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「大勝負をするステージにやっと立てた」 ココナラ上場を支えた、起業家とキャピタリストの厚い信頼関係
「大勝負をするステージにやっと立てた」 ココナラ上場を支えた、起業家とキャピタリストの厚い信頼関係

起業家とジャフコの出会いから上場までの軌跡を紐解く「IPO STORY」。見事に上場を掴み取った起業家の今だから語れるエピソードや想い、これからへの展望を語ります。今回は、20213月にマザーズに上場した株式会社ココナラ 代表取締役会長 南章行氏と、ジャフコ担当キャピタリストの赤川嘉和による対談をお届けします。

【プロフィール】
株式会社ココナラ 代表取締役会長 南章行(みなみ・あきゆき)
1975年生まれ。慶應義塾大学卒業後、住友銀行(現三井住友銀行)に入行、支店や企業調査部に勤務。2004年プライベートエクイティファンドのアドバンテッジパートナーズに転職、複数の投資案件の経営全般に関与。2009年英国オックスフォード大学経営大学院(MBA)を修了。帰国後にNPO法人ブラストビートとNPO法人二枚目の名刺を立ち上げ、運営。2012年1月当社を設立し代表取締役に就任。2020年9月に代表取締役会長に就任。


What's 株式会社ココナラ】
「一人ひとりが『自分のストーリー』を生きていく世の中をつくる」をビジョンに、知識・スキル・経験など、みんなの得意をサービスとして出品・購入できる日本最大級のスキルマーケット『ココナラ』を運営。創業以来、業界プロ水準の出品も含めて出品サービス数及び取引数を伸ばし続けており、あらゆる人がいつでも社会とつながり活躍できる仕組みを創出している。2015年11月、2017年3月にジャフコより資金調達を受け、2021年3月19日にマザーズ上場。

Porfolio



500億円を動かすファンドから、単価500円のビジネスへ

南 ジャフコの赤川さんが弊社に初めて訪ねてこられたのは、20121月に会社を設立した直後でした。当時はまだ『ココナラ』ローンチ前で、Webにも会社概要ペライチの情報しかなかったよね(笑)。


赤川 
そのペライチの情報と南さんのSNSを拝見して興味を持ったんです。銀行、大手企業買収ファンド、オックスフォードMBAホルダー...と超エリートながら、NPOを設立する等の違った視点も持ち合わせている。そんな南さんが何かしようとされているなと。


 
個人投資家は何人か会っていたけど、VCは赤川さんが初めてでしたね。当時はまだ20代半ばでしたよね?


赤川 
はい。南さんに実際にお会いして、観点もトークの仕方も資料のまとめ方も非常に優れた方だと思いました。だからこそ、『ココナラ』の構想をお聞きした時は「なぜこの事業を?」と...。


 
ネットでも色々言われました(笑)。前職では500億円を動かしていたのに、なぜ儲かりそうもない単価500円のスキルマーケットなんて始めるんだ、と。でも人生100年時代。80歳まで働いて、時代も変化していくことを考えたら、過去の延長だけじゃ人生は続けられません。過去の経験にすがるより、恒久的な興味関心から物を考えた方が頑張れると思ったんです。


赤川 
南さんにとっての恒久的な興味関心が『ココナラ』というわけですね。起業しようと考えた経緯を改めてお話しいただけますか?


 
僕の就活時は、銀行が破綻してリストラが始まり、自殺者が年間1万人から3万人に急増した時代でした。そんな状況を企業支援で変えるべく銀行に入り、その後は企業買収ファンドに転職。子どもの社会教育や個人の自立をサポートするNPO2社立ち上げました。僕がやってきたのは全部「生きる力の獲得支援」。東日本大震災をきっかけに、個々人の「生きる」ことに寄り添いたいという想いがより強くなりました。誰もが自分の「得意」や「好き」を活かして生きていけたら、みんな幸せになれる。そんな想いが『ココナラ』の根底にあります。

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苦戦の数年を経て、IPOへの道が拓ける

赤川 JAFCOが出資をさせていただいたのは2015年。それまでも事業の状況を毎年共有していただいていましたが、当時を振り返ってみていかがですか?


 
『ココナラ』事業は立ち上がっても金額が小さかったので、20132014年頃は資金調達に非常に苦戦していましたね。数々の投資家に断られ、最後の最後でなんとか承諾をいただく、というのを繰り返していました。


赤川 
『ココナラ』ローンチ後、似たような競合がたくさん出てきては撤退していく様、その中でブレずに事業を進める姿を拝見して、「これはいつか来る」と感じていました。


 
スタートアップってそれが「世界で初めて思いついた」ビジネスであることはほぼあり得ない。社会やテクノロジーの変化を踏まえて、膨大な数の人が同時に思いつく。その中で最も本質を見抜き、一番うまく行動できた人が生き残っていくんです。今後避けられない社会課題として少子高齢化が挙げられますが、最大の問題は自治体が破産して公的サービスを提供できなくなること。こうなれば人と人が助け合って生きるしかない。シェアリングエコノミーの観点で21世紀の新しいインフラを創造しなければ、日本は成り立たなくなってしまいます。

『ココナラ』は最初からこうした社会課題を見つめ、「生きる力の獲得支援」を目指してきました。僕たちが生き残れたのは、本質を見抜いていたからだと思います。


赤川 
事業拡大の手応えを感じ始めたのはいつ頃ですか?


 
2015年に入ってからですね。地道にやってきたことが数字に表れ始め、初めてIPOという道が見えてきました。それで創業当初から僕たちを見てくれていたジャフコさんに投資の相談をしたら、実際のユーザーへのインタビューもお願い出来ないかと深いところまで理解しようとするスタンスで、またその場に当時の投資部門責任者だった三好さん(三好啓介取締役)が同席されたので驚きました。意思決定は早かったですね。なんと2週間くらいで意思決定、3週間後には契約書が用意されていましたね(笑)。


赤川 
南さんは戦略を明確にするタイプの起業家。創業時の戦略が形になってきて、流通総額もじわじわ伸びていたので、すぐに「出資させてください」とお伝えしたことを憶えています。単価が安いので、「NPO的な事業で終わらないか」「違うマーケットも取り切れるか」といった議論が社内で出たことも事実。でもそれ以上に南さんへの信頼や期待が大きかった。投資ファンドのご出身だけあって、VCが求める情報や資料のまとめ方を理解されていたことも、意思決定を早めたポイントだと思います。

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 VCからの資金調達は、トップだけでなく担当キャピタリストが自社に対して思いや意思がなければ決まらない。その会社の未来を誰も予測できない中で社内を説得できるのは、最終的には担当者の情熱が大きい。まずは赤川さん自身に信頼いただくこと、また社内で絶対に聞かれるであろう情報は先回りして提示して、社内の印象を圧倒的に高めることは意識しましたね。



日本のベンチャーのIPOを一歩前に進められた

 2015年にIPOへの道が見えてから、さっそく証券会社や監査法人の選定を開始。2016年からは監査に向けた管理体制の整備を進めました。20172018年以降は上場株の投資家巡りに注力し、「いい上場」にする、つまりいい投資家に入ってもらうことを目指して準備しました。今のご時世、「いい上場」を果たすには海外投資家に入ってもらうことが重要です。ジャフコさんに香港の投資家を紹介していただく等、海外とのネットワークを積極的に広げ、ロンドン・香港・シンガポールへIRツアーにも出向いて年単位で関係性を築いてきました。


赤川 
2016年には2回目の資金調達の相談をいただきましたね。テレビCMを打つために追加出資してほしいと。


 
1年前に調達したばかりなのに(笑)。当時は「認知を取ったマーケットプレイスが勝つ」という構図が見えてきた時代で、かつCMを打つスタートアップはまだ少なかった。競合の動向も踏まえ、絶対にCMを仕掛けたいタイミングだったので、すぐに意思決定いただけて本当に助かりました。どうやって社内を説得したんですか?


赤川 
「今が勝負のタイミング」という南さんの話をそのまま伝えさせていただきました。また、1回目の投資後の状況を見ていて、「資金を上手く活用できる方」「大事な資金を預けられる方」という信頼もありました。


 
20177月からCMが放送されて、他社が追いつけないところまで認知度をグッと高めることができました。あのタイミングで身の丈に合わないCMを打ったのは、これまでの9年の起業家人生の中でも「いい意思決定トップ3」に入りますね。


赤川 
2019年のフィデリティ・インターナショナル(世界的な資産運用会社)からの資金調達も画期的でしたね。


 
海外の上場株投資家から未上場のタイミングで資金調達するのは、日本では異例。実際に、フィデリティ社が単独ラウンドで日本の未上場企業に出資した例は初でした。日本のスタートアップのIPOを一歩前に進められたという自負を持っています。当時はVCの株式保有比率が5割にのぼっていたため、上場後も株を保有し続けてくれる海外の有力投資家を探していました。そうした投資家に投資いただければ上場までのスピードを一気に加速させることができますし、新たなCMの計画もあったので資金が必要だったんです。


赤川 
そこから20213月のマザーズ上場まで2年弱。無事に上場を果たした今の率直なご感想は?


 
上場は通過点に過ぎないとは言え、大変なプロジェクトをやり切った達成感はものすごくありますね。「第一関門を越えた」「大きな勝負をするステージにやっと立てた」という思いです。今回の上場で、世界中の投資家からお褒めの言葉をいただきました。先のフィデリティ社の事例もそうだし、これまで日本で誰もやってこなかった実績をたくさん作ることができたからです。例えば、売り出しの海外投資家比率は50%未満にするという暗黙のルールがあったのですが、法律的に問題ないことを確認し、グローバルオファリングでない案件では初めて50%を越えました。投資家面談数も130社にのぼりました。

先人の起業家たちもこうして挑戦を続けてきて、今後はココナラの事例を見て新たに慣習を破っていく若き起業家が必ず出てくるでしょう。自社に利益があっただけでなく社会的影響を与えることができたIPOだったと思います。

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誰もが自分のバリューを発揮し、幸せに生きられる社会へ

赤川 南さんを見ていると、起業家の競争力の一つは「意志の力」であると強く感じます。南さんをはじめとするチームの皆さんが、不可能と思われてきたことをオセロのようにひっくり返して実現していく姿を何度も見て来ました。私はその意志やスピードを妨げないように、VCとしての意思決定をできるだけ早めることを心がけています。


 
ジャフコさんの強力なネットワークにはいつも助けられていますよ。投資家だけでなくテレビ局や広報界隈にも顔が広い。金融系をルーツに持つ最大手VCならではの知見と、独立系らしい柔軟性を兼ね備える、珍しい存在だと思います。あと、担当者がずっと変わっていないのはココナラの主要投資家の中でもジャフコさんだけ。赤川さんには創業当初から知っていただいているので、やはり信頼感があります。僕からの質問だけど、ベンチャーキャピタリストとして一番楽しい瞬間ってどんな時ですか?


赤川 
自分の信じた投資先が成長している時ですね。スタートアップ投資は答えを「探す」よりも「創りにいく」世界なので、自分が本気で支援していくという気概がないと成り立ちません。だからこそ、本気で作りにいった答えが形になっていく過程は感慨深いです。南さんもすごく向いていそうですよね。


 
確かに、僕は経営者だけど投資家目線も持っていますね。「自分の会社を作りたい」「トップになりたい」という欲はもともとなく、ココナラというプロジェクトに僕も乗っかっているイメージ。ビジョン・ミッション・バリューが憲法なら、僕は総理大臣という感覚で、「どうしたら会社が良くなるか」を常に客観的に考えています。


赤川 
社長から会長になる意思決定においても同じ視点でしたね。


 
そうですね。鈴木(鈴木歩代表取締役社長CEO)は以前から経営に関わっていて、体制が大きく変わるわけではありませんでしたから。投資家の理想は、創業者が長く経営に携わること。一方で、次代のために後継者を探しておくことも創業者の義務です。その両方をクリアし、上場前にきちんと投資家の皆さんに説明できたので、現在の"二人マネジメント体制"にはむしろ高い評価をいただいています。


赤川 
ネクストステージに突入して、御社は今後どう進化していきますか。


 
『ココナラ』はユーザー200万人を突破しました。数だけでなくユーザー個人にフォーカスしてみても、「『ココナラ』で人生が変わりました」というユーザーが増えている"手触り感"があります。たとえば、音楽をやっているあるユーザーさんは、『ココナラ』を始めてから音楽を本業にできるようになった。子どもが生まれて時間が激減し、一時期は仕事を休んでいたけれど、今は1日のうちの心地いいと思える時間を『ココナラ』での仕事にあてている。「人生で『どうしよう』と不安になった時、必ず『ココナラ』がそばにありました」と彼女は語ってくれました。

先ほど「21世紀の新しいインフラを創らなければいけない」という話をしましたが、その課題に対して何かできそうなスタートラインにようやく立ちつつあると感じています。

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赤川 創業当初に投資家から指摘されがちだった単価についても、段階的に引き上げ、現在までずっと上がり続けているみたいですね。


 
企業案件も増えていて、100万円単位の案件もたくさんあります。僕は最初から「単価は上がっていく」と説明していたんですが、「そんなサービスは前例がない」と誰も信じてくれなかった(笑)。人生100年時代、僕たちは自分の力で食べていけるようにならなければいけません。経済的に自活できていること、あるいは生活は最低限でも自分の心を満たす仕事ができていることが重要になってきます。自分ならではのバリューを発揮し、適正な対価をもらい、コミュニティの中で自分という存在が機能している感覚を得る。誰もがそういう「人間の幸せ」を感じながら生きられる社会を創ることが、僕たちの使命です。