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「産業用ロボット」でガレージからグローバルへ 技術ベンチャーの挑戦【MUJIN 滝野 一征 & JAFCO】
「産業用ロボット」でガレージからグローバルへ 技術ベンチャーの挑戦【MUJIN 滝野 一征 & JAFCO】

起業家とジャフコの出会いから紐解く企業の軌跡。今だから語れるエピソードや想い、これからへの期待を語ります。
今回は、産業用ロボットの知能化で日本から世界を目指す急成長のテクノロジーベンチャー、株式会社MUJIN CEO 滝野一征氏と、ジャフコ担当キャピタリストの北澤知丈による対談です。

【プロフィール】
株式会社MUJIN CEO 兼 共同創業者 滝野 一征 (たきの・いっせい)
1984年大阪府生まれ。2011年に世界的ロボット工学の権威であるロセン博士とMUJINを創立。MUJINを設立する以前は、米国大学卒業後、ウォーレンバフェットの会社として有名な、製造業の中でも世界最高の利益水準を誇るイスカル・ジャパン社に勤務。生産方法を提案する技術営業として多くの賞を獲得する等、輝かしい実績を残す。日本での厳しい生産現場を渡り歩いたことによって得た幅広い知識や現実的な視点は、特に事業化が難しいと言われるロボットベンチャー業界で大躍進する原動力となった。

【What's 株式会社MUJIN】
2011年7月創業。「ロボットをソフトウェアの力によって自動化し、世界の生産性向上に貢献する」を企業使命とする株式会社MUJIN。産業用ロボットのコントローラ・3Dビジョンを中心とする知能制御機器、および高付加価値自動化ソリューションを提供している。開発のもととなるのは、CTO兼共同創業者であるロセン博士が開発し、10年以上にわたり世界中で1,000以上ものロボットに適用されてきた、世界一の産業向けモーションプランニングAI技術だ。メンバーの約半数が外国籍。カーネギーメロン、スタンフォード、MIT、パリ大学、東京大学、北京大学、清華大学、その他20カ国以上から集まった多国籍チームが生み出す高い技術力と、製造・物流のプロによる現場力を融合し、ロボットの可能性を拡大させている。

Portfolio


40平米のガレージに通いつめ、事業理解を深めた

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滝野 ジャフコの北澤さんに出会ったのは、創業から1年後の2012年6月でしたね。当時は、リーマンショックの影響が響き、VCやCVCが丸ごと吹き飛んだような時代でした。投資活動をきちんと継続して行っているベンチャーキャピタルは多くなかった。そんな中で、ジャフコさんからご連絡をいただき、「一度話を聞いてみようか」とお伺いした記憶があります。

北澤 そうです。私からご連絡しました。新聞か何かで、滝野さんとロセンさん(MUJINの共同創業者、世界的ロボット工学の権威)が起業されたという記事を読み、すぐにお会いしたいとホームページのお問い合わせフォームからメールをお送りしました。私がジャフコに入ってちょうど2年目の時だったと思います。

滝野 気合いを入れてジャフコさんにお伺いしたら、北澤さんが出てきました。ピッチをしたら、とても真剣に話を聞いてくださっていたので、まさか入社2年目とは(笑)。

北澤 私も滝野さんがまさか20代だとは思っていませんでした(笑)。そこから、ジャフコによる2014年の初回投資まで約2年かかっています。
記事内画像②.jpg滝野 そうそう。MUJINの最初のファイナンスは2012年で、北澤さんと会った2週間後に(別のベンチャーキャピタルが)クローズするというタイミングでした。

北澤 そのタイミングでは縁がもてませんでした。ただ、次のラウンドではMUJINにどうにか投資させていただきたかったので、そこからキープインタッチで定期的にコミュニケーションをとっていこうと考えていました。

滝野 それから、北澤さんは2カ月に1回くらいのペースで僕らのオフィスに来てくれていましたね。オフィスといっても、東京・小石川の40平米のガレージで、駐車場に建てられた小屋みたいなもの。CTOのロセンやMITからきた取締役のフアン等の外国人エンジニアたちが、狭いオフィスで必死にロボットコントローラの制御プログラムを書いているときに、話を聞きに来てくれたのを覚えています。

北澤 滝野さんはアポイントをお願いしても、2週間くらい返信がなくて、当日の朝、急に「今日の15時なら空いているけど」と連絡が来るんです(笑)。アポイントを貰って、オフィスに行くと、「ロボットがオフィス内を占拠しているから」と、私は玄関にパイプ椅子を置いて、外で話をしていましたね。

滝野 当時は本当に時間がなくて、当日の返信になってしまっていましたね(笑)。ガレージをオフィスにしていたのは、先が見えない中でロボットと人以外にかかるコストは1円でも削減したかったから。今のスタートアップなら、最初から立派なオフィスを構えるのって当たり前なんですけどね。そんな会社に、2年後の2014年には総額6億円の投資を決めてくれた。すごいことですよ。
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「信頼できるかどうか」が投資を受け入れる重要な判断材料だった

北澤 MUJINの「知能ロボットコントローラ」の開発・販売という事業は、今日始めて明日売れるような簡単なものではありません。開発には高度な技術力と丹念な作りこみが必要で、すぐにピボットできるビジネスでもない。スタートアップとして始めるには、かなりハードルの高いビジネスモデルです。そもそも創業時にはプロダクト自体もなかったところから、今ではファーストリテイリングやASKUL等とパートナーシップを締結出来ているというのは、滝野さんや経営メンバーの粘り強さがあったからだと思います。滝野さんに出会って、「ビジネスという場で戦っていくんだ」という意志の強さと目線の高さを感じたんです。人として、というより「動物としてすごい」という感覚がありました。

滝野 「動物」って(笑)。初回のピッチでは、「投資してください」といった発言は僕からはしなかったのを覚えています。「投資したいのならどうぞ」という生意気な態度を貫いていました。やっぱり、嘘でも強気でいなくちゃって思っていたのでしょう。

2014年にジャフコさんから投資いただいたとき、他に24社くらいのベンチャーキャピタルが候補としてあったんです。各社から投資金額を提示されても、「僕らにはもっと価値がある」と思っていたので妥協はしたくなかった。国内はもちろん、中国やアメリカ等、資金力のある世界中のベンチャーキャピタルにも手あたり次第に声をかけました。結果、彼らがつけたバリュエーションは、当時国内のベンチャーキャピタルから提示されていた金額の2倍以上にまで上がりました。

実は、ジャフコさんはその中でオファー額はトップでも2番手でもなかったんです。もっと良い条件を出してきたベンチャーキャピタルは他にもありました。散々、バリュエーションを上げようと世界中のベンチャーキャピタリストと交渉してきたのに、なぜジャフコさんを選んだんだ、という話ですよね。その理由は、何度もオフィスに足を運んでくださる北澤さんの姿勢に、僕ら経営陣が信頼を寄せていたからなんです。

北澤 ありがとうございます。嬉しいです(笑)。
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滝野 誰に投資されたいのか、ベンチャーキャピタルと企業とはどういう関係なのかと考えたときに「一心一体でできること」は重要でした。利益相反するフェーズも出てくる関係性ですから、ファイナンスは条件だけでなく、信頼できるかどうかが判断材料の5割くらいを占めていました。加えて、当時は社員5~6人の会社でしたから、人手は慢性的に足りていない。北澤さんなら、年も近いし、手伝いを頼みやすいなというのもありました。

北澤 投資をさせていただいた後、3カ月ほど、週に3回はMUJINに常駐していた時期があります。管理業務を中心に、経理業務をやったり、さらには備品整理のための棚を作ったりと、何でもしていました(笑)。社員全員で行う朝会にも参加し、ロセンさんに毎日のタスクの報告をしていましたね。
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滝野 ハンズオンでやってくれていたので、北澤さんが社内にいるのが日常でした。そこまで入り込みながら、我を押しつけないところも、僕とロセンにとっては良かったんです。取締役会で北澤さんが意見をしてくれるものの、最終的には僕らが決めたことを尊重してくれる。

北澤 MUJINは、事業内容の壮大さと、その一方での難しさが、他のスタートアップとは一線を画しています。各国から一流のエンジニアを集めていますし、取引先として出てくる企業も驚くようなところばかり。グローバルを目指すテクノロジーベンチャーとして、経営陣が見ている視座の高さは、さすがだなと思うことばかりです。

滝野 MITやスタンフォード大学を卒業したような、世界中どこでも活躍できる一流のエンジニアをMUJINに連れて来ています。しかも、アプリを開発するという事業ではなく、当社は工場や倉庫の生産プロセスにロボットを導入する。実際にモノが動く現場に導入するため、仮にロボットがうまく機能しなければ、何億円もの損が出ます。

北澤さんはそこで、考えられるリスクは何か、的確に助言してくれる。時にはその助言を反映できないこともあるのですが、その冷静さとめげなさには、何度も救われてきました。



MUJINが見据える社会課題は世界共通。長期的なメガトレンドになる

北澤 今後もMUJINの大きなチャレンジに、キャピタリストとして、しっかりと関わっていきたいと考えています。滝野さんのすごいところは、会ったときから、目指している世界が1ミリも変わっていないところ。日本の人口減によって労働現場はひっ迫する、効率化を図らないとダメだ、というのは、誰もが予想しています。しかし、それに対して本気でソリューションを提示できている会社はほとんどないでしょう。しかも確固たる技術力に支えられたプロダクトがある。コロナの影響で製造業や物流業のニーズも変わり、益々MUJINが必要とされる社会になっていくと思います。

滝野 コロナによって、「人はいるが、現場に来られないから作業が成り立たない」という事態が表面化しました。短期的には工場系に対する投資は減っていますが、長期的には「ビジネスの継続性」という観点で、ロボットを自律的に動かす必要性が製造現場で出てきています。

MUJINのやっているロボット事業は、マネタイズするのが難しく、浸透にも時間がかかる、スタートアップには不向きな事業です。でも間違いなく、長期的なメガトレンドになります。限られた人数でイノベーションを起こして収益を上げていくことは、世界共通の社会課題ですから。

企業にとって、有事の際に一発KOの要素があることは恐怖なんです。コロナによって見えたのは、「人が稼働できないと事業が止まる」という恐怖。こんな事態は誰も予想していなかったと思いますが、万が一に備えてロボットを導入していたかどうかが、企業の存続を決める要素になる。

例えて言うと、「スプリンクラー」のようなものでしょう。予算削減でスプリンクラーを導入していなかったら、火事が起きたときにすべてが消えてしまう。産業用ロボットが、万が一の時に備えて企業の未来を守る存在になってきたのだと感じています。
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北澤 MUJINは2019年に株主構成を変更するMBOと大きな資金調達をされています。今後のチャレンジも楽しみですね。

滝野 外部株主はジャフコさんしかいない状態になりました。だからこそ、内向きにならないように、ジャフコさんの意見は益々重要になります。

今後、グローバルに展開し、大きな経営判断をする際、具体的な他社事例はぜひ聞かせてほしい。「3歩先の世界はこうなっていますよ」と助言いただき、僕らが安心して新たな市場に挑戦していけるように。豊富な知見にこれからも期待しています。