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若手人材が輝く組織の共通項とは?  DX事業を展開するスタートアップに学ぶ、「ビジョン浸透」のやり方
若手人材が輝く組織の共通項とは? DX事業を展開するスタートアップに学ぶ、「ビジョン浸透」のやり方

ジャフコでは、起業家や人事の皆様が悩みながらも挑戦し続けている「人と組織」に関するテーマについて、成長スタートアップの方々をお招きして定期的なセミナーを開催しています。今回のテーマは「ビジョンを浸透・体現し続ける組織」。20代が中心となってビジョンを体現し続けている2社からゲストをお迎えして実施しました。


【登壇者プロフィール】(敬称略)

<ゲスト>

株式会社Gaudiy 代表取締役CEO 石川 裕也(いしかわ・ゆうや)
10代から先端テクノロジー業界で事業開発を経験。2018年、株式会社Gaudiyを創業、ブロックチェーン技術を用いたアプリ開発とブロックチェーンDX事業を展開。国内海外の大手企業等と多くのブロックチェーンに関する共同事業を展開。数億の資金調達済み。個人では、大手企業でアドバイザーや技術顧問を兼任。直近では、経済学者で慶大・坂井教授と共にブロックチェーンを活用したオークションに関する論文「A Two-stage ascending auction protocol for digital goods」を発表した。


株式会社ZEALS 執行役員 渡邊 大介(わたなべ・だいすけ)
2006年にサイバーエージェントに新卒入社。アカウントプランナーとして大手ナショナルクライアントの戦略立案に従事。その後、複数の新規事業起ち上げたのちに2014年からは同社の新卒採用・育成責任者に就任し、マーケティング思考を取り入れた新機軸の採用戦略を構築。「トライアウト」や「DRAFT」等のサイバーエージェント社独自の採用手法や名物インターンを立ち上げた。2017年からは、人事経験と広告経験を活かし、リクルートとサイバーエージェントのHR Tech系ジョイント・ベンチャーの株式会社ヒューマンキャピタルテクノロジーを設立。取締役に就任。短期間での事業成長を遂げた後に、202011月、ジールスに参画し、マーケティング、セールス領域の執行役員として日夜奮闘中。


<ファシリテーター>

ジャフコ グループ株式会社 金沢 慎太郎(かなざわ・しんたろう)
株式会社ワークスアプリケーションズに入社。2017年にエッグフォワードに参画。執行役員に就任し、多数企業における組織課題・人材課題に取り組んできた。現在はジャフコにて、投資先のバリューアップを行うべく、スタートアップの組織・人材開発支援に従事。

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若手人材の活躍を加速させる取り組み

金沢 「ファンと共に、時代を進める。」をビジョンに掲げる株式会社Gaudiyは、日本を代表するエンタメ企業に対し、ブロックチェーン技術を活用したファンコミュニティサービスを提供する企業。20代が多く活躍しており、代表取締役CEOの石川さんご自身も20代でいらっしゃいます。

「次なる産業革命を興し、日本をぶち上げる」をビジョンに掲げる株式会社ZEALSは、チャットコマースで業界最大級シェアを誇る2014年設立の学生ベンチャー。執行役員の渡邊さんは、サイバーエージェントで新規事業や人材育成を経験後、リクルートとのジョイントベンチャーを立ち上げ、202011月にZEALSに正式ジョインされました。

コロナ禍で不安をより感じやすいのは若手世代だと言われています。会社文化への適応ギャップ、自身のスキル開発、人間関係に対する不安が中心で、会社側がきちんとケアしなければ離職やポテンシャルを発揮できない等の状況に陥ってしまいます。

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年齢・社歴において若手と呼ばれる人材が多く在籍している2社では、若手の活躍に向けてどのような工夫を行っているのでしょうか?


石川 
弊社はブロックチェーン技術を用いた事業を展開しているので、「ブロックチェーンらしい働き方」として「ティール組織」(図1参照)を目指しています。代表とメンバーの権限は同等。売上、契約、給与、投資、株式構成、採用等の情報をすべてパブリック情報として公開し、誰でも意思決定ができるようにしています。例えば人材を採用する場合、人事ではなくそれぞれが一緒に働きたいと思う人材にアプローチします。その後、数回の面談を経て、お試し入社として1ヶ月間一緒に働いた上で、全員が同意して初めて本採用となります。若手の活躍に向けた工夫というよりは、もともとの取り組みが若手に効果的でした。

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渡邊 
弊社が重視しているのは入社後のオンボーディング。「OMOTENASHIP(オモテナシップ)」(図2参照)というビジョンを掲げているのですが、それを社内でも意識し、入社して良かったと思ってもらえる組織を目指しています。私も昨年11月に正式入社しましたが、オンボーディングはスムーズだったと感じます。理由としては、経営者との距離が近く、権限委譲もきちんとなされているから。現場に権限を委ねるGaudiyさんとは真逆で、弊社では経営層が「任せる機会を作る」ことを重視します。個々人の特性やコンディションを見定め、最大限に成果が上がる形で権限委譲するのです。これまで事業のピボットを繰り返し、変化に対して強いリーダーシップを発揮してきた弊社ならではのスタイルだと思います。

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金沢 
2社とも「権限委譲」というキーワードは共通して持っていながら、まったく異なる方法を取り入れている点が興味深いです。その背景にはどんな障害や失敗があったのでしょうか。


石川 
弊社では複数のプロジェクトが同時並行で進んでいます。また、時代の流れに左右されやすい事業でもあるので、現場で意思決定できないとスピードが落ちて追いつけません。現場に権限委譲するにあたっては、デリゲーションボードを使い、社員のスキルを細かいフェーズで分けています。例えばデザイナーの中でも「クライアントと良好な関係性を築ける」「炎上対策ができる」等、一人ひとりのスキルを17段階で可視化。その人の頼れるポイントを明確にし、合理的な意思決定を促しています。


渡邊 
直近でぶち当たっている壁は、中間マネジメント層の不足、ですね。先ほどお話ししたように、変化の多い会社であり、また採用も強化していく中で、ミドルマネジメントの重要性は日増しに高まって来ていると感じています。

その対策として、先程の「権限移譲」による若手の抜擢に加えて、ミドル層を育成できる外部人材の採用や、豊富なキャリアを持つ人材の採用を強化しています。弊社は若い会社、勢いが優勢の会社だと思われがちですが、一方で大人の勝負もできる体制が整ってきているので、その実態を採用時にきちんと伝えることも重視しています。


ビジョンを浸透させる上での成功・失敗体験

金沢 最近はリモートワークの定着により、ビジョンを浸透させる必要性がより高まっていると感じます。202011月号のハーバードビジネスレビューによれば、普段から密接に仕事をしていた同僚とのコミュニケーションはリモートワークにより40%増加したが、それ以外の同僚とのコミュニケーションは10%減少したとのこと。リモートワークにより無目的な雑談が減ることで、会社への信頼感が低下し、中長期的に見て企業競争力の低下にも繋がりかねないのではないでしょうか。

ビジョンの浸透が自社にとってなぜ重要なのかも含め、ビジョンを浸透させる上での成功体験をお聞かせください。


石川 
まずビジョン浸透の重要性ですが、現場の意思決定の価値観を統一しておくことで、組織が大きくなっても方向性をブラさずに高いクオリティを保てると考えています。ビジョンを浸透させるために意識的に取り組んでいるのは、「デリバリ」と「コスト高シグナル」(図3参照)。デリバリについては、ビジョンを全員に100%正確に伝えることよりも、全員が60%理解できる状態を重視。そのために要点を絞り、わかりやすく明文化しています。

コスト高シグナルとは、合理的ではないがビジョンの浸透に繋がるような取り組み。例えば、「ニュースタンダード」というバリューを浸透させるために国際学会に論文を提出したり、「ファンダム」というバリューを浸透させるためにファンにニーズのある機能を短時間で実装したりします。どちらも利益には直結しませんが、「変わっている」と思われることが企業文化の定着に繋がっていくのです。


渡邊 
ビジョンの浸透に関して私は「浸透圧」という言葉を使いますが、浸透圧を生じさせるためにはまず「ビジョンって重要だよね」ということ自体をきちんと伝えることが重要だと考えています。なにより重要なことは、まず経営ボードメンバー自身がビジョンにコミットしている姿勢を見せるという率先垂範。経営メンバーがビジョンに沿って意思決定できていなければ、ビジョンはすぐに形骸化してしまいます。

また、毎月2時間かけて全社会を実施。毎回スライドを300枚以上用意し、経営面での機会だけでなく、ピンチやリスクも開示しています。経営層の負担は大きいですが、社員から信頼を得られなければビジョンも浸透しません。根底にある考え方はGaudiyさんの「コスト高シグナル」と近いと思います。

図4 (1).jpg


金沢 
反対に失敗体験はありますか?


石川 
失敗は今でも常に繰り返していますが、特に必要だと感じているのは、会社のフェーズごとにビジョンの表現を変えること。例えばバリューのひとつである「DAO(分散自律組織)」は、ブロックチェーン業界では知られた概念ですが、今後外部との提携等を拡大していく際には、なかなか認知されにくいかもしれません。


渡邊 
弊社は徐々に外国人比率が高まってきているため、元々掲げていた「日本をぶち上げる」という表現から、最近は「おもてなし革命」という言葉を前面に押し出すようにしています。外国人メンバーから見ても日本品質、日本の丁寧さを表す「おもてなし」のデジタル化は非常に共感性が高く、東京五輪の影響で「おもてなし」という単語は認知度も高まっており、浸透圧の高い言葉だと考えています。




ビジョンを浸透させるポイント

金沢 では最後に、今お話しいただいた成功・失敗体験から得た教訓を、組織にビジョンを浸透させるポイントとして教えていただけますか。


石川 
「コスト高シグナル」のように、パッと言えるくらい具体的に明文化すること。また、ビジョン浸透のための取り組みを社内で意思決定する際には、費用対効果の話が必ず出てくると思いますが、本当に浸透させたいことであれば一見非合理的に感じても最後までやり切ることが重要だと思います。


渡邊 
とにかく大切なことは、代表自身や経営層がビジョンの重要性を心から信じ、アクションすること。そしてビジョンを補強する理由づけや論理形成、ストーリーを紡ぐこと。これで浸透圧が格段に高まります。また、うまくいっている会社の共通項を自社にフィードバックし、納得感を高めてビジョンを強固にしていくことも大切ですね。「コスト高シグナル」もすぐに社内で使わせていただくと思います(笑)。


金沢 
お二方のお話をお聞きして、代表のコミットメントの高さや、ビジョンをわかりやすいキーワードに落とすこと、他社の成功例を自社に積極的に取り込んでいくこと等の共通項を見出すことができました。私自身も大変興味深く聞かせていただきました、ありがとうございます。

今回は「ビジョンを浸透・体現し続ける組織」の作り方というテーマでした。今後も起業家や人事の皆様が悩みながらも挑戦し続けている「人と組織」に関するテーマについて、成長中のスタートアップの方々をお招きして定期的なセミナーを開催していきますのでよろしくお願いいたします。