ジャフコは、財務報告プロセスのDXソリューションを提供する株式会社エアリアル・パートナーズ、株式会社Merとともに、シード・アーリー期のスタートアップにおけるバックオフィス業務の型化を進めています。
本プロジェクトが発足した背景や課題意識、今後実現したいことについて、ジャフコ グループ株式会社の坂祐太郎と株式会社エアリアル・パートナーズ代表取締役の沼澤健人、株式会社Merの澤口友彰に話を聞きました。
【プロフィール】(敬称略)
株式会社エアリアル・パートナーズ 代表取締役 沼澤 健人 (ぬまさわ・けんと)
KPMG 有限責任あずさ監査法人退職後、チャット小説アプリ『peep』を提供するtaskey株式会社を創業(監査役現任)。会計・ファイナンス領域のコンサルティングファームである株式会社Atlas Accounting代表を務め、スタートアップから大企業まで幅広いサポート行う。2017年にAerial Partnersを創業。一般社団法人日本仮想通貨ビジネス協会(JCBA) 税制検討部会長を歴任。
<株式会社エアリアル・パートナーズとは>
デジタルアセットのデータ管理基盤である「Gtax」を、暗号資産交換業者やDapps / NFT事業者、その他金融事業者に提供。個人投資家向けには仮想通貨確定申告サービス「Guardian」を提供している。グループのAerial税理士法人では、経理・財務報告プロセスのDX支援事業を手掛ける。「非効率から解放され、創造的な活動に満ちた社会を実現する」を旗印に、経理・財務報告にまつわる「単純作業」や「反復業務」といった煩雑な業務を減らすことで、本来取り組むべき業務に集中できる環境づくりをサポートしている。
株式会社Mer Co-Founder & CEO 澤口 友彰 (さわぐち・ともあき)
都内ベンチャー企業にて、法人向けソリューション事業の立ち上げ、サブスクリプション事業の拡大を担い、同社COOを務める。
現在は起業し、世界95,000社以上で導入されているCRMプラットフォーム「Pipedrive」の日本唯一のマスターパートナーを務める。
<株式会社Merとは>
世界175カ国95,000社以上に導入されているCRM 「Pipedrive」の国内唯一のマスターパートナー。セールステックとノーコードを活用した営業業務の効率化・自動化・可視化を支援している。
※「pipedrive」のサービス内容はこちらの記事でご紹介しております。
ジャフコ グループ株式会社 坂 祐太郎 (さか・ゆうたろう)
上智大学法学部卒。2012年、ジャフコに入社。主な投資先はマネーフォワード、Chatwork、WACUL、カラクリ、GIFMAGAZINE等。ForbesJapan主催「日本で最も影響力のあるベンチャー投資家ランキング」2017年第2位。現在は投資先支援業務に従事。
―スタートアップにおけるバックオフィス業務にはどのような課題がありますか。型化のプロジェクトの概要と、発足した背景を教えてください。
沼澤 経理や労務プロセスにおいて、スタートアップに通じる共通の指針に基づいたパッケージを構築し、各社の業務削減に貢献したいと考えています。スタートアップがもっとも注力すべきは、プロダクト開発や営業等、事業成長、組織拡大に繋がる活動です。ただ、実際の作業時間を見てみると、本業に投資すべきリソースの多くが、バックオフィス業務にとられている。人材が限られているスタートアップでは、単純作業や反復作業を経営者が担っていることも多く、改善余地がたくさんあります。
管理系プロセスには、経理、労務領域で最低限行うべきマストなタスクから、記帳管理、売上・入金管理、請求・支払管理、経費のフローシステム構築等、やった方がベターなタスクまで様々あります。本プロジェクトでは、シード・アーリー期で必要なものの型化を行い、既存のアプリケーションを最大限活用した、人を極力介さない効率化を図りたいと考えています。
坂 バックオフィス業務には単純作業が多いからこそ、スタートアップの初期段階で、大まかな管理を始めてしまう企業が多いです。組織がスケールしてから整備しようと着手すると、「このデータはどこにあるんだ」「誰が見てきたんだ」と、把握しきれないことが積み重なって、逆にパワーがかかってしまいます。組織が真っ新な初期段階から、スケール後も耐えうるバックオフィス体制を作るのがとても大切だと考えています。
ジャフコの投資先支援チームでは「経営陣が事業に向き合える環境づくり」と「非連続な成長支援」を手掛けています。今回のシード・アーリー向け管理システムパッケージのプロジェクトは、まさにここにかかっています。プロダクトに集中できる環境を整備して事業スピードを上げるため、起業家やコアメンバーの時間配分を、大きく変えていきたいと思います。
私自身、投資先企業に出向してCFOをやっていた時期があり、単純だけど時間がかかる業務内容にフラストレーションが溜まっていました。「誰がやったって同じ作業なのだから、他の会社でやってきたことをそのまま真似できればいいのに...」そう痛感したことが、本プロジェクト立ち上げのベースにあります。
―スタートアップへ、具体的にどのようなサポートをしていくのでしょうか。
沼澤 バックオフィス業務をデータフロー / 業務フローの設計から、運用までをお受けする、ビジネスサポートのパッケージを用意しており、組織規模(従業員数)に応じて月額コストを設定しています。コーポレート部門の人材を採用するよりもコストを抑えられるようにしています。
そもそも、スタートアップフェーズで採用すべきは、競争領域で事業成長を後押しする人材であるのが理想です。経営の守りの部分は私たちに任せていただき、攻めの領域に集中していただけるようなサービスを考えました。
坂 社員が増えるほどバックオフィス業務は煩雑になりますが、人の工数で解決するよりも、最初からシステムベンダーに任せる方が、確実に効率的です。この型化プロジェクトを通じて、会社が大きくなったときに人に頼らない業務設計をするべきだと伝えたいですね。
沼澤 バックオフィス業務の効率化をはかるSaaSアプリは充実しています。経費精算等の個別業務プロセスに、適切なプロダクトもあります。ただ、そもそもスタートアップでバックオフィス業務とは何をどこまですべきなのか。全体のフレームワークがないのが現状です。
そこで本サービスでは、各SaaSアプリのシステム連携を含めた、業務プロセス全体の型化をサポートしています。データフローや業務フローを早期に型化することにより、急成長するスタートアップにおいてもスケール可能なバックオフィスの仕組みを構築することがでます。
坂 業務効率化のソリューションは日々更新され、新しいサービスが出てきます。でも、スタートアップの経営陣やコアメンバーの皆さんは、それらを比較検証する時間、オペレーションを考える暇がありません。
このシステムとこっちのシステムを連携させれば業務効率が上がる、という型を提案できることは、各社、各メンバーの工数削減に繋がり、スタートアップ全体の成長のスピードアップになると考えています。
―エアリアル・パートナーズ、Mer、ジャフコ、3社の役割はどう分かれていますか。
坂 エアリアル・パートナーズさんが会計の知見に基づいた提案を進め、CRMプレーヤーのMerさんが、売上管理プロセスの自動化やシステム連携に関する知見を型化に反映させています。エアリアル・パートナーズは、エアリアル税理士法人のグループ会社であり、会計・ファイナンスのプロ。かつ、業務プロセス改善に向けたDXに明るく、会計事務所でありシステムベンダーであるという非常に稀有な存在です。3社で組めば、業務プロセス全体の型化プロジェクトは実現できる、と思いました。
澤口 まさにそうですね。システム連携はできても、バックオフィスの会計のリアルな知識がないと難しい。会計回りのオペレーションにも様々なSaaSがあり、各SaaSにデータが蓄積されています。それらを全部統合し、会計処理を進めて会計ソフトに落とすところまでしなければいけませんが、SaaSを繋いでもそのあとどう活用すべきなのかは、専門的な知識がないと理解できません。プロのアドバイスをもらえるのは、スタートアップにとって非常に心強いです。
―バックオフィス業務の型化プロジェクトを通じて、これから取り組みたい課題は何ですか。
沼澤 バックオフィス業務に関するナレッジは、スタートアップの多くに通じるものですが、共有する場がなかなかありません。
そこで、ぜひ、ナレッジを学び合うコミュニティを作りたいと考えています。当社はグループの会計事務所で、のべ400社ほどの企業をサポートしてきました。バックオフィスに関して取り組んできたことを情報共有しながら、ディスカッションするような会があると良いですね。
坂 そもそもこのプロジェクトは、各社が試行錯誤するよりも、型に沿った指針を提供することが全体のエコシステムにとっていいだろうと、動き出しました。社内に仕組みを構築し、経営活動をドライブする支援に繋げることが目的です。
プロジェクトを通じて得た知見は、スタートアップの皆さんが参照できるようナレッジベース化したいと考えています。業界全体でナレッジ共有することは、全社の底上げに繋がりますので、「ジャフコのバックオフィスコミッティ」として意見を交換し合う機会はぜひ作りたいですね。もし、参加したいという起業家やコアメンバーの方がいましたら、ご相談いただきたいです。
【ケーススタディ】
創業期から効率的で強いバックオフィスを構築する! 株式会社Merの事例
2020年2月の設立から、バックオフィス業務は後回しにしていたという株式会社Merの澤口友彰氏。実際にパッケージ導入を進めた想いを聞きました。
―本プロジェクトである、バックオフィス業務の型化を導入した背景とは?
澤口 pipedrive(パイプドライブ)のマスターパートナーになった2020年9月から、攻めに力を入れており、バックオフィス業務は正直、後回しになっていました。手作業のやりくりが多く、SaaSのコーディネートや、経費精算のワークフローの仕組みはありませんでした。創業から2期目を迎え、従業員を増やして顧客層を広げていくことを考えれば、バックオフィス業務の整備は急務でした。今回のパッケージ導入では、請求書の管理、支払いの明細、経費精算のワークフローの確立を進め、現在も改善を重ねています。
―導入前と導入後で、具体的に何が変わりましたか。
澤口 例えば受取請求書の管理は、私が人力でやっていました。お客様からはメールやチャットツール等、複数チャネル(SNS、メール、チャットツール等)を経て届くので、書類をダウンロードして確認し、フォルダ分けするといった手間がかかっていました。
システム導入後は、お客様に受取請求書のアップフォームに書類を上げていただければ、支払い予定日にフラグが立ち通知が来る仕組みになりました。こうした業務改善は、やらなくてはと思いつつ、会計知識がないため、どう進めれば解決できるのかがわかっていなかった。エアリアル・パートナーズさんにサポートいただいたことで、「当社のフローだと、こうすればいいのか」と明確になりました。常に頭の片隅で「どうにかしなくては...」と思っていたバックオフィス業務のストレスがなくなったのは、非常に大きいです。
―導入のタイミングに関しては、どうお考えでしたか。
澤口 スタートアップの初期段階から、バックオフィス業務のフロー構築は必要だと思っていました。クラウドサービスは、月額数万円から導入でき、つなぎ合わせるソリューションも増えている。起業時からコストを投じて導入し、スケーラビリティのある環境整備が大切だと思います。
今後の事業拡大を考えれば、あらゆるデータを会計ソフトに落とし込んでいく必要があります。一つのデータに集約させるために、プロに入ってもらい、抜け漏れなくすべての費用項目、売上項目を作成できることはとても価値がある。現在は、まだまだ改善途中ですが項目整理を進めており、受け取ったデータを自動連携するところまで進めていきたいと考えています。
エアリアル・パートナーズ、Mer、ジャフコ、この3社の連携によってスタートアップのバックオフィス業務を支援できる仕組みが整いました。今後は、支援した企業の成功事例等もご紹介できたらと思いますので、引き続きこのプロジェクトにご注目ください。