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Chatworkに学ぶ!起業家が知っておきたい「withコロナ」時代の働き方
Chatworkに学ぶ!起業家が知っておきたい「withコロナ」時代の働き方

今、日本のスタートアップ界隈で起きているトレンド、現象、データなどのトピックスをジャフコなりの視点でリサーチする連載「JAFCO総研」。第1回のテーマは「with コロナ時代の働き方」。2020年、新型コロナウイルス(以下、コロナ)の影響で社会のあり方、そして人々の「働き方」が大きく変わりました。コロナは、私たちにどんな働き方の変化をもたらし、2021年以降の社会をどう変えていくのか。

ジャフコキャピタリストの三好啓介が、起業家が知っておくべきスタートアップを取り巻く環境変化、withコロナ時代における日本の働き方の変化について語ります。


コロナ禍でのスムーズなDX、しかし働き方の課題は徐々に姿を現した

―コロナ禍で投資先企業の働き方はどう変化していますか。

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三好 投資支援する多くのスタートアップでは、オンライン化をはじめとしたDXが思っていたよりも迅速にスムーズに進みました。1回目の緊急事態宣言が出された2020年4月から、投資先スタートアップとのミーティングは一気に8割以上がオンラインに移行。初回面談もオンラインを希望されるケースが大半です。

そもそもスタートアップでは社内環境や業務オペレーションがデジタル化前提で作られているところが多く、環境変化に柔軟な人材が集まる組織特性もあります。懸念していたのは投資先企業の対お客様との接点ですが、DXへの危機感があらゆる業界で高まったため、お客様先でも急速に変化を強いられ、適応していっていると感じています。


―働き方の新たな課題も見えてきたのでしょうか。

三好 働き方に関する課題は、DXが急速に広がった数カ月後から、少しずつ認識され始めた印象です。

オンライン移行当初は、移動がなくなることで時間調整が簡単になり「効率化に繋がった」「オンラインでも問題ない」という、ポジティブな声が多かった。オンラインで会議をしていたら子どもやペットの声が入ってきて和むシーンも増えました。オンとオフの境界線が緩んで、お互いの許容範囲が広がった面があったのだと思います。

でも少しずつ、社内コミュニケーションの変容に戸惑う声が聞こえてきました。オンラインは効率的に情報共有を行う上では非常に適したツールです。しかし、一見無駄に思える雑談やその場の空気を共有できないことで、孤独感を抱く人も出てきた。離職者を増やしてしまった投資先企業もありました。

家族を含めた社員の心のケアをどうしていくのか。これらは企業の規模や形態に関わらず、あらゆる組織にとって大きな課題になっているでしょう。


―スタートアップでは、具体的にどのような悩みが出ていますか。

三好 多くの企業が頭を抱えているのが「オフィス問題」だと思います。

そもそもオフィスは、起業したばかりのスタートアップにとって、ビジネスに直結しないコストです。オフィスは簡素にして、その分を優秀な人を雇うための人件費やマーケティング戦略に使いたいというのが本音でしょう。そして、企業が成長していくと、採用強化、離職防止の観点を含めて、オフィスへの投資も必要経費だという考えになっていきます。

その意味でコロナ禍は、「そもそもオフィスは必要なのか」という起業の原点に立ち戻る問いです。働く仲間同士が物理的に集まる空間をどう捉えるのか。投資先の企業にも、コストを考えて縮小したところもあれば、オフィスは会社のイメージや考えを発信するツールの一つだと捉えて継続させているところもあります。

例えばある投資先の起業家は、コロナで完全リモート化してすぐに「オフィスをなくす」と宣言しましたが、その後すぐに「オフィス空間は、企業文化の醸成や、新しいことにチャレンジする上で必要だ」という考えに戻ったと言います。

オフィスの設計と社内コミュニケーションのあり方、働き方が非常に関連し合っていることを、改めて考えさせられています。


―対面と非対面の位置づけをどうしていくかがキーになりますね。

三好 そうです。コロナ前の働き方に戻ることはないと思いますが、すべてがオンラインで完結、オフィスなしで完結するとも考えられない。各社が最適なやり方を模索していくでしょう。

オンラインは、意識や発想、価値観の共有という点では、オフラインに敵いません。情報共有は非対面で効率化を進める一方、複数メンバーの考えを聞いてアイデアを形作っているようなコミュニケーションでは対面の価値を重視する。そうした使い分けが大切になると思います。日本において、いち早くリモートワークを導入してきたのはChatwork株式会社です。取締役副社長 COOの山口勝幸さん曰く、リモートワークの導入により、新たなテーマとなるのは「同期・非同期の壁」だそうです。コロナ禍での働き方の変化について、具体的な事例とともにとても参考になるお話を伺えたのでご紹介させていただきます。

普段の情報共有は"非同期のチャット"、意識共有が必要なときは"同期の打合せ"

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【プロフィール】
Chatwork株式会社 取締役副社長 COO 山口 勝幸
SI・制作会社勤務を経て、ITサービス提供事業会社でサービスと組織マネージメントに従事。2008年にChatworkに入社後、常務取締役に就任。2016年にCMO(Chief Marketing Officer)としてビジネス部門の統括に就いた後、2019年3月、取締役副社長COOに就任。マーケティング、セールス、事業開発などの部門を統括する最高執行責任者としてビジネス本部を管掌。

山口 リモートは場所や距離を超えて、複数メンバーの時間を合わせることができます。ただ、利便性が高まった一方で、相手の時間をロックしやすくなった弊害もある。それが"常に拘束されている"という感覚を強めてしまったり、1日中、会議が続いて、生産性の低下に繋がっているケースもあるでしょう。リモートワークで生産性を上げるには、時間を合わせて集まる"同期"と、時間を合わせない"非同期"の働き方をうまく使い分ける必要があります。

集まらなくてもできる情報連携の方法の一つに、コミュニケーションチャットの活用があります。初対面の人同士がいきなりチャットでのコミュニケーションは難しい側面もあるので、リアルな対面あるいはリモートでの顔合わせでの関係構築の時間は必要でしょう。当社でも、コロナ前から、対面とリモートのハイブリッドな働き方でコミュニケーションのバランスを図ってきました。

リモートワークが働き方の主要な選択肢となった今、普段の情報共有は"非同期のチャット"、意識共有が必要なときは"同期の打合せ"で時間を贅沢に使うという使い分けは、重要な課題になると思います。


施主との"非同期"コミュニケーションで家を建てる、楓工務店の取り組み

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山口 Chatwork活用による"同期・非同期の組み合わせ"で、大幅な業務革新を進めた企業があります。奈良県にある楓工務店では、お客様が施主さんに会わずに家を建てるというチャレンジングな取り組みを進めているのです。

もともと、社内の情報共有、協力会社との連携に電話を活用していた楓工務店では、電話のやりとり・確認作業に業務時間の多くが取られ、発注漏れ等でのタイムロスも少なくありませんでした。Chatworkの導入により電話の数が3割以上減ったほか連携ミスも削減され、業務改善は一気に促進。お客様への連絡にもChatworkが活用されるようになりました。

今では、契約の打合せまでは対面・オンライン、建設工事が始まったあとはChatworkで写真送付での進捗報告と、フェーズによってコミュニケーション手法を分けています。施主さんとお客様が一度も会わずして状況がわかるよう情報連携を進めているのです。コロナ禍で、非対面・非接触の価値が見直される中、家づくりという重大なイベントにおいても、"非同期"できちんとコミュニケーションがとれる。その好例になっているのではないでしょうか。

リモートワークの広がりから、対面の価値を見直す観点も生まれています。

業務内容の細かな見直しにより、リモート上で"同期"して時間を共有する価値がある業務は何か、どこまで"非同期"で進めるのが効率的か。あるいは、対面で空間を共有するべき業務には何があるのか。経営陣には、業務の細分化とそれに見合ったコミュニケーションのあり方を考える、新たな視点が必要になるといえるでしょう。

加速する「人材の流動化」、起業家が優秀な人材を確保するためには

―2度目の緊急事態宣言発令とともに始まった2021年。今年のスタートアップにおける「働き方」にはどのような変化があると考えますか。

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三好 スタートアップにとっては、これまで以上に多様なバックグラウンドの人材が流入し、事業拡大に繋がる可能性が出てくると考えています。

働き方に留まらず、「自分が人生において、本当にしたいことは何か」に向き合う機会を与えたのがコロナです。コロナ前から、副業・兼業を許容する流れがあり、人材の流動化は高まっていました。スタートアップに参画されている方は、自己成長への意欲やチャレンジを求めるマインドを持った方が比較的多いですが、コロナは、そうした意識を持っていなかった幅広い層も含め、「何がしたいのか」を考える契機となりました。

フルタイム勤務の働き方に限らず、業務契約や副業・兼業等の様々な関わり方で、スタートアップで新たなチャレンジをしたいという層は増えていくでしょう。リソースが限られたスタートアップにとって、追い風になると考えています。


―人材流動化の加速が予測される中、起業家はどのような心構えで人と組織をマネジメントしていくべきでしょうか。

三好 今後、企業が採用力を上げ、持続的な事業成長を実現するには、「そこで働く個人にどんな機会を与えられるか」がキーになると考えています。

「この場に参加すると、こんな自己成長が得られる」

「こんな社会課題に向き合い、こんなプロジェクトを作れる」

「こんなスキルを得て、市場価値が高まる」

企業が実現したいことを発信し、そこに魅力を感じて人が集まるような組織にしていかければ、優秀な人に選んでもらえなくなってしまう。

どこにも安定を求められなくなったWithコロナ時代では、「ここにいた方がより楽しい」「やりたいことやれる」と思ってもらえる場づくりこそ、組織力の強化に繋がっていくでしょう。起業家にとっては真価を問われる厳しい時代ですが、ポジティブに捉えるのならば、コロナは日本社会の働き方を大きく転換させていくと思っています。