起業家とジャフコの出会いから紐解く企業の軌跡。今だから語れるエピソードや想い、これからへの展望を語ります。
今回は、ブロックチェーン技術を軸として様々な産業のDXを推進する、株式会社LayerX 代表取締CEO 福島良典氏と、ジャフコ担当キャピタリストの三好啓介による対談です。
【プロフィール】
株式会社LayerX 代表取締役CEO 福島 良典 (ふくしま・よしのり)
東京大学大学院工学系研究科卒。大学時代の専攻はコンピュータサイエンス、機械学習。2012年大学院在学中に株式会社Gunosyを創業、代表取締役に就任し、創業よりおよそ2年半で東証マザーズに上場。後に東証一部に市場変更。2018年にLayerX代表取締役CEOに就任。2012年度IPA未踏スーパークリエータ認定。2016年Forbes Asiaよりアジアを代表する「30歳未満」に選出。2017年言語処理学会で論文賞受賞(共著)。2019年6月、日本ブロックチェーン協会(JBA)理事に就任。
【What's 株式会社LayerX】
「すべての経済活動を、デジタル化する。」をミッションに、2018年8月に創業。ブロックチェーン技術を軸として、金融領域を始めとした様々な産業のDXを推進している。2019年10月には日本で初めてEthereum Foundation Grants Programの対象企業に選定される。2019年11月には株式会社三菱UFJフィナンシャル・グループとの協業、2020年4月には三井物産株式会社と「三井物産デジタル・アセットマネジメント株式会社」を設立する等、実証実験のみならず具体的な商用化の取り組みを推進。信用や評価のあり方を変え、経済活動の摩擦を解消し、その恩恵を多くの企業や個人が受けられるような社会の実現を目指している。
正直でオープンな姿勢は、2度の起業を経ても変わらない
福島 三好さんとは、2013年にグノシー(株式会社Gunosy)に投資いただいたときからのパートナーです。LayerXとして2020年5月には総額30億円の大型投資をいただいており、グノシー時代にはよくわかっていなかった「投資を受ける意味」も理解できている。僕も大人になりました。
三好 いやいや。最初にお会いしたころから、福島さんの良さってずっと変わらないんですよ。正直でオープン。カッコつけようと気負ったところが全くない。どうして起業したのかを聞いても「自分たちのために作っただけだから、サービスをやめて就職しようかなと思っていた」と返ってくる。「せっかく多くの人が使ってくれているのだから、会社にしただけです」と。その正直さに、「一緒に仕事をしていきたいのは、こういう起業家だ」と思いましたね。
福島 そうだったんですか。最初に会ったとき、僕、三好さんの話を一切聞いていなかったんですよ(笑)。コーディングに忙しすぎて。「話を聞かないやつだ」と思っただろうな...とあとになって反省していました。
1回目の起業は、今思えば「ノリと気合い」でした。大学時代に作っていたサービス(ニュースアプリ「グノシー」)にどんどんユーザーが増えていて、サーバー代や人件費等が回らなくなって起業するしかなかった。ただ、GoogleやFacebookみたいに、「こんなサービスがあったらいいな」という"自分たちが作りたいもの"を作って、それが大きくなっていく起業スタイルへの憧れはありました。
三好 「あったらいいな」と発想するところまでは、多くの人が日常的にしていると思うんです。それを実際に形にして、しかも成果に繋げるまでには大きな隔たりがある。それができたのは、なぜだと思いますか。
福島 タイミングと運。時代の後押しですね。ソフトウェアやコードって"現代の魔法"なんです。僕らが普段使っているインターネット上のサービスは、元を辿ればすべて謎の文字列の羅列で、それが動いているだけ。
僕の好きな言葉に、マーク・アンドリーセン(アメリカのソフトウェア開発者、投資家)の「Software is eating the world.」という言葉があります。「ソフトウェアが社会を実装できるようになる」という意味で、実際に今では、車や工場、医療等あらゆるものをソフトウェアが動かしています。
僕は、ソフトウェアが社会に魔法をかける時代に生まれ、たまたまそこに興味を持ち、勉強をした。もちろん努力もしましたが、スマートフォンが広がる中、良いアプリさえあれば、世界中の人に使ってもらえる環境があったことが最大の幸運でした。
三好 「運」と仰るところが福島さんらしいですね。確かに、サービスも福島さんご自身も時代に合っていたと思います。ちなみに、グノシーの時と比較して、LayerXの起業時は「志」に違いはありましたか?
福島 コンシューマー向けサービスだったグノシーに対し、LayerXの対象は主に企業。2回目の起業は、課題意識の持ち方が全然違いました。
コンシューマーの世界は、この10年で一変しています。LINEもメルカリも10年前にはなかった。でも、僕らが仕事で使っているものを見渡せば、10年前とほぼ変わらないんですよ。エクセルやメールや社内の使いにくい承認ツールやら、「どうしてこんな非効率的な作業が残っているんだろう」と感じながら使っている。効率化に向けてサービスを刷新しようと、誰も動かそうとしていません。ここに、ものすごくチャンスがあるのではないかと考えました。
LayerXが手がける「ブロックチェーン」は、デジタルな証拠を残す技術。データ改ざんも阻止できます。世の中は様々な約束によって物事が動いていて、これまで僕らは、その内容を書面に落として捺印し、証拠性を得ていました。ブロックチェーンは、これらをすべて完全にデジタル化できてしまう。経済活動の約束事がデジタルで記録されるということは、約束を守らせるために費やしていたあらゆるコストがなくなるということ。大企業はもちろん、小さな企業や個人に、デジタルな信用手段が配られていく社会が来れば、人々は安心を得ると共に、煩雑な業務から解放されます。
三好 LayerXを立ち上げるとき、「2018年は(ブロックチェーン市場参入の)ラストチャンスだから、ここで踏み切りたい」と話していただいたことをよく覚えています。世の中は必ず、ブロックチェーン技術を必要とする世界に変化していくと断言された上で、「でもどのくらいのスピードで進むのかは誰も保証できない。投資いただけても、時間がかかるかもしれない」と最初から仰っていました。
福島 事業計画書を作っていても、「日本の環境変化が大きく影響するので、目指すけれど達成できるかどうかは分からない」という点がどうしても出てくる。すべて洗いざらい話し、それを理解した上でやっていきたいとお伝えしました。
三好 どんな会社にしたいか、どういう社会を創りたいか等の会話は何度もしてきましたからね。行きつく過程の山あり谷ありは、織り込み済みです。ただ、向かうゴールがブレないことだけは大事にしてきた。
福島 LayerXでも、三好さんに迷わず投資のお願いをしたのは、中長期的な目線で一緒に戦おうという姿勢が感じられたからです。事業をやっていると、「短期的には資金がショートしそうだけれど、さらに投資して踏み込んでいけば伸ばすことができる」フェーズがある。そのバランスを理解して、投資を決断してくれる潔さのようなものが、三好さんにはあります。
もちろん、短期で強いプレッシャーを与えられることで伸びる企業もあります。ただ、LayerXの場合、時間軸の長さを共有してくれるキャピタリストでなければ、一緒にやっていくのは難しいだろうと思っていました。1回目の投資から、ピンチのときも動じずに先を見ている一貫性には、すごく信頼感があった。「サポートすると決めたので」と全力で支えてくれる姿勢が心強かったんです。
三好 そう仰っていただけて、とても光栄です。私は、投資をするだけでなく、「一緒に事業を創っているメンバー」として投資先に対してできる限りの支援をしようと考えています。「社会に変革を起こす」ということは、当然長期的な視点が必要ですからね。
福島 ありがたいお言葉ですね。投資を受けるということは、資本市場に対してのコミットを約束する、ということ。期待に応えるための土台があった上で、起業家とキャピタリストは、「世の中にもっと大きな変革を起こしていこう」と共に取り組む「共犯者」みたいな関係だと思います。
キャピタリストの期待を、自分への良いプレッシャーにして応える。それが起業家の責務
三好 2度の起業を経たからこそ、福島さんが起業家として日々意識していることは何ですか。
福島 「金の奴隷にはならない」ということです。起業していくフェーズには、人材や資金等で驚くようなリソースを手に入れられるときがあります。でもそれはあくまでも会社に対しての期待。「このお金を使って、世の中にこれくらいの価値を出さないとダメだぞ」と強いプレッシャーを、自分に対する牽制として捉えられているうちは、まともな起業家でいられると思っています。
何十億のお金を事業に投資できることは、世の中が変わる壮大なチャンスです。「お金を増やそう、そのためにお金を使おう」という考えでは、自分が本来やりたかった事業と違う方向に進んでいってしまう。お金や人材は、世の中を変える手段として使っていく。これが起業家に求められる規律かなと思っています。
三好 今回の出資において、福島さんは、他のベンチャーキャピタルから相見積もりを一切とらずに、私と議論を重ねました。お金を集める側にとっては、自分たちを高く評価してくれるところと組んだ方が良いという考えもあって当然だと思います。なぜそうしなかったんですか。
福島 その行為に、意味がないと思っていましたね。大型投資をしてくれるベンチャーキャピタルも限られている中で、三好さんが乗ってくれなければ、他に誰も乗らないだろうと思っていました。一番信頼している投資家が否定するなら、自分が考えているバリューが間違っているということ。その事実を受け入れようと考えていました。
よく事業を理解せずに投資してくれる人がいたとしても、期待値が合っていなければ、あとになってつらくなります。期待に応えるために無理なビジネスを創るようになり、崩れていく起業家をたくさん見てきましたから。「自分たちが考えられる一番高いバリュエーションはこの額です」と話をして、期待値の合うキャピタリストと一緒にやれることが重要でした。
三好 自分の目線を下げるような人であれば、私たちも投資ができない。お互いの信頼と緊張を保てる関係性が、起業家とキャピタリストの間ではすごく大切ですね。
福島 2020年5月が、ラストファイナンスとして、充分な資金を集められたと思っています。もちろん、圧倒的に強いビジネスができて「次はグローバルだ!」と大勝を狙いにいくときには、おかわりをお願いするかもしれませんけれど。お互いにまた議論に議論を重ね「これは行けますね」と合意に至れば、すごくハッピーです。
三好 私は、福島さんという起業家像をさらに高められるように、できることを見出していきたい。福島さんが先陣を切って走ることが、次世代を刺激し、新しくチャレンジする人を生み出していくと思っています。
福島 若い人に限らず、チャレンジする人が日本からもっと多く育ってくれれば良いですよね。まずは、三好さんの期待を裏切らず、きちんと起業家としてリターンで返すことが最低限の責務。それが、先陣を切って走ることに繋がるのだと考えています。