起業家とジャフコの出会いから紐解く企業の軌跡。今だから語れるエピソードや想い、これからへの展望を語ります。
今回は、エンゲージメント経営プラットフォーム「TUNAG(ツナグ)」を運営する、株式会社スタメン 代表取締役社長 加藤厚史氏と、ジャフコ担当キャピタリストの佐藤直樹による対談です。
【プロフィール】
株式会社スタメン 代表取締役社長 加藤 厚史 (かとう・あつし)
1981年愛知県生まれ。京都大学大学院卒業後、中京テレビ放送に入社。その後、2008年に名古屋のITベンチャー企業 エイチームに入社。人事業務の傍ら、ウェディング事業の企画、立ち上げを行い、2010年に取締役就任。東証マザーズ、東証一部への上場を経験後も、新規事業として自転車通販サイトの企画、立ち上げを行う。2016年に役員を退任し、自らの信念でもある「人と組織」にフォーカスした会社を創りたいとの想いから、株式会社スタメンを創業。
【What's 株式会社スタメン】
「一人でも多くの人に、感動を届け、幸せを広める。」をミッションに、2016年1月に名古屋市で創業。創業メンバー3人で開発した、エンゲージメント経営プラットフォーム「TUNAG」を2017年4月にリリース。「社内制度」を軸としたコミュニケーションを行うことで、会社と従業員、従業員同士の相互信頼関係を築くことを目的としている。2020年2月、日本における「働きがいのある会社」ランキングで東海地区では史上初の第1位に選出。「スタメン」とは「Star Members」の略であり、社名には社員一人ひとりが「Star」のように光り輝く存在となり、そんな「Star」が集まる会社にしたいという意味が込められている。
「人と組織」をテーマにしたのはなぜか。本質的な事業への想いを理解してくれた
加藤 ジャフコさんとは、スタメンを立ち上げる前から1~2度お話したことがありました。前職のエイチームで新規事業のイベントを実施した際にお越しいただきました。
佐藤 そうですね。最初にお会いしに行ったのは、同じ中部支社に所属する別のメンバーでした。ジャフコのキャピタリストは、多くの企業とネットワークを作るために動き回っています。エイチームさんは東海圏で勢いのあるITベンチャーですから、「エイチームで新規事業を立ち上げた人」と聞いて気になっていました。また、加藤さんから「いずれ起業するかもしれない」という話があり、大変興味深いと思っていました。
加藤 当時は、「"良い組織をつくる"ことから会社創りをしたら、面白いサービスが生まれるのではないか」と、漠然としたビジョンを話していたと思います。ジャフコさんは日本で最大級のベンチャーキャピタルですし、起業後、資金調達を考えることになった際は、まずはジャフコさんにご相談したいと思っていました。スタメンは自己資金で始めましたが、事業計画を作ってみると、すぐに資金が尽きてしまうのが目に見えていました。サービスを立ち上げた後、ジャフコさんがすぐに会いに来てくださったのはとても心強かったですね。
佐藤 加藤さんはエイチーム時代から、ブライダルサービスや自転車通販サイトの新規事業を0から立ち上げ、売上を十数億まで伸ばしていました。取締役として組織を拡大させていった実績にも注目していたので、お会いできるのをとても楽しみにしていました。
加藤 こちらとしては、当時のジャフコさんのご担当者から「偉い人が話を聞きに来る」と言われていたので、めちゃくちゃ構えていましたよ(笑)。佐藤さんがフランクな方でかなりホッとしました。
佐藤 そうだったんですね(笑)。加藤さんには、どんな質問に対しても、非常に明確にかつ合理的に答えていただきました。「なぜ組織に関するビジネスをしたいのか」という疑問にも、加藤さん自身の「人と組織」への課題意識が伝わってきました。
加藤 ビジネスモデルや売上規模等、数字について細かく聞かれるのかと思っていました。当時は予算を作っている段階だったので「事業計画」はいかようにも話せるな、と。そうしたら、質問の大半が「なぜ"人と組織"なの?」「何を実現したいの?」という定性的なことでした。本質的な部分を理解しようとしていただけたことが、とても嬉しかったですね。
佐藤 数字に関することは、前職で取締役になられ、上場を経験していることからも安心感がありました。スタートアップは、決して当初の思い通りにはいきません。色々な試行錯誤を繰り返しながら成長していく。そこで拠り所にするのが、起業家の事業への「志」です。
さらにスタメンのビジネスモデルは、「人」にフォーカスし、いかに組織のモチベーションをあげるかという普遍的なテーマへの挑戦。時間がかかるからこそ、これからの見通しを考える上で、加藤さん自身がどれだけ諦めないで事業と向き合っていけるのかという点に興味がありました。
「自分に次ぐ起業家を創りたい」という先輩起業家の熱意に刺激を貰った
加藤 2016年8月に「TUNAG」の開発をスタートさせ、ジャフコさんからは半年後の2017年2月に総額2.4億円の出資をいただきました。
「TUNAG」の正式リリースは2017年4月なので、投資の段階では、プロダクトもあまり出来ていませんでした。それでも、一緒になって営業先を探してくれる等、資金面以外のサポートでも多くのチャンスをいただけたので、安心して事業に集中することができました。
佐藤 「TUNAG」の営業をサポートさせていただいたときは、「経営者にアプローチすれば意思決定が早い」と分かり、ジャフコのネットワークを活かして投資先にアプローチしました。金融機関での導入が決まったと聞いたときには、「知っている金融機関は全部回ろう」と即リストアップしたこともありましたね。
加藤 ジャフコさんのネットワークの広さには驚きました。加えて、難しい法律や株の話が出てきたときに、すぐに佐藤さんに電話して相談ができる関係性が築けたことは、得難い財産です。
佐藤 スタメンさんが関西支社を立ち上げた際は、ジャフコの関西支社メンバーが毎日出社して、張り付くこともありましたね。
加藤 そうそう。「応援したる」「営業先をちょっと探してくる」みたいに、みんなとにかく温かいんですよ。一緒にお客様先でただお喋りして帰ってくることもありましたけれど(笑)。佐藤さんからは、IPOを経験した先輩起業家もたくさん紹介していただきましたね。
佐藤 そうですね。IPOしたばかりの起業家やIPO後しばらく経った起業家等、様々なフェーズの会社の情報をインプットするのも大切だと思い、意識的に紹介させていただきました。そこからサービス導入に繋がることもあればより良いですし、今後IPOに向けて留意すべき点や思考の整理の仕方等で、参考になることがあるかな、と。
加藤 社内では専門家や経験者がおらず相談できないことも多いので、非常にありがたかったです。上場して成功した先輩方の「自分に次ぐ起業家を創っていきたい」という想いの強さを感じ、僕もこんな風に、次の世代に繋ぐ側になろうと刺激をいただきました。
愛知発「起業家育成工場」の活躍に期待している
佐藤 愛知エリアでは、2012年以降にエイチームさんをはじめ、IT企業の上場が増えています。加藤さんが次に続き、スタメンさんから多くの起業家が出て、そこにジャフコが投資支援をしていく。愛知エリアから、そんな流れを生み出していきたいですね。
加藤 僕はたまたま愛知で生まれ育ち、名古屋で創業しましたが、地方だからこそ優秀なエンジニアを採用でき、プロダクトを生み出すことができました。地域特性として、親御さん世代を中心に「大企業に行った方が良い」という考えは根強くあります。
「有名大学を卒業したのに、聞いたことのないベンチャー企業なんかに行くな」みたいな(笑)。でも、スタメンに新卒で入ったメンバーが成長し、自分たちで事業を立ち上げ、豊かな社会人生活を送ることで、従来の大企業偏重の意識を少しずつ変えていくことができる。良い人がちゃんと成長できる会社に入社し、その会社が大きくなっていくというサイクルができれば、地域発の企業もどんどん増えていくのではないかと思っています。
佐藤 スタメンさんは、今後グループ化を進め、いくつものグループ会社ができてくるでしょう。この地域の「起業家育成工場」のような存在になって、愛知を盛り上げてほしいと期待しています。
加藤 そうですね。新規事業を立ち上げることで、社内起業家を育てたいという想いは強くあります。非連続な成長のためのアクセルをどこで踏むか、起業家としてタイミングを決めることが大事なんだろうなと思っています。
事業が散漫にならないよう、僕らの誇る組織力、プロダクト開発力と、サービス導入後のカスタマーサービスの質の高さ、地道にコツコツと泥臭い営業活動ができる点を強みにしたい。産業領域は問わないけれど、どんな事業にも「世の中をより良くする」という軸があってほしい。そこはぜひ、最高顧問である佐藤さんに、スタメンが道をそらさないようにパトロールしてもらえたら良いなと思っています(笑)。
佐藤 「TUNAG」は、サービス展開が当初の計画より早く、細かな改善を繰り返しながら着実に成長していますよね。2019年には「TUNAG」のグローバル版がスタートしている。創業事業が土台としてしっかりしてくれば「次の事業を始めましょう」と安心して提案することができます。
加藤 佐藤さんには、まずきちんと恩返しをして、そこから先もワクワクしてもらえるようなスタメンの成長曲線を見せていきたいと思います。そして、事業創造のノウハウをスタメンから発信し、この地域の起業家誕生に貢献できたら理想的です。