起業家とジャフコの出会いから紐解く企業の軌跡。今だから語れるエピソードや想い、これからへの展望を語ります。
今回は、世界66カ国にユーザーを抱えるカスタマーエンゲージメントプラットフォームを手掛ける、Repro株式会社 代表取締役 平田祐介氏と、ジャフコ担当キャピタリストの長島昭による対談です。
【プロフィール】
Repro株式会社 代表取締役 平田 祐介 (ひらた・ゆうすけ)
1980年、東京都生まれ。戦略コンサルタント出身のシリアルアントレプレナー。大手コンサルティングファームに入社後、主に製造業のクライアントに対してターンアラウンド戦略立案や新規事業開発支援業務に5年間従事。2011年から2度、EC事業を立ち上げるも挫折を経験する。2014年にRepro株式会社を創業。
【What's Repro株式会社】
2014年4月創業。世界66カ国、7,300以上のサービスで導入され、圧倒的な市場シェアを誇るApp / Web向けのCE(カスタマーエンゲージメント)プラットフォーム「Repro」を開発・運営。顧客データを活用し、メールやプッシュ通知、Webやアプリ内ポップアップなどのチャネルを横断した付加価値の高いコミュニケーションを実現。大幅なアップデートを実施し、グローバル展開を推進している。2020年2月、シリーズCで総額約30億円を調達した。
海外の起業家から厳しい言葉を浴び、だからこそ「世界に挑戦する」と覚悟を決めた
平田 最初に長島さんに出会ったとき、僕はReproを立ち上げたばかりで、長島さんは大学生でしたね。長島さんは学生スタートアップを立ち上げていて、いわば同じスタートアップ仲間でした。
長島 ベンチャーインキュベーションプログラムに参加したのが平田さんとの出会いでしたね。当時、僕は大学の仲間と女性向けキュレーションメディアを作っていたのですが、平田さんに「メンバーに女性がいないね」と突っ込まれたのをよく覚えています。
平田 女性向けサービスを提供しているとは思えない、貫禄のある男性集団だったので(笑)。その後、長島さんにはReproの初代インターン生として3カ月間働いていただいたこともありました。
長島 大学生だった僕にとって、平田さんは人生で初めて出会った「起業家」。仕事はもちろん、周りの人に対してすごく愛がある方という印象でした。その後、自分たちの学生起業がうまくいかなくなって悩んでいたときに「Reproで働いてみる?」と声をかけていただきました。
平田 Reproは当時、エンジニアの職人集団だったので、メール対応や書類作成など事務的な仕事をお願いできるインターン生が欲しかったんです。
長島 起業家としてものすごく忙しい時期に、何も知らない学生をよく迎え入れてくださいましたよね。ビジネスの基本を叩き込まれ、近くで起業家の考えに触れられた、すごく貴重な体験でした。
平田 せっかく仲間を増やすなら、Reproを「他のどこで働くよりも成長機会がある会社」にして、「ここで働けて良かった」と思ってもらえる場所にしたいと考えていました。インターン生に対して厳しいことも要求していたと思いますが、「Reproに携わってくれた人たちを強くしたい」という意識はありました。
長島 平田さんと同じ時間を共にした学生時代のメンバーもみんな「平田さんと会えてよかった」と口にします。「成長機会」へのこだわりはどこから来たのでしょう。
平田 起業家としての2度の挫折経験からでしょうね。僕は17歳の時点で「将来は起業家になろう」と思っていました。45歳までに稼ぎに稼いで、余生は世界中を旅しようと人生プランを立てていたんです。
大学卒業後、コンサルファームを経てEC事業を2回立ち上げましたが、今振り返れば、起業の目的が「自分が稼ぐこと」にしか向いていなかった。メンバーの成長やユーザーの満足がおざなりになっていたので、人もどんどん離れていきました。「世のため人のため」という視点がないサービスや企業は長くは続かないと、身をもって体験したわけです。
長島 そこから、3度目の起業に踏み出した平田さんのバイタリティがすごいです。
平田 1000万円近い借金を抱えた時期もあって、さすがに僕も「どうやって生きていこうか」とギリギリまで追い詰められていました。
でも、2度目の起業時に、『GhostRec』というWebサイトのユーザー行動分析ツールに出会い、その分析結果に基づいて自社のECサイトを改善していくことで黒字化できた。「このツールに出会えたから救われた」という想いが、「これからは、自分たちがユーザーに心から感謝されるサービスを提供しよう」と考えるようになれたきっかけです。
長島 そうだったんですね。カスタマーエンゲージメントプラットフォーム「Repro」は今や世界66カ国で活用され、グローバル展開を拡大させていますよね。
平田 グローバル展開は創業時から意識していましたが、大きなきっかけは、東アジアを中心としたベンチャー育成プログラムに参加させていただいたことでした。そのとき、海外の起業家から「日本はマーケットが大きいから国内向けにやっていても成り立つ。でも、海外に通用するイノベーションは日本からは生まれない」とストレートに言われました。
「なにくそ!」と思ったのですが、確かに、IT産業は数少ない成長産業なのに、国内市場だけを考えている起業家が多いのかもしれないと納得するところもありました。これからスタートアップを経営していく僕らが、ITで外貨をしっかり獲得していかなくてはと、「世界シェアNo.1」という目標を新たに掲げることにしました。
ジャフコに入社したら、絶対に平田さんに投資したいと思っていた
長島 僕がジャフコに入社したのは2015年4月。Reproさんに投資させていただいたのは、2016年2月で、僕にとっては初めての投資案件でした。
平田 「縁故投資」かのようですね(笑)。
長島さんは「戦友」のような存在です。ベンチャーインキュベーションプログラムで出会い、Reproが小さいときにインターン生として手伝ってくれ、今度はプロのキャピタリストという立場で「本気で平田さんとReproに向き合いたい」と連絡をいただいた。素直に、とても嬉しかったです。
長島さんはReproにとって、命の恩人。投資いただいたとき、Reproの業績は良いとは言えなかった。僕という人間を理解し、信用していただけていなかったら、ジャフコ内の稟議を通すのも難しかったと思います。あの投資があったから、今のような機能拡充や海外展開も進められたんですから。
長島 学生時代から平田さんの想いを近くで聞いてきたので、ジャフコに入社したら、絶対に自分が担当キャピタリストになりたかったんです。
創業時はIPOが目標ではなく、「2年以内にバイアウトする」と仰っていました。最初、投資額は5億円で、と話していたのが、10億円、20億円と資金調達の規模が大きくなっていった。実績に基づき、目標を着実に上方修正していく姿に「一緒にIPOを目指したい」と思うようになりました。
平田 IPOについては、ジャフコさんと相談をしながら自分の中で新たな目標として定めていきました。海外の起業家からはっぱをかけられたこともあり、ITという成長産業に身を置きながらも、イグジットしたあとに大きな勝負もせずに生きていく姿ってダサいなとも思い始めていた。
これから起業しようという後輩に示しがつかないし、自分のエゴで会社経営を止めてはいけないんじゃないかと。次世代の子どもたちに「3度目の正直で、こんな風に成長している会社がある」という姿を見せられたら、自分もチャレンジしようと思ってくれるかな。そう考えたら、会社と一緒にスケールアップしていく目標に納得感が持てました。
長島 当時、平田さんと西新宿のオフィスで何度も真剣に議論した日々を覚えています。
平田 焦らしてしまいましたね(笑)。先輩起業家から、ベンチャーキャピタル選びはすごく大事だと聞いていたので、正直吟味させていただいた時期はありました。結果、長島さんとジャフコさんとご一緒できて本当に良かったと考えています。ジャフコさんは、僕が逃げずに成長していく限り、全力で応援してくれる。そして、多くの企業を上場させてきた知見やネットワークも素晴らしいので、国内のあらゆる業界の企業と繋がっていきたいReproとしては、ジャフコさんのお力添えはとても心強いです。
インターン生からビジネスパートナーへ。これからの関係性の変化も楽しみ
長島 平田さんが目指している海外展開、その中間地点としてのIPOなど、これからもできる限りのサポートをしていきたいと思っています。
平田 長島さんとは約6年間で、スタートアップ仲間、インターン生、株主という3つの形で関わってきました。一貫して「戦友」であり「パートナー」だと思っています。今後また新たな展開があるのなら、すごく面白い関係ですよね。仕事ばかりしていないでたまに飲みにも行きたいし、IPOを実現できたときには、1泊2日くらいかけて語り合いたい。もし将来、長島さんが独立するときがあれば、そのときには僕が出資するみたいな関係性も出てくるかもしれません。
長島 ありがとうございます。でも、平田さんのお金を損させたら...と思うと怖くて受けられないかもしれません(笑)。
平田 そんなこと言わないでくださいよ(笑)。僕は起業家としてまだ成功できてはいないですが、長島さんとの面白い関係性を含めて「人」にはずっと恵まれてきました。その運をつかみ続けるために大事なのは、「恵まれている」と認識した上で自分がどこまで成長できるかだと思っています。僕も魅力的な人間になれるよう努力していくので、長島さんも同じスピードでついてきてほしい。そして、さらに素晴らしいキャピタリストになっていってほしいと思っています。