事業を展開する。


【What's株式会社Clear】
2013年創業。「日本酒の可能性に挑戦し、未知の市場を切り拓く」をミッションに、日本酒に特化した事業を展開する。2014年より国内最大規模の日本酒専門WEBメディア「SAKETIMES」を運営。2018年より、日本酒におけるラグジュアリーマーケットの確立を目指し、日本酒ブランド「SAKE HUNDRED(サケハンドレッド)」を運営。世界的コンクールでの受賞をはじめ国内外の一流シェフやソムリエに認められ、業界では不可能と言われていた高価格マーケットの開拓を進めている。20215月に、ジャフコ グループをリードインベスターとした総額約13億円の資金調達を実施。「SAKE HUNDRED」海外進出強化を目指している。

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日本酒の魅力にハマった。それがすべてのスタート地点

―「日本酒」に特化した事業を始めようと思った、起業のきっかけを教えてください。

理由はシンプルで、日本酒に心底、魅了されたからです。
きっかけは、25歳のとき。大学時代の友人からの誘いでした。彼の実家は、千葉県にある日本酒に特化した酒蔵でした。家業を継ぐにあたり、「これから日本酒を広げていくには、ECが必要だ」と、ECサイト運営の経験があった僕に声をかけてきてくれたんです。

もともと酒に弱く、日本酒が苦手だったので、「好きでもないものは売れない」と断りかけました。そうしたら、「1本美味しい日本酒を持っていくから、良いなと思ったら一緒にやろう」と言ってきた。そして飲んだのが、熊本県酒造研究所の「香露」というお酒でした。

その美味しさに、衝撃を受けました。調べてみると、全国の酒蔵が使っている「9号酵母」という素晴らしい酵母を輩出したのが熊本県酒造研究所だということがわかりました。お酒自体の知名度は高くなかったのですが、伝説的ともいわれる酵母を分離させた酒蔵だったのです。日本酒の奥深さに魅了され、日本酒で事業を起こそうと思いました。


―どんな点から、事業化できると考えましたか。

日本酒業界は伝統農業品で連綿と続いてきた技術や知識がありますが、それがほとんど知られておらず、新規参入がありません。Webの活用もできておらず、顧客層の開拓が進まないので売上が下がり続けています。でも、きちんと良さを伝えれば、海外需要も期待できる。友人の伝手で酒蔵に行って話を聞くと、「こんな付加価値がある!」と魅力がどんどん掘り出されるし、少し調べただけで、改善すべき課題と、それを上回る可能性がたくさん出てきました。


―もともと、起業家になりたいという想いはあったのでしょうか。

サラリーマン時代から個人でECサイト運営をしていて、自分で事業をやってみたい、力を試してみたいという想いはありました。僕は、新卒で入った会社を1か月半で辞めているんです。それが僕にとって強烈な挫折体験でした。周りの友人は楽しそうに社会人生活を送っているのに、自分だけ、友人と交換できる名刺もない。組織でやっていけるのか不安があり、「将来は自分でビジネスをやるしかない」という気持ちが芽生えていきました。幸運にも、美味しい日本酒に出会え、夢中で調べたい、もっと知りたいと思えるものが見つかった。それならば、「自分の力で何かをやり遂げたい」という気持ちを、この日本酒に乗せてみようと思いました。

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2014年から日本酒専門Webメディア「SAKETIMES」を、2018年から日本酒のラグジュアリーブランド「SAKE HUNDRED」を運営されています。日本酒に魅了されてから、どのように事業を立ち上げていったのでしょう。

創業前に遡りますが、2011年に日本酒に出会い、2012年からSAKELIFEという日本酒のサブスク事業を始めました。売上面では小規模でしたが、イベントを開催すれば美味しいお酒を介して人が繋がっていく手ごたえがあった。「やっぱり日本酒にはニーズがある」と、翌年に株式会社Clearを創業しました。日本酒を手にしたお客様が「美味しい」と喜んでくれた姿が、僕の成功体験になりました。Webメディアを使ってもう一度日本酒の事業にトライしようと、「SAKETIMES」を立ち上げました。


―「SAKETIMES」で何を実現したいと考えていましたか。

日本酒の世界に数年身を置いて感じたのが、情報収集のハードルが高い、ということでした。
日本酒は、コンビニでも酒屋でもスーパーでも手に入る。商品の流通はあるけれど、ほしい情報にはなかなか辿り着けません。そこで、情報の流通に革新を起こそうと考えました。メディア運営は、初期費用は抑えられますがマネタイズできるまでに時間もかかります。ただ、記事の品質、ユーザー数、PV数、エンゲージメントで一定条件が揃えば、企業がお金を払う価値を見出してくれる。良いメディアを作れば、結果はついてくるという自信がありました。


こんなに美味しいものなのに対価が安すぎる。放置されてきた業界課題に向き合った

―日本酒のラグジュアリーマーケット開拓を目指す「SAKE HUNDRED」の構想は、どのように生まれましたか。

SAKETIMESの取材、撮影のために、全国や海外の酒蔵を回ったことが大きかったです。
日本酒づくりの技術の高さ、作り手の想いの深さ、美味しさ、料理との相性...。取材を重ねるほどにリスペクトが強くなり、可能性をどんどん確信していきました。でも同時に、課題もたくさん見えてきました。薄利多売のビジネスで、価格の幅がないため、「良いものをより安く」が加速していく。安いものしかない、という重大な業界課題がありました。

日本酒は、1973年から生産量が下がり続け、酒蔵は今も毎月3社が廃業しています。「こんなに素晴らしいものを、誰も飲んでいない」「きちんとした対価が払われていない」ということが、日本酒に心底敬意を持つ僕には許せなかった。安い商品があってもいいけれど、もっと高価なものがあってもいいはずです。お酒を売ることで直接、市場を作りたいという想いが大きくなっていきました。


―ラグジュアリーブランド「SAKE HUNDRED」は、会員数を順調に伸ばしています。

海外で見た2つの景色が、日本酒の新しいマーケットに可能性を抱くきっかけになりました。一つは、2016年にアメリカ・カリフォルニアの米国月桂冠を取材で訪れたとき。屈強なアメリカ人従業員たちが日本酒を丁寧に作っていて、地元の地酒として、月桂冠が完全に土着化していた。日本酒のグローバル化はまだまだこれからという先入観が壊されました。もう一つは、2017年に香港に行ったときに、日本酒1本が40万~50万で取引されていたことです。いろんな間接価格が入っていたものの、海外で日本酒にこれだけお金を払う人がいるという事実に将来性を感じました。これらの手ごたえに加え、「僕が"行ける"と思っているから大丈夫」という感覚は常にありました。

僕は、「僕自身が信じていることが何よりも大事である」という信念を大切にしています。もちろん、経営者なのでマーケット情報は見ます。でも、市場の顕在化や誰が支持しているかではなく、"これだけ日本酒のことを考え、勉強し、酒蔵を訪れ、飲んで体験している自分"が、一番の担保になっているんです。


―業界からの反響はいかがでしたか。

SAKETIMESで築いてきた関係性があったので、高価格帯マーケットの必要性に賛同いただく声も多くありました。
実際にSAKE HUNDREDを一緒に手掛ける酒蔵さんには「生駒さんたちと仕事をしてから、日本酒ってすごいんだなと誇りに思えるようになりました」と言っていただけた。寄せられる期待にいつも背中を押されています。今では、全国の有名な酒蔵さんから「一緒にやりませんか」と連絡をいただきます。少数精鋭のラインナップでいく方針のため、お断りするケースが多いのですが、オファーをいただけるようなブランドになっていることに身が引き締まります。


肯定し、素早く助言をくれる。ジャフコとの信頼関係に背中を押されている

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生駒氏とジャフコ担当キャピタリストの赤川嘉和(左)


20215月にジャフコをリードインベスターに約13億円の資金調達を実施しました。ジャフコを選んだ理由は何でしたか。

一つは、担当キャピタリスト・赤川さんの接し方が心地よかったことです。「良い事業ですね」とさわやかに肯定してくれて、課題についても「それはこれから考えていけばいいことです」と返してくれる。話がどんどん前に向かっていって、気持ち良い方だなと思いました。戦略的な話では、IPOに向けて、ジャフコという大看板の後押しには大きな意味があると考えました。

僕はそれまで「生駒という人間の魅力に投資する」と言ってもらえることが多かったんです。嬉しい反面、「事業を見てほしい!」という悔しさもあった。まだ海のものとも山のものともわからないスタートアップですが、ここで王道のジャフコさんに出資いただくことで、事業自体が社会的な認知を得られるようになると考えました。


―ジャフコ側は、Clearのどんなところに可能性を見出したのでしょう。

デューデリジェンスの過程で、担当の赤川さんが地方の酒蔵に行ったことがありました。そのときに赤川さんが「何代も続いている酒蔵さんの想いを理解しながら、事業を推進している」と言っていたんです。その後、会社やブランドとしての長期的なビジョンを感じた、と言っていただけた。酒蔵に行ったことが一つのターニングポイントだったかもしれません。

もう一つは、メンバーだと思います。成長のステージに応じて、必要な人がちゃんと入ってきて仲間が増えてきた。採用によって、会社が着実に強くなってきた感覚があります。赤川さんにも「スキルセットが明確な人材、優秀なメンバーが次々に参画している」と評価していただきました。


―人材獲得は多くのスタートアップにとって重大課題です。採用がうまくいった要因、工夫されてきたことは何ですか。

採用では、日本酒の事業に興味があるかという大前提の上で、スキルフィット、カルチャーフィット、マインドセットの3点を見ています。職能経験や実績に加え、成長意欲があり、謙虚に内省しながら課題を見出し、でも大胆に動ける人かどうか。Clearには心穏やかな良い人が集まっているので、その平和な空気感とのマッチングはよく見ています。採用される側にとっても、合わないカルチャーに入るのは不幸です。個人と企業双方が、合うか合わないかを明確に選べるように、カルチャーを言語化しておくことが大切です。


―起業されたときから、カルチャー形成に向けて具体的な取り組みがあったのでしょうか。

そうですね。意思決定のプロセスにメンバーを巻き込み、社員が5人だったときから「Clearらしさとは何か」の言語化をしてきました。ビジョン、ミッション、バリューも一緒に考えたことで、メンバー全員にとって自分事化され、決まった内容に納得感が生まれます。

事業には「人、金、モノ」が必要ですが、お金やモノにはそれ以上の価値が生まれません。でも、人間にはモチベーションという変数がある。100のスキル持っている人間でも20のモチベーションしかなければ20しか発揮できない。人間だけが日々のケアがないとパフォーマンスが安定しないという特性を持っています。

だからこそ、パフォーマンスに影響するやる気や楽しさを維持する施策が、会社には求められます。これが、なぜ「人」が大事か、なぜカルチャーが必要なのかという根本の考え方だと思います。

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―投資を受けた今、ジャフコとはどんなやり取りがありますか。

大きな金額を投資していただいたので、ある程度の干渉があることは覚悟していました。でも、思った以上に、今までと変わらずにのびのびやらせてもらっています。

課題はたくさんありますが、自分たちの至らなさは常に感じていて、それをジャフコさんにも見せ続けている。「課題を理解して、向き合って、事業を伸ばす努力をしている」と行動で示すことが、信頼関係に繋がると思っています。

赤川さんは、僕が事業について一番考え抜いている、ということを尊重してくれます。スタートアップを多く見てきた経験があるからこそ、やりやすいのかもしれません。課題を相談したら解決のアイデアをポンと出してくれたり、こちらが意思決定したことについて、素早く肯定して行動を促してくれたり。引っ張るわけでもなく押すわけでもなく、何気なく背中に手を添えてくれるイメージですね。


世界は"意志"で出来ている。信じるに足る自分がいるかが大事

―これから実現したいことを教えてください。

まずは日本酒発祥の地である日本で、もっと魅力を知ってもらいたい。その上で、海外戦略に力を入れていきたいです。マーケット規模が海外は全然違いますので、「日本酒の未来をつくる」というビジョン実現に、海外進出は欠かせません。ただ、日本人が評価していないものを、海外に広げてから逆輸入という形にはしたくない。日本で誇りになっているから安心して買えると思うので、「まずは国内で」という順番にはこだわりがあります。

美味しいものは万国共通なので、海外の方に飲んでいただければ、価値が伝わる自信はあります。商習慣の違いや配送のタイムラグ等の物理的なハードルも多いので、どう解決するかが目下の課題ですね。


―起業家として、一貫して大事にしてきたことや信念はありますか。

僕は、「世界は意志で出来ている」と信じています。
世の中をこうしていきたい、こういうものを作りたいという一人の意志がすべての始まりで、うねりが大きくなることで世界が変わっていく。今の世の中は、意志の集合体だと思っています。

新しいことを始めようとすると「そんなの無理」「できないよ」と言う人は必ずいます。僕もさんざん言われましたが、いつも「やったことがないのになぜ言えるのだろう」と不思議でした。僕が誰よりも頭を使って行動しているのだから、他の人の意見に左右される必要はないと思うようになりました。大きな金額を預かっている起業家として失敗は許されませんが、数字や情報よりも、最後は意志があるかが大事。できるかできないかよりも、やれると思っているか。自分が決めて、続けていれば大丈夫という強い気持ちがあります。


―これから起業家を目指す方へのメッセージやアドバイスはありますか。

信じてやったからといってうまくいくとは限りません。でも、信じ切ってやり切らないでうまくいくはずがない。自分の気持ちを信じてほしいし、信じるに足る自分でい続ける努力は永遠に必要だと思います。考えて、悩み、仕上げて、そして楽しむことをずっと続けていってほしいですね。

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