起業家とジャフコの出会いから紐解く企業の軌跡。今だから語れるエピソードや想い、これからへの展望を語ります。
今回は、国内最大級の動画クリエイターネットワークを持ち、インフルエンサーマネジメントやマーケティングをリードするUUUM株式会社 CEO 鎌田和樹氏と、ジャフコ担当キャピタリストの井坂省三による対談です。
【プロフィール】
UUUM株式会社 代表取締役社長CEO 鎌田 和樹 (かまだ・かずき)
2003年、19歳で大手通信会社入社。店舗開発・運営、アライアンス等多岐にわたる分野で実績をあげ、2011年よりイー・モバイル1次代理店の責任者を務める。その後、孫泰蔵氏の薫陶を受けて起業を決意。ほどなくして、YouTuber・HIKAKINとの大きな出会いを得て、2013年、29歳で独立。
【What's UUUM株式会社】
HIKAKINとの出会いを機に、2013年6月に創業。動画を利用したオンライン販売事業を目的として設立したON SALE株式会社が前身。のちYouTubeで活躍する動画クリエイター、インフルエンサーに対するマネジメント、動画制作サポート、オファー等を提供する事業にシフトし、同年10月にUUUM株式会社となる。「セカイにコドモゴコロを」を企業理念に、HIKAKIN、はじめしゃちょー、フィッシャーズをはじめとする、強い求心力を持つ動画クリエイターらのマネジメントを手掛け、感性とクリエイティブを活かしたプロモーションプランを提供している。2017年8月に東証マザーズに上場。
メディアとしての価値が出る――YouTubeの市場に将来性を感じた
鎌田 初めて井坂さんに会ったのは、2014年の2月ごろ。創業してから約10カ月経ち、ようやく月200万円の黒字になったタイミングでした。
井坂 当時、光通信で最年少執行役員を務めた方が起業し「テレビショッピングのインターネット版のようなものをやっている」と、2013年秋ごろに耳にしていました。翌年2月に原宿のオフィスにお伺いしたときは、動画クリエイターのマネジメント事業が軌道に乗り始めていた。
鎌田 そうそう。創業時はON SALE株式会社という名前で、原宿・竹下通りのワンルームマンションからスタートました。HIKAKINとの出会いでYouTuberの影響力に衝撃を受け、「彼らがモノを紹介すれば売れるはずだ」と考えていたんです。でも、毎日汗だくになって企業を回り、「これからはYouTuberの時代です!」と力説するも誰もわかってくれない。なんとか企業名と商品を使わせてもらって紹介していましたが、動画の再生回数が高いからといって商品の売上に繋がるとは限らなかった。
井坂 そこから、短期間でマネジメント事業にシフトチェンジした経営判断がすごいです。
鎌田 すでに多くの登録者数を持つ動画クリエイターたちには、広告代理店経由等で様々な依頼が舞い込んでいたんです。自分が営業して企業を回るより、マネジメントとして周辺業務をサポートすることで、彼らの持つ発信力を活かし、動画制作に集中できるようにした方が良いのではないかと考えるようになりました。
マネジメント経験はゼロでしたが、前職の光通信で、総務を経験していたことが活きました。全社員の引っ越し手続きとか社宅契約の更新とか...。クリエイターの方たちが苦手とする雑務をこなし、人のために裏方として動くのが好きだったんです。芸能人のマネジメントの世界を全く知らなかったからこそ、動画クリエイター一人ひとりに合ったマネジメントスタイルを一緒に模索できたのも良かったのでしょう。
井坂 ちょうど僕も、TVCMのような受動的な動画よりも、「ユーザーが能動的に見に行く動画」は、これからメディアとしての価値が高まるだろうなと思っていました。UUUMさんのことを知る前、ある女性系メディアに投資していたんです。キュレーターと呼ばれる人たちが記事コンテンツを作り、最適化して統合することで、メディアとして価値が出て広告主がつき、広告収益が入る。その流れを見ていて「動画版になれば、広告を出す側にはより魅力があるだろうな」と思いました。
鎌田 本当ですか。さすが、先見の明がありますね(笑)。ジャフコさんに会いたいと言ったのは、僕の方からでした。どの投資担当者に会うべきかエンジェル投資家の方に聞いたら「ジャフコの井坂さんって方が評判良いよ」と助言されて、指名してご連絡しました。
井坂 ANRIさんからのご紹介でしたよね。ご指名いただき恐縮です。
鎌田 来てくれたと思ったら、開口一番「社長、何億欲しいですか」と。まるで、浪花金融道だとびっくりしました(笑)。
井坂 話を端折りすぎです。そんな破廉恥なこと言いませんよ(笑)。印象的だったのは、事業計画内容をホワイトボードにどんどん書いていって「これが、僕が考えるUUUMの事業計画です。これを清書してほしい」と仰ったこと。もともと動画コンテンツマーケットの大きさに将来性を感じていましたし、動画クリエイターのマネジメントという国内初の事業ながら、計画にブレがなかった。
鎌田 「事業計画書」を作るのが面倒くさかっただけなんですけど、本当に清書してきてくださった。そして忘れもしない、2014年4月21日。ジャフコさんからの5億円の調達が決まりました。当時は「出資を受ける」とはどういうことか、深く考えていなかったんですが、契約書に、「2020年までに上場する様、最善の努力を尽くす」と、明文化されていて。守れなかったらどうしようと不安になりましたが、実際は2017年8月に上場していますから、だいぶ前倒しできました。
井坂 上場前の審査過程においては色々大変でしたが、1つ1つハードルをクリアしていかれる様は流石でした。
ジャフコは「自分の血肉を分けた仲間」。そのノウハウを使い倒した自負がある
井坂 初めての面談のとき、鎌田さんから「普段、YouTube見ていますか」「出資を受けたあと、どういう関わりを持つのでしょうか」「他のベンチャーキャピタルとジャフコさんって何が違いますか」と質問攻めにあいました。本質的なところを大切にされている方だなと、緊張感を覚えた記憶があります。
鎌田 僕にとって「株」は、「自分の血」なんです。資金調達は、自分の大切なものを薄めてまで、お金に換えるという概念。お金をいただけるのは前提で、「そのあと何をしてくれるのか」がすごく大事でした。その点でジャフコさんは、人的リソースという点でも、専門知識のインプットという点でも、非常に頼りになるパートナーでした。「経理の帳簿入力が終わらない!」と言ったら、数カ月付きっきりでサポートいただけたことも。契約書の内容や証券会社との折衝等、世の中のわからないことはすべて、ジャフコさんに相談していました。
井坂 そうそう。広告主への営業にも奔走しました。「営業予算はこれくらいですから」とノルマまでいただきまして(笑)。もちろん、僕一人ではなくオールジャフコで、営業活動したり、人材や企業の紹介をさせていただいたりしていましたよね。
鎌田 組織全体で対応してくれる会社はなかなかないですよ。もし、もう一回出資を受けられるとしても、迷いなくジャフコさんを選びます。そして、ジャフコさんをこんなに使わせていただいた会社は、UUUM以外にないんじゃないかと自負しています。日本で最も歴史あるベンチャーキャピタルで、継続的に利益を上げていて、厳選投資やコストカット等のノウハウが社内に蓄積されている。これを使い倒したいと、井坂さんには要求ばかりしていました。
井坂 投資が決まると、「明日からうちに来るでしょう」と当たり前のように言われましたね。
鎌田 やっぱりそこは、投資してくれた会社は「自分の血肉を分けた仲間」だと思っているからです。感覚的に、スタートアップとベンチャーキャピタルは、「高校時代の生徒と恩師」のような関係だなと思うことがあります。いずれ上場という"卒業"を迎えて巣立っていくけれど、そこに至る濃厚な生活の仲間であることは変わらない。
投資いただいたからには、事業成長と投資金額相応のリターンをすることは、僕らの義務です。そのために、仲間として一緒に働いていただけたり、僕らだけでは得られない外の情報やアドバイスをいただけたり。それを図々しく求める権利があると思っています。ジャフコさんを120%使い倒すために、毎月のように井坂さんとディスカッションしていました。
井坂 普段のやり取り以外にも、月1回は真面目に議論、加えてご飯を食べながらの議論で、月に2回は定例的に会っていました。鎌田さんは、常にフルオープンで、そのときに悩んでいること、抱えている課題をリアルタイムで共有してもらっていました。なので、相談を持ち掛けられても、そこに至った経緯や背景が理解できていました。必要な情報をスピーディーに持ってきて回答できたのは、日々のコミュニケーションの積み重ねがあり、緊張感を伴う信頼関係が築けていたからです。
鎌田 ジャフコさんのノウハウを利用しないなんて、もったいないですから!例えば「こんな採用を強化したい」と相談すれば、他の出資企業の採用事例をすぐに持ってきてくれる。僕が何も知らずに、見切り発車で動くよりも、よほど安心できます。起業家にとって日常的に相談相手になってくれる人は数少ないんです。起業家に寄り添うというスタンスで接してくれるベンチャーキャピタルの存在は非常に大きいと思います。
「アソビナカマ」として、更なる事業成長がジャフコへの恩返し
井坂 鎌田さんと、何かの打ち合わせで話していたとき、「売上1000億円、時価総額1兆円までは当然のようにやりますよ」と仰ったのを覚えています。そんなUUUMの創業期に携われたことはすごく嬉しいことですし、さらに偉大な会社になっていってほしい。
鎌田 またプレッシャーをかけてきますね(笑)。ジャフコさんはノウハウの塊で本当に良い会社なのに、それを社外に全然うまく伝えられていない。ジャフコさんにはこれからも社会を牽引するベンチャーキャピタルであってほしいし、単に「日本最古」なのではなくて、「カッコいい老舗」として真っ当に評価されてほしいんですよ。
僕にできる恩返しは、「ジャフコからUUUMっていうすごい会社が生まれた」「UUUMに投資したジャフコはすごい」と言われるように、会社を成長させていくことかな。立場は違えど、ジャフコさんとは、常に新しい事業創造に携わる「アソビナカマ」だと思っています。また一緒に、世の中に面白いことを仕掛けていけたら最高です。