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大企業のアセット×スタートアップのスピード&技術力! JR東日本のオープンイノベーションとは
大企業のアセット×スタートアップのスピード&技術力! JR東日本のオープンイノベーションとは

ジャフコは、スタートアップの価値向上を目指し、スタートアップと大手企業とのビジネスマッチングに力を入れています。最先端技術を持ったスタートアップと、資金面や人的リソースの豊富な企業との連携をもっと促進できないか――。オープンイノベーションへの課題感から企画されたのが、今回の「&JAFCO meet up Innovators」シリーズです。

第1回目には、JR東日本からジョイントベンチャーを発信したケースを紹介。どんな壁を乗り越え、事業の立ち上げに至ったのか、株式会社TOUCH TO GO 代表取締役 兼 JR東日本スタートアップ株式会社 シニアマネージャーの阿久津智紀氏に話を聞きました。


【プロフィール】
代表取締役 阿久津智紀 (あくつ・ともき)
1982年、栃木県生まれ。2004JR東日本へ入社。駅ナカコンビニNEWDAYSの店⾧や、青森でのシードル工房「A-FACTORY」、JR東日本グループの共通ポイント「JRE POINT」の立ち上げ等を経て、2017年にベンチャー企業とのアクセラレーションプログラム「JR東日本スタートアッププログラム」を立ち上げ、20182月にJR東日本100%出資のコーポレートベンチャーキャピタル「JR東日本スタートアップ株式会社」の設立を担当。現在、出資業務とプログラムの運営を担当。20197月にサインポスト株式会社とのジョイントベンチャー「株式会社TOUCH TO GO」の代表として会社設立し、20203月に高輪ゲートウェイ駅で無人AI決済店舗を開業、現在、省人化のシステムソリューションの開発を行っている。


【What's 株式会社TOUCH TO GO】
日本で唯一実用化されている省人化・無人決済店舗システムを開発する、JR東日本スタートアップ株式会社とサインポスト株式会社による合弁会社。JR東日本スタートアップが主催するスタートアッププログラムの中で、"お客さまへのサービス向上、従業員の働き方改革や人手不足の解消"を目的に無人AI決済店舗の開発・協業がスタートし、大宮駅と赤羽駅を活用した実証実験を経て、設立にいたる。今後は、最先端のIT技術、デバイス開発力、オペレーションノウハウを活かして、小売店舗の労働力不足、地域店舗の維持等の課題を解決する無人決済システムソリューションを展開していく。


<ファシリテーター>
ジャフコ グループ株式会社 西中 孝幸(にしなか・たかゆき)
2006年新卒でジャフコに入社。入社後は投資部門に配属され、投資業務を2年経験。2008年からファンド組成・資金調達・投資家対応業務に従事。2013年に日本M&Aセンターに出向し、M&A仲介業務で5件のディールを担当。2014年からビジネスディベロプメントGにて、投資先支援(営業、マーケティング、採用)に携わる。

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新規事業立ち上げのスピード感を上げるべく、アクセラレーションプログラムを導入

西中 20197月にJR東日本発のジョイントベンチャー、株式会社TOUCH TO GOを設立されています。20203月には、高輪ゲートウェイ駅での無人AI決済店舗を開業し話題になりました。会社設立に至った経緯を、阿久津さんのご経歴と合わせて教えてください。


阿久津 2004年にJR東日本へ入社し、現在もJR東日本に在籍しながら、株式会社TOUCH TO GOの代表を務めています。入社以来、一貫して鉄道"周辺"事業に携わってきました。駅ナカコンビニNEWDAYSの店⾧を2年経験後、青森での新規事業としてシードル工房「A-FACTORY」を立ち上げ、JR東日本グループの共通ポイント「JRE POINT」、飲料自販機新会社(JR東日本ウォータービジネス)の立ち上げに携わる等、20代の頃から、驚くほどの裁量権を与えてもらいました。

そして、2017年にベンチャー企業とのアクセラレーションプログラム(※)「JR東日本スタートアッププログラム」をスタート。翌年2月にはJR東日本100%出資のコーポレートベンチャーキャピタル「JR東日本スタートアップ株式会社」を設立しました。

(※)大手企業がスタートアップ企業に対して開催する、協業・出資を目的とした募集プログラム


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西中 アクセラレーションプログラムを始めたきっかけは何でしたか。


阿久津 ドイツ出張で目にしたアクセラレーションプログラムのあり方に「これだ!」と感銘を受けました。新規事業立ち上げにおいてはスピード感が重要ですが、大きな組織での事業立案は、資料作成から予算確保、要件定義等を経ると実装まで3年ほどかかります。スタートアップ界隈では、3年も経てば新しい技術は陳腐化し、世の中は変わっている。変化に合わせて動くには、オープンイノベーションの体制づくりが欠かせないと思いました。

JR東日本スタートアップを設立したのは、コーポレートベンチャーキャピタル(CVC)としてグループ会社化することで、既存の社内制度にとらわれない迅速な動きを促進するためです。JR東日本のアセットと、スタートアップの技術力を組みあわせることで早期の事業化と社会実装を実現することが目的でした。CVCには、得意領域の異なる8人のメンバーがいて、それぞれが解決したい課題を提示し、その解決に繋がる技術やサービスアイデアのあるスタートアップを募っています。


西中 株式会社TOUCH TO GOはどう生まれましたか。


阿久津 2017年のスタートアッププログラムの中で、金融コンサルを手掛けるサインポストさんと出会い、無人AI決済店舗の開発・協業がスタート。大宮での無人AI決済店舗の実証実験まで進めることができました。赤羽での二度目の実証実験では、直前までシステムトラブルが生じる等、反省点ばかりでしたが、ユーザーから「よくチャレンジした!」という好意的な声が多く寄せられました。社会ニーズに手ごたえを感じ、自分事としてリスクを取ろうと、会社設立を決めました。

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西中 数ある新規事業のアイデアの中から、無人決済システムにフォーカスした理由とは?


阿久津 構想に触れた当初から、TOUCH TO GOの無人決済システムは、「今までの買い物行動のままサービス導入できる」点で、価値になるという肌感覚がありました。以前手掛けた飲料自販機では、食べ物の販売にもチャレンジしましたが、事業化は難しかった。ユーザーにとって、お店で手に取って選ぶプロセスが重要なのだと気づかされました。TOUCH TO GOは、「お店の陳列棚から商品を取って買う」というこれまでの購買行動を何も変えずに無人決済が可能です。カメラのトラッキング機能から、買った物の明細が自動作成されるので、一つひとつの商品にバーコードリーダーをかざす手間もかかりません。

また、僕自身がコンビニでのレジ打ちをやっていたときに「この単純作業を削減できたらいいのに」というもどかしさをいつも抱えていました。現場の働く側の視点と、ユーザーペインに触れてきた経験があったから、ニーズを感じ取れたのでしょう。もし、自分に現場経験がなかったら、実証実験でシステムトラブルが生じた時点で、事業化を諦めていたかもしれません。実際に、システム導入した飲食店のアルバイトスタッフに「レジ打ちがないのがとても楽!」「飲食物をつくるだけでいいのはすばらしい!」と言われたことがあり、自分の感覚は間違っていなかったと嬉しくなりました。


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西中 TOUCH TO GOの事業に、どんな可能性を感じていますか。


阿久津 無人決済システムによる「省人化・省力化」は、サービス業において深刻な人出不足の課題解決に繋がります。人件費を削減することで採算性が取れる店舗も増えるでしょう。さらに、事業開始と同時にコロナが広がり、非対面・非接触の価値が一気に高まりました。オフィスビル内の売店や高速道路のサービスエリア、地方のガソリンスタンド、感染リスクの高い病院内の売店等からもお声がけいただくようになり、2021年春にはファミリーマートさんとの業務提携もスタート。今のニーズを追い風に、世界のマイクロマーケットに挑戦していこうと考えています。大企業発の新規サービス創出におけるロールモデルになりたい、との想いも強くあります。大企業のアセットを使いながら成長していくスタートアップは、日本社会に合っていると考えており、それらを代表する1社として、IPOを目指していきます。



スタートアップも企業側も「同じチーム」として動く

西中 開発スピードを上げていくのは、オープンイノベーションの理想のあり方の一つです。でも、やってみたらスタートアップのスピードについていけない...等、理想と現実のギャップもありそうです。


阿久津 理想と現実のギャップを埋めるキーは、結局は"人"だと思います。「こういう案件がきたら、この人とやろう」等、決め打ちできる人脈を持っておくことが大事。会社のアセットにアクセスしやすいよう日々の人間関係をどう作れるか、泥臭く、グループ会社横断で動き回っています。ジョイントベンチャーを作る以上、大企業もスタートアップも「同じチーム」として動ける関係性が理想ですよね。社内資料を作成する際は、スタートアップ側になったつもりで「一緒に作っていこう」というスタンスでいます。


西中 すばらしい姿勢ですね。ジャフコでも、スタートアップと大手企業とのビジネスマッチングを進めていますが、スタートアップ側が企業とどう関係性を築けば良いのか、経験がなく戸惑うケースが多いです。


阿久津 そうですよね。そこで大事なのは、自分たちの課題が何か、何がやりたいのかを明確に持っていくことだと思います。実現したいことをちゃんと伝えて、それにアジャストしないのなら仕方ない。もしアジャストする技術があるのなら、こちらがそれをどう活用できるのか。資金面や人材面でどんなアセットが用意されているのかを伝え、技術開発イメージを具体的に提案する等、歩み寄りが必要でしょう。その後のスムーズな協業のためにも、ステークホルダーみんなが共有できる資料作りはとても重要です。


西中 ジョイントベンチャー立ち上げにあたり、社内の様々な風当りをどうクリアし、会社設立に至ったのでしょう。


阿久津 CVCの上司と2~3カ月ほど社内の説明に回り、出てきた指摘は一つひとつ淡々と打ち返していく。その繰り返しです。特許はどうするのか、新会社設立でグループ会社とのコンフリクトは生じないか等の疑問に、資料を作成して回答を続けました。小売業のシステムソリューションは、本業とのバッティングがなく、指摘受ける項目は比較的少なかったと思います。それでも、コンセンサスをとるまでに3カ月はかかりました。


西中 真摯に回答して臨むことが、唯一の方法なんですね。


阿久津 そうですね。僕は「予算をとる」という表現が好きではなくて、「事業に出資していただく」という意識を大事にしています。出資を受ける以上はきちんと説明しなくてはいけないし誠意を尽くさないといけない。納得いただけるまで答えるのは、当たり前の説明プロセスだと思っています。


西中 なるほど。スタートアップ側の視点でも企業側の視点でも、「出資いただく」のは変わらないというスタンスに、とても納得感があります。本日は、参考になるお話をありがとうございました。「&JAFCO meet up Innovators」はいかがでしたでしょうか。本シリーズでは、今後もオープンイノベーションに関する様々なトレンドや事例をご紹介していきたいと思いますので次回もぜひご覧いただけたらと思います。