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目指すは「21世紀の福沢諭吉」!  ITで社会課題を解決する若きイノベーターを育てたい
目指すは「21世紀の福沢諭吉」! ITで社会課題を解決する若きイノベーターを育てたい

起業を決めた背景や、事業が軌道に乗るまでの葛藤、事業を通じて実現したい想いを聞く「起業家の志」。第10回は、中高生向けIT教育プログラム『Life is Tech ! 』を運営するライフイズテック株式会社 代表取締役CEO 水野雄介氏と、『Life is Tech ! 』初期大学生メンター(インストラクター)の株式会社ウゴク 取締役COO 丹下恵里氏にお話を伺いました。


【プロフィール】
ライフイズテック株式会社 代表取締役CEO 水野 雄介(みずの・ゆうすけ)
1982年生まれ。慶應義塾大学理工学部物理情報工学科卒、同大学院修了。大学院在学中に開成高等学校の物理非常勤講師を2年間務め、人材コンサルティング会社を経て、2010年にライフイズテックを設立。シリコンバレーIT教育法をモチーフとした中高生向けIT・プログラミング教育キャンプ/スクール『Life is Tech ! 』を立ち上げる。主な著作に『ヒーローのように働く7つの法則』(共著、KADOKAWA)がある。


What's ライフイズテック株式会社】
2010年に中高生向けIT・プログラミング教育サービス『Life is Tech ! 』をスタート。現在では延べ52000人の中高生がキャンプ/スクールに参加する国内最大級のサービスに。その他、ディズニーとコラボしたオンライン学習教材『テクノロジア魔法学校』や学校向け授業教材の提供、IT教育に関するプロジェクトなどを多数運営。2014年、コンピューターサイエンスやICT教育の普及に貢献している組織に与えられる『Google RISE Awards』を東アジアで初受賞。

Portfolio



【プロフィール】
株式会社ウゴク 取締役COO 丹下 恵里(たんげ・えり)
東京大学文学部卒。大学時代に『Life is Tech ! 』の初期大学生メンターとして、IT未経験から中高生のIT教育に携わる。卒業後はリクルートホールディングスの新規事業開発組織にて、自身が企画したアプリ事業の責任者や海外スタートアップサービスの日本マーケティングを担当。その後、メルカリのマーケティング部門を経て、2018年にリクルート時代の同期3人でウゴク を設立。


What's ウゴク株式会社】
「心が"ウゴク"瞬間をつくる。」を事業コンセプトに、パーソナル・コーチングサービス『mento』を運営。コーチングとは、コーチの質問に答えながら自分の理想や価値観について深く内省することで目標を明らかにし、達成に向けた行動や変化を促すプログラム。一人ひとりに合ったコーチとのマッチングを通じて人生のサポートを目指す。2019年、4000万円の資金調達を経て正式ローンチ。



21世紀の福沢諭吉」として日本の教育を変えたい

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ライフイズテック株式会社 代表取締役CEO 水野雄介氏



ーまずは水野様の起業の経緯をお聞かせください。

水野 僕にはもともと「日本の教育を変えたい」という想いがありました。現在の日本の教育は「偏差値」「大学受験」「新卒一括採用」等、旧時代の仕組みのまま。仕組みの中では子どもたちの可能性は十分に伸びません。大学院在学中、高校で非常勤の物理講師を務めました。そのまま教員になる道もありましたが、物理だけでなく社会やビジネスのことも教えられるように、3年後に教員に戻る前提で人材コンサルティング会社に就職。でも、子どもの可能性を最大限に伸ばす方法が他にないかを考えた末に、やっぱり自分のサービスで教育を変えていきたいと思い直し、大学時代の同期と会社の後輩を誘って3人で起業しました。当時から「21世紀の福沢諭吉になる!」と宣言して、志が揺らがないようにベッドの横に1万円札を常に置いていました。


IT領域の教育に特化したのはなぜでしょうか。

水野 当時は「IT好き=オタク」と言われがちで、本当はパソコンやゲームが好きなのに隠している生徒が多かった。ITスキルはシリコンバレー等でも求められる、社会課題解決のための最先端のスキルなのに、それではもったいないとずっと思っていたんです。

そんな中、スタンフォード大学で中高生向けにIT教育のキャンプが行われていることを知りました。僕は当時、新しい教育サービスとして『キッザニア』に注目していたのですが、『キッザニア』はメキシコで成功してから日本に上陸したビジネスモデル。海外で成功しているサービスから学べることは多いのではと思い、経営陣3人でさっそく現地へ見学に行きました。

大学のキャンパスの芝生で、中高生が楽しそうにITを学ぶ風景は衝撃的でしたね。IT=インドアのイメージは完全に覆され、勉強はやらされるのではなく楽しくやるべきだと改めて実感しました。

経営陣3人ともITスキルを持っていなかったので、帰国後は社会人向けのIT教育をしている方やスキルのある学生に協力してもらい、僕たちの初心者目線も活かしながらカリキュラム作成を進めました。そして2011年、当社のビジョンに共感してくださったSFC(慶應義塾大学 湘南藤沢キャンパス)と東京大学で初のITキャンプを開催。初回は参加者3人でしたが、その年の夏休みのキャンプは40人、その後も順調に増えていきました。


ー『Life is Tech ! 』では大学生メンターが講師を務めていますが、丹下さんはどんなきっかけでメンターに応募したのですか?

丹下 当時私は文学部の3年生で、出版業界に就職したくて出版社でアルバイトをしていました。それとは別にIT関連企業のライターのバイトもしていたのですが、そこで感じたのは、ITの「速度」と「広さ」が半端ないということ。ITは出版より遥かに速く広くリーチできると実感し、IT業界に興味を持ちました。その時にちょうど友達から誘われて『Life is Tech ! 』に参加したんです。

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株式会社ウゴク 取締役COO 丹下恵里氏



ーではIT未経験からメンターになったのですね。

丹下 はい。当時は研修が3ヶ月ほどあり、IT技術からファシリテーション、『Life is Tech ! 』のビジョンに至るまでじっくり教わりました。現在は『Life is Tech ! Leaders』というメンター育成プログラムが確立されていて、より体系的に学べるようになっています。


水野 彼女は東京大学出身なんですが、IT業界に女性が少なかった時代に、引く手あまたの東大文系女子がIT業界に飛び込むなんて、当時はかなりイノベーターだったと思いますよ。


丹下 
その頃ITはまだ人気がなくて、でもメンターをやってみて「私が学ばないといけないことはここにある」と確信しました。参加する中高生たちはみんな成長が早くて、抜かれないように私も必死でしたね。TO DOアプリを作りたいという子から、「TO DOには重要度と緊急度があるから、4象限でマッピングして...」と説明された時は、あまりの的確さにびっくりしました。


ーレベルが高いですね! メンターとしての学びはその後も活かされていますか?

丹下 はい。卒業後はリクルートに就職したのですが、入社する前に新規事業コンテストで内定者初の賞をいただきました。メンターで一緒だったリクルートの同期と、お祝い動画を自動生成するアプリを企画したんです。入社後は1年目でその事業責任者を任せていただく等、貴重な経験ができました。その後、メルカリのマーケティング部門に転職してCM等を担当し、2018年にリクルート時代の同期3人で株式会社ウゴクを設立しました。

当社では『mento』というプロコーチのマッチングサービスを運営しています。コーチの質問に答えながら人生の目標を明確にし、行動へ繋げていくコーチングは、より充実した人生を送るための重要なプログラム。現代の日本人は主観的な幸せや豊さが足りていません。給料やフォロワー数では担保できない内面的な幸福感を取り戻すには、コーチングが有効ですが、この分野はIT化が進んでおらず、うまく浸透していないという課題があるのです。文系出身の私が今こうしてIT領域で起業できているのは、『Life is Tech ! 』での学びがあったからこそです。




2025年までに、誰かの幸せを作るイノベーターを120万人に

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ージャフコからライフイズテックへの初回投資は2014年。他社含め総額3.1億円を調達されました。ジャフコとの出会いについてお聞かせいただけますか。

水野 当時、VCや個人投資家から投資の話をよくいただいていたのですが、最初はずっと怖かった。「借金するの嫌だな」「投資家の言うことを聞かないといけなくなるのかな」と(笑)。でも、2014年に『Google RISE Awards』(世界のICT教育組織に与えられる賞)を受賞し、シリコンバレーで登壇した際に、他の会社の話を聞いても「うちよりすごい会社はない。世界で勝てる」と確信したんです。それで資金調達を検討し始めました。

ジャフコの長岡さんは、当社主催のイベントを見て興味を持ち、連絡をくださったそうです。長岡さんは宇宙物理学を専攻されていて、同じく物理をやっていた僕と話が合いました。同世代で志も高く、僕たちの「プログラミングを教えているのではなく、社会課題を自分で見つけて解決する子どもを育てている」という考え方に共感してくれた。さらに、当社を「起業家の登竜門になる」と評価してくれ、初回面談から3ヶ月後の20147月にリードインベスターとして投資をしてもらいました。実際にこれまで受講生、学生メンターで50名以上の方が起業しています。


ー調達した資金は主にどんなことに活用しましたか?

水野 元スクウェア・エニックスCTOの橋本(善久/現ライフイズテックCTO)にジョインしてもらい、ゲームを通じてITを学べる『MOZER(マザー)』というオンライン学習プラットフォームを開発する等、オンライン教育の強化を図りました。地域格差や情報格差の是正を目的としたものです。

また、ジャフコさんの継続投資もあり、2016年には総額7億円を調達。中学校でプログラミングが必修化するにも関わらず教える人がいないという課題を解決すべく、教員向けのITキャンプや、生徒一人あたり年間2000円(税別)で学べる中学校・高校向けの教材サービスもスタートしました。以前、ジャフコの三好さん(三好啓介取締役)がおっしゃった「ライフイズテックのサービスはもっと安く多くの人に学んでもらう時代が来る」という言葉が、まさに現実のものになりました。


ージャフコの支援で印象に残っていることがあればお聞かせください。

水野 ファイナンス機能や株主の取りまとめといった経営面のサポートから、新製品の販売店さんやコラボ先企業さんを紹介いただいたり、キャンプの集客のために週3日ペースでうちに出社してくれたりと、事業を推進する上でのサポートまで幅広く支援いただいています。長岡さんには本当に感謝していますし、そもそも担当が長岡さんでなければ投資は受けなかったかもしれないな、と今振り返って思います。


ー今後のIPOに向けたビジョンについてもお伺いしたいです。

水野 僕たちが大切にしているのは「ソーシャルIPO」という概念。収益性だけでなく社会的インパクトをもとに資金を集めて上場し、中長期的に社会に貢献する教育事業にもお金が集まる仕組みを作りたいのです。これまでは「日本国内で年間20万人の中高生がITでものづくりをする世界を作る」という目標を掲げていました。20万人という数字は、甲子園を目指す高校球児が17万人いることに由来しています。当社の全事業の実績を合わせると20万人は達成できているので、現在は新たに「誰かの幸せを作るイノベーターを2025年までに120万人に増やす」ことを目指しています。

現在の日本の起業家比率はわずか5%。女性比率も極めて少ない。120万人という数字は、日本の中高生600万人の20%にあたりますが、そのうちの半数が起業すれば起業家率は世界トップクラスの15%まで上がります。そのためにも中学校・高校・大学との連携や海外展開のさらなる強化を進めています。

子どもたちが「自分で社会を変えられる」と思えるきっかけを作り、誰かの幸せを作るためにイノベーションを起こす人を増やす。将来的には学校を設立して、11世紀から続くオックスフォード大学のように後世に残る教育の場を作りたい。そうした社会的インパクトを、今後のIPOや事業拡大において常に重視していきたいと考えています。



すべての失敗は成功への道

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ー日本の起業家比率が低いというお話がありましたが、丹下さんが若くして起業できた要因があればぜひ教えてください。

丹下 『Life is Tech ! 』のメンターを通じて、学生時代に夢があってビジョンが一貫していて成長しているスタートアップの空気を吸えたことは、起業する上での勇気に繋がったと思います。また、メンターのOBOGは約1000人いて、私の知り合いのメンターもみんな社会で活躍しています。等身大で経営の相談ができる仲間がいることはとても心強いですね。


水野 当社を通じてOBOGが繋がりながら活躍する社会は、まさに理想です。メンターを経験し、「次世代に教える」という視野を持った子たちが社会で新たな挑戦をする。その挑戦はまた次世代に還元され、僕たちだけが取り組むよりも影響力は乗数的に広がっていく。それこそが「教育」のあり方ですから、彼女たちには成功してほしいですし、もし失敗しても最大限サポートしたいと思っています。


ーイノベーターを創出するために事業以外に取り組んでいることはありますか?

水野 色々ありますが、例えば、中高生を集めて2日に1回くらいのペースで「水野塾」というオンラインミーティングを実施しています。起業家としての志は創れるのか、情熱は伝播するのかを実験的に試しているところです。あとは半年に1回、起業したい学生や若者と次世代を応援したい株主を繋ぐプロジェクトイベントを開催しています。前回は丹下さんも参加して、投資家の前で事業のプレゼンをしてくれました。


丹下 当社は現在120人ほどのコーチを抱えていますが、やや労働集約型ビジネスになっている点が課題。もし今回のプレゼンがうまくいけば、コーチの育成や事業効率を高めるためのテクノロジーの導入を強化していきたいです。ITというツールで多くの人に勇気を与えているライフイズテックのような存在を目指して、今後も成長していきたいと思っています。


ーありがとうございます。最後に水野様から若手起業家の皆様にメッセージをいただけますでしょうか。

水野 すべての失敗は成功への道。僕も失敗は色々としてきましたが、失敗=後悔では全くありません。「やり続ける」ことが何よりも大切なので、今いる道が成功へ続く道であると信じてぜひやり続けてください。

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水野氏(右)、丹下氏(中央)、ジャフコ担当キャピタリストの長岡達弥(左)