ジャフコでは2020年12月22日、大手企業やスタートアップのオピニオンリーダーをゲストに迎え、「VCと考えるコロナ禍における経営の『意思決定』&『未来展望』」と題したオンラインセミナーを開催しました。第二部では、「コロナ禍で明らかになった『今』必要な人材とは?」をテーマに、ソフトバンク株式会社の源田泰之氏、株式会社ニトリホールディングスの永島寛之氏、株式会社morichの森本千賀子氏にご登壇いただきました。
【登壇者プロフィール】(敬称略)
<ゲスト>
ソフトバンク株式会社 人事総務統括 人事本部 副本部長 源田 泰之(げんだ・やすゆき)
1998年入社。営業を経験後、2008年より現職。新卒及び中途採用全体の責任者に加えて、社員向けの研修機関であるソフトバンクユニバーシティおよび後継者育成機関のソフトバンクアカデミア、新規事業提案制度(ソフトバンクイノベンチャー)の責任者でもあり、2016年に設立した公益財団法人 孫正義育英財団の事務局長も兼任。
株式会社ニトリホールディングス 理事/組織開発室室長 永島 寛之(ながしま・ひろゆき)
大学卒業後、東レ、ソニーでのマーケティング部署の経験を経て、2013年にニトリへ入社。2015年より採用責任者と教育責任者を兼任。2019年よりニトリホールディングスの人事責任者へ。長く携わったマーケティングの顧客視点を人事の現場に導入し、HRテックを駆使した「学びあう組織のタレントマネジメント」を開発。「個の成長が企業の成長。そして、社会を変えていく力になる」という考えのもと、従業員の価値観や好奇心をエンジンにした施策でホールディングス全体の組織開発と変革の陣頭指揮を執る。
株式会社morich 代表取締役/オールラウンダーエージェント 森本 千賀子(もりもと・ちかこ)
獨協大学外国語学部英語学科卒業後、1993年にリクルート人材センター(現リクルートキャリア)入社。企業と求職者のニーズを見事にマッチさせる課題解決力、コーディネート力に定評があり、多くの経営者から「よき相談役」として、公私ともに頼りにされている。2012年、2013年、2015年とNHK「プロフェッショナル 〜仕事の流儀〜」に出演。2017年3月、株式会社morichを設立し、転職エージェントに加え、複数のNPO理事・社外取締役・顧問などを歴任、『無敵の転職』など著書も多数、さらに活動領域を広げる。
<ファシリテーター>
ジャフコグループ株式会社 金沢 慎太郎(かなざわ・しんたろう)
株式会社ワークスアプリケーションズに入社。2017年にエッグフォワードに参画し、執行役員に就任し、多数企業における組織課題・人材課題に取り組んできた。現在はジャフコにて、投資先のバリューアップを行うべく、スタートアップの組織・人材開発支援に従事。
これからの時代に必要な人材とそうでない人材
金沢 コロナ禍において、変わりつつあった働き方が加速度的に変化しました。キーワードは「リモートによる業務変化」「なんちゃってマネジメントの露呈」「個人に委ねられた時間の使い方」等。それに伴い、これからの時代に必要な人材像とそうでない人材像にも変化はありましたか?
源田 本質は変わっていません。ソフトバンクでは以前から、社員の自主性や当事者意識、変化を楽しむマインドの醸成を重視した人材開発設計をしています。このコロナ禍では、変化を前向きに受け止めて自主的に考え行動できる人と、思考停止してしまう人の差が出たように感じています。
例えば「個人に委ねられた時間の使い方」で言うと、コロナ禍で社員向けオンライン研修の応募者数・受講者数は1.6倍に。通勤時間等が削減されて自分の時間が増えたことや、自分が成長しなければ不安定な時代を生き抜けないという危機感が芽生えたことが要因だと思いますが、これも自主性や変化を楽しむ力があるか否かで行動が分かれた部分だと思います。
永島 求める人物像に変化はありません。2032年にグループ売上高を現在の6,000億円から3兆円まで持ち上げていく中で、世界の暮らし提案企業に変貌するという目標を達成するべく、これまでは現行ビジネスモデルの延長線上で連続的に成長してきましたが、今後は従業員個人の成長や生産性向上を起点とした非連続な事業領域の拡大と成長を遂げたい。そのためにも、自らの価値観や好奇心から行動できる人材、セルフマネジメントができる人材を自律人材と定義して採用と育成に取り組んでいます。
コロナ禍で明確になったのは、マネージャーのマネジメント能力にバラつきがあったということでした。部下のマネジメントをリモートでも行える人と「なんちゃってマネジメント」で誤魔化さざるを得ないマネージャーの差が明確になりました。日本は、優秀なプレイヤーがマネジメント教育を十分に受けないままマネージャーになる等、マネジメント層とメンバーの境界が曖昧なケースが多いので、物理的な距離が離れるとボロボロになってしまう人も多くいました。スキルとしてのマネジメント教育を強化するきっかけになりました。
金沢 お二方のお話を伺っていて、「危機的状況での対応力」が共通するキーワードになってくると感じましたが、それがある人とない人の違いは何でしょうか。
源田 ソフトバンクのように事業ドメインを変化させてきた会社にいるかどうか等、環境要因はあると思います。あとはその人の資質や経験でしょうか。好奇心を持って新しいことに取り組みたい人と、決まったことを安定的にやりたい人では、向き不向きも違います。
永島 僕も経験は大きいと思います。自分の価値観や好奇心が明確で、そこにモチベーションが加わって行動に表れた時が「自律」だと捉えていますが、そういう場をどれだけ踏んでいるかが関わってくるのではないでしょうか。
金沢 森本さんは企業の採用や人材育成を俯瞰的な立場からご覧になっていますが、「これからの時代に必要な人材とそうでない人材」についてはどのように感じていらっしゃいますか?
森本 「過去10年間の決定者分析」というリクルートエージェントの調査によると、異業界からの転職者が決定者の67%を占めていました。また、「転職後に活躍している人の割合」を企業にヒアリングした結果、転職元が「同業種・同職種」「同業種・異職種」「異業種・同職種」「異業種・異業種」の割合はそれぞれ48〜51%と同程度。最も割合が多かったのは「同業種・異職種」でした。
転職後に活躍できる人材とは「これまでのキャリア・スキルを再現できる人」ではありません。私たちは「越境人材」「越境転職」と呼んでいますが、非連続キャリアが人の成長を促すことを実感しています。同じ会社の中でも、部署異動や転勤、グループ会社出向、海外赴任はチャンス。脳が柔らかい若いうちに修羅場をどれだけ経験しているかが、先ほどから出ている「変化対応力」に繋がると考えています。
また、経営者が自らアプローチしてでも採用したい人材は、「攻めのDX」を担える人材。従来のビジネスモデルやマネタイズモデルをDXで刷新できる人は引く手あまたです。本業のドメインでのスペシャリティに事業マインドや経営マインドを掛け合わせたスキルを持つ人も、今、企業が求めている人材ターゲットになります。
必要な人材をいかに定着・成長させるか
金沢 2020年10月のDODAの転職求人倍率レポートによると、前年10月と比べて求人数は30%減少したにもかかわらず、転職希望者は7%増加しています。そのような中で、企業が必要な人材を定着させるために意識すべき視点や工夫をお伺いできればと思います。
永島 ニトリでは「多数精鋭」の考え方と、私が作った「越境好奇心」(商標登録)というキーワードを教育のベースに置いています。
取り組みの例としては、年に2回、30年キャリアデザインシートというものを社員に書いてもらっています。これから30年の間で社会課題の解決にどう取り組むか、30年後には何をしていたいか。最近はSDGsの目標から選択する方式に変え、回答率は8割にのぼります。
また、社内にあらゆる業種が存在するので、2〜3年ごとに全社員を配置転換して「社内での越境」を経験できるようにしています。同じ課題感を持つ人を集めてタスクフォースを作り、経営層に提案するプロジェクトもあり、年間数十組が参加しています。
源田 ソフトバンクの事業は多様化していますが、「情報革命で人々を幸せに」という経営理念を実現していくことは変わりません。そのためにも、自分がどんなキャリアを歩みたいか、何をしたいかが明確にある人がチャレンジできる仕組みを導入しています。ジョブポスティングやFA制度では年間数百人が手を挙げて異動していますし、副業もすでに1,000件以上を許可しています。
以前、転職後の満足度が転職前よりも下がる傾向にあるという調査データを見て、衝撃を受けました。条件面はすり合わせているはずなので、原因として考えられるのは、入社してみないとわからないカルチャー面のギャップ。であれば、同じ企業内でチャレンジできる道をたくさん作ることで、ギャップによる満足度低下を回避しつつ成長する機会を提供できるのではないかと考えています。実際に、ジョブポスティング等を使って異動した人は、異動先での評価・業績・本人のモチベーションがすべてアップしているというデータもあります。
金沢 先ほどお話に出た「変化の中で思考停止してしまう人」について、会社からアプローチするならどんな方法があるか、参加者から質問をいただきました。源田さん、いかがでしょうか?
源田 万能薬はありませんが、弊社では採用の段階から「進みたい道を自分で選択して人生を生きてきたか」に着目しており、人事制度もそういう人を応援するような設計にしています。ジョブポスティングやFA、研修は基本的に全て手挙げ制で、研修については内定者の段階から受講可能。変化の中でもチャレンジできるポテンシャルのある人を最初のうちに見極め、入社後もそうしたマインドが醸成される環境づくりを意識しています。
森本 コロナ禍における転職理由で増えているのが、「副業ができないから」というもの。AIの進化に対する危機感もあり、目の前の仕事だけではなく別の分野でもスキルを磨きたいというニーズが増えています。「収入を増やすため」から「本業に活きるスキルを磨くため」への変化が〈副業2.0〉であるなら、今後訪れる〈副業3.0〉は「自分のWillを実現するため」。そこを会社が提供できるかがポイントだと思います。
新規事業提案制度を立ち上げる大企業も増えていますが、本気でそこから生まれた新規ビジネスに投資しようとしているか、新しい事業ドメインのマーケット拡大をしようと考えているかと問われると、残念ながらそうではない企業も多い。新たなチャレンジができる環境を本気で作り続け、そこに投資し続けることも人材育成においては重要と感じます。
人事自身が、学びを自主的に行動に変えていく
金沢 最後に、経営者や起業家の皆様に向けてメッセージをいただけますか。
源田 人事とは、人と事業を繋ぐための仕事。社員、マネジメント層、経営層、間接的に取引先やお客様も含まれるかもしれませんが、皆にとって良い状態をどうサポートするか、ここに正解はありません。自身が自主性や変化への対応力を身につけ、チャレンジしていくことが大切です。
永島 コロナ禍で、社員個人はどうしても目の前のことに掛かりきりになります。しっかりマネジメントできていない組織は求心力が働かず、遠心力でどんどんバラバラになっていくでしょう。その中での人事の役割は、個人の価値観や好奇心を損なうことなく組織の力に繋げていくこと。人事や経営層は社員個人のやりたいことを言語化して行動に繋げる場をいかに作れるかが、そしてそれを組織の目標にマッチさせていくことが重要になってくると思います。
森本 コロナ禍でインプットが増えた方は多いと思いますが、学びっぱなしではなく行動に移すことが大切。実際に行動を起こせる人は10.1%にとどまるというデータもあります。学びを行動に変えてアップデートし、自分の人生を正解にしていくためにも、ぜひ第一歩を踏み出していただけたらと思っています。