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大学発「自動運転」ディープテックの象徴 世界に挑む起業家兼研究者【ティアフォー 加藤 真平 & JAFCO】
大学発「自動運転」ディープテックの象徴 世界に挑む起業家兼研究者【ティアフォー 加藤 真平 & JAFCO】

起業家とジャフコの出会いから紐解く企業の軌跡。今だから語れるエピソードや想い、これからへの展望を語ります。
今回は、世界初の自動運転用オープンソースソフトウェア「Autoware」の生みの親である株式会社ティアフォー 創業者 兼 CTO 加藤真平氏と、ジャフコ担当キャピタリストの高原瑞紀による対談です。

【プロフィール】
株式会社ティアフォー 創業者 兼 CTO 加藤 真平 (かとう・しんぺい)
1982年生まれ、神奈川県出身。2008年、慶應義塾大学で博士(工学)の学位を取得後、カーネギーメロン大学とカリフォルニア大学にて研究員を務める。2012年に帰国し、名古屋大学の准教授に着任。国際的なコンピュータサイエンスの研究者として数々の論文を発表。研究成果を応用した自動運転ソフトウェア「Autoware」を開発し、オープンソースとして全世界に公開する。2015年に株式会社ティアフォーを創業。2016年、東京大学の准教授に着任。2018年には国際業界団体The Autoware Foundationを設立、理事長に就任。

【What's 株式会社ティアフォー】
2015年12月創業の名古屋大学発スタートアップ。「Autoware」は、2017年に国内初となる一般公道における運転席無人の遠隔制御型自動運転を行う他、18都道府県で約70回の実証実験を行ってきたフロントランナーである。2018年に「Autoware」の国際標準化を進める「The Autoware Foundation」を設立し、世界各国の自動運転開発企業や公的機関、学術機関等と技術向上に向けた取り組みを展開している。米国運輸省や連邦道路管理局をはじめ、主要OEMや新興企業など、世界10カ国以上、数百に及ぶ組織・団体で「Autoware」が採用されている。2020年8月には、累計資金調達額が175億円に達した。

Portfolio


初対面の不安から一転、「この人が、ティアフォーを救ってくれる」と確信した

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加藤 ティアフォーを創業したとき、経営に関する知識は全くありませんでした。約3年かけて開発してきた自動運転ソフトウェア「Autoware」をオープンソースで公開したのが2015年8月。起業したのは、その4カ月後でした。何もわからない中、試しにベンチャー企業支援のプログラムに応募したら、ジャフコさんがヒアリングしに来てくださった。そこが、ジャフコさんとの最初の接点です。

高原 僕がお会いしたのは2017年で、そのときから約2年経ったタイミングでした。投資に向けたスキーム作りのご相談を受けて、加藤さんにお会いしに行きましたよね。

加藤 そうそう。起業直後は投資に至りませんでしたが、ティアフォーを一緒に立ち上げたメンバーが、ジャフコの豊貴社長と旧知の仲だったことから、再び縁ができたんです。豊貴社長とお話をさせていただき、ジャフコさんの歴史と実績を改めて理解し、非常に安心感がある企業だと思っていました。でも、その後、担当者として高原さんを紹介していただいたのですが、実は心細いなと感じていました(笑)。

高原 初対面のときは、ヒアリングの場に同席して、端っこで議事録を取っていただけでしたから、それはそうですよね(笑)

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加藤 でも、煩雑な書類作成や経理業務を、驚くほどの正確さで進めていく姿を見て、「この人が、ティアフォーを助けてくれる人だ」とすぐに考えが変わりました。高原さんと仲良くしておこう、と(笑)。その直感は間違っていなかったですね。

高原 手を動かして信頼を勝ち取れてよかったです(笑)。僕が携わらせていただいた当初、ティアフォーは正社員が0名で、全員が副業として関わっているフェーズでした。誰かが実務をやらないと、会社として回らない!と思ったので、自分ができる仕事は何でも巻き取ってやっていました。例えば、社員採用をするにも「雇用契約や給与設定はどうしたらいいのか」と会社としての根本的なルールも決まっていなかった。ジャフコのノウハウを使えるだけ使って、色々な社内整備や制度設計にも携わらせていただきました。

加藤 高原さんとお会いしてから本格的な投資が実行されるまで1年間もありました。そんな段階から、そこまでコミットしてくれるキャピタリストってなかなかいませんよね。
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高原 加藤さんは、3年以上かけて開発した「Autoware」をオープンソースで公開し、出会った当初から「オープンソースで自動運転を民主化し、シリコンバレーに打ち勝つ会社を作りたい」と仰っていました。その壮大なビジョンを、冷静に、非常にロジカルに話す姿に、「加藤さんなら、本当に実現していくんだろうな」と感じ、"研究者"というよりは"起業家"としてのイメージが強く印象として残っています。そして、自分が関わらせていただく以上は、「事業成長のために解決すべき課題を、自分自身が会社の一員となって、一緒にクリアしていくのが僕の責務だ」という想いがありました。

加藤 そうですね。僕が想い描いている世界は「Autoware」の開発当初から変わっていません。日本のスタートアップがシリコンバレーの大企業に勝つ方法は「オープンソース」しかないと考えています。ソフトウェアは、多くの人に使ってもらえることに価値がある。世界中のエンジニアが使ってくれれば、仲間が増えて、自動運転領域のデファクトスタンダードになれます。

そして、僕は、自分自身が日本のディープテックの象徴でなくてはいけない、と思っているんです。僕が日本の最高学府でコンピュータサイエンスの講座を任されているということは、僕が世界的なプラットフォームを作れなければ、日本のコンピュータサイエンスは負けた、ということになる。そのくらいの覚悟と意気込みでチームを作る必然性があると思っています。

高原 それを淡々と、技術力を誇示するようなこともなく言い続けているのが、加藤さんのすごいところ。ティアフォーには現在約160名の社員がいらっしゃいますが、創業以来ほぼ誰も辞めていない。そんなスタートアップはほとんどありません。業界をリードしていく存在であり、"最高学府で教鞭を執る"という立場でもありながら、常にオープンな加藤さんの姿勢が、周りを惹き付けているんだと思います。

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第三者視点は経営会議に欠かせない。実績に裏付けされた発言に納得感がある

加藤 高原さんにはティアフォーの経営会議に参加していただいていますが、本当に良いバランサーになっていただいています。ティアフォーの経営陣には、飽くなき探究心と妥協を許さない厳しさがあって、「あれも改善しよう」「ここにも課題がある」と正論をぶつけ合うので、時に出口がなくなってしまう。そんなときに第三者視点で高原さんが「十分できていますよ」と、場をゆるめる言葉を投げてくれます。

高原 今は、経営層に優秀なメンバーが揃い、僕が以前のように資料作成等の実務をやるシーンも少なくなりました。実務から少し離れた立場からティアフォーが見えるようになり、経営会議でも、少し違ったアングルからお話をすることができるようになっています。経営陣の皆様は、すごく真面目に議論されているけれど、「細部はどちらでも良いのでは」「一度行動に移してしまうのはどうだろう」と思えることもある。キャピタリストとしてではなく、ティアフォーに関わる人間として、別の角度から意見を言う存在も重要だなと思って話をしています。
記事内画像⑤_ティアフォー.jpg加藤 ジャフコさんは、他のベンチャーキャピタルと比べても、投資実績が圧倒的に多い。ティアフォーの中にいれば気づかないことも、他の事例を見てきた高原さんが「大丈夫」と言ってくれる説得力と安心感は大きいです。

高原 一般的に、起業家と株主という関係性は、必ずしも利害が合うとは限りません。でも、究極的には同じゴールを目指すパートナーになれると信じています。そう思って、自分の考えは包み隠さず伝えてきましたし、だからこそ、シビアな話もできる関係性ができているのかなと思っています。

加藤 そうですね。今、ティアフォーは組織の規模も急拡大中です。自分たちに厳しく考えがちな経営陣に、時には「そんなに頑張っているスタートアップ、なかなかないですよ」と軽やかに風を吹かせてくれるのが、高原さん。その存在がいなくなったら困ります。


世界の巨大企業に立ち向かう大学発スタートアップ。成功の物語に携わった一員でありたい

高原 ここ2~3年で"ディープテック"という言葉は、今でこそ世の中にかなり浸透してきたなと感じています。ですが、加藤さんはそれよりもはるか前の「Autoware」開発の時点から、真剣に「大学発のベンチャーがシリコンバレーに勝つためにはどうしたら良いのか」を何万回とシミュレーションをしてきた。その結果として、オープンソースによって世界中の知見を集約させていく、今の戦略になっていると思います。ティアフォーには、シリコンバレーのモンスター企業に立ち向かう、成功パターンの一つになってほしい。

加藤 描いているのは、「日本の小さなスタートアップが、自社単独ではなく世界連合軍を作って、マーケットの圧倒的なシェアを勝ち取る」という物語です。今、ティアフォーが多くの海外企業と組んだことで、「Autoware」は様々な地域で使われています。でも、これからは、僕らが知らないところでも、もっと多くの国や地域で使われていってほしい。その広がりを実感できたら、やってきたことが形になったと思えるかもしれません。
記事内画像⑥_ティアフォー.jpg高原 僕は、そのチャレンジに少しでも携われた人間でありたい。目標を達成したら、加藤さんはまた新しいチャレンジに向かわれるでしょうから、そのときにお声がけいただいて「一緒にやろうよ」となったら嬉しいですね。

加藤 まだまだ投資いただけるなんてありがとうございます(笑)。僕はまだ、自分が出せる力のうち30%くらいしか出していないんです。ティアフォーも同じです。もっともっとポテンシャルは高い。100%の実力を発揮するのは、きちんと全ての体制を整えてから、と考えて今はセーブしている。投資いただいた身として、期待にはしっかりとお応えするのは、大前提。その上で、高原さんが手伝ってくれるなら、100%に向けて、アクセルを踏んでいきますよ。