JAFCOの投資とは

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起業家が「権限委譲」するためには「CHRO」が鍵
起業家が「権限委譲」するためには「CHRO」が鍵

20211月にスタートした「JAFCO HRコミッティ」。ジャフコの投資先企業でHR戦略に携わるメンバーが、各自話したいテーマを持ち寄りオンラインでディスカッション。スタートアップにおけるHRに関する悩みやナレッジを共有し、現場のリアルな知見を発信していきます。

1回のテーマは、「起業家とHR責任者との役割分担のあり方」。事業フェーズや組織コンディションに応じて、代表(や創業期のメンバー)の役割をどう変えていき、HR領域の権限委譲をどう進めるべきか。ジャフコの投資先企業HR責任者4名と議論を深めました。


【プロフィール】(敬称略)

<ジャフコ投資先HR責任者>
Baseconnect株式会社 コーポレート部門 HRチーム マネージャー 高橋 秀行 (たかはし・ひでゆき)
大手消費財メーカー、メガベンチャーやコンサルティング会社を経て、2014年に前職のHRTech系スタートアップへ参画。自社の組織開発に取り組むとともに、カスタマーサクセスマネージャーとして多数企業の組織開発をサポート。2020年にBaseconnectへ参画。コーポレート部門HRチームのマネージャーとして、採用、制度設計やMVV推進等を統括。


ACALL
株式会社 HR General Manager 佐藤 鉄平 (さとう・てっぺい)
慶応義塾大学商学部卒業後、富士銀行(現みずほ銀行)入行。東京・大阪で法人営業に従事。コンサルティング会社を経て、リクルートエグゼクティブエージェントへ。経営層向けの人材紹介に従事。その後、人事へ転身。KPMGコンサルティング、日本タタ・コンサルタンシー・サービシズにてHead of Talent Acquisitionを経験し現在に至る。


OLTA
株式会社 VP of HR 唐澤 一紀 (からさわ・かずのり)
信州大学経済学部経済学科卒業後、株式会社リクルートスタッフィングで人事、新規事業の立ち上げ等を担当後、株式会社スクウェア・エニックスの人事を経験し、直近では、HEROZ株式会社、株式会社bitFlyer、現職とtech系スタートアップ人事として採用、労務、制度構築、MVV浸透等の全般を担当。


株式会社Synspective HR Manager 芝 雄正(しば・ゆうと)
京都大学大学院工学研究科都市社会工学専攻 修士課程修了。2014年より人材事業を手掛けるスタートアップに参画し、人材採用コンサルティング、メディア事業に従事。2015WASSHA Inc.にて事業企画を経て、エンジニアに転向しタンザニアへ駐在。ソフトウェア開発および事業オペレーション改善をリード。2018年より衛星画像ソリューション開発のエンジニアとしてSynspective創業期にジョイン。現在は主に人材採用、組織開発を担当。


<ファシリテーター>

ジャフコ グループ株式会社 金沢 慎太郎(かなざわ・しんたろう)
株式会社ワークスアプリケーションズに入社。2017年にエッグフォワードに参画。執行役員に就任し、多数企業における組織課題・人材課題に取り組んできた。現在はジャフコにて、投資先のバリューアップを行うべく、スタートアップの組織・人材開発支援に従事。

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金沢 今回皆さんとお話したいのは、起業家とHR責任者との役割分担のあり方についてです。まずは、現時点における自社の代表の権限領域について、皆さんの状況を教えていただけますか。


高橋 Baseconnectでは、私が202010月にコーポレートマネージャーに着任するまで、代表がコーポレートマネージャーを兼務していました。MVV推進、組織戦略設計・開発等のコーポレート部門の通常業務を幅広く持っており、今後、何を代表の役割として残し、何を権限移譲するのが効果的か、手探りで進めています。直近では、事業責任者とプロダクト開発責任者という役割を設置し、12年の短期スコープでの意思決定は権限委譲していく方針で動き始めています。

ただ、OKR(目標と成果指標)の管理の仕組み、1on1やフィードバック系の制度、評価・報酬やMVV推進等は、なかなか短期・中長期という軸では切りにくい。意思決定のプロセスに代表がどれくらい関わるべきか。事業責任者に権限委譲しても代表が意見すると引っ張られてしまうのでは...等、役割分担の難易度が上がっています。


唐澤 当社では、会社や組織の方針策定は主に代表が担い、そこに対してHR面での具体的な施策や打ち手の提案を持っていくのが私の役割になっています。直近四半期レベルでの組織目標や個人目標の設定は各組織のマネジメントが考え、人事が取りまとめていますが、まだ規模は大きくないので、目標の前提にある年レベルでの事業の方向性については代表の意向や想いがありますね。


佐藤 私は202012月から今の仕事にかかわっているので、まさにCEOとどうやって組織運営を一緒にやっていくのか、二人でオンラインとオフラインでの対話を重ねて1つ1つ課題に対処しています。数か月前まで社員35人の会社が一気に50名、そしてこれから半年で70名になります。CEOが起業したときの社員5人の時と比べて、上場を見据えて組織も拡大する中で、意思決定の仕方を徐々に権限移譲へ持っていけるか、挑戦です。CEOとしては、まだ全体を見渡せる規模感ですが、急激な組織拡大を見据えると、ゆっくり舵を切る必要がある。組織は生きていますから、私も目線を実務に下げすぎないよう、CEO含めて経営陣が事業戦略にしっかりフォーカスする環境を作れるか、勝負どころです。


 私は皆さんと違って、創業期からいるので少し状況が違うかもしれません。当社は2018年設立から、毎年採用人数が20人、30人、40人と増えており組織として急拡大中。いまや社員約100人になりました。創業からずっと、営業と組織人事、採用を並行して担当しており、2期目に組織人事、採用専任となり、今年からは労務も見ています。創業当初から代表が人事業務に入ってくることはあまりなく、評価制度設計等の意見がほしいときにヒアリングしていました。実務を進めるのは私、という役割分担が、最初からできていたように思います。


唐澤 役割分担が最初から明確というのは、珍しい気がします。スタートアップの創業社長ですと、経営の事業方針だけでなく、現場がどう動いているかも見える距離感なので、気になってついつい自分でやってしまう、もしくは自分がやらざるを得ないという経営者の方が多いのではないでしょうか。


金沢 そうですね。私がコンサル時代に見てきた企業の中には、経営者が現場の稼働状況や勤怠管理まで入ってくる"気になっちゃう"性格の方もいました。ただ、そうすると経営方針や事業戦略の大きな政策策定が回らなくなってしまい本末転倒に...。



代表との関係性が権限委譲のあり方を決めていく

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金沢 組織の拡大フェーズに応じて「代表の役割が変わった」あるいは「あえてこう変えた」という取り組みはありますか。


唐澤 当社は様々な雇用形態含めて全体で50人を超え、ちょうど今が移り変わりの段階。現場への権限委譲はどうあるべきか、代表と会話しています。経営者って人生をかけて起業しているわけですから、「お前に任せるわ!」と思う一方やっぱり個別の事象が気になる...その葛藤はよく理解できます。


高橋 当社は、ルールや仕組みで明文化して、権限委譲を進めるスタイルをとっています。役割分担がクリアなのはいいのですが、「そこは代表がやってください」「そのメッセージは代表が言わないとメンバーに伝わりませんよ」ということもあります。珍しいパターンだと思いますが、インキュベーション系の代表だと、「組織づくりに自信がないから任せます」というケースはあるのかもしれません。


佐藤 そうですね。当社の場合はこれまでも組織運営を試行錯誤してきた経緯があります。どのベンチャーもそうでしょうけどね。CEOと私は常に「壁打ち」という名前の「議論」が自然に生じていて、私も時として、高橋さんがおっしゃったような「そこはぜひ代表から発信した方が全体への良いメッセージになります」といってお願いするケースもあります。代表のメッセージ1つで組織が0にも100にもなる、難しい判断です。


 私の場合、当社代表が前の会社で上司だったんです。代表の働き方をよく知っていたので、「社長をするなら細かいことは見られないよ」と最初から伝えていて、どんどん権限委譲させていた経緯があります。代表はそこで、ちゃんと任せられる人だったので、うまく回っているんだと思います。


金沢 それは面白い。代表との関係性が、権限委譲のあり方を決めていく側面もあるんですね。ジャフコの担当キャピタリストと話していると、「経営者と対等になって話せる人をどれだけ作れるか」が組織を大きくする上で大事だと実感します。


唐澤 能力が高くて信頼できる、権限委譲できる右腕や左腕のようなメンバーがいれば良いのですが、その人材を採用するとなるとそれも大変です。ですので、そうした人材がいなくてもルールで解決できるような仕組みづくりも重要になってくると思います。



代表の頭に空きを作るために、CHROに求められる役割とは

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佐藤 役職に対する、任せる業務範囲の明確化も重要ですよね。例えば"HR責任者"を採用するにしても、人事責任者なのか、CHROなのか曖昧模糊としている。ただ役職にはめているだけで、何をどこまで任せてどう分担しているのかが曖昧です。


唐澤 実際に、人事部長とCHROは、職種としてだいぶ違うなと感じています。前職は人事部長でしたが、私が今求められているのはCHROの役割だと思っていて、そこに違いがあると感じています。例えば、人事部長は、人事制度を作ってくれと依頼されて整備していく。一方CHROは、「このミッション、ビジョン、バリューの実現に向けて、組織には何が足りていないのか」を人材面から網羅的に考える。全体の課題設定からボールを持ち、人事制度設計が必要かどうかを含めて検討するのがCHROだと思います。


佐藤 事業戦略をきちんと理解していなければCHROは難しいですよね。HRの専門家が鳴り物入りで入っても、事業理解が浅いからワークしない、評価制度を整えようとしてもちぐはぐ...ということが多々あります。


高橋 どのテーマでボールを渡されるかが違いますよね。現場の意見をまとめる人になるのではなく、社内外にどういう人材がいるか情報収集を進め、入社後の活躍のイメージまで思い描いた上で、どう採りに行くべきかを考えていかないといけません。


唐澤 人事スペシャリストは、"問題"が提示されている中で人事としての知見を活かして解決方法を求められます。究極的には、事業理解が浅かったとしても、人事分野での力を発揮できるケースはあります。でもCHROは、問題はどこにあるのか、から考えていく役割。問題を作るまでにそもそもの現状理解が必要なので時間がかかる。なので、課題設定能力が求められます。


高橋 そして、HRとして本当に価値を出すために事業サイドとどう座組をくむか、組織全体をよくするために全体の中で自分がどんな能力を発揮するべきかの役割分担が重要です。権限委譲論というより、CHROとはどうあるべきか、という議論の方が今回のテーマに近かったかもしれないですね。


唐澤 人に関わる業務領域をすべてCHROに譲り渡すことになっても、信頼できないと任せられず、ちゃんとできているのかマネジメントしたくなる...という流れは同じ。権限委譲の仕組み化だけではなく、信頼を得るも大切だと思います。


 「任せても大丈夫だな」という信頼関係を築いていくしかないですね。


高橋 それまで代表が自分で使っていたマインドを空けて頼れる存在がいれば、会社全体の価値になる。そこが権限委譲のポイントだと思います。


佐藤 自分の役割は、代表の頭の中にあるものを引き出し、答えを一緒に見つけに行くことだと思っています。やるべきことが決まれば、人事のスペシャリストを連れてくればいい。代表にとっての「壁打ち」になれることが、私の存在意義として大事なのかなと思います。


 代表の頭の中にあることを理解し、周りに任せてほしい業務領域をしっかり取りにいけるかは、代表のタイプはもちろん、関係性にもよります。組織の向かう方向をよく理解したCHROが、代表が見るべき領域の優先順位を提示してあげることが大事でしょうね。


金沢 代表の頭にいかに空きを作り、経営に専念できる環境を生み出すかはジャフコの担当キャピタリストも常に考えていることです。安心して権限委譲ができる組織作りを支援することが、ジャフコとしての重要課題なんだと改めて感じました。今日はありがとうございました。次回の「JAFCO HRコミッティ」のテーマは「スタートアップのエンジニア採用」。またどうぞよろしくお願いいたします。