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4度目の正直で「ワークスタイル × DX」を推進 新時代の働き方を支えるプラットフォームへ
4度目の正直で「ワークスタイル × DX」を推進 新時代の働き方を支えるプラットフォームへ

起業を決めた背景や、事業が軌道に乗るまでの葛藤、事業を通じて実現したい想いを聞く「起業家の志」。
第1回は、ACALL株式会社 代表取締役 長沼斉寿氏にお話を伺いました。

【プロフィール】
ACALL株式会社 代表取締役 長沼 斉寿 (ながぬま・よしひさ)

神戸大学経営学部卒。2004年に日本IBMに入社。ITエンジニアおよび金融市場向けIBMグローバルソフトウェアの日本国内でのコンサルティングセールス職等を経て、2010年に現ACALL株式会社を設立。企業向けソフトウェア開発事業、メンタルヘルスwebサービス事業等を経て、20167月に現事業を開始。「Life in Work and Work in Life for Happiness」をビジョンとして、「くらし」と「はたらく」を自由にデザインできる世界を目指す。

What's ACALL株式会社】
201010月創業。オフィス受付の無人化・会議室管理・セキュリティ連携を実現するアプリ・クラウドサービス「ACALL」から、法人向けワークスペース管理プラットフォーム「WorkstyleOS(ワークスタイル OS)」へ進化させ、開発・提供を手掛けている。

WorkstyleOSは、会社のエントランス、会議室、社内の執務スペースといったオフィス内のシーンだけでなく、近くのコワーキングスペースや自宅といったオフィス外のワークスペースへのチェックイン体験をデジタル化するソフトウェアサービス。WorkstyleOSのデータ連携基盤にデータを蓄積することで、ワーカーの行動履歴・評価・環境情報を分析・可視化し、AIによる自動化・ファシリテート・レコメンドが可能に。これによりワークの質と生産性の向上のフィードバックループを形成し、多様性を許容するオープンな次世代ワークスタイルを創造していく。

Portfolio

"自分の足を動かして情報を取りに行く" すべての経験は起業の訓練

―まず、長沼様が、起業を志したきっかけをお伺いさせてください。

起業を意識したのは高校時代です。1年生のときに、公務員だった父親をすい臓がんで亡くし、それが自分の人生を考える大きなターニングポイントになりました。人生は一度きり。最期の瞬間に良い人生だったと思える、悔いのない生き方とは何かを考え続け、「自分で会社を経営する」のも面白そうだと思うようになりました。

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―大学卒業後、5年間、日本IBMで社会人経験を積んでからACALL株式会社を創業されていますね。起業ではなく就職を選んだ理由とは。

大学時代は、「毎朝スーツを着て決められた時間に出社する」というサラリーマン生活に疑問を感じていました。それって面白いのかな...と。でも、やってみたことがないのに批評するのは良くない。一度サラリーマンを経験してから、起業なり自分がやりたいと思ったことをやろうと、就職をすることに決めました。

IBMを選んだのは、SF映画が好きだったから。未来空間を作るIBMの技術力に惹かれたんです。最先端テクノロジーで、ワクワクできる手触り感のあるものを創りたかった。5年を目安に、起業で手掛けたいテーマを見つけようと思い、実際に5年で辞めました。

5年で起業すると決めて働いていたとき、起業に向けての準備や仕事の進め方は意識していましたか。

IBMでは、システムの運用保守、営業、コンサルティングの3職種を経験し、会社を創るのなら、ビジネスの流れをできるだけ多く知っておいた方が良いと考えていました。

会社は、様々な役割を担う、色々な強みを持った人間が集まる場。ここで吸収していこう、という想いは強かったですね。

一方で、大きな組織にいればインパクトのある仕事ができる。その面白さは捨てがたく、どこにいても働けるようになればいいのに...と考えるようになりました。仕事のやりがいと、働き方の窮屈さの折り合いをどうつけていくかという葛藤が、起業に結びついていると思います。

実は、業務時間外でも、自分なりの"起業の訓練"をしていました。

起業のアイデアが出たら、そこにニーズがあるのか、当時は東京に住んでいたので週末に表参道で街頭アンケートを実施したこともありました。妻を巻き込み、アンケート用紙をたくさん印刷して、二人で一緒に道行く人に声をかけるんです。意外と答えてくれたのが嬉しかったですね。

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―夫婦で起業訓練!すごい行動力ですね。どんなアイデアを検証したのでしょう。

例えば、美容院での顧客データ活用です。希望の髪型が伝わらずに「こういうイメージじゃない」と落胆した経験は誰にでもあるでしょう。そこで、これまでのオーダー内容を写真と併せて詳細にデータ化し、スタイリストとお客様が共有できるサービスがあれば良いなと考えたんです。しかし、アンケートでは好感触だったのですが、美容院側のニーズやIT導入のハードルの高さ等から事業化は難しいと判断しました。

他にも、「貸し会議室事業」のアイデアを出したときは、アンケート以外にも都内の貸会議室を見て回り、収益性がどれくらい見込まれるかを計算しました。シミュレーションの結果、難しいという結論になりましたが、"自分の足を動かして情報を取りに行く"ことはずっと続けていましたね。


起業後の苦労、4回目のチャレンジ

IBMを退社したあとに、空間デザインの専門学校で1年間、勉強もされています。ワークスペース、オフィス空間への関心が高かったんですね。

そうですね。IBMはオフィスのフリーアドレスを先進的にやり始める等、働く場所、環境が社内ナレッジの醸成やモチベーションに影響することに、いち早く注目していました。このとき、「はたらく」と「場所」の関係性が深いんだなと実感しました。ワークスペースから働き方を考える視点は、IBMにいたから得られたのでしょう。

「はたらく」を「テクノロジー」によって「ワクワク」したものに変えていこう。こうして、起業で叶えたい3つのキーワードが固まっていきました。

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―当初の決意通り、社会人5年目でACALL(当時は株式会社BALANCEUNIQUE)を起業されました。どのような経緯で、WorkstyleOSの開発・提供に繋がったのでしょう。

起業直後は、法人向けのシステム開発を受託で請け負いながら、自社開発の試作プロダクトを次々と発信していました。不動産業や建設業向けのIT集客をサポートするポータルサイトや、お気に入りの場所を仲間内でシェアするBtoC 向けのアプリ、従業員のストレスチェックができる企業向けメンタルヘルスサービス等、3つのサービスを、CTO藤原弘行を中心に、UI/UXデザイナー、プログラマーの開発チームを組み、私が営業を担当していました。今に繋がるプロダクトは、4回目の試作からようやく生まれました。

法人向けのシステム開発受託は、安定的な収益になるもののスケールはしません。自社プロダクトで突き抜ける何かを探したかったのですが、なかなかうまくいきませんでした。ある程度収益が見込めるけれど僕らがワクワクできなかったり、1が10,000になるような市場の広がりを感じられなかったり...。「はたらく×テクノロジー×ワクワク」の3要素が含まれた事業、抜本的に課題解決できる仕組みでなければ、僕自身の事業継続へのモチベーションが湧かない。そう実感しました。

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当時のオフィス


―その後、4回目のチャレンジで、オフィス受付の無人化・会議室管理・セキュリティ連携を実現するアプリ・クラウドサービス「ACALL」が生まれ、現在「WorkstyleOS」へと進化させています。

ACALL」は、もともと自分たちのワークスタイル改善のために開発したものでした。エンジニア中心の小さな組織だったので、来訪者があれば誰かが手を止めて対応し、そのたびに業務が分断されます。しかし、効率化を上げるために無人の受付システムを導入すると100万円以上かかってしまう。そこで、僕らが得意としていたクラウドを活用し、iPadアプリと連動させ、来客があれば社内のスピーカーから音が鳴る簡易な仕組みを作りました。アポなしの来訪者であれば、「ブブ―」と受付不可の表示が出る。「これは面白いし、生産性も上がる!」と社内で盛り上がっていたこともありました。また、来社したお客様にシステムを使ってもらって「これいいですね。売っていないんですか」と聞かれるようになったんです。

さらに、試しにブログやFacebookにあげてみたら、大企業から問い合わせがどんどん入ってきた。急遽、提案書を作って商談に行き、どんな機能があったらいいですかとヒアリングを重ねていきました。「自社向けではなかったのか」とエンジニア陣に猛反発をくらいつつ(笑)、機能改善を加えて20167月に正式に商品化しました。

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ACALLの原点


―まさに「はたらく×テクノロジー×ワクワク」の3要素が揃った事業化ですね。
起業当初は、システム開発受託で資金を回しながらプロダクト開発に投資するという、資金調達に頼らない経営を進めていらっしゃいました。ベンチャーキャピタルを受け入れることになった経緯としてどんな考えの変化があったのでしょう。

起業当初から「7年後に上場する」と宣言していました。会社は社会のためにあるものですし、公になること、持続性のある組織になることに意義があると思っています。

上場に向けて、自社サービスを作ってスケールさせていく絵を描いていましたが、最初から資金を入れて失敗したら迷惑がかかる。手応えを掴めて軌道に乗るまでは、受託で稼いだお金で試行錯誤していこうと考えていました。2016年頃から「ACALL」で手応えを感じたこともあり、当初の目標だった上場を目指すべく、ベンチャーキャピタルからの資金調達を検討し始めました。

そして、2017年頃、大阪市スタートアップ企業支援プログラムに参加した時に、ジャフコさんと出会い、その後何度か担当キャピタリストさんとやりとりをしました。その際は残念ながら出資には至らず、他のVCから調達をしたのですが、担当のキャピタリストさんとは継続的に接点を持っていました。事業が成長してきたので、次の資金調達を考えるようになり、今年の4月にご相談したところ、事業成長性を高く評価してもらって、20206月にジャフコから出資いただきました。

起業から長い年月が経ってVCから資金調達をしたのですが、もし今から起業するのなら、最初から資金調達を検討していたでしょうね。シード期から様々なVCや株主に応援してもらっていますが、事業面でも組織運営面でも、同じゴールに向けてアドバイスや支援をいただけるジャフコさんの価値は、ご出資してもらって改めて非常に大きいと感じています。

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長沼氏とジャフコ担当キャピタリストの高原瑞紀(左)


『ワクワク』を共有することで共感し合える

―長沼様が起業家として事業を運営する上で、大切にしてきた考え方はなんですか。

「誰にサービスを提供するのか」という視点です。

起業の訓練として、表参道にアンケートを取りに行っていた頃から、ユーザーの声を直接聞くことが一番大事だと思っていました。フィードバックに耳を傾け、できるだけスピーディーにサービスを改善し、お客様の期待値を開発への意欲に変えていく。その積み重ねが、「ACALL」がお客様に受け入れられた要因の一つだったのではないかと思っています。

もう一つは、お客様と「ワクワクを共有する」こと。将来はこんなサービスにしたい、こんな働き方を広めたいという話をお客様にも伝えます。そこに共感し合えたら、お客様から「じゃあ、もっとこんな機能があった方がいい」等、様々な提案がくるようになるんです。お客様とのキャッチボールをするためには、ボールを待っているだけではダメで、要望をすぐに実装して、こちらからも投げ返す。常にアンテナを張っている必要があります。

僕にとって会社は「器」で、そこに色々な人が集まることで価値が生まれます。お客様からのフィードバックや、ジャフコさんのサポート、地域の方々の応援等によって、器は大きく公的なものになり、チャレンジできることが増えていく。そういう意味で、起業は、世の中に大きなインパクトを残すための有効な手段ですね。

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長沼氏と取締役CTOの藤原氏(右)


どこでも働けて、誰でもパフォーマンスを発揮できる世界

―コロナ禍で働き方の大変革が進む中、長沼様が事業を通じ、社会に対して実現したい『志』は何でしょうか。

創りたいのは、「どこでも働けて、誰でもパフォーマンスを発揮できる世界」です。

コロナによりリモートワークが想定より早く社会に浸透し、リモートの利便性にみんなが気づいてしまった。毎回会わなくても仕事に支障はない一方、対面の意思疎通の貴重さを実感した人も多いでしょう。リモートワークでは、お互いの仕事状況が見えず疑心暗鬼になったり、ちょっとした雑談からアイデアが生まれる機会が減ってしまったりとマイナス面も見えてきました。それらをいかにカバーしながら、ワークスペースを管理できるかは、これからの重要なテーマになるでしょう。

リモートと対面のベストな割合を模索する中、定量的なデータを含め、意思決定できる判断材料を提供することが、ACALLの社会的な責任であり、私たちの『志』だと思っています。

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―最後に、起業家を目指す方や若手起業家の皆様へ、メッセージをお願いします。

優秀な若い皆様に対して恐縮ですが、もし起業1年目の自分に言えるとしたら、「3回は転ぶけれど、諦めずに成功するまで続けよう」の一言に尽きます。お客様から求められていること、社会で必要とされていることは何か、という視点を失わずにいれば、いつかは世の中のタイミングと、提供するサービスのタイミングがぴったりと合うときがくる。しぶとく継続することが何よりも大事だと思います。